軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1469 ジュニアの冒険:優勝者決定

事実上の決勝戦。

アロワナvsナーガス。新旧人魚王の激戦は熾烈を極めながらも決着へと近づいていた。

というかもうそろそろ決着してくれないと会場が持たない。

「ベールテール! そっちの客席保護シャボンが破れかけてるわ保護お願い!」

「その間に私とバトラクスで補修するから!」

「あああああああッ! 私たち四人じゃとても手が足りないよぉおおおッ!」

「はい口より手を動かす!」

四魔女のお姉さんたちが突如駆り出されて観客保護のためにてんやわんやだ。

でも四人だけじゃないですよ。

僕も『究極の担い手』を使って、あのマッスル親子が放つ海衝を可能な限り抑えてるんですから。

でもさすがに全方位をカバーしきれずに、漏れた分を何とか四魔女のお姉さんたちに埋めてもらっている感じだ。

それでもてんやわんや。

この原因となる戦いよ、早く終わってくれ!

「ふぬぅうううううううううううううッッ!!」

「もっすぅうううううううううううううッッ!!」

互いの矛で鍔競り合いしながら、ぶつけ合う闘気が互いに跳ね返されて四方八方へと散っていく。

その圧力が、海衝撃波以上に凄まじく観客席を脅かしてくる。

二人は多分、僕たが何とかしてくれると信じてるんだろうけれど、それにしたってこっちへの負担全振りではあるまいか。

もうナーガスおじいちゃんとアロワナおじさんの周辺、闘気に押し出されて海水がなくなっている!?

「うぅ、おりぇやあああああああああああああああああッッ!!」

「もっすぅッ!?」

その純粋な力比べに決着がついた。

現人魚王たるアロワナおじさんが、前人魚王ナーガスおじいちゃんを押し切った!

均衡を崩して、全闘気がナーガスおじいちゃんを襲う!

「もすぅうううううううううううッッ!?」

その瞬間、一つの伝説が終わり、新しい伝説が始まった。

人魚王アロワナが、真なる意味で先代を越えた瞬間だった。

「勝利勝利勝利! アロワナ陛下の勝利ぃいいいいいッッ!!」

うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!

