作品タイトル不明
1385 ジュニアの冒険:商人武闘会再び
数日経って……。
僕は商人たちの間で行われるという会合を見にきていた。
一応行く末が気になったので。
あのパンデモニウム新商会長さん。
彼が現状に居座り続けるならば、商会に明るい未来はない。
僕も、我が故郷と色んな人々がどう付き合っていくかを考える立場にあるんだ。
それをしっかり考えるためにも、新世代のパンデモニウム商会がどうなっていくかをしっかり見届けないとな。
「おやジュニア様! よくおいでくださいました!」
僕を見つけて最初に声をかけてくれたのは前商会長のシャクスさん。
やはりこの人は目敏い。
「先日は失礼しっ放しだったというのに、今日までご足労させてすみません」
いえいえ、今日顔を出したのは僕自身の意思ですし。
社会勉強のための旅でもありますから、魔国の商人さんたちがどんな会合をしているのか興味があります。
「ジュニア様に興味を持っていただけるとは、吾輩も魔族商人の一人として誇らしいですな。そういえばジュニア様は幼少の頃から色んなものに興味を持つ性格で、農場で作られた様々なものに引き寄せられていましたっけ……」
シャクスさんが遠い目をして語る。
それはまあ、僕の好奇心云々よりも父さんが色んなものを発明するからね。
次から次へと色んなものを開発してくる父さんこそどんな発想をしているんだという話だったよ。
でもそれを言ったらシャクスさんこそ。
父さんが何か作り出すたび勇み声で交渉してたじゃない『これをウチから売り出させてください!』とか『是非とも協力させてください』とか『ウチにも一枚噛ませてください!』とか。
「聖者様は商機の宝庫ですからね。思えばあの頃ほど胸の弾む日々はありませんでした……!」
また遠い目で呟くシャクスさん。
あと父さんじゃなくて僕にも売り込み凄かったよね。
僕が千手観音像とか半跏思惟像とか彫るたびに『ウチで出品しませんか!?』『ウチに預けてみませんか!?』と物凄い形相で迫ってくるから怖かった。
「それはそうですよ……ジュニア様の作り出す神像は独創的で、芸術的価値もあるのですから。……しかしあまりにジュニア様に執拗に迫りすぎて、キレたプラティ様から出禁食らったのは痛かったですがな」
そうだった。
契約書片手に迫ってくるシャクスさんがあまりに怖くて、泣きながら逃げてる場面を運悪く母さんに見つかっちゃったんだよな。
思えばあれ以来、農場でシャクスさんを見なくなった気がする。
……これが親の愛ということか。
「まあ、普通に不審者を我が子には近づけさせませんわな」
自分で言うあたりシャクスさんにも自覚があるのが何とも。
こうして思い出話にひたる僕とシャクスさんだったが……。
「おっといかん、ここで追憶は不似合いでしたな。何しろここは魔国全商人が集う会合の場、過去よりも未来を語るべきです」
そうですね。
見渡したところ人でごった返しているし半端な数ではない。
会合というよりもまるで議会、……あるいはサミットであるかのようだ。
こんな大仰な場でシャゼスさんは、みずからの進退を問われるわけか。
厳しい状況だが、これをクリアしなければ大商会の長たる資格もない。
パンデモニウム商会は大きな組織であるからこそ、内だけでなく外にも大きな影響を与える。
だから生半可な実力者では多くの人の人生を狂わせかねない。
資格ある人がその席に着くべきだ。
でも、この会合でどうやって見定めるつもりなんだろう?
なんかこう、鋭い意見をズバズバ言って議論をけん引するとか?
たしかにグイグイ行く感じで主導権とるのだけは上手そうな人だったが……。
「いえいえ、そんな微妙な成果ではパンデモニウム商会長としての真価は示せません」
え? じゃあどうやるんですか?
話し合いにそれ以上派手な成果もないでしょう?
