軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1423 ジュニアの冒険:母は発明の母

「えッ? もしやあの暑苦しい巨体は……!?」

「人魚大王アロワナ陛下?」

「あの極厚大胸筋、間違いない……!」

「このような場所でご尊顔を拝するとは……ありがたやー!」

「ママー」

「見ちゃいけません!」

ヤバい、周りが騒ぎ始めた。

そりゃあこんな観光地の玄関口で王様がウェルカムしていたらざわめきもだすか。

ここで騒ぎになるのは本意ではない。

「こちらへッ!」

「おおッ?」

アロワナおじさんを担いで駆け出す。

「ああッ、アロワナ王様がかどわかされた!?」

「国王誘拐だーッ! 衛兵をーッ!」

やっぱそうなる!?

国王の品位を守る代わりに僕がお尋ね者にッ!?

「大丈夫、私から言っておけばどうとでもなる」

そのまま僕は、担がれたアロワナおじさんの指示に従いつつ係りの人にも案内されて、何やらVIPルームっぽいところへ誘導入室させられた。

若干ハメられた感がないわけでもない。

「ここは国が直接運営する海流エレベーター管理局だ。騒ぎになることもないから楽にしていいぞ」

と、向かいのソファに座るアロワナおじさん。

しかし、二人用のソファが彼一人でギッチギチになっておる。ビルドアップの成果が如実に出ている……!

「いや、我が甥がいつ来るかな、もう来るかな、とヤキモキしていたぞ。しかし実際来てくれた喜びには敵わんがな」

いつ(戻って)来るかな、もう(戻って)来るかな、とヤキモキしてたのは人魚国の重臣さんたちじゃないですかね?

大丈夫ですか? 本当に国政停滞していませんよね?

「大丈夫大丈夫、こっちで進められる政務はしっかりと従事しているから」

それもそれで問題かと。

「それくらい修行の旅で訪れる甥っ子を楽しみにしていたということだ。自分の若い頃を思い出してなあ。私も、武者修行の旅で多くの得難いものを得たものだ……」

昔を懐かしむように言うアロワナさん。

くどいようだが王族の武者修行の元祖はこの人だ。

「妃との関係が本格的になったのも旅でのことだ。……ジュニアくんはどうだ? 旅の途中でこれはと思う女性に出会えたりはしたかな?」

「え~?」

「……今、数人の顔が浮かばなかったか?」

な、なんのことやら!?

嫌だなあ、僕は父やおじさんと同様に一途な男ですよ、きっと。

「何にしろ、我が甥が成長の場として人魚国を訪れてくれたことを嬉しく思う。そなたの父である聖者殿には数えきれないほどお世話になってきた。その恩返しというわけではないが、人魚国でのジュニアくんの成長の機会に国を挙げて協力しようと思う」

スケールが大きくなっている。

いえ、そこまで気遣っていただくわけには……。

僕はその辺の隅で腕立てでもしていますので、どうぞおかまいなく……。

「そういうわけにはいかぬ! まあ、積もる話は本国に入ってからに使用ではないか。先代も、久々に孫に会えるとエラを長くして待っているぞ」

ナーガスおじいちゃんとシーラおばあちゃん!

母プラティの両親にして僕の祖父母に当たる方々。

先代人魚王夫妻でもあり、その逸話功績が今なお輝かしい方々だ。

王座を長男アロワナおじさんに譲り、現役を退いて久しいが、それでもまだまだ活発でカクシャクとしていらっしゃる。

でも年下の叔父を連れてこられた日には、さすがに何とも言えない気持ちになったが。

「それにパッファやモビィ・ディック、他に多くの子らもキミの訪問を待ちかねておる! さあ、黒潮のごとき速さで人魚国へとうねり向かおうではないか!!」

そうだな。

ここでまごまごしているより断然その方がいいだろうな。

アロワナおじさんを執務室に戻してあげないと。

「ご存じのように、陸人が人魚国へ入国できる唯一のルートがここ、楽園島からだ。それは何故? 答えは、世界に二つとない最先端施設がここ楽園島にあるからだ」

それが……。

「海流エレベーターだ!!」

海流エレベーターとは?

