軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

256 人魚学校の劣等生

「さて、まずは何から話すべきでしょう? 何よりまずは数ヶ月に渡る無断欠席についてですが……」

挨拶も飛ばして本題から入りよる教師。

このノークッションダイレクトは叱られる側から見て恐怖であろう。

小娘五人がビビるのもわかるというもの。

もっとも相手は、小娘ごときが気合いを入れてどうなる程度のものではないが。

「ナーガス陛下直々の通達から『休学』扱いとしておりますが、アナタたちが過ごした無駄な時間から他の生徒との差はかなりの開きとなっています。これを挽回するためにも超過密の補習によって効率的に……」

「ちょ、ちょっと待ってくだひゃい!!」

また噛んだ。

口を挟んだのは『王冠の魔女』の妹。

流れを遮ったのは上出来であるが、教師からの冷徹な視線に今にも腰砕けしそうじゃの。

「あ、アタシたちが、こ、ここに来たのは……! 許可を貰うためです!!」

「許可?」

「休学延長の許可を!!」

「許可できません」

「そこを何とか!!」

バッサリ行くのう。

なお食い下がる妹の方もさすが王族の図太さじゃが。

「……エンゼル王女に質問いたします。アナタは何者ですか?」

「え? あの……、人魚国の、第二王女?」

「そうです。最低限の自覚はあるようですね」

皮肉っぽい女じゃの。

「人魚王族に連なるアナタには、それに伴う責任というものがあります。人魚たちの規範となり、道徳を示し、品格をもった行動をとらねばなりません。その基礎となるため、アナタは教養を身に着けねばならないのです」

「はいぃ……!?」

「このマーメイドウィッチアカデミアこそ、アナタのような若き王族に教養を身に着けていただくための場所なのです。当校はアナタに、立派な魔法薬学師になっていただき、引いては立派な人魚王族になっていただきたい。そのために全力を尽くしているのです」

「はい……!?」

「なのにアナタは義務から逃げ、好き勝手に振る舞おうとしている。それが王族として許される振る舞いなのですか?」

理屈でネチネチ固めてくるタイプじゃな。

カープのヤツ、その辺昔と変わってなくて安心した。

「アナタたちもそうです」

「「「「はいぃ……ッ!?」」」」

他の小娘どもにも飛び火した?

「特にディスカス、ベールテール。アナタたちは、当校入学の能力規定を満たしていながらも、家庭の事情から断念せざるをえない状況にあった。それをエンゼル様からの配慮で特例として入学を許されたのです」

「「うう……」」

ほう、要は名門校に入れないほど家が貧乏ということか?

