軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1468 ジュニアの冒険:伝説の戦い

武泳大会も、大詰めへと刻々と向かっている。

準々決勝が終わり、ついにベスト四が出揃った。

その中でも注目を集めるのはなんと言ってもこの二人。

現人魚王アロワナ。

前人魚王ナーガス。

新旧人魚王が揃って準決勝まで駒を進め、なおかつ準決勝で激突となるのだ。

これが盛り上がらないわけがない。

物見高い人魚族の観客たちも、そして敗れていった参加者たちも、変わらずこの一戦に注目する。

もはや事実上の決勝戦であるかのようだった。

「ちぇー、本当ならオレも勝ち残ってるはずなのによー」

とグチグチ言っているのは、人魚王子のモビィ・ディックくん。

開会式で電撃参戦を決めた彼だが、そんな彼がどういう活躍を披露したかというと……。

二回戦で早々に敗退した。

一回戦はなんとか勝ち抜けたものの、二回戦はそれなりの猛者であえなく敗退。初出場としては充分な成績を収められたのではなかろうか。

「んなことねえよー。オレの予定では初出場初優勝で、ついでに王位も手に入れるはずだったのにー」

理想が高すぎる。

さすがにそこまで人生甘くないでしょうよ。何故そこまで即位を急ぐんですか人魚王子?

「だって、オヤジにできるぐらいならオレの方がずっと上手くやれるって! オレがやるべきことが決まってるなら今すぐやるべきだろ!」

若者特有の根拠なき自信!?

いやそんな簡単なものじゃないって、武泳大会優勝も王様も!

少なくとも武泳大会に関しては、その厳しさも身に染みたんでは!?

「大丈夫! 一回実感してコツも掴めたからよ! これから一年ミッチリ修行して、来年は優勝確実だぜ!!」

だからそんな簡単な話でもないと思うなぁ!!

どうすれば伝わるだろうか、老婆心にも似たこの想い!

「すべてにおいて楽観が過ぎる」

そう、楽観が過ぎるんだけど……誰?

振り向くと、その声の主は……。

アロワナおじさん!?

「うげッ、ウザオヤジ!?」

また父親に向かって『うげッ』とか言うんじゃありません。

「な、なんだよー? これからじいちゃんと対戦だろ? こんなとこで油売ってていいのかよー?」

「人は、勝利よりも敗北からより多くを学ぶ」

おう。

アロワナおじさんの目が、いつもよりずっと冷徹だ。

いつもの甘々じっとり親バカの気配じゃない。

「モビィ、二回戦でお前を負かせたタラバは、ホウボウ道場の高弟で今大会でも上位に入る強者だ。そんな強者に負けて何も学べなかったというのであれば、お前は人魚王の器とは言えぬ」

「はぁッ!?」

いつになく厳しい物言いに、モビィくんも鼻白む。

「何言ってんだよバカオヤジ! オレは、人魚王になるためにずっと頑張って……!」

「努力は適切に運用しなければ何の意味もなさぬ。己の直感ばかりに頼り、他者の意見にお耳を貸さぬようでは、暴君になるのは目に見えている。たとえ血の繋がった息子であろうと、そんなヤツに王座は渡せん」

「んなッ!?」

恐らくここまで厳しく言われたことはないんだろうな。

モビィくんは涙目になっていた。

「な、なんでそんなに酷いことを言うんだよぉ……!?」

「そして私もまた学びのただ中にいる。モビィよ、これから父の戦いをしかと目に焼き付けろ。そして学べ。さもなくば本当に、人魚王となる未来はない」

それだけ言って去っていくアロワナおじさん。

その姿に情愛は微塵もなく、王者としての厳しさに満ち溢れている。

「ううッ……?」

モビィくんは、恐らく初めて見る父親の威厳に戸惑っているのだろう。

いつもの生意気さも鳴りを潜めて、押し黙るのみだった。

「情けないねえ。この程度にビビッてちゃ制竜王アロワナの息子は務まらないよ」

「か、母ちゃん!?」

パッファおばさん!?

アナタも会場に来ていたんですか!?

「そりゃもちろんさ。愛する旦那様の戦いに、この手この声で応援してあげないとねえ」

「えッ!? オレの応援は!?」

「アンタはまず自分の相手を見つけな」

お腹を痛めて生んだ子よりも愛する旦那様。

それが女人魚……!

