軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

224 ドラゴンの恩返し

「害鳥害獣対策!!」

今回の課題です。

農作物を育てる者にとって、頭悩まされる大きな問題の。

野に住む獣、山に住む鳥たちが、せっかく育てた野菜を食い荒らしてしまう災害のことだ。

「お前らに食わせるために育ててんじゃねーッ!!」

と見つけるたびに追い散らすものの。

相手は知恵ある者あり、力ある者あり。対策用に設置した柵なんかも掻い潜って侵入される始末。

ポチたちが加入してからは巡回してもらって、ある程度の被害は抑えてくれるものの、日が経つごとに畑も拡充されてポチたちだけではカバーしきれなくなっていた。

新たなアプローチが必要、ということになってきた。

「……罠でも張るか」

まず浮かんだ案。

罠。

トラップ。

あらかじめ仕掛けたアレに、やって来たアレが掛かるというアレ。

いつ侵入してくるかわからない野獣たちには、非常に有効な手段と考えてよかろう。

試しに色々作ってみた。

一、ピンと張ったロープ。足が引っ掛かる。

二、落とし穴。落ちる。

三、タライ。落ちてくる。

四、トラバサミ。

という感じで農場周辺にちりばめてみた。

罠としてまともそうなのがトラバサミしかなく、しかもこれも試作品なのでバネが弱くユルユルな感じ。

これで本当に獲物がかかるのかと大変疑問であったが、まあダメ元感覚で朝に設置、昼頃確認しに来てみると、見事獲物が掛かっていた。

* * *

「…………」

「…………」

ヴィールが。

「何やってんだお前?」

ドラゴンが罠にかかっておられる。

人間形態で。ドラゴンの巨体だったら野犬サイズを想定した罠なんか弾かれるに決まっているので。

「……なんか変わったものがあるなー、と思って…………」

ヴィール、不承不承という風に語る。

「試しに踏んでみた」

お前は無闇に火災報知器のボタンを押したがる子どもか。

「大体ドラゴンのパワーなら簡単に罠破壊して脱出できるだろうに。何故ハマったままでいる?」

「勝手に壊したらご主人様に怒られるかなー、と思って、待ってみることにした」

「よい心がけだ」

とにかく、そのままにもしておけないので罠を解除し、ヴィールを解放してやった。

元々バネもユルユルの粗悪罠で怪我の心配もない。

仮に万全状態の強力バネだったとしてもドラゴンのヴィールにかすり傷一つ付けられたとも思えんが。

「さあお行き、二度と捕まるんじゃないよ」

大自然ものの主人公的空気を出して、ヴィールを解き放ってあげる俺。

ヴィールは何度も何度も振り返りながら、森へと帰っていった。

アイツ別に森には住んでいないけど。

* * *

以上の結果から、ポチや大地の精霊たちが誤って掛かってはいけないということで罠は廃案になった。

設置してあるものを回収して、屋敷に戻る。

戻った途端、戸がガンガン叩かれたので出向いてみると、軒先にヤツが立っていた。

ヴィールが。

「恩返しに来たぞ!」

なんかのイベントスイッチが入っていた。

あるぞ既視感。

この流れ。

罠にはまった獣を発見→助ける→人間に化けて恩返しに来る。

遥か昔にそういう昔話なかったっけ?

いや、ヴィールのヤツ最初から人間に化けていたけれど。

そもそも元ネタでは恩返しに来るのは鳥類でドラゴンと違ってたけど。

いつか暇な時に、異世界転移してくる前の世界でのおとぎ話をしてやったことがある。

その時のレパートリーに、たしかにその話が交じっていたような気がするし、ヴィールも聞いてやがった気がする。

「……じゃなくて、旅の者ですが一夜の宿を貸してくれ!」

お前ここに住んでいるだろうが。

しかしヴィールは、どのタイミングで流れの類似性に気づいたのか知らないが、もう完全に鶴の恩返しルートに乗っかって、一通り『ごっこ』を遊び尽くすつもりだ。

「泊めてくれるお礼に機織りしてあげるぞ! 機織りする場所に案内しろー!!」

ヴィール、勝手知ったる我が家の中で機織り部屋へ移動。

そこには、ゴブリン数人が詰めていて金剛カイコから取った絹糸やら畑で育てた綿やらを織って、布地を作っている最中だった。

「お前ら出て行けー! 機織り中は絶対覗いてはならんのだー!」

「傍若無人!!」

仕事中だというのに追い出されるゴブリンたち被害者。

さすがドラゴンというべきか、身勝手を押し通す力は地上一。

追い出されたゴブリンたちが戸惑い気味に俺へ尋ねる。

「我が君……! どうしましょう?」

「急いで仕上げなきゃなほど切羽詰まってもいないんでしょう? しばらくヴィールのしたいようにさせてあげようよ」

こうしてヴィールに占領される機織り部屋。

「いいかご主人様! 恩返しに機織りしてやるんだから、途中で覗いたりしたら絶対ダメだぞ! 絶対覗くなよ! 絶対だからな!!」

そう言ってパシーンと戸を閉めてしまった。

「……これでもかってくらい覗くなと念押ししてきましたね」

巻き込まれた機織りゴブリンたちも言う。

「うーん……?」

この際、どっちが正解なのだろうか?

