作品タイトル不明
1505 ジュニアの冒険:魔島観光再生プロジェクト
島に歴史あり。
この廃墟が、かつての挑戦と挫折のモニュメントだったなんて。
「かつて本土との交流が復活した際……やっぱり島はお祭り騒ぎだったのじゃよ……」
当時を思い返してアゼルさんは言う。
「何しろ生活経済その他もろもろが島内で完結してたじゃろ。しかも数世紀にわたって。だからいきなり自分らとは別の生活圏……しかも自分のとこの何十倍も大きいのが現れて、まあ夢見ちゃうじゃろ? 商機と思っちゃうじゃろ?」
それで建てられたのが、この観光地。
ホテル群。
「突如として現れた、祖先を同じくする謎の種族が住む島……ミステリアスであり、冒険心もくすぐり、訪ねてみたくなるじゃろう!? そう思って充分におもてなしの準備をしてきたのに、ほとんど来ないってどういうことじゃ!」
とアゼルさんは泣きながら当時の悔しさを想い馳せる。
「そこで本土から漂流してきた若者よ!!」
ハイッ!?
僕のことですか!?
「是非とも外の人間の意見が聞きたい! キミは世界中を回って色々見てきているようじゃから、島内で育ってきたワシらにはない発想もできるんじゃないか!?」
どうでしょう?
できるんですかね?
でもあまり過度な期待はしない方がいいですよ。
旅人なんて所詮は各地の上っ面を撫でただけの俄か知識しか持ち合わせてないんだから。
「実はこれから会議があるんじゃ! キミもそこへ参加して、是非とも建設的な意見を出してもらいたい!!」
えッ、何の会議?
タイミングがジャストすぎないか?
ともかく話題がポンポンと変わっていく目まぐるしい展開に、僕はついていくのがやっとであった。
* * *
「第一七九六回、魔島観光業再生会議!!」
開催数が多すぎる。
一体何の会議なのですか。
再び南側の都市部に戻って、島主の館に入ると既に数人の方々が卓を囲んで居並んでいた。
これが、会議のメンバー?
居並ぶ面子は一様に渋面を作っていて『やれやれ』という感情が伝わってくる。
「さあ、今回もこの魔島が観光地としてリバイブ・リバイバルするための意見をブチ上げてくれたまえ!」
アゼルさんだけが、元気いっぱいにモチベーションを滾らせて言う。
「あの……いいでしょうかお父様?」
「おおシェミリか。早速アイデアを出してくれるとはさすが我が娘!」
会議メンバーの中から手を挙げたのは、二十代後半かと思われるお色気たっぷりの女性だった。
しかし眉間には深いしわが刻んである。
生来眉間にしわが寄ってるんじゃなくて、きっとこの会議のせいだろう。
「いえ意見ではなく……いい加減もうやめませんか、この不毛な会議」
「なにぃ、不毛とは心外な! 魔島をより発展させるための重要な会議じゃぞ!」
「そんなこと言ったって、なんの意味もないんですから不毛というのも当然ですよね。何しろ千回以上も会議して何の進展もないんですから」
「ふぐぅッッ!?」
真芯を突かれて崩れ落ちるアゼルさん。
しかしいうことは正しい。そりゃ、一七九六回も話し合って方針を打ち出せないなら何か別のアプローチが必要だ。
会議の雰囲気も、なんだか茶飲み話風に隣同士で私語ってる方たちが多いし。
本来の目的とか気にせず『これを機に顔を見せあっておくか』っていう口実に使われている感がないではない。
「父上も、もう観光業はスッパリ見切りをつけてコーヒーの輸出にリソース全振りした方がいいんでは? 西の廃墟もさっさと潰してコーヒー畑に変えましょうよ」
「……いや、あっちは日が当たりづらくて農地には向かんし」
「そんな暗くてジメッとした場所にホテル建てたんですか不人気の原因はそれじゃないですか?」
「いやいや、だからこそ夕日が海に沈んでいく情景がいいじゃよ! お前だって『ホテルから夕日を眺めるロケーションは最高ね!』って言っておったじゃないか!」
「企画段階ではね! でももう私は現実に打ちのめされたんです!」
と言い争いが続いていく。
きっと会議が重なるごとに、同じことを言い合ってきたんだろうな。
「シェミリの言う通り、これまでの会議は同じことの繰り返しで不毛であったかもしれぬ」
「わかってるならもう繰り返さないでください」
「しかし! 今回の会議には秘策を用意してあるのじゃ! どうしてこれまではフレッシュな妙案が出てこなかったのか!? 同じ顔ぶれ、同じ知識、同じ考え方、何もかもが同じで新しい展開などまろび出るわけがない!」
そこで!
