軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1424 ジュニアの冒険:人魚国到着

着いた。

ここが人魚国。

まずシャボンの中にいる僕の、シャボンの被膜越しに飛び込んできた風景は、海底に漂う巨大な魚だった。

大きい大きい大きい大きい大きい……巨魚。

ちょっと想像の桁を飛び越えた魚。

どれほど大きいかちょっと表現が追いつかない。

スペースコロニー一個分といえば調度いいだろうか、……スペースコロニーってなんだ?

それだけでもまず幻想的な風景でだったが、ここまで巨大な物体をたやすく飲み込んでまだ全然余裕のある海の壮大さに、戦慄もした。

「あれは巨大魚ジゴル。神が我々人魚族に与えたもうた奇跡だ」

同行するアロワナおじさんが言う。

観光案内のように。

「海の中で安住の地のない人魚族のために、外敵から身を守り、安全に寝起きするための城砦を神は用意してくださった。それこそが巨大魚ジゴル。すなわち人魚国の首都だ」

あの大きな魚が首都そのもの?

ということは……?

「うむ、あのジゴルの中にあるのだ」

ちなみに僕の周囲の海中には他にもまばらにシャボン玉があって、その中にはもれなく観光客が内包されている。

彼らも雄大なジゴルの巨躯に感嘆の声を上げている。

「ジゴルは、人魚国でも有数の観光スポットだからな。多くの観光客はまずジゴルの全景に度肝を抜かれ、観光先に人魚国を選んだことを正解だと感じ取るだろう!」

それは……。

たしかにそうだと思います。

ジゴルの巨大さもそうだけれど、深海の風景というのがまず他では見れない上に幻想的な……一見の価値あるものだ。

「巨大魚ゴルジ一望風景は、人魚国百景の一番目に登録されているからな我らにとっても貴重な観光資源だ!」

カッカッカと笑うアロワナおじさん。

海流エレベーターはその流れをジゴルへ向けて僕らのシャボン玉を運んでいく。

ホントにどういう仕組みになっているんだろう。

シャボンはそのままジゴルの口へと流れ行き、そして当然のように口内へと吸い込まれていった。

「おおう」

口吻をくぐる時はさすがに恐怖を感じたが、それも一瞬の全自動。

どこぞから……、

『ただ今ゴルジの食道を通り人魚国内へと向かっております。慌てずお待ちください』

というアナウンスが流れてきた。

……どういう仕組み!?

「この辺り『魚に食われる!?』と混乱する観光客が多くてな。無理やり脱出しようとシャボンを壊そうとまでするので、こうして注意喚起しているのだ」

配慮が行き渡っていた。

いろんなお客がいることを想定して万全態勢を整えてないといけないんだから観光地って大変だなあ。

「そろそろ人魚国に到着だ。シャボンの旅もここまでだな」

アロワナおじさんの言う通り、海水から上がってステーション的な場所へと行きついた。

人工的な意匠に囲まれた、それでいて広くて清潔な場所だ。

上部分に『人魚国へようこそ!』と書いてある横断幕が掛けてある。

海水から完全に上がったところまでシャボン玉が転がっていくと、ひとりでに何かするまでもなくシャボン玉は割れ、地上からここまで僕らを運んでくるという役目を終えた。

帰りもここからシャボンに包まれて地上へ目指していくのだろう、目を凝らせば海流がUターンして外へと流れていくのが見える。

「さあ、ついに到着だ! 人魚国はジュニアくんを歓迎するぞ! ウェルカム テュー アンダー海!」

言い方色々間違えている気がする。

しかし歓迎の意はこの上なく伝わってくるので細かくは気にせず人魚国へ足を踏み入れることにした。

人魚さんたちにあるのは尾びれで、足はないけれど。

……僕にはある!!

「人魚国内を移動するなら、このゴンドラへ乗っていくがよいぞ!」

と進められてゴンドラに乗る。

……ゴンドラ?

と呼ぶにはいささか巨大で、むしろ遊覧船と呼ぶべき規模であった。

他の観光客さんたちが乗っているのは真実ゴンドラ規模なのに?

