軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1420 ジュニアの冒険:兄弟最終決戦(?)

酒神バッカスのおでん屋さんに訪問中。

訪ねはしたが金を払う気はない。迷惑客である。

『せっかく来たんだ。一杯飲んでいくがいい』

そう言って大きな酒瓶をドンと差し出すバッカス神。

『今年蔵出しの清酒だ。酵母がよく働いてきめ細やかな甘みが特徴となっている。最近のニホン酒は辛口より甘口の方が評判よくてだな。そういう意味では市場のニーズに応えた出来のいい……』

あ、大丈夫です。

だって僕、未成年だからお酒飲めなくて。

『だったら何故ここへ来たぁッッ!!!!!?』

うわぁ、バッカス神が今日一キレた!?

だって仕方ないじゃないですか。農場国では二十歳未満の飲酒は法律で禁じられているんですから!

『だからなんで酒を飲むことを禁じられねばならない! それは人権の重大な侵害だッ!』

さすが酒の神。

お酒に関することで本気度が一段違う。

『私は何度も聖者へ提言しているんだ! 飲酒を禁じる道理などない! 二十歳だろうが一歳だろうが酒を飲みたい時に飲めばいいのだ! それが酒の楽しさというものだろう!』

いやいやいやいや……!

そうは言っても抵抗力の低い小児にとってのアルコールの危険性は、ウチの母さんが魔女の見地から証明しましたから。

これからも農場国で未成年の飲酒は認められませんし、その流れが今後他国にも広まっていくはずですよ。

『嘆かわしい! お酒を自由に飲めなくて何の人生かッ!』

酒の神として嘆く気持ちはわかりますが、法に反逆するのはやめてください。

大丈夫です。僕もあと数年待てばお酒が飲めますから。

『何年も待てない! 今すぐお酒が飲みたい!』

悠久を生きるはずの半神が、これほどまで堪え性がないなんて……。

お酒とはかくも人を逸らせるものなのか?

僕もお酒を飲める年齢になったら注意しないとな……。

そんな風に僕が自戒をしていたら。

おもむろにお店の扉がガララッと開いた。

「こんちは~、もうやってる~?」

お客さんが来てしまった!?

まだ仕度中なのに!?

……いや、僕がバッカス神とくっちゃべっている間に開店時間になってしまったのか!?

すみません、まだ仕込みが終わっていなくて……ってなんで僕が店主の代わりに謝罪しているんだ!?

「なんだバッカスの旦那にしては手際が悪い……って兄貴?」

貴様はノリトぉおおおッッ!?

また次弟と遭遇!?

何なんだ魔都においてこの異様なまでの弟とのエンカウント率は!?

マジで魔都で過ごした日々は弟に翻弄される日々だったんだけれども!?

「ゲゲッ、なんだここ最近の兄貴とのエンカウント率は!? 今月の運勢天中殺かよ……!?」

ああぁ~ッ!?

そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか!?

お兄ちゃん傷つくぞ、泣いちゃうぞ!

「うっせえな、そんなやわなハートじゃねえだろ兄貴は。それよりもなんでよりにもよってバッカスさんのおでん屋にいるんだよ。オレの数少ない憩いの場所をよ……!」

なにぃッ!? それを言うならお前こそ……!

なんで来ている?

ここが何処だかわかっているのか?

「バッカスさんが経営しているおでん屋さん」

そうだけどそこじゃない!

狭義ではおでん屋さんだが、広義で言うとお酒を飲む場所、居酒屋!

ここはお酒を飲む場所なんだよ!

それなのに未成年のノリトが出入りして……しかも常連臭まで漂わせるとはいかがなものかッ!?

長男である僕が未成年なんだから、その弟であるノリトは何をかいわんや!

お前も父さんの息子なら、未成年の飲酒を禁じる農場国の法律はご存じのはずだ!

聖者の息子が率先して法を破るなんて……なんと嘆かわしい……!

「フン、兄貴も相変わらずいい子ちゃんだな。だったら見せてやらぁ、バッカスさん、とりあえずいつもの!」

「あいよー」

ノリトに応えてバッカスさん、霜がつくほどキンキンに冷やされたジョッキに何かしらをなみなみ注ぎ始めた!?