戸を開けて覗く?

覗かず放置しておく?

この判断が非常に難しい。

原題通りに進めるならば、頃合いを見計らって中を覗くのが忠実であろう。

しかしその結果、正体がバレてしまった鶴は――、この場合ドラゴンだが、飛び立って二度と戻ってこないのだ。

つまりバッドエンド。

タブーを破った登場人物はその報いを受ける。

俺たちはその悲劇的結末を知っているのだから、選んじゃいけない選択肢をどうして選ばなければならない?

二周目プレイでバッドエンド選択とかよっぽど間抜けな主人公ではないか。

というわけで円満な結末を望むのであれば『覗かない』一択であるのだが、しかしこれは『鶴の恩返し』ではない。

あくまで『鶴の恩返し』をトレースしたヴィールのごっこ遊び。

彼女の目的が昔話の再現であるのなら、適当なところで覗いてあげるのが彼女の意を汲んでやることではないのか?

「どっちだ? どっちが正解なんだ……!?」

正解のわからぬ二択。

ここまで苛烈に俺を苦しめるものなのか。

悩み、悩み。

悩み抜いた結果……。

* * *

「……せーのー、いちッ!」

「せーのー、にッ! クッソ外した……!」

「ククク、次こそ私が抜けさせていただきますぞ我が君。……せーのー、……よんッ!!」

「ぎゃー、当たったー!?」

悩み抜いた挙句考えることを放棄した俺は、ゴブリンたちと手遊びに興じていた。

彼らも機織りすべきところをヴィールに仕事場を奪われて手持無沙汰なのだ。

「我が君! 次! 次オハジキやりましょうぞ!!」

「ほう、我が最強のオハジキ『マナメタル石蹴り』に挑もうとは無謀な……!」

ゴブリンたちとの遊びが超盛り上がってきた時に……。

「覗けよ!!」

ヴィールから怒られた。

やっぱり覗く方が正解だったのか!?

「話の流れというのがわかんないのかご主人様は! ここはおれがいっしょーけんめー機織ってるところを覗き見して『ヴィール、お前だったのか……』って言う段だろ!?」

そのセリフ回しは別の昔話です。

しかも格段に悲劇的な。

「もう! おれ飛び立っちゃうからな! 正体を知られたからには、ここにはいられません! おじいさんおばあさんお元気で!!」

ここにおじいさんもおばあさんもいないし、お前元々ここに住んでるだろうが。

そんなツッコミも受け付けず、ヴィールはドラゴン形態に戻って空へと飛び去っていった。

「ヴィールー。もうすぐごはんだぞー」

『わーい、食べるー』

すぐ戻ってきた。

* * *

ちなみに。

ヴィールのヤツは機織り部屋にお篭り中、本当に機を織ってたらしく、一枚の反物が完成していた。

ドラゴンのウロコで作った反物である。

『ウロコで機織りって何なんだよ?』というツッコミも起こりそうだが、そもそも元ネタの恩返しでも『鶴の羽で反物を織る』というのも相当無理がある設定だと思うし深く触れまい。

とにかくドラゴンのウロコ製の布である。

響きからしてレア感ありませんか?

「また私に伝説の衣を作らせるつもりですか!?」

被服担当のバティのところに持ってったら、彼女のテンションをダダ上がりにさせた。

「見たことのない織り目! 感じたことのない肌触り! これで服でも作ったら! 全身鎧に勝る防御力をもった伝説的武具の出来上がりですよ! 本当にいいんですか!? 本当に作っちゃっていいんですか!?」

「ああ……、まあいいよ」

そのままにするのももったいないし。

ヴィールは気まぐれで伝説的レアアイテムを生産するのは慎重になってほしい。

そうしてバティ渾身のクオリティをつぎ込んで完成した『ドラゴンの衣』は、聖剣かマナメタル製武器でもない限りあらゆる攻撃も魔法も跳ね返す無敵の防具になりましたとさ。

ポジションを脅かされると思ったのか、金剛カイコとアラクネが揃って厳重抗議してきた。