軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1421 ジュニアの冒険:海へ

僕ジュニア。

僕の大冒険、新章開始です。

魔国を脱出します。

ここですべきことは全部やった。

これ以上ここにいたら、いつまた魔王さんかゴティア魔王子から無理難題を依頼されるかわかったものではない。

そしてまいつまたノリトと遭遇して不毛な兄弟ゲンカが勃発するかわかったものではない!

ええい、こんなところにいられるか!

僕は失礼させてもらう!

それでも、一応義理は通しておかないとなので、魔王さんの下へ挨拶に上がり辞去する旨を伝えた。

「なに? もう行ってしまうのか? もう少しゆっくりしていけばどうだ?」

こちらの意図を伝えたら魔王さんはそれ相応に寂しそうにしておられた。

親戚のおじさんと話している気分になる。

その雰囲気にほだされて、もう少し滞在してもいいかな? と思い始めていたら……。

「せっかくジュニアくん滞在用の屋敷も完成間近だというのに」

前言撤回を撤回。

一刻も早くこの国から去らねば。

この魔王、僕のことを自国にズブズブに沈めこむ気満々だ!

一大決心を元に脱出を強行しなければ、魔国に骨を埋めることになる!

「じ……自己修練を止めるわけにもいかないので……!」

「そうだったな。立派な聖者殿の後継者となるために世界中を旅しているのだったなキミは。それを阻んではお父上に申し訳が立たぬ」

聞き分けてくれたようでよかった。

あの、ところでゴティア魔王子は?

あの人にも世話になったので、最後に一目会っておきたいなと。それでお礼と挨拶を……。

「アレは今、自分が任された領地におる。そこで領主の真似事などしながら、経験豊かな老臣にしごかれておることであろう。いずれ魔王となった時に必要となる知識や経験を、現地で培うためにな」

ゴティア魔王子も頑張ってるんだなあ。

だったら、そんな最中に声をかけるのは野暮か。

「あやつもキミも、いずれはこの世界の背負って立つ人材となろう。それが現実となる日が楽しみではある」

はい。

僕もその日のために功夫を欠かさぬ所存です。

だからこそ一瞬でも歩みを止めるわけにはいかぬ。

魔国に留まり続けるわけにもいかぬ!

「では最後に、ジュニアくんの送別パーティを開くとしよう。全国から上級魔族を呼んで……もちろんゴティアにも声をかけよう。それからマモルとバティとシャクスと……他に顔馴染みはおったかな?」

即座に出発しよう!

お気遣いなく魔王さん!

どうせ去ったあともフラリと立ち寄ることもあるだろうから、逐一盛大に送り出してもらう必要もないですって!!

僕はひたすら歩み続ける、この何処までも続くジュニア坂を。

坂の上の青い天にもし一朶の雲が輝いているならそれのみを見詰めて登っていきます!!

それ発て!

遁走する脱兎のごとく魔国から立ち去れぇー!!

* * *

ぜーはーぜーはー。

全力疾走してわき腹が痛い。

慌ただしく去ってしまって、いささか失礼だったかもだがそうしないと出発が二ヶ月は遅れそうな予感が確実にしたので結果的にヨシ!

こうして魔国でのカリキュラム(?)を消化し尽くした僕は、さらなるステージへと向かう。

どこへ?

多くの人は既に察しがついているのかもしれない。

僕の旅は、まず人間国から始まり途中様々な小ネタを挟みながらも魔国へと移行した。

人間国→魔国ときたら、その→に来るのは予想が容易い。

この世界には三大種族という概念があるのだから。

三大種族のうち人族が住む国家、人間国。

さらに三大種族の覇者、魔族が築き上げた魔国。

では、三大種族の三番目に来る種族の、三つ目の国は何か?

そう、人魚族の住む人魚国だ。

海底に住む人魚族は、三大種族の中でも一等毛色が違う特殊な生き物。

なんたって水中でも呼吸して生きていける種族なんだから、他種族の想像を絶する。

そして人魚族は僕自身にとっても一際思い入れの強い種族でもある。

何故か?

それは僕の母プラティが元、人魚の国の王女様だったからである。

現状の続柄は人魚王の妹。王妹?