「旦那様はアンタに甘々だから今まで気づかなかったんだろうけどね。でもそろそろいい加減に気づかないとホントに次期人魚王として不合格だよ」

「気づけって何にだよ?」

「アンタの先人がどれほど偉大であるか。人魚王の名がどれほど重く大きいものか。それを受け継ぎ背負うことにどれほどの覚悟が必要か。これからの戦いは、それを知るのにもっとも都合がいい。何しろ……」

新旧人魚王の直接対決なのだから。

たしかに人魚王を知るのにこれほど打ってつけの戦いはない。

「思えば……こうして直接ぶつかることは今までありませんでしたな父上」

「もっす」

闘場は既に激戦のボルテージが上がっている。

「私が大会に参加する頃にはもう父上は殿堂入りしていたし、唯一のチャンスであった聖者様の参戦時は組み合わせの妙で叶わなかった。この戦いが実現しただけでもジュニアくんに感謝が必要でしょう」

「もっす」

えッ、僕?

やめてください皆、僕をきっかけにして何かしようとするのやめてください!

「しかし人魚王を名乗るためには避けて通れぬ戦いだった。アナタに立ち向かい、アナタを越える! それが達成できて初めて私は、誰に対しても恥じることなく堂々と、人魚王を名乗ることができる!!」

「もっす!!」

アロワナおじさん、そんなことを考えながら日々お役目を務めていたのか。

おじさんが人魚王に即位してから、もうだいぶ長いだろう?

その間いくつもの功績を挙げて、跡取りも設けて、諸外国との関係も良好で……。

誰もがアロワナおじさんのことを歴代有数の人魚王として認めているのに、自分自身がまだまだ認めてはいなかった。

先代を越える人魚王と認めていなかった。

「アロワナちゃんが、ついに人魚王としての正念場ねえ」

「あ、お義母様」

シーラおばあちゃんまで出てきたッ!?

まあ、僕をここまで案内してきた人なのでいるのは当然なのだけれど。

「あの子がいつかは越えなければならない壁ではあったけれど。できればずっと来ないでほしかったわ。愛する息子と旦那様の対決なんて見たくないもの」

「わかります。アタイも旦那様に、好きこのんで血を流してほしいなどとは思いません」

パッファおばさんは旦那さんを想って心を痛めるが、シーラおばあちゃんは旦那さんと息子の倍プッシュだ。

それだけ心労は大きかろう。

「それでも、私の愛する夫ならこの人生最大の試練を乗り越えられると信じています。アタイが全身全霊かけて応援しますので、だからお義母様も気兼ねなくお義父様だけを応援なさってけっこうですよ」

「まあ生意気な、じゃあお言葉に甘えようかしら」

「殺っちまえ旦那様ー! 老害に時代は去ったってことを教えてやれー!!」

「イケイケダーリン! 若僧に経歴の重みを教えてやりなさーい!」

応援の尖りようが凄い。

その一方で、もう一人同じ宿命を背負う者、その中でもっとも若いモビィくんは目の前の戦いに圧倒されていた。

「ぬぅおん!!」

「もっすぅッ!!」

新旧人魚王が激突するたびに、信じがたい衝撃が海水を伝わり周囲へと広がっていく。

それは先ほどのナーガスおじいちゃんvsイエローテイルくんの比ではなかった。

「うわぁああああああッッ!? マジで観客席のシャボンが割れる!?」

「スタッフ全動員! 魔女様たちに応援を要請しろぉおおおおおッッ!!」

その戦いはどんな時化よりも、津波よりも激しく周囲を圧倒する。

まるで王の威圧のように。

「うおなぁ!!」

「もっすッ!」

アロワナおじさんのパンチが、ナーガスおじいちゃんの胸板に突き刺さる。

その余波でまた海水が丸ごとひっくり返るような衝撃が起こった。

それだけでもモンスター一体粉々になるような威力だとわかる。

それなのにナーガスおじいちゃんは大して効いてる様子もなく……。

「もっすぅ!!」

殴り返してきた!?

負けず劣らずの海衝撃波が広がっていく。

それだけで観客席それ自体が崩壊しそうだ。

「うぎゃああああああッ!? 観戦するだけでも命がけぇええええッ!!」

本当になッ!

新旧人魚王。

制竜王アロワナvs救世王ナーガス。

その戦いは、人類によるものでありながらもう別次元だ。

双方、男人魚の代表武器である銛というか矛を使っていながら、何故か殴り合いの応酬になっている。

殴られては殴り、殴っては殴られ。

その様相はまさに意地と意地とのぶつかり合い。

そんな術理を越えた戦いを見て……。

「すげぇ……!?」

呆然とするモビィくん。

いずれ人魚王となる彼の目に、この戦いはどう映るか。

アロワナおじさんだけではない。

彼もいつか、この障壁を越えなければいけない。彼が人魚王たることを望むならば。

人魚王という位の重さ。

伴う責任。

それをモビィくんが自覚できたのなら、この戦いもさらに意味あるものになるだろう。