あの黄金に光る、泡立つ液体……!

飲んだことはないが見覚えがある。

だって父さん母さんが毎日飲んで、決まりのように『この一杯のために生きてるわー』と言っているから!

それはビール!

ヴィールじゃないよ、ビールだよ!

なみなみと注がれたビールがノリトの前に置かれた!

ドンと!

「ハイお待ちー」

「ありがとよー」

待つんだノリト!

そのジョッキを躊躇いなく持って、口元に運び、大きく傾けて……!

ああああああああああああああッッ!?

「ゴッキュ、ゴッキュ、ゴッキュ……ぷはぁ! この一杯のために生きてるぜー!」

ノリトなんてことをぉ!?

これはワルのフリとしてもシャレにならない!

父さん母さんに報告するしかない! 身内から逮捕者が出てしまうなんて……!

『慌てるな聖者の息子その一よ。大丈夫、何も問題はない』

その呼び方やめてくれませんかね!?

いくら聖者の息子が二人いるからと言って!

「じゃあオレが聖者の息子その二か!?」

『その二は特に法を犯しているわけではない。何故ならヤツが飲んでいるのはビールではないからだ』

ななな、なんだってーッ!?

「その通り、驚いたか兄貴、これこそオレが開発したアルコールではないビール……ノンアルコールビールだ!!」

ノンアルコールビールッ!?

ノリト、研究の末にそんなものを開発したというのかッ!?

『大人ぶりたいがために、未成年が飲んでも問題ないアルコールの入っていないビールを開発するとは、コイツも中々にこじれた若者よの』

「本物のビールと区別をつけるため、ホッピーと名付けてみたぜ!!」

何だこの弟の面倒臭いムーブ?

一日でも早く大人の振る舞いをしたいがために新商品丸ごと発明してしまうとは。努力の方向性は、それでいいのか?

『それで顔見知りである私の店に置いてほしいと懇願されて今日に至る。私としては酒の神としてノンアルコールを扱うなど矜持に反するが、泣いて土下座して頼まれえたらなあ。知恵が回る上にゴリ押しまで使えるとは末恐ろしい若僧よ』

ウチの弟がご迷惑かけてすみませんッ!

コラノリト! お前の面倒臭い不良ムーブにバッカス神を巻き込むんじゃありません!

こうなれば没収!

このビールモドキは没収です!

「ああ、何しやがる兄貴!? しかしそんなものは無駄な抵抗さ! バッカスさんホッピーおかわり!」

『よろこんでー』

ああッ!?

ノリトのヤツその手に二杯目のホッピーを!?

僕の手にホッピー、弟の手にもホッピー!

二つのジョッキをぶつけ合い……!

「「ハーッハッハッハッハ!!」」

グビグビグビグビグビグビグビグビ……!

喉が鳴るほどに飲んで……!

「「ホッピーだこれ!」」

『だからそう言ってるんだが?』

変なノリに飲まれてしまった。

ノリトと相対すると大体おかしい雰囲気になってしまう。

『なんやかんやいって仲のいい兄弟だなキミら』

「「どこがだッ!?」」

息ピタ一で突っ込んでしまった。

こんなひねくれ者の弟なんかと仲良くないやい。

とにかくノリト、父さん母さんに心配かけぬように一刻も早く反省して、その知恵と情熱を農場国のために使うがいい!

「やなこったい我が人生の一片の反省なし! 兄貴こそ、オレのコンプレックスの根源として消え去れやあああッ!」

いいだろう、ならばここで決着をつけて御座候!

ちょうどここがおでん屋なので、おでん組み合わせ勝負だ!

おでんの具材を組み合わせて、より粋な役を作り出した方の勝利!

「その勝負乗った! 行くぜチ○太のおでん!」

フッ、また古典的なものを!

ならばこっちも昆布、大根、こんにゃくの食物繊維コンボだぁあああああ!!

『ああ、ウチの店で対決しないでぇええ……!』

たとえバッカス神が止めようとも、僕ら兄弟の争いは止まることはない。

僕が僕である限り、ノリトがノリトである限り。

僕たちが兄弟である限り、きっといつまでも戦い続けていくのだろう。

それが兄弟なのだから。