なんで?

実際他の観光客さんたちも何事かとこっちを凝視している。

注目に慣れていない僕には何ともしんどい状況だ。

あの……、僕も普通の規模のヤツに乗りたいんですが……!?

「何を言う、大恩のある聖者様のご子息にして大切な我が甥ジュニアくんに、最大限のもてなしをせずしてなんとする! この豪華客船アロワナ号は、国賓にのみ乗ることを許された特別な船! 遠慮なく揺られてくれ!」

ひぃッ!? 国王の名を冠するな!

僕の小市民ソウルは極限まで震え上がるが、しかしここまでの歓迎を無下にしてもまた小市民ソウルが震え上がる。

結局は流されるままが一番楽だと判断し勧められるまま乗ることにした。

アロワナおじさんも当然のように同乗する。

「なんだなんだ?」

「特別な御客なの?」

「ママー、あのおにいちゃん晒し上げられるのー?」

「シッ、見ちゃいけません!」

観光客さんたちからもさらに注目の的だ。

過剰に豪勢な船に乗って、乗りだせ人魚国へ。世はまさに大観光時代。

ステーションを出て本格的に目にする人魚国の風景は、まさに異国情緒を満載のものだった。

あの巨大魚の腹の中は、こうなっているのか。

普通に建物が立ち並び、大都会の様相を呈している。

しかし他国と明らかに違う特徴は、街中には道路の代わりに運河が通っているということ。

それこそ縦横無尽、網の目のように張り巡らされている。

巨大魚ジゴルが体内に引き入れている海水か。人魚たちはその中を泳いで出勤したり退勤したりしているようだ。

そして僕らのような観光客は運河を泳いでいけないためにゴンドラが必要ということ。

このような豪華絢爛かつ巨大な船は必要以上。

「どうかなジュニアくん、人魚国の感想は?」

「あッ、ハイ。とてもいいところですね」

語彙が死んでいる僕。

「こうしていると思い出すな、ジュニアくんが初めて人魚国を訪れた日を」

はえッ?

それって今日では?

「ジュニアくんが覚えておらぬのも無理はない。何しろこんなに小さな赤ん坊であったからな」

大きさを指先で表現しないでください。

親指と人差し指で。

それじゃほぼ胎児サイズですよ。母さんのおなかの中にいないとヤバい時期です。

「そしてあの日は聖者殿が初めて人魚国を訪れた日でもあった。ジュニアくんが生まれたのをいい機会だとしてな。聖者殿と我が父が初めて顔合わせしたのもその日だった、もちろんキミもな」

へぇ……まったく覚えていない。

物心つく前の赤ちゃんであったから当たり前だが。

しかしそう聞くとどこかこの風景に懐かしい気が……ゴメンナサイ、テキトーなこと言いました。

「あの日も人魚国の全力を挙げて聖者殿を歓迎したものだ……このように!」

アロワナおじさんが合図すると、それに応えて怒涛のような歓声が巻き起こる。まさしく怒涛。

運河の両岸から数え切れぬほど大量の人魚たちが顔を出し、さらに満面の笑顔を浮かべて歓待の辞を並べる。

「ようこそ人魚国へーッ!」

「農場国の王子様ー!」

「プラティ王女の御子息の帰還だー!」

「結婚してー!」

「ママー、あのおにいちゃん賓客なのー?」

「シッ、見ちゃいけません!」

紙吹雪舞い散り、垂れ幕が掲げられ、これ以上ない歓迎ムードだ。

ここまで熱烈に歓迎されたことは、今までなかった。

しかし一体どうして?

「出発前に私から連絡しておいたからな」

アロワナおじさんが自慢げに言う。

「楽園島から出発して小一時間。歓迎準備を整えるには充分な時間であったわ。ジュニアくんを迎えるのに生半可な歓待では失礼だからな。国を挙げて準備万端整えたわ!」

いや、むしろこっちが恐縮しちゃうんですけれど!?

この天地を揺るがす……歓迎の声。

ここまで存在を認知されたら、人間国や魔国でみたいに秘密で活動するのは無理だなあ……、とまず悟るのだった。