それは、この楽園島から人魚国まで流れる人工海流。

魔法薬による巨大シャボンの中に入り、海流に乗っていくことで自然と人魚国へと到着できる仕組みらしい。

人工海流は、楽園島と人魚国を結んで一周するコースになっていて、黙って乗っていれば行き来も可能。

まことよくできた仕組みであった。

「昔は人の乗ったシャボンを人魚が押したり引いたりしながら運んで行ったのが、全自動になったわけだから便利な時代になったものだなあ」

昔の不便さをしみじみ話すアロワナおじさん。

大人にありがちな光景。

「巨大シャボンも、魔法薬研究が進んで高い水圧でも破れぬようになっている上に、緊急時には自然に海面へと上がるように安全設計してある。コイツのお陰で人魚国には年間数十万人の観光客が訪れて外貨サイコーだ!」

ホクホク顔で言うアロワナおじさん。

たしかに凄い発明だなと素直に思う。

そもそも海流って人工的に作り出せるものなの。

それを実現したというんだから人魚国の技術力は凄まじく素晴らしい。

きっとまた魔女のどなたかの仕業だとも思うんだが、結局誰が成し遂げたんだろうなあ……?

「プラティだ」

うん?

唐突なアロワナおじさんの発言に身が震えた。

今、誰の名を唐突に出しましたか?

「だからプラティだ。我が妹兼キミの母だな。この人工海流エレベーターは、プラティが陣頭に立って研究開発、完成に至ったものだ」

こんなところで母親の名を聞かされる僕の身になってくださいよ……!

いや、薄々そんな気はしていたんですが……!

僕の母さんってそういうところあるんですよね。

父さんと並んで目立たないけれど充分にこの世界の常識から逸脱している。

「とはいえアイツ一人じゃなくて、ウチのパッファとか、ヘンドラーのところのランプアイとか、ヤツらの教え子魔女たちもチームに加わって共同開発したのだがな。やはり魔女の技術は素晴らしい。一昔前は魔女というだけで取り締まり対象だったからな」

その魔女の一人を母親にもつ身から言わせていただければ、取り締まられるのも当然という気もするんですよ。

あの影響波及というものをまったく考えない研究没頭者ども。

キッチリ手綱を引く者がいて初めて有用になれると僕は思います。

そう、ウチのお父さんとか。

「そうだなあ、聖者様がしっかりと監督してくれるからこそプラティも、自分の行き過ぎた才能を有用な方面に活用できるんだよなあ。聖者様、様々だ……!」

そうですよ!

父さんによる監督がなかったら何度世界を破滅させていたことか、そういうことをするんですようちの母は。

世間はよく『聖者様が善良じゃなかったら今頃世界はメチャクチャだった……!』とかよく言いますけれど、違います。

本当の世界の危機は、母なんですよ!!

人知れず世界を救ってきたのは父なんです。生まれた頃からあの二人を見てきた僕が言うんだから間違いない。

「あッ、わかったわかった。キミが言うんならそうなんだろうな……!」

アロワナおじさんがなだめるように言ってくる。

「いや、私もわかるよ。私だってアイツの兄として、キミに負けないくらい長いことアイツを見てきたんだから。たしかに、このまま放っといたら国を滅ぼしかねないなと思ったことはある。だからこそ聖者様がアイツを貰ってくれて本当に助かったというか……!」

本当ですよ!

世界はもっとウチの父さんに感謝すべきです!

「ええ……!? 今でも充分感謝していると思うんだけど、それ以上に……!?」

当然です!

さあ、無駄話はこれぐらいにして、いい加減人魚国へと乗り込みましょう!

見せてもらおうか、母さんが開発したという海流エレベーターの、その性能というヤツを。

「では、梱包デッキへと来てもらおう。……ここで魔法薬を振りかけて、巨大シャボンに包まれてもらう。魔法シャボンはそれ自体が空気を内側に発生させるようにできていて、そのままでも丸二日は呼吸可能だ」

安全面に対してあらゆる配慮が重ねられている。

こういう隙のないところは、たしかに母さんだなと思う。

「ここからはひとまずチューブを通って外海へと運ばれる。一定まで進んだところで海流エレベーターと合流だ」

アロワナおじさんも魔法薬を飲み、人魚の姿に戻って同行する。

僕はシャボンの中から成り行き任せ。

説明の通りに海中の見えない流れに乗ると、シャボンは僕ごと凄まじいスピードで流れていく。

周囲には、他にも人を入れたシャボン玉が散見される。

中身は、人魚国を満喫せんとする地上人の観光客たちだろう。

母さんたちが築いた、この輸送ルートは大いに役立っているということだ。

僕もこの流れに乗って……いざ行かん、人魚国へ。