「そういえばジュニア様は、今日行われる会合をまだご存じなかったですな。何が行われるか、詳しい内容を……」
そう言えばそうですね。
やっぱり話し合うのでは? 今年はキュウリがよく採れたから皆で値段決めようぜ、みたいな。
「本日、ここでとても重要なことが決まります」
重要なこと?
また迫真ぶって?
「それは……農場国との通商権です」
ここで僕に関係あることが出てきて意外。
農場国との?
通商権?
「ジュニア様もご存じでしょう。農場との……農場国との取引がどれだけ莫大な利益を生むか。農場及び農場国を取り仕切る聖者様、その聖者様と縁づくだけで商人は生涯の成功を約束されます。しかも後世に残るレベルでの成功が……」
たしかに。
僕だって、少しは成長して農場がどういう存在なのか客観的に見れるようになってきた。
率直に言って農場は宝の山。
『世界のすべてをそこに置いてきた』と言っても過言ではないぐらいの美味しい富の山だ。
父さんが次々生み出す突拍子もない発明品の数々。先生とヴィールそれぞれのダンジョンから産出する貴重な素材。エルフの皆が生み出す工芸品などなど。
数え上げればきりがない。
農場国で生産される農作物も、今では世界中の食糧事情を支える重要な役割を担っている。
そんな農場及び農場国と関係を結びたいと、ビジネスに携わる者なら誰だって思うことだろう。
「そう、利益あるところに食いついていかねば商人ではありません。しかしながら一ヶ所に積もる富には限りがある。すべての者に行き渡るわけではない」
だからこそ争奪戦が起こり、早い者勝ちとなる。
商人の世界に“生き馬の目を抜く”という言葉が生まれるのもそういう摂理からだ。
「いまやこの世界の商人は、『農場と関係を結べるか否か』で成功失敗が分かれます。それほど農場は重要なもの。かつて農場の存在は秘されていたため、機密保持の観点から我らパンデモニウム商会だけが御用聞きを許されていました。しかしもう時代は変わった……!」
今は農場の存在が大々的に公になっているから、取引の独占なんか無理。
やろうものなら血で血を洗う仁義なき戦いになるだろう。
「……前置きが長くなってしまいましたな。そういう事情から年に一度、こうして商人たちは一堂に集うのです。農場と取引する権利を求めて……」
求めて……?
「戦う!」
たたか……えッ?
バトル?
「商人が戦って、戦って、戦い抜いて、最後まで勝ち残った者にその年の農場との通商権……またの名を覇権が与えられるのです!」
覇権!?
「これは、農場という魔力すら宿る果実を巡って、どうしてもやらねばならぬ取り決めなのです。闘争という最もわかりやすい手段を用いて、一年という期間に限定する。こうすることでやっと全商人に公平感が行き渡るのです」
た、大変だなあ……。
「これはかつて、農場国で行われた天挑五輪大商会が元となって制度化されたもの。あの当時は、農場の存在が明るみになった直後で一番殺伐としていましたなあ。私も農場の富を独占していたとして黒幕扱いですよ。マジで暗殺者を仕向けられるとは思わなかった……」
よく生きてたなあ、この人。
やはり数多くの修羅場を潜り抜けてきたからこそ、大商人として成功したんだろうな。
……ところで、この争いは魔族だけで?
「人族は人族で、人魚族は人魚族で大会を開いておりますね」
そうなんですか……。
「というわけで本日は、魔国商人のこれから一年が天国か地獄かが決まる、運命の分かれ道。誰もが気合を入れるというものです」
それでなんか……会場が殺気立っているわけだな。
自分たちの命運が懸かった戦いに臨もうってわけだから、そりゃあ必死になるわけだ。
「お、もう既に初戦が始まるようですぞ」
本当だ。
シャクスさんの指し示す先では、二人の商人さんたちが一騎打ちを始めていた。
「粉飾決算拳!!」
「経費水増脚!!」
なんか嫌な技名が飛び交っているけれど……。
これが魔国商人たちの仁義なき戦い。
大きな利益を得るために、彼らは争いにも身を投じなければならないのか。
商人さんも大変だ。