作品タイトル不明
1506 ジュニアの冒険:歴史は資源
僕ジュニア。
期待の眼差しで囲まれ、追い詰められています。
たまたま流れ着いた魔島で、街おこし……村おこし? いや島おこしの企画を全振り丸投げされようとしている。
通りすがりに全責任が覆いかぶさってくる異常事態。
「頼むジュニアくん! 我らに救いの手を!」
島主のアゼルさんがキラキラと目を輝かせる。
僕を信じて疑わぬ眼差しだ。
やめてくれ、そのコンサルタントにすべての望みを掛けてくる方針!
こちとら観光業は素人なんで!
……いや。
こんな時こそ僕は思い出すべきなんじゃないか。
父さんの言葉を。
経験少なき若僧の僕にとって、ここまで一番長く一緒にいて様々な教えを授けてくれた人生の先達……父さんの知恵こそ我が最大にしてもっとも頼れるデータバンク。
この記憶を紐解けば、父さんが観光について語った事案も出てくるはずだ。
脳内検索、最加速!!
――『冷ややっこにラー油かけると美味しくない?』
違う、そうじゃない!
もっと他に、今の状況にフィットした有用な記憶があるはずだ!
教えてくれ、僕の中の父さん!!
――『……』
はッ、そうだ!
いつだったか父さんは言っていた。その言葉が、今の魔島の方々に救いをもたらさないか!?
「歴史です」
「はい?」
「歴史こそが資源となるのです、その土地の!」
そう、いつだったか父さんが呟いていた。
――『いやー、有名な人が昔いたからって、その場所に人が集まってくるの凄いよなー』と。
かつて父さんが住んでいた世界では、過去の歴史上の人物が生まれた場所、住んでいた場所などに石碑が立っていれば、他に何もなかったとしても人が訪れるという。一人ならず、たくさん。
○○さん、生誕の地。
○○公、終焉の地。
○○様が建てた城。
○○と○○さん、決闘の地。
○○殿が告白して振られた場所。
○○氏がイタズラして怒られた場所。
○○くんが酔ってすっ転んだところ。
○○ちゃん、立ち小便跡。
偉人がなんかやらかしたら、ひとまず名所になって未来永劫記録に残り、多くの人々の目に留まる。
まるで終わらない罰ゲーム。
しかしそれだけに、変わることのないただその場所が、人を呼び込むアピール要素となるのだ。
つまり、歴史は資産!
「な、なるほど……、今まで綺麗なものや珍しいものを押し出していけばいいと思っていたが、そういうやり方もあるのか……!?」
「思いつきもせなんだわい」
と会議に集まった人々も感心の様子。
僕、なんか切り抜けた?
「しかるに、この魔島は他に類のない特殊な歴史をお持ちと窺いました」
何しろ魔国本土から派生し、まったくゼロからこの島を開拓して生活圏を築き上げたんだから。
なんでもこの島の人々は、危機に見舞われた魔国から船で脱出。
長い漂流の果てにこの島にたどり着き、新天地と定め、開拓の果てに安心して住める楽園を築き上げた。
こんな歴史は類を見ない。
その唯一性をアピールし、魔島ならではの歴史を余所の方々に知ってもらい、魅了できれば……。
その歴史を直に感じようと、魔島に訪れる雲霞のごとく群がってくるはずだ!!
「おおおおおッッ! 何と素晴らしい!」
「なんか今まで出た中で一番ヒットしそうなアイデアじゃぞ!」
「全然本気にしておらなんだが、希望が見えた気がするわい!!」
会議に参列した方々も期待に沸き立っている。
「そうだ、祖先が切り拓き、この島を住みよい環境にしてきた歴史こそ、我らの最大の財産! 他に二つとないオンリーワンのナンバーワンだ!」
「何が“綺麗な夕焼け”! 夕日なんてどこででも見れるじゃない! それよりも島の歴史の方がよほど珍しいわ!」
ちょっと興奮しすぎの感もあるが……。
とりあえず、僕に向けられた期待を損なうことなく切り抜けられたと、胸を撫で下ろそう。
「して、ジュニア殿」
“どの”?