温室育ちのお嬢様ばかりかと思ったが、なかなか骨のありそうな者も交じっておるではないか。

しかもそれらを見出して、用いる道筋をつけるとは。

エンゼルだったか。姉とは違った王侯の振る舞いをしよるの。

「ならばなおさら学業に励むべきなのに、恩人たるエンゼル様と共に遊び呆けるなど言語道断。当校がアナタたちにかけた期待も的外れなものだったと言わざるを得ません」

「遊び呆けてなんか……!」

「何です? 言いたいことがあればハッキリ仰いなさい?」

「あの……、陸では……、その……!?」

見込みはあってもまだ学生の小娘。カープの理詰めに対抗しきれまい。

やれやれ、ここで何もしなければ本当に都くんだりまで来た意味がないからの。

「何が学べるというのだ? こんな温室で?」

わらわの声に、カープの胡乱な視線が引き寄せられた。

「愚かな人ですねゾス・サイラ。喋らなければ存在しなかったことにしてあげようと思っていましたのに」

「昔のよしみとでも言うつもりか? 長いものに巻かれた挫折者が、いまだ魔法薬使いを名乗ること自体片腹痛いわ」

「私のどこが挫折者だというのです? 長いものに巻かれたと?」

「偉そうに学校の教師などしておる」

しかも名門校。

「自分では随分出世したと思っておるのだろうが、権力に取り込まれた時点で研究者としては死んだも同じよ」

「アナタらしい勘違いねゾス・サイラ。みずからの研究を暴走させ、世界のバランスを崩さんとし、挙句指名手配まで受けたアナタらしい勘違い」

小娘どもが、オロオロとわらわとカープを交互に見る。

「お望みなら、今すぐここに警備兵を呼んでもいいのよ。そしてアナタはあえなく海溝牢獄行き、アナタの究極研究とやらも永遠に完成しない」

「やってみるがいい。その時は、このいけ好かぬ学校が地獄と化し、さらにのち灰塵に帰すまでのことよ」

それがわかっているから、この女もわらわに気づきながら手が出せない。

この女は知っておるからの。

わらわの怖さが。

昔何度泣かしてやったことか。

「……ッ、アナタたち、なんでこんな女とつるんでいるの?」

形勢不利と察したカープは口撃の矛先を小娘たちに戻した。

「この女は『アビスの魔女』と呼ばれる重罪人よ。魔法薬学を誤った方向に駆使する外法使い。このような犯罪者を出さないことにも当校の意義があるのよ!!」

「しかし、最高水準の魔法薬使いが総じて『魔女』と呼ばれているのも事実じゃ。この『アビスの魔女』ゾス・サイラも含めて……」

『王冠の魔女』。

『凍寒の魔女』。

『獄炎の魔女』。

『疫病の魔女』。

「……ソイツら全員からの指導を、この娘どもは受けておる」

「え?」

虚を突かれた表情のカープ。

さすがにそこまで一教師には知らされていなかったか。

たかだか一教師に。

「おぬしが『遊び呆けていた』と言っていた期間中。最高峰の魔法薬使いである魔女の錚々たる面子から教えを受けておったと言うのだ。この五人は」

「ちょッ!」

「言っちゃっていいんですか、それ!?」

小娘どもがオタオタ騒ぐが気にしない。

こういうことを言うために大物のわらわが付き添わされたのであろう。

「こんな温室で、通り一遍の授業を受けるより、どれほど実りある時間であろうの? かの地で、こやつらが過ごした日々はまさに戦い。ぬるま湯学校では十年いても修得できぬことを、一日一日積み重ねてきたのだ」

別につぶさに見てきたわけじゃないけど。

実際に見てきたように脚色を付けて話すぞ。

「で、改めて聞かせてもらうがカープ? おぬしが自慢する名門校とやらは、魔女数人が直接指導するよりも贅沢な教育をこの娘らに施せるというのか? 魔女より遥か格下の凡人魔法薬使いが、教師だなんだとふんぞり返りながら?」

「す、凄いゾス・サイラ様……!?」

「カープ教諭に口げんかで押し返せる人初めて見た……!!」

もっと褒め称えるがいいぞ小娘ども。

「え、エンゼル王女!」

「はひッ!?」

「今の話は本当なのですか!? いやそもそも狂乱六魔女傑は半数が既に囚われの身と……!」

「いや、でもいたわよ何人も。お姉ちゃんが何かしたみたいだけど……?」

「……ッ!?」

イラつくと爪を噛む癖も変わってないなー。

「エンゼル王女の姉君、プラティ王女こそ狂乱六魔女桀の一人『王冠の魔女』……! そうか、アナタはお姉さまを追い求めて……!?」

そういえば、『王冠の魔女』はこのマーメイドウィッチアカデミアを中退したらしいの。

やっぱり、こんな温室で学ばぬ方が魔女として大成するんではないか?

「カープ教諭、改めてお願いします!!」

お、エンゼル唐突に真面目か?

「アタシは、お姉ちゃんを超える魔法薬学師になりたいんです! そのためには、お姉ちゃんに直接付いて教わるのが一番いい!」

「アタシも、パッファ姐さんに直接教わるのが!」

「ランプアイ教官のシゴキが!」

「ガラ・ルファ様の狂気が!!」

多分ここで「本音は?」と聞いたら「農場のごはん食べたい」という即答が来てぶち壊しになるんだろうなあ、と思ったので聞かないことにした。

さて、こうして『学ぶなら学校よりも魔女の下』という厳然たる事実を突きつけられた形だが……。

お偉い名門校の教師様は、どのような対応に出るのかな。

「ここで引くわけには……! ここで引くわけにはいきません……!!」

お?

「我々は既に、プラティ王女の教育に失敗している……! あの方の大きすぎる異才を、正しく伸ばしてあげることができなかった……! だからこそエンゼル様は、次女のエンゼル様は何としても……!!」

気負っているなあ。

「認められません、認められません!」

カープのヤツはいきり立った。

「魔女の術など邪道。真に強く、人魚族の役に立つのは我が校で学べる正道な薬学魔法のみ!」

「詭弁だな。魔法薬に正道も邪道もあるものか」

「いいえ! そのことを証明してあげましょう、勝負で!」

勝負?

「我が校で、この私が特に目を掛けて育てたゼミ生がおります。その中でさらに選りすぐりの五人を用意しましょう。その一人一人と勝負してもらいます」

「「「「「えええええええッッ!?」」」」」

驚き騒ぐ小娘ども。

なんだ、勝負程度で軽躁な。

「魔女ごときの邪道が有益というなら、アナタたちが勝つはずです。しかし負ければ、我が校の正道こそが真の魔法薬学と理解し、私のカリキュラムに従っていただきます! よろしいですね!」

「いいよ」

結果から言うが。

勝負は五対〇でウチの小娘どもが完勝した。