軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1422 ジュニアの冒険:伯父という生き物

「まもなく目的地、楽園島へと到着します。本日は当船をご利用いただきありがとうございました。よいボンボヤージュをお楽しみにください」

船旅の途上にある僕。

予想以上にしんどい。

まさかこの僕が船酔いに悩まされようとは。

この、元人魚王女プラティの息子にして、人魚の血が半分流れている僕が船酔い?

人魚ハーフの名折れじゃないか!?

『ジュニア……ジュニアよ、よく聞きなさい』

はッ、その声は?

僕の心の中に住むイマジナリー母さん!?

『よく考えてみなさい。基本的に人魚は自分で大海原を泳ぎ切れるんだから船に乗る必要がないの。だから人魚と船は一見関係あるように見えて特にない。よって人魚の血を引いていようとも船酔いになるかどうかはまったく関係ないのよ』

そうかッ!!

蒙が啓けた!

僕は、母さんの血を引いているからと言って海に関係あること全部に優位性があるものと勘違いしていたのかッ!

何と愚かなッ!

しかし自己の愚かさを理解してこそ、賢明への道は開かれる!!

「ママー、あのお兄ちゃん一人で騒いでるよー」

「シッ、船酔いで苦しみすぎてテンションおかしくなることもあるのよ」

そうこうしているうちに、船は接岸したようだ。

岸から押し返される最後の一揺れでとどめ差されそうになった。

ここは一刻も早く下船して、揺れない大地を踏みしめなくては。

「ママー」

「やめなさい」

下船すると、眼前には紛うことなき楽園が広がっていた。

ここが楽園島。

地上の楽園、もっとも天国に近い島。

港を下りた時点で視界に入る、各所に溢れかえる百花繚乱。

気候も噂通りで温暖で、島に降り立った途端に女神からの抱擁を受けるがごとしだった。

こんな過ごしやすい場所、何ヶ月だろうとここにおりたいやん。

ここの時点でリゾートの究極系だというのに、ここからさらに人魚国へと進むルートがある。

そう、この楽園島は通過点に過ぎないのだ。

そう思うと、この地に踏み込んだ誰もが戦慄するのだという。

さて、ここから人魚国へ行くための本格的な手続きをしないとなのだが……。

……なんだっけ?

手続法を、母さんから言い含められていたはずなんだけどどんなだったか思い出せん。

けっこう前のことだからなあ。

仕方ない、こういった公共施設には必ず仔細丁寧な案内板があるだろうからそれに従って進むとしようか。

そのうちに僕の記憶も鮮明に甦ってくることだろう。

さーて、すみませんエクスキューズミー!!

人魚国へ行きたいんですが!

何? そのためにはまず海流エレベーターへ?

ありがとう!

エレベーター入口へは向こうを曲がって曲がって曲がって先だな!

わかりゃした!

うおおおおおおおッ!!

そして案内の通りに邁進していくとその先には……。

「おおジュニア! よく来たな!!」

えッ?

「お前が人魚国へ来てくれて嬉しいぞ! 伯父は感動のあまり打ち震えているぅあああああああッッ!!!!!!」

と言いつついきなりハグられる僕!?

厚く硬い胸板が超高速で顔に迫ってきて最終的にぶち当たる!

鼻が潰れるかと思った!

「うぉおおおおおッッ!! 大きくなったなあジュニアぁああああッッ! 男子三日合わざればカツ丼というヤツかぁあああああああッッ!?」

「お、おじさんもまた一段と大きくなられて」

相変わらず我が顔には胸板が押し付けられて視界は肉厚暗黒だが。

とりあえず耳から入ってくる声やら、全体的な行動とか雰囲気で、誰かは察することができた。

アロワナおじさん。

僕の母プラティの兄に当たる人で、またの名を人魚王アロワナともいう。

現状の人魚国を治める王様で、断じてこのような場所にうろついてていい人物ではないが、何故ここに?

そしていい加減にこの肉抱擁から解放していただけませんでしょうか?