すぐさま二の矢が飛んでくる。
「歴史をアピールする、というが具体的にはどうすればいいかのう?」
と少年のようなキラキラした目で問いかけてくる。
ううむ、ヘタに良案を示したせいで余計に期待値が上がったような?
「そっすね……」
僕はひとまず考える素振りを見せて、その間の無為に過ぎていく時間を稼ぐ。
……このまま会議が終わるまで時間稼げないかな。
無理か。
「やはりここは、魔島の歴史を知る皆さん自身が、もっとも心に残るエピソードを語っていただければ」
それを元に、名所旧跡となる場所をピックアップしていく?
知らんけど。
「うむ! それならばワシが推すのはなんと言ってもゼーゼール様じゃな!」
ゼーゼーゼーゼール?
なんか息の荒そうな名前だな?
それは一体?
「ゼーゼール様じゃ! 我らが祖先がこの島に流れ着いた時、船団を率いていたリーダーがその御方じゃ!」
おッ、いいじゃないですか。
歴史においてもやっぱり最高のアイコンとなるのが人ですからね。
人がいてこそ主人公となり、物語を紡ぎだすんですよ。
「魔島に到達したゼーゼール様は、先頭に立って開拓を推し進め、ある程度人が住めるようになると魔王を名乗って島全域を治めた。……まあ、いわゆる初代の島主というところじゃな」
?
何故魔王を?
「当時は、本土の魔族はノーライフキングによって滅ぼし尽くされたと思われていたからのう。よって魔族の生き残りは、魔島に住む自分たちのみ。ここを新たな魔国、自分こそ新たな魔王としたわけじゃ」
この誤解は、本土との交流が起きるまで続いたという。
それもまた歴史の面白味というヤツだ。
「いいですね、いいですね。では初代島主ゼーゼールさんの生涯を主軸にして、魔島の歴史を整理し、一大史記を編纂しましょう!」
そうした資料を元に、歴史的観光地をピックアップしていきましょう。
っていうか、こんなにしっかり文明文化の確立した土地だもの。
歴史書ぐらい既に編纂されて大事に保管してあったり?
「いや、ない!」
そんなキッパリ言われても!?
胸張って堂々と言えることじゃないですよ!?
「そうは言っても、こんな小さな島じゃし日々の生活に精いっぱいで、過去に思い馳せる余裕なんてなかったんじゃよ」
本当にそうですか?
ただ怠惰に過ごしていただけでは? だってこの島の気候温暖でとても住みやすそうだし?
「しかし我が島主屋敷の書庫には、歴代島主がため込んできた記録や覚書などが漏らさず大切に保管してある。その中には初代島主ゼーゼール様の日記なんかも残されているはずじゃ!」
いいじゃないですかそれ!
第一資料!
過去の風景が、その時代を生きた当人から直接伝わるヤツ!
そんな大切なものがあるなら、必ず見つけ出さねば!
書庫とやらに行きましょう!
「うむ、ではジュニア殿を案内するので、残りの者はコーヒー飲み終わったらテキトーに帰るがよいぞ!」
やっぱりこれ、会議じゃなくて村の寄り合いでは?
と疑問を呈するよりも、今は一刻も早く書庫に行って中身を洗いざらい確認したい!
どうやら僕も、ライブ感赴くままに語っていくうち魔島の歴史に興味首ったけになったみたいだ。
何もないところから開拓を推し進め、人々が安心して暮らせる集落を築き上げた偉人。
それは、これから父さんの築き上げた農場国を継承しようとする僕にとっても学ぶべきところが多いはずだ。
人は過去から学ぶ。
歴史は、それを軽んじる者に必ず復讐するとかなんとか。
僕もまた、遠い彼方に流れ去ったはずの過去と対面する機会に恵まれた。
これを光栄と思って厳かに立ち会わねば。