軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1467 ジュニアの冒険:兄弟対決(海)

武泳大会準々決勝第二試合。

そのカードは奇しくも名門による兄弟対決であった。

ベタ家ヘンドラー。

vs。

同じくベタ家のプラガット。

一方は若き日の出奔を経て実力と実績を積み、いまや人魚王のもっとも頼りとなる腹心にまでのし上がった。

もう一方はかつて神童と呼ばれ、文武両道あらゆる栄光を手にしながら今は何もないただの人。

苦労の末に栄光を勝ち取った者と、若さに驕り才能を使い尽くした凡人。

うぅん、世人がいかにも好みそうなマッチングだ。

誰もが、才能を打ち砕いて努力が完全勝利する瞬間を目撃したいのだろうなあ。

すでに登場で睨み合っている二人。

「……こうして公の場でしっかり戦うのは初めてかもしれないな兄貴」

「そうだな、お互い武泳大会には毎年出場していたが、組み合わせの妙か直接対戦することは今までなかった」

「オレが一回戦や二回戦ですぐ負けるからって言いたいのか?」

「別にそんなつもりはないが……、しかし今回は準々決勝まで勝ち残ったではないか。努力が実を結んでいるな」

弟さんのひがみっぽさがにじみ出ている……!

ウチのノリトみたいだ。

世の弟ってのは、皆ああなのか。

だとすると嫌だなあ。

「そんなことはないぞ、兄にも弟にも色々なものがいるさ」

ひゃあッ!? 誰!?

いきなり音もなく隣に寄ってくるな。

「失礼失礼! 私はワイルド! ベタ家のワイルドと言って、今闘場で睨み合っている二人双方の兄である!」

ああッ! アナタが噂の!?

僕の中にある理想の長男像をブチ壊した人!

アナタ、なんで観客席でのほほんとしているんですか!?

長男ならば我が身を挺してでも、悩み苦しむ弟たちのために粉骨砕身木っ端微塵すべきではないんですか。

『長男だから耐えられた、次男なら耐えられなかった』それがすべての長男のスローガンでは!?

「そんな長男だからって何でもかんでも耐えれんよー。あはははは」

くっそのん気にサザエのつぼ焼きなどほじくりやがって。

そこらの売店で買ってきたのか!?

「もう本戦敗退したから観客気分でいいじゃないか? いやぁまさか二回戦でアロワナ陛下に当たるとはなあ。私も人魚騎士団長という栄職を預かりながらまったく敵わなかったよ。『人魚族を束ねる人魚王が、人魚騎士より弱いと思ったか?』と言わんばかりだったよ」

だったらアナタは長男の意地を見せろよ!

兄弟を束ねる長男が、次男より弱いと思ったか? ぐらい言ってみては!?

「アロワナ陛下も長男だぞ?」

というかこの話題にノリトが不在で本当によかった! アイツがいたら確実によりややこしくなる!

「長男なんてきっと世界中に何百万人といるんだから、頼りない長男が一人ぐらいいても許してくれるさ。何せウチには実力と責任感を兼ね備えた次男がいるんだから」

そ、そりゃヘンドラーおじさぁんはフツーに頼りになる人だけれどさあ。

「人には皆生まれ持った性状がある。その通りに生きればいい生まれた順番など関係ない。頑張る長男を次男が支える、頑張る次男を長男が支える、そこに何の違いもありはしねえだろうが!」

ち、違……わないかなあ!?

そうこう言っている試合が始まった。

因縁深い兄弟対決だ。

「先手必勝、行くぜ兄貴!!」

先に動いたのは三男プラガットさん。

「ベタ家銛強襲術、連続波浪並浪突き!!」

おおッ、水中で目にも止まらぬ銛の連続突き!?

しかしヘンドラーおじさぁんは華麗によけて掠りもしない!

「同じベタ家の私に、ベタ家の技が通じるとでも? その太刀筋は知り尽くしているぞ」

「ぐぅうう……!」

ヘンドラーおじさぁんの強者の貫録がヒシヒシ伝わってくる。

その実力差は歴然と思えた。

「子どもの頃は何やってもダメと言われていたヘンドラーだが、そんなことはない。むしろ丁寧に覚えていっただけだ。外面だけではなく本質までしっかり理解しながら覚えるからこそ時間がかかる。そして一度覚えたら完全にものにする」

僕の隣で解説する長男の人。

「ヘンドラーが幼い頃上手くいかなかったのは、父上からの圧で気が散っていたのも大きいしな。アレで昔はプレッシャーに弱いヤツだったんだよ。それも出奔時代に論客として、多くの論戦を重ねてきたことで克服できたのだろうがな」