「それはもちろん、可愛い甥っ子を出迎えにきたに決まっておろう! ハハハハハハハハハハハッッ!!」

言ってることは至極真っ当だが、それを一国の王のセリフとするとなかなかとんでもないことに。

アナタの立場的に、それが許される立場なのですか。

人魚王アロワナ。

その名は、今では天地海に知らぬ者なき大名君の名前だ。

これまでは深い海に遮られて没交渉であった地上との交流を活発化させ、正式な国交条約を締結させるに至った。

しかも双方完全に対等な条約を。

その他にも先代以前から蔓延っていた旧弊腐敗を一掃し、革新的な制度を次々と施行して人魚国の文明水準を飛躍させた。

魔国の魔王さんとは肝胆相照らす仲、農場国の聖者(ウチの父さん)は妹婿として義弟。

他国との関係もこの上なく良好。

さらには人魚王妃であるパッファ様とも良好な仲で、二人の間に四男六女の十人兄弟が設けられている。

……人魚族の夫婦って大抵円満の子だくさんんだよなあ……。

従って側妃を娶る必要もなく現状後継争いの火種もない。

あらゆる方面から見ても非の打ちどころがなく、今や人魚国始まって以来の名君と呼び声高い。

それが“人魚大王”アロワナおじさんであった。

王となる前は、修行のために地上を旅して回った……これも人魚史上、初めての異業であったという。

その果てに竜の皇帝を討伐したとかいう、ここまでくると眉唾の域に踏み込んでしまう逸話まであるが……。

まあ、そんなウソかまことかの逸話まで仕上がってしまうくらいにアロワナおじさんの名声が天下に轟き渡っている、ということだな。

今僕がこうして世界中を旅して回っているのも、ある意味アロワナおじさんに倣った行動ともいえる。

偉大な王となるために必要な段階というわけか。

といったところでアロワナおじさん、そろそろ抱擁を解いていただけませんかマジで。

本格的に息が苦しいんです。

しかしこんな分厚い大胸筋に密着した状態で深呼吸とかしたくないし。

だから一刻も早く離れていただけませんかね!?

「ハハハそう言うな、せっかく愛しい甥っ子との久方ぶりの再会だというのに……」

とさらにグイグイ胸板に押し付けてくるアロワナおじさん。

もはや限界……農場神拳うなぎの滝登り!

うにょん!

みずからの身体を軟体化させることで拘束から抜け出すことができたぞ!

「なにぃッ!! ハハハハハ、さすが我が甥っ子、見事な技術だ!」

呵々大笑するアロワナおじさん。

しかし……こうして距離を取って全体像を目撃できたけど、また一層大きくなられましたね、おじさん。

主に、胸囲が。

何年も前からその兆候があったが、このおじさん会うたびにモリモリと筋肉がついて、体ごと肥大化している。

ある意味腹回りのみ大きくなっている魔王さんとは対照的だ。

心なしか今更身長も伸びている感がある。

もはやこれ……先代のナーガスおじいちゃんよりも大きくなっていないか。

そういう血筋なのか人魚王族って。

会うたびに『大きくなったなあ』って言われるの本来子ども側じゃないですか。

なのにおじさんの方が言われまくる不思議。

これが海において“大王”と呼ばれる空前絶後の人魚王アロワナおじさんの特異さか……?

それで、そう……人魚王という、この国で一番偉い立場のアナタが何故ここに!?

「それはもちろん、ジュニアくんを出迎えするためだが」

するためだが、じゃないんですが!?

僕、例によってアポイントとか『これから来る』宣言まったくしていませんよね。

それでどうして事前に僕の来るタイミングがわかると!?

「プラティが知らせてくれたんだ。『そろそろ来そうなタイミングよ』と」

母さん!?

何を根拠に息子の行動を先回りしているんですか!?

監視か? 推察か? はたまた霊感か?

どれだったとしても怖すぎる!?

「それでここ数日に当たりを付けて張り込んでいたのだ」

張り込んでいた!?

一国の王が!?

何やってるんですか、その間に色々やるべきことがあったでしょうに!

この人マジで空前絶後の大名君なのか!?

途端に疑わしくなってきたんだけれども!?