軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1386 ジュニアの冒険:有望な新会長

「フハハハハ! 新会長の華麗なデビュー戦てとこかな!」

シャゼスさんは意気揚々とやってきた。

そんな息子を見てシャクスさんは即刻げんなりした表情になる。

「今頃になって登場かシャゼス。遅いぞ、五分前には現場に着くよう言い渡しておいたはずだが?」

「そんな細かいこと言うなよ! 五分も十分も大して変わらんじゃないか!」

うわ、遅刻常習犯が言うセリフ、ナンバーワン。

しかも五分どころか約束の集合時間から一時間以上経過しているんだが?

「そのルーズさは商人にとって致命的だと常から言っているだろう。お前が遅れた分、先方の時間を無駄にしていることに気づかんのか」

「オヤジはもう古いんだよ! もうこれからはオレの時代、新時代には新時代に沿ったやり方がスマートなんだよ!」

遅刻を容認する時代は有史以来なかったと存じますが?

とにかくシャゼスさんと会話しても歩み寄れる気がしないので、このままの放任しておくことにする。

相互理解は諦めた。

「いいかシャゼスよ。お前をこのままパンデモニウム商会長にとどめておくかどうかを、この商人武闘会で決める。お前もまた大会に出場し、自分の実力を示してみるのだ!」

商人の適性を?

武闘会で!?

「望むところよ! オレの力を思い知らせてやらあ!」

「無論、それ相応の戦績でなければ認めることはできんぞ。一回戦か二回戦か……どれだけ勝ち抜けできるかな?」

「はぁ? 何みみっちいこと言ってんだ? どうせ出るなら優勝よ!」

ちょっとシャゼスさん。

あまり大きなことは言わない方がいいんでは?

「ほう、では優勝できなければパンデモニウム商会長を下りると?」

「当然よ、それぐらいしなきゃアンタも認めねえだろう?」

父子の間にバチバチ火花が散る。

「この大会に優勝すればオレのことを認めてくれるんだろう!? そんなの楽勝だぜ! パリピの底力を思い知らせてやんよ!」

果てしなくノリが軽いなあ。

どうでしょうシャクスさん?

息子さんはこの商人武闘大会に優勝できる器でしょうか?

「ジュニア様はどう思われますかな?」

質問を質問で返すな。

「失礼、ただジュニア様が持っている印象通りだと言いたかったのです」

じゃあやっぱり無理?

一回戦敗退がせいぜいだと?

「当然です。あのような輩がのさばれるほど商売の世界は甘くない。商売は信用が命。その信用は長い下積みと誠実さによってのみ培われるのです」

でも今日の武闘会は、信用はそこそこ関係ないような……?

「今のシャゼスは、パンデモニウム商会の先人たちが長い時間をかけて積み上げてきた信用の上に胡坐をかき、食い潰しているだけ。アイツ自身が信用されているわけでは一切ない。それでは先はありません。数百年の繁栄はアイツによって終わりを迎えるでしょう」

大惨事じゃないですか。

シャクスさんはそれでいいんですか?

「無論、吾輩にもパンデモニウム商会長を務めあげた者としての責任があります。間違った者を後継者に任命したならば速やかにそれを改め、後世へと商会が続くよう道筋を整えねば」

シャクスさんの目が悲壮に光った。

そういうことになったらシャクスさんは、みずからの手で実の息子を処分するということになる。

非情であっても数百人が働き、数千人が関わるパンデモニウム商会を守るためには必要なこと。

そう思うと、嫌でも我が身に置き換えて戦慄するしかない僕だった。

僕もまた無能であったら、父さんから切り捨てられる運命なのだから。

すぐ下に有望な弟もいるし、決断下すのに葛藤少なそう……。

……僕は、失望させぬように精進せねば

ともかくも当面の問題児シャゼスさんの進退は、今日の武闘会で即座に決まる。

いや商人の進退が武闘会で決まるのは何故? とも思うが。

当人たちが決めたのならそれでいいのだろう。

しかしながらシャゼスさんが生き残れる可能性は、限りなくゼロ寄りのゼロ寄りのゼロ。

かぁ~ら~のぉ~? はありません。

「……おや? アナタはパンデモニウム商会の前商会長シャクス殿ではありませんか?」

そんな風に物思いしてたら、会場を通りかかる何者かから話しかけられた。

誰だ?

見たところ春風吹き込むような爽やか好青年といった感じだが。

それを見てシャクスさんの反応は明敏だった。

「うむッ? キミはヴァルプルギス商会の新会長オベローヌくんではないか!?」

「さすが辣腕と謳われたパンデモニウム商会の長、引退してもしっかりアンテナを張っているということですかな。こんな若輩者の顔を見知っていただいているとは光栄の極みです」

と言って好青年は、見るからに鮮やかな一礼をして見せた。

ただ者ではない……!