……とアゼルさんの視線が僕へ向く。
途端に僕の脳裏で警鐘が鳴った。
「今日は特別な参加者を用意した! このジュニアくんは、先ごろ魔島に流れ着いた漂流者で、ワシが島主として保護した!」
「サラッと大事故を申告していません?」
「ジュニアくんは、この島の外のことをよく知り、我らの知らぬことに大きな含蓄があるはず! 集落の外から新風を運んでくる者、即ちマレビト!」
いや、そんな大したものに祭り上げんでくださいますかね、この僕を。
ただ単に漂流してきただけですので。
「本当に漂流者なら、こんな会議に出席させていないで丁重に保護すべきでは?」
話を聞いたアゼルさんの娘さんが至極正論をぶつけてきた。
「ワシもそう思うんじゃが漂流してた割に思いの外、元気でな。これなら会議に出てもらっても大丈夫かなって……」
必要以上に頑健ですみません。
それに海の上でも充分に食糧補給していましたんで、お腹も減ってない。
「さあジュニアくん! この魔島に、さらなる発展をもたらすグッドアイデアを発表してくれまいか!」
いつの間にかアゼルさんの期待値が膨れ上がっている。
どうしたもんかな。
……。
まず、最初に観光業が振るわなかった原因を推測してみましょう。
「うん?」
魔島が観光業に乗り出したのは十年ぐらい前って言っていましたよね。
その頃は、ちょうど人魔戦争が終わって世界中の融和が進み始めていた時期だ。
今まで没交渉だった人魚国との国交も正常化し、人魔人魚それぞれの人々がそれぞれを自由に行き来できるようになった。
そうした時期に魔島の存在も明らかになって交流が始まった。
「要するに、人々にとって拓けた未知の場所は魔島だけじゃなかったわけです」
「お、おう……!?」
たとえば人魚国など、海の底ということで滅茶苦茶異世界感がある。
旅行に行くならそんなところで一生の思い出を作りたいだろう。
実際、こないだ僕が訪問した人魚国には観光客がいっぱいいたし。
そんな旅行先鉄板である人魚国を置いても魔国、人間国、それぞれに見応えのある名所が豊富。
我らが農場国は……広大な農地ならあるぞ。
ともかく幸か不幸か、魔島が世に出始めた時期は同じく、世界各国の様々な場所が観光地として選択肢に上り始めた時期であった。
魔島もその多くの選択肢の中に一つなってしまった。
行く先が一つしかないのならともかく複数ならば、その中から選ばれるのは熾烈だ。
まして大都会・魔都とか海の楽園・人魚国なんて強力な競争相手がいたら。
それに比べたら、この魔島の……アピールポイントと言えば……。
……すみません。
「「「「「何故謝る!?」」」」」
会議に参列している人たちから一斉にツッコミが来た。
いやあの……アピールポイントが特に思い浮かばなくて、すみません……!
「見事だジュニアくん!!」
そんな中でアゼルさんだけが僕のことをベタ褒めしてきた。
「今日初めて見た状況をそこまで正確に分析できるとは! さすがはこのワシが見込んだ若者! キミに意見を聞いて正解だったー!」
凄い手放しで賞賛してくる。
その勢いに気圧されしつつ、やっぱり悪い気はしない。そんな全力褒め殺しなアゼルさんに大物ぶりも感じる。
というかアゼルさんの僕への期待値がここへ来て
「問題点がわかったところで、次はその改善方法が知りたいところじゃな! ジュニアくん、またキミの広い知識力で名案をだしてくれい!」
はい、えーと……。
……。
すみません、名案どころかなにも思い浮かびません。
だって僕、観光業についてはシロウトもいいところですし、専門知識も何もありませんから。
言ったでしょう、結局は旅人なんて方々の知識の上っ面だけ撫でてるだけだって。
広い知識ですけれど、広くて同時に浅いんです。