作品タイトル不明
1376 閑話:同じ釜の飯を食った者3
同窓会を通じて先生の元気が戻ってよかった。
そういやそもそもの発端は人間国で起こった詐欺事件だったな。そこんところどうなんだい人間国の指導者?
「後処理はだいぶ進みましたよ。犯人は魔族だったんでゴティア魔王子を通じて魔国に引き渡しました。あとは向こうの法が裁いてくれることでしょう」
そうなんだ。
でも何故そこでゴティアくんが出てくる?
「魔法学校も規模は縮小しながら続けていくつもりです。できれば先生にご協力いただけたら……」
『よし来た! 週三で特別講師しに行こう!』
待ってください!
ノーライフキングの特別講師なんて明らかに魔導を極めるための授業じゃないですか!!
もうちょっと規模を抑えて!
先生とリテセウスくんが盛り上がってしまったので、俺が手持ち無沙汰になってしまった。
先生と対等の話し合いができるまでになったんだな……リテセウスくん。
同窓会場をあてもなく彷徨うと、賑やかな一団に遭遇した。
おお、彼女らは……。
農場学校で学んだ種族は魔族、人族だけではない。
三大種族のもう一つ……人魚族の卒業生たちも招待を受けて一堂に集まっていた。
「懐かしい顔ぶれねー」
プラティも酒杯片手に再会を楽しんでいる。
人魚族の魔法は独特だから、先生も指導の機会はなかなかなくって、代わりに同族のプラティが教鞭をとることが多かったんだよなあ。
彼女とて元は人魚国の王族。
同族を教え導く責任はあるだろうし、しかも王族であることとは別にプラティは、人魚族最高峰の魔法薬師だけが冠することの許される“魔女”の称号の保持者。
憧れている少女人魚は数知れずで、きっとここでの授業は胸躍るものになっていただろう。
そんな農場の人魚教室から誕生した“魔女”も複数人いる。
『冷蔵の魔女』ディスカス。
『火加減の魔女』ベールテール。
『熟成の魔女』ヘッケリィ。
『整頓の魔女』バトラクス。
彼女たちもこの同窓会に参加して、着飾って学友との再会を楽しんでいる。
ただ俺としては……この四人の魔女との再会……。
……全然懐かしい気がしねえ。
だって昨日も会ったし。
この四人の魔女は、勤務地がこの農場。
農場の機能を最高品質で保つために日夜働いてくれている。
この農場で働いてもらうために先代の魔女……プラティやパッファ、ランプアイなどが手塩にかけて育てた子たちだ。
今なお農場で住み込みで働いて、結婚している子もいる。
さらに後進の育成にも力を注ぎ、魔女に憧れ地上にくる若手人魚たちを育成して、大成した魔法薬師たちに農場国で働いてもらったりしている。
もはや先代を超えるほどの大活躍だ。
しかし再会の懐かしさは感じない。昨日も会ったから。
「あッ、聖者様お疲れ様ですー」
こっちに気づかれた。
向こうも同じ気分なんだろう。懐かしさもないのに懐かしい感じを無理やり演出されるのも辛い。
「冷凍蔵の整備終わりましたんで、これからあと八ヶ月は点検なしで大丈夫だと思います。でも何か気づいたことがあったらすぐ知らせてください」
ああ、ありがとう。
でも同窓会中に業務連絡はどうなのかな?
「いいんじゃないですか? 私たちとしてもしばらく会っていなかった本国の友だちと会えるいい機会でもありますし……」
「自分たちがどこまで進んでこれたか振り返るいい機会でもありますしね」
「思えば遠くへ来たもんだ……」
若手魔女が一様に遠くを見詰める視線になった。
まあもう既に若手どころか第一線活躍のベテラン魔女なのだが……。
「この土地に初めて足を踏み入れたのは、もう何年前のことか……」
「年数は忘れてしまったけど、あの日の情景はずっと覚えています」
「私もー」
「エンゼル様に連れられて上陸したのよねー」
そうだっけ?
俺の方が記憶あやふやになっている。
そうそう、この四人元々はエンゼルの取り巻きたちだったんだ。
というかエンゼルの友だち?