そんなことが一目でわかる振る舞いようだった。

そしてふと思って視線を横へ振ってみた。

「いやー、二日酔いきっついなー。昨日も朝まで飲みすぎたもんなー」

……ただ者だぁ。

「ヴァルプルギス商会も最近代替わりした……という噂は聞き及んでいた。吾輩から就任祝いも出せずに申し訳ないね」

「いえいえ、シャクス前会長は既に一線を退いた立場もあるでしょうから。それに就任祝いはパンデモニウム商会からしっかりいただいていますし……」

「おお!? では、我が息子から!?」

一瞬シャクスさんの目が希望に光った。

「いえ、商会幹部の方から」

「そうか……」

そしてすぐに光を失った。

このオベローヌなる好青年。

まったく部外者の僕から見ても侮りがたい人だということはわかる。

言葉遣いは丁寧だし、こっちを気遣っている様子がしっかり伝わってくる。

終始ニコニコと笑顔を崩さない。

何より、それらの人当たりのよい態度作りをごくごく自然に行えているということだ。

わざとらしさが一切ない。

これが本当の意味でのソツのない商人というヤツか?

それに比べて、僕の隣にいる人は……。

「あ~、オレの出番まだ? そしたらまた飲んじゃおっかなぁ~」

……これはこれでヨッシャヨッシャ系商人の流れを汲んでいるような気もしなくもない。

いや、擁護が過ぎるか。

「オベローヌくんは、ヴァルプルギス前商会長の息子ながら下積みの期間が長く、小間使いに等しい仕事を何年も続けてきたと聞く。御曹司の立場ながらみずから苦労をかって出る姿勢には感服する」

「ウチは小さい商会ですからね、商会長の子どもでもチヤホヤする余裕がないというだけです」

「勘違いする者はどんな立場でも勘違いするものだ。そんな中でひたむきに進んできたキミの姿勢は、この業界でも貴重だ」

手放しで相手のことを褒めるシャクスさん。

気のせいか、その間もチラチラ視線が息子さんの方へ向かっていた。

「ヴァルプルギス商会は後継者に恵まれたな。それに比べて我がパンデモニウム商会は……」

「何を仰います。シャゼス氏にだっていいところはいっぱいありますよ」

「……例えば?」

「えっと……」

好青年を黙らせるシャゼスさんの不安っぷり。

「フハハハハハハ! 弱小商会の新会長がヘコヘコと涙ぐましいことだなあ。オレは大商会に生まれてよかったわい!」

よくできてない方の息子代表シャゼスさんが、いつものノリで進み出てくる。

「シャゼス、ハウスッ!!」

「お前も大会に参加するのか? まあオレに当たった時はそれなりの対応をしておくんだな。パンデモニウム商会からおこぼれが貰えるかもしれないぜ」

それとなく手心を要求しているッ!?

そんなに偉そうに敵からの情けを期待するなんて恥ずかしすぎるぞシャゼスさん。

しかしよくできてる方の息子代表オベローヌさんは、好青年な爽やか笑みを浮かべて……。

「ええ、その時は胸を借りるつもりで挑ませてもらいますよ」

「自分の立場を弁えているようだな! 関心関心!」

隣でシャクスさんが顔を覆っていた。

なんというか、傍目でも二人の差はキッパリ明らか。

気づいていないのは当人ばかりというこの惨状。

やはりシャゼスさんが武闘会を勝ち抜くなんてことは土台不可能なんでは?

彼のパンデモニウム商会長の立場も今日限りの風前の灯火……。

「……おーいオベローヌ様―。置いてかないでくださいよー」

他人事に黄昏ていたら、なんかこっちを追ってくる人影一つ。

口ぶりからオベローヌさんの付き人であるということが察せられたが、やけに媚び媚びの付き人だなあ。

「いやぁこちとらオベローヌ様あってこその自分でして! 地獄の果てまでお供いたしやすよ! オベローヌ様のためならたとえ火の中水の中! なーんてね! でヤンス!!」

なんかやたら畳みかけてくる付き人だなあ。

僕だったらこんな下手に出ながら圧の強い相手、付き人にしたくない。

……と思っていたら。

……あれ?

この付き人、どこかで見覚えがあるような?

いや、そりゃ見覚えがあるはずだ。

「ノリト!?」

「兄貴? なんでここに?」

そりゃこっちのセリフだが!?

我が弟、聖者の次男ノリトと、今また再会を果たしたのだった。