と海中を震わす歓声が上がった。

応えて両腕を高々上げるアロワナおじさん。

今この瞬間に間違いなく彼こそが王者だった。

「……状況に救われた」

しかしすぐにみずからを戒める言葉を吐くアロワナおじさん。

「父上は既、この戦いを迎える前に重大なダメージを負っていた。イエローテイルだったか。あの若者との戦いは堪えたようですな父上」

「もっす……」

アロワナおじさんから差し出された手を、素直に握り返すナーガスおじいちゃん。

「あの若者の最後の突撃を、父上は真正面から迎え撃った。結果見事に跳ね返したが、その際父上も無事では済まなかった。腰をピキッといわせたのでしょう?」

「もすぅ……」

そのダメージは小さなものであったが、着実にナーガスおじいちゃんの身体にしこりとなって残り、激戦の最中、勝敗を左右する明暗となったのだ。

「完全に父上を越えたなどと驕りはしません。しかし究極にイーブンな勝負もない以上、王者としてこの勝利を誇り、これまで以上の人魚王の道を邁進していこう!」

宣言と共により大きな歓声に包まれる。

その傍らで、僕と四魔女のお姉さんたちがやり切った疲労困憊で燃え尽きていた。

「父ちゃん!!」

急に飛びついてくるちっこい体。

アロワナおじさんにしがみついてきたのは……モビィくんだった。

「オレ間違ってた! 人魚王のこと甘く見てた、オレは人魚王になるにはまだまだ色んなものが足りねえ! 足りねえことすらわからなかった!」

彼も彼なりに衝撃を受けたんだろう。

モビィくんが目指す人魚王の、その現実的なレベルの高さを目の当たりにして。

彼にとってはデレデレ情けないお父さんのように映るが、その真実は人魚国全体を背負って支える強くも厳しい王者なのだ。

そのことをモビィくんは今日思い知った。

彼の目指すビジョンがおぼろげであったのが明確化し、そして明確になったビジョンに衝撃を受けている。

「オレ、絶対人魚王になる! 父ちゃんみたいにカッコいい人魚王になるよ!!」

その言葉にアロワナおじさんは心底嬉しそうに笑った。

今こそ勝利を実感するかのように。

「そうか」

「もっすぅ」

ナーガスおじいちゃんまで嬉しそうであった。

この絆がある限り人魚国は安泰であり、人魚王の継承も問題なく続いていくだろう。

武泳大会最大の激戦は、こうして最高の成果をもって幕を閉じた。

まあ、武泳大会自体はまだ続くんですけれども。

だってまだ準決勝だし。

準決勝だから二戦あるんだけれども、そのうちの一戦がアロワナおじさんvsナーガスおじいちゃん。

では残る一戦は?

そう、僕だ。

対戦相手は準々決勝で好勝負を演じたヘンドラーおじさぁん。

僕がこれまで戦ってきた相手の中でもダントツで手強いのは確実だった。

それで結果はどうなったって?

負けたよ!

その経緯は何とも言えない奇妙なものだったけれど……。

覚えておいでだろうか。

地上人である僕は本来水中では呼吸できない。

だから海中で行われる武泳大会に参加できない、付き合っていたら窒息で死ぬ。

その不可能を可能にしたのが、魔女の作り出した秘薬、エアもずく(三倍素)だった。

従来品のエアもずくから改良を重ね、三倍の持続性を得て三倍安心だ。

しかし効果は持続しても永続ではない。

いつか必ず終わりが来る。

それがよりにもよってヘンドラーおじさぁんとの戦闘中だった。

僕自身、油断だった。エアもずく(三倍素)の効果があまりに長く続くために、何の対策も打っていなかった。

エアもずく(三倍素)の効果が切れたらもう呼吸はできない、溺れて土座衛門になるだけだ。

しかし、周囲だって何も備えていないわけじゃない。

地上からの客人である僕に万が一もあってはならないと、一番重要な酸素供給にも二重三重の備えがしてあった。

――『新しいエアもずくですよ!』

という声と共に、何かが僕へ向かって投げ込まれてきた。

溺れる者はもずくにもすがる。

切羽詰まった僕は詳しく確認もせずに口の中へ放り込んだ。

それはもずくではなく、激辛唐辛子だった。

燃え上がる辛さに悶絶、お陰でただでさえ少ない空気を吐き出すこととなった僕は撃沈してしまった。

それで準決勝敗退。

聞けば父さんも、同じような負け方で自分の出場した武泳大会を敗退したとか。

親子とはいえそんなとこまで似なくてもいいだろうに。

いやそもそも人魚の大会に地上人が出ることが無謀だったんだ。

そのことが後世の学びになっていきますように。

でもまあお陰でアロワナおじさんとナーガスおじいちゃんとの戦いに全力フォローができたんだけどもさ。

あとの決勝戦が控えていて、あんな無茶ができるか。

そういう意味では準決勝の時点で負けておいてよかった。

元々優勝するのもどうかなあと思っていたし、ちょうどいい引き際だったのだろう。

ということで決勝戦の対戦カードは。

僕に勝利したヘンドラーおじさぁんと。

vs。

新旧人魚王の激戦を制したアロワナおじさん。

現人魚国を支える国王とその右腕ツートップの戦いとなった。

とはいえヘンドラーおじさぁんは空気の読める有能官吏。主君に気を遣って勝ちを譲るかとも思われたが。

「……その必要もない」

試合開始直後にアロワナおじさんは、敗北を宣言した。

敗北!?

「私は、父上との戦いで精も魂も使い果たして、この決勝を戦い抜く力も残っていない。だからヘンドラー、決勝戦に立った時点でキミの優勝は決まりだ。おめでとう。私も悔いはない……!」

そこまで言い切ると、本当に力尽きたのかアロワナおじさんは意識を失いプカーッと浮かんだ。

「アロワナ陛下ァーッ!?」

「旦那様ぁあああああッ!?」「オヤジィいいいいいいッッ!?」「もっすぅううううううッ!?」

関係者一同慌てて駆け寄る。

これにより武泳大会は全試合が終了し、ヘンドラーおじさぁんが優勝者として栄冠を掴むことになった。

なんか締まらないなあ。