いやエンゼルというのは誰ぞ? という話だが、ヤツはプラティの妹。
しかもすぐ上の姉に対抗意識を持っているらしく、打倒の宿願果すために嫁入り先にまで乗り込んだという経緯だった。
何故だろう……そのくだりの方は目蓋の裏に浮かんでくるかのよう簡単に思い出せる……!
「そこで一緒に来たのが私たち……当時はエンゼル様と一緒にバカやってるだけで楽しかったけれど……!」
「それがこんな風に未来を切り開くなんて、人生どうなるかわからないものよねぇ……」
しみじみ感じ入るように思い出話にひたる魔女たちだった。
……あれ?
それを聞くプラティの大人しさに違和感。
いつもだったら後輩が、あんな悟りきったことを言うと『十年早いのよ!』とかって爆裂魔法薬を投げ込むパターンなのに?
「……ん? そんなこともうしないわよ。あの子らはもうとっくに一人前なんだから。驕るにしても萎むにしても彼女らの自己判断よ」
おぉ……!
これもまたディスカスたちがプラティに認められたということか。
彼女らも成長したなあ。
「……でもアンタたちも人を育てる立場になったってことは、アタシたちがアンタらにしてきたようにビシバシしないとダメよ!」
「「「「はいッ!?」」」」
「小娘どもはすぐ気を緩めるんだから、それを引き締めるのが洗練されたレディの仕事! ちょっとでも舐めた言動するなら即座に爆裂魔法薬を投げ込んでやりなさい、アタシがアンタたちにしてきたように!!」
「「「「はいぃッ!!」」」」
シゴキの悪しき因習はこうやって受け継がれる。
……。
そういえばエンゼルはいないのかな?
彼女も農場に住んで様々なことを学んでいった若者。
やがて巣立って海に還っていったが、今日ぐらいは顔を出してもよさそうな?
「もちろんエンゼル様にも招待状は出したんですが……」
「都合がつかなくて欠席に……!」
あれぇ、そうなの?
エンゼルの性格からして、この手のイベントには予定があろうと駆けつけるものかと思ったが……。
「あの子はあれで今めちゃくちゃ忙しいのよ。人魚国の外交のについて色々やってるそうだからね」
ああ、そういえば去り際そんなこと言ってたなあ。
『お前そんなに弁が立つんだから外交でもやってみろや』とかなんとか。
まさか本気でその職に就くとは……。
「兄さんとかから聞くけれど、思った以上に天職だったらしいわよ。魔国や人間国どころか、国内の厄介な地元勢力のところにも出かけていって、脅しハッタリ泣き落としあらゆる手段を使って同意を勝ち取るらしい」
「でも論理的な説得だけは何があっても使わないとのこと」
エンゼルらしさが垣間見えてくるな。
「今日も、元々は参加の予定だったんですけれど急に人魚国の地方勢力が反乱を起こして、慰撫するために向かったそうです」
反乱!?
また物騒なワードが出てきたが。
「あの子も危ないことするわねえ。王妹でもあるあの子が交渉になんて出かけたら即拘束からの人質コースじゃない?」
「普通ならそうなるでしょうけれど、エンゼル様なら大丈夫! 何とでもできてしまうのがあの方なんです!!」
目を輝かせながら言うディスカスたち。
今でも彼女らはエンゼルの舎弟なんだなとわかった。
「後進もしっかり育ってるようで感心感心」
本当に満足げに言うプラティだが、一応肉親の危機なんだけど大丈夫?
「うーん、大丈夫でしょ? あの子なんやかんやいってしぶといし」
肉親への謎の信頼感。
もちろん同窓会の会場には、他にも多くの人魚族が集まって懐かしげに談笑していた。
「久しぶりー、今何やってんのー?」
「マーメイドウィッチアカデミアに教員として入ったよー。知ってる今カープ教諭が学長になったってー」
皆が懐かしく互いの絆を確かめ合う。
これからも農場の歴史が積み重なって、十年後二十年後にも同じように同窓会を開けたらいいなあ。
こうして俺たちが愉快に過ごしている間。
ジュニアはどこでどのような冒険に突っ走っているのだろうか?