かつて僕の母さんは、人魚王族だったのを家出中に地上で父と出遭い、そのまま押し掛け女房になったのだという。

そして海中暮らしの母さんが地上で生んだのがこの僕。

つまり僕の身体には半分、人魚族の血が流れていることにある。

残り半分は優しさでできています。

そんなわけで人魚族とは非常に強い縁で結ばれている僕。

そんな僕が、全世界武者修行中に人魚国を素通りするわけにはいかんのだ!

……というわけで人魚国へと向かう僕ジュニア。

人魚国へと入るには、別の国にはない中々複雑な段階を経なければならない。

何しろ海の中にある国だからな。

特殊な段階が必要となる。

そのために僕はまず海上を驀進していた。

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁああああッッ!!」

右足が沈む前に、左足を前へ!

左足が沈む前に、右足を前へ!

これが海上を進むための独特な走法だ!

子どものころ父さんから習った!

この走法を習得したからには、たとえ海に隔てられようともどこへだろうと行ける!

スタミナが続く限り!

……そのスタミナが問題だった。

途中でバテてスピードを維持しきれずに沈んだ。

ガゴボボボボボボボボッ!?

溺れる! 沈む! 助けてッ!?

で危うく海のモズクガニとなるところだった。

せっかく冥界から生還したのに、海で奈落に引きずり込まれるところだった危ない。

やっぱり海を舐めたらダメだぜ。

父さんからも習ったし、なんなら海の方がホームグラウンドな母さんから口酸っぱくして海の怖さを注意された。

やっぱり普通に走れるからって海の上を走っていくのはナンセンスだったな。

地上だって、歩いていけるからといって馬車や列車に乗らないという道理はない。

なので素直に岸に戻り、船賃払って船に乗ることにした。

海から泳いで這い上がってきた僕のことを、港町の人々はまたアホでも見るような視線で見てきたが。

さて、体を適当に乾かしたあとに船着き場へと向かって……。

乗船券を買うことにした。

「すみません、楽園行き一枚ください」

「はい、楽園行き一番早い便は一時間後になりますがよろしいですか?」

「いいです」

楽園行き……などという特殊なワード。

なんだ、こないだ冥界から生還できたというのにまだ輪廻からの脱出を試みようというのか?

などと思われそうだが、それは違う。

この地上から見れば立派な異界……海底の人魚国へと向かうには、まず最初に楽園へと向かわなければいけない。

正確には楽園島と言うんだが。

そこは、大陸よりはるか遠く離れた絶海に浮かぶ孤島。

しかしその気候は温暖で、通年春と思えるような温かさに包まれた過ごしやすい島だ。

島内は四季折々様々な花が常に咲き乱れて色鮮やか。

しかも島外縁の多くの割合が断崖に囲まれていて水害の危険も少ない。

文字通り楽園と見違えるかのような島だった。

そこは、地上においては唯一の人魚国が領有する島で、その領有権は魔国や人間国も認めている。

人魚国が外交窓口と定めている島でもある。

古来より他国の外交使節は、人魚国に用があると楽園島へ赴き、人魚国の外交官も楽園島へ上がって会談を行ったという。

いわば楽園島は、地上と海底とを繋ぐ唯一無二の窓口でもあった。

楽園島の楽園のような趣も、そこを外交窓口とする人魚国の威信を見せつけんがためにと意図して整えられたものだろう。

かつて人族と魔族が戦争していた緊張下では最小限にとどめられていた接点だが、平和でかつ各国との国交も開けた今では……。

楽園島は外交接点だけでなく交通の要所としての機能も加えられている。

今では地上の人々も、仕事や観光様々な理由で気軽に人魚国へやってくるご時世だ。

そういう時、人魚国への玄関口としての役割も果たしているのが楽園島だ。

人類、肺呼吸しかできないのだから普通に海に潜っては、そのうち呼吸できなくなって死ぬ。

そうならずに海底深くの人魚国へ行くための方法が、楽園島に用意してあるということだ。

というわけで僕も、修行中であるからには一庶民として礼節に則って、人魚国への入国を試みるとしよう。

船に乗った。

汽笛が鳴った。

「……これより当船“そるふるうる”号が出港します。きみたちぃー、しゅっこー」

なんか妙に甘ったるいアナウンスが流れてきた。

どんな船旅になるか楽しみだ。

……アレ? なんだか胸底が気持ち悪く……?

ウェロロロロロロロロロロ……!!

「ママー、あのお兄ちゃん船酔いしてるー」

「シッ、見ちゃダメよ」