軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1377 ジュニアの冒険:魔都観光・名店編

僕ジュニアです。

ルキフ・フォカレさんとレヴィアーサさんの宰相交代は、やっぱり大事なので手続きにもそれ相応かかるだろう。

その間こちらも待っているいわれはないので、僕は本来の目的として旅を続けることにした。

ここ魔国でも色々あったなあ。

大方が魔王さんとこの軍部政治関連のゴタゴタに巻き込まれたんだけど、そういうのもゆくゆく農場国の運営に携わっていけば、いい経験になるんじゃないかなと思う。

農場国の運営と言えば……。

ノリトのことは僕の自信を大きく打ち砕いたがなあ……!

……。

暗いことは今は考えまい!

今日は、せっかく旅などしているんだし修行のことは一時忘れて、楽しむことに没頭したいなと思っております!!

観光!!

それこそ旅の楽しみ!

地元にはない珍しいものを眺めて見聞を広め、同時に思いでも作る!

しかもここは世界一の大都市、魔都だ!

見るべきものはたくさんあるに違いない!

というわけで今日の僕は、魔都を見学していきます。

それで……改めてどこに行くかというと、具体的な目的地は既に前情報を揃えている。

何しろ父さんからオススメしてもらったからな。

――『魔都に行くなら是非ここへ寄っておきなさい!』と。

旅の途中に電話までかけて伝えてくるのでビックリした。

そんな父さんオススメのお店がここ……。

きっちゃてん!

……もとい喫茶店。

最近は魔都だけでなく世界各地にちょっと休んでお茶できるお店が増えて、そんなに珍しいものでもなくなったが。

我らが農場国でもこの頃、国内初のスタシャが出店して大ニュースになったものだ。

だから今更何で父さんが喫茶店を勧めてきたのだろうと若干戸惑うのだが、どうやら父さんがオススメするのは有り触れたチェーン店ではなく、個人経営のお店らしい。

なるほど、そのお店でしか味わえない味わいや雰囲気があるわけだな。

早速、父イチオシのお店へと突撃してみよう!

……予約?

そんなもんなくても何とかなる!!

* * *

ラウンジアレス。

それがここの店名らしい。

何だろう? 店の前に立った途端、懐かしさを感じるのは?

ここに来たのが初めてでないような気もするし。

父さんが激オシするくらいだから僕も、記憶を失うような遥か昔に来店した可能性もなきにしもあらず。

外観だけでここまで僕を揺さぶるとは、入店するのが楽しみになってきたぜ。

たのもー!

ドアを押すと同時にカラカラとベルが鳴るのも風情を感じた。

するとメイド服姿のウェイトレスが駆け寄ってきて……。

「いらっしゃいませー、ご予約はありますでしょうかー?」

予約していません!

一名です!

「申し訳ありません、ただいま席がいっぱいでして予約ナシですとお待ちいただくことになりますが……」

一名です!

……人気店!?

さすが父さんオススメの店というか、やはり予約しないとは無謀であったか……。

また一つ勉強になったぜ。

仕方ないので店先で待たせてもらうこと三十分。

思ったより待たされなくてよかった。

店内に入ると、これまた木製の内装が落ち着いていて雰囲気のある御店だった。

一見静かに思えたが、席はすべて埋まっていてお客さんたちによる賑わいの方が勝った。

それでも雰囲気はまったく損なわれておらず落ち着きを感じる。それが不思議だった。

「カウンター席へどうぞー」

一名です!

だからテーブル席へ案内されるわけがないのも道理であった。

無論異議もないので大人しくカウンター席に座る。

お店の人と向かい合うのがちょっと緊張するカウンター席だが、出てきたお店の人が人当たりよさそうなのでホッとした。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

落ち着いた感じの中年男性で、物腰の柔らかさが実によい。

メニューを差し出したらすぐに下がっていくのも、お客を急かさない感じがしてとてもよかった。

実際は他のお客に対応しないとなので、一人の客にかかりきってらんねーのかもしれないが。

じゃあ、メニューを拝見するか。

……むむ……ケーキにパフェ……特盛か……。

いやいや待て待て。

僕はいま修行の旅に出ているんだ。

一皮剥けて成長し、父さんの後継者に相応しい大人の男となるために……!

そんな僕が、甘味にばかりに目を向けてどうする!?

大人であれば苦味を好むことこそ普通ではないか!

僕だって大人になるんだ!

そのためのチャンスの場だと、ここは思うことにしよう!

「すみません! 注文お願いしまっす!!」

「はいはいー」

さっきの店員さんが戻ってきた。

年代といい、この醸し出される風格といい、これが喫茶店のマスターというものかな!?

「お待たせしました、ご注文をどうぞ」

「こ、コーヒー……ブラックで!!」

以上です!!

ミルクも砂糖もいりません!!

「ホットとアイスどちらになさいますか?」

おぉんッ!?

以上と言っておきながら重要な選択がまだだったなんて……!?

なんて恥ずかしい誤爆だ……!?

「ほ……ホットで……!」

熱い方がなんだか大人の感じがするので。

「ご注文は以上でよろしいですか?」

「はい……、よろしいです……!」

今度こそ。

「かしこまりましたー」

するりと去っていく店員さんだった。

ほどなくして……。

「コーヒー、ホットになります。当店はお代わり半額になっておりますのでよろしければどうぞ」

ありがとうございます。

さあ……いまこそ僕はブラックコーヒーを制圧する。

父さんが毎日のように飲んでるけど、なんであんな泥のように苦いものを好んで飲めるのか?

舌が死んでるんじゃないかと思うけれど、でも父さんだって毎日のように美味しい料理を作れるんだから、舌が狂ってるわけないよな。

しかし、ブラックコーヒーの苦さは確実に舌を殺すぞ?

何故人類はブラックなどという概念を生み出したのか?

いや、批判してはいけない。

今僕は、そのブラックの世界に踏み入ろうとしているのだから、聖地を訪れる巡礼者のごとく敬虔な気持ちであらねば!!

……では、いただきます。

ズズズズ……。

にっがッ!?

ぺぺぺぺぺぺぺぺぺッ!?

物凄く苦い! 苦すぎて涙出てきたッ!

しかしここで怯んではダメだ、今日こそ僕はブラックコーヒーを克服し……。

と思った矢先、目の前に降りてくる白い線。

これはミルク?

ミルクの筋がコーヒーに注がれ、それに応じてすべてを拒むかのごとき漆黒が、柔らかい琥珀色へと変質していった。

「ダメですよ、美味しいものを美味しく摂るには工夫だって大切です。苦手なものを無理やり飲み込んでも体に悪いだけですよ」

アナタはッ!?

喫茶店のマスター!?

「さすがに、お客さんのカップへ勝手にミルクを注ぐのはマナー違反ですが、大事な常連さんから頼まれていましてね。『息子が無理をするようなら助けてやってくれ』と、自分の息子がどう動くか、予想できるのは見事なものだが」

ここまで長く声を聞いて……やっと思い当たった。

この人はグレイシルバさん!

かつて人間国で恐れられたという伝説の傭兵!

それが今、この喫茶店でマスターをしているだとッ!?

どんな数奇な巡り合わせなんだッ!?