さすが肉親となると目のつけ何処をが違う。

その間も戦いは続いているが、形勢はあっさりヘンドラーおじさぁんへと傾き、三男の人プラガットさんは防戦一方になった。

「対するプラガットは神童として父上に褒められ続けてきたからな。『父に言われたことだけ続けていればいい』という思考硬化は今になってもなかなか改善できない。それが如実な実力差となって表れている」

的確な解説だと思う。

あの二人は兄弟であり同門。だから使う技も似通っている。

実力ではヘンドラーおじさぁんが圧倒的に上なのだから、知り尽くされている同門の技では意表を突くことなどできない。

よって実力差でねじ伏せられるしかない。

プラガットさんがせめて大きく視野を持って、様々な分野から貪欲に吸収していれば、ヘンドラーおじさぁんの知らない何かで虚を突くこともできただろうに。

「だがプラガットもよく粘っている。あのヘンドラーの猛攻に十秒以上耐えきれるのは、この武泳大会の出場者の中でもそうそういない。ちなみに私も無理だ」

自分で言うな、そんな堂々と。

「皆はプラガットのことを、才能にかまけた怠け者というが、そんなことはない。アイツが努力しなかった時期など今まで一日たりともなかった。昔も、今もだ」

おおッ、ヘンドラーおじさぁんの必殺の一撃が……!

……かわした!? すんでのところで!

無理な体勢で手傷は負ったものの致命傷にはなっていない。今のを凌ぐのは、さすがにさすがだ。

「アイツはただ父上に言われるばかりで努力の仕方を考えなかっただけだ。それが致命的ではあったがな。お陰で人魚軍の幹部候補にもなれなかったが父上から解放されてあと、一兵卒から入隊して下積みを続けた結果、小隊長にまで出世できた。『たかが小隊長?』と思うか?」

あッ、いえ……!?

「当然だ、小隊は軍を支える重要な単位。それを笑う者は素人でしかない。プラガットは小隊長として得難い経験を今も積み上げている」

国王の右腕と、小隊長。

それぞれの環境でしか得られない経験があって、その経験を積み上げて頑張っている。

そこに何の違いもありはしない。

「くぅ……!」

「防戦一方だが、潮目が変わってきたな」

傍で長男の人が言う。

「あれだけ怒涛の攻めを続けていたら疲れる。誰だってスタミナは無限じゃないし、集中力にも途切れはある。満ち潮が引き潮に変わる瞬間、付け入る隙は必ずある」

プラガットさんの逆転チャンスはそこにしかない。

本人もそのことを悟っているんだろう。

防戦に徹しながら、鋭い視線でヘンドラーおじさぁんの動きを注視している。

必殺の瞬間を見逃さないように……。

そして今。

ヘンドラーおじさんの動きが僅かに鈍った。

「今だぁああああああッ!!」

緩んだガードをこじ開けて、プラガットさん渾身の一刺しが奔る。

だが……!

「ああッ!?」

ヘンドラーおじさぁんの動きがすぐさま精彩を取り戻し、襲い来る相手の銛を自分の銛で絡めとり捌いた!?

逆に隙だらけとなるプラガットさんの鼻先へ、ピタリと突きつけられる銛。

勝敗は決した。

「……参った」

「試合終了、勝者ヘンドラー!!」

好勝負だった。

実力的に収まるべきところへ収まった結果だが、敗れた方も実力以上の粘りを見せて堂々たる結果だった。

彼のような小隊長が前線で気張ってくれれば、そうそう戦線が崩れることもない。

人魚軍の底力を見せてくれた戦いだった。

「してやられた。……弱って見せたのは、フリだな」

「その通り。あえて付け入る隙を作って敵を誘い込むのは戦術の常道だ。だからこそ自分が攻め入る側に立った際も最大限の警戒がいる」

ヘンドラーおじさぁんから差し出された手を、素直に握り返すプラガットさん。

「真なる意味で状況をコントロールするには視線を高くし、広い視野を持つことが必要だ。小隊長も栄えある役職だが、さらに上へと行きたければ覚えておくことだ」

「ちッ、偉そうに。……でも覚えておくよ。広い視野を持つ、父上にべったりしていた時にはできなかった」

「今からでもできるだろう。何事も初めて遅すぎるということはない」

どちらもベストを尽くした兄弟に、観客席から惜しみない拍手が飛ぶ。

「おおおおおおおッ!! 素晴らしいぞ! 私の弟たちはどちらも素晴らしいぞ!!」

一際騒がしい拍手で感涙までしている長男。

この人はベストを尽くしたのかなー、と疑問であった。