作品タイトル不明
1373 閑話:真・同窓会の誘い
俺こと聖者です。
今日も今日とて農場と農場国を行き来する日々。
あっちの土地もこっちの土地も耕しまくりです。
そんなある日のこと……。
『……皆、どうしていますかのう……』
先生が呟いているのが見えた。
ノーライフキングの先生だ。
この御方は十年経っても二十年経ってもまったくお変わりがない。
そりゃ千年以上を生き続ける御方なんだから、十年程度は誤差であろう。
だからこっちとしても心配なく見守っていられるんだが、今日はどうにも元気がなさそう。
「ど……どうしたんですか先生?」
さすがにスルーもできずに声をかける。
というか、いかにも声かけてほしそうな雰囲気だったし。
『おお、聖者様……、ちと気になりましてな』
気になる、とは?
木に成るのはリンゴかミカンですが?
『我が教えを受けて巣立っていった生徒たち……、一番古い子たちは、百年前になりますかな?』
なりません。
精々十年ちょっと前です。
年数を一桁単位で勘違いするノーライフキングジョーク。
『この間の一件で気になるようになりましてな。我が教え子を騙って、ヒトを騙しておった不心得者のことです』
あー。
なんかウチのジュニアが旅の途中で遭遇したんですっけ?
タチの悪い詐欺師と。
なんでも経歴を偽造して、校長というか……高い地位に収まり、好き勝手したり私腹を肥やしまくっていたんだとか。
狡賢いウソつきはどの世界にもいるものよ。
結局その詐欺師はウチのジュニアに見咎められて、悪行諸共ブッ潰されたそうな。
さすが我が息子ジュニア。
旅先で悪を滅するなんてお手の物だな。
『アレを見て、ワシのしてきたこともいいことばかりではないと気づかされましての。長く続けば物事も大きくなり、大きくなれば弊害も出てくる。長続きにかけては右に出る者のいないノーライフキングが失念してしまうとは、なっておりませんのう』
と自嘲気味に言う。
先生はいつからか、人類の若い子らを集めてモノを教えるようになった。
きっかけは何だったか。
たしか魔王さんからの相談で、『ちょっと魔王軍のオラついてるのを指導してやってくれ』といわれたことだったか。
そこから魔族だけでは不公平だということで人族の若者もかき集め、さらには人魚族からも入学希望が出てドンドン規模が大きくなっていった。
のちの農場学校の始まりだ。
学ぶ者がいれば教師役も必要……ということで、そのメインを務めてくださったのがノーライフキングの先生だった。
元々先生が教えること好きでもあったのだろう。
いつからか生徒が学びたいがために……というよりは先生が教えたいがために農場学校が運営されていくようになった。
……気がする。
今では農場学校の拠点は農場国の方に移り、住民の方々に必要最低限の知識を備えるために運営してもらっている。
そこに他国からの『より多くを学びたい』と意欲を燃やす留学生を受け入れているのが現在の農場国立スクールのあり様だ。
ただ先生はそれだけに飽き足らずに、暇を見つけては世界中を歴訪しては様々な理由から学ぶ機会を得られない子らに青空教室を開いているらしい。
『アナタの村にひょっこり出てくるノーライフキング』は、今では世界中で知られる都市伝説となっていた。
こんだけ積極的に俗世と関わっているノーライフキング他にいねえわ。
しかし、そんな先生のイキイキとするライフワークが、ここにきて暗い影を差していた。
そもそも何にだって弊害は出てくる。
ノーライフキングの先生ですらその理から逃れることはできず、ご自分の所業を詐欺に利用されるなどという被害を受けてしまった。
それに学校といえば、学歴などという格差を生み出すことも大きな問題だ。
卒業した大学のランクだけで人生の価値が決まってしまう……というのも事実の一面だが、歪な話でもある。
格差なんてなければそれが一番いいのだし、これまでは身分だの種族だのであった断絶がせっかく薄まってきたのに、新しい身分差なんてできるのは歓迎できない。
そしてノーライフキングの先生は、ただでさえ世界を震撼させる超越者であり、しかも大抵が何百年あるいは何千年と生き続ける存在なので知識量も大きい。
何しろ大抵のノーライフキングが、より魔導を極めるためにみずからアンデッド化した存在なのだから、そりゃ物知りだし研究も進んでいる。
しかも先生は、そのノーライフキングの中でも群を抜いた存在なのだから、そんな先生の指導を受けるだけで選りすぐりのエリートになれるわけだ。
いつの日か……農場学校を卒業したというだけで上等な存在となり、他の人たちを見下すようになりかねない。
そんな未来を早い段階から危惧していた俺たちは、農場学校の運営に当たって細心の注意を払ったが、それが上手くいっているのかどうか……。
そもそも農場で学んで卒業していった子らが今、社会でどう活躍しているのかよくわからないしな。
俺たち的には卒業した途端大活躍し、世界に革命を起こすぐらいするかなと思ったが、そんなこともないらしい。
まあ唯一の例外としてリテセウスくんが国家指導者にまでのし上がったぐらいだが……。
それを寂しいと思うこと自体がエリート意識の表れだろうか?
俺も自制しないとな。
『色々と考えているうちに、かつて学び舎で見てきた顔が懐かしくなりましてのう。彼らは今どうしているだろうか……元気でやっているだろうか……そう考えると、なんとも落ち着かなくなりましてのう……』
そうだなあ、今にして思うと俺も、随分と見てない顔がいくつも思い浮かぶ。
きっと今頃、俺の記憶の中にあるよりももっと精悍で落ち着いて……老けた顔をしているんだろうなあ。
……。
そこで俺、ピコーンと閃いた。
俺の脳裏のLEDライトが明るく灯る。
「先生、いいことを思いつきました!」
『なんですかのう?』
先生も寂しそうにしているし、それを解決するためにもちょうどよい。
「同窓会を開きましょう!!」
同窓会。
それは甘酸っぱくも懐かしい響きのある言葉。
かつて同じ教室で学んだクラスメイトたちが集い合い、思い出を語り合いながら旧交を温め合う。
そんな催しだ。
一番最初の農場学生が卒業してから十年以上。
再集結するにはいいタイミングではないか?
『おお、また彼らに会えるというのですか!?』
途端に先生の瞳が輝き出した。
瞳っていうか、ミイラ化したお顔の眼窩だけれど。
『いいですな、やりましょうぞ同窓会! そうなったら俄然やる気が湧いてきましたぞ!!』
先生が躍動感に満ち溢れていた。
よし……では同窓会を開催するとして、やらなきゃいけないのは卒業生たちへ招待状を送ることか。
だがそのためには各卒業生の現住所を把握しなきゃいけないわけで、それがまた骨の折れる作業だな。
魔族の卒業生は魔王軍、人魚族の卒業生はマーメイドウィッチアカデミアに問い合わせれば一括でわかるだろうけれど問題は人族だな。
人族の農場学生ってけっこう無作為に集められていたし、その現住所を調べるために、どこへ問い合わせていいのやら?
リテセウスくんに聞けばいいか?
でも彼のことをあんまり万能視するのもな……。
『大丈夫ですぞ聖者様!』
すっかり元気のGになった先生が、何やらやる気のようだった。
『ワシの受け持った生徒たちの魂の情報は解析し、数列化してありますぞ! これを使い魔たちに覚えさせて追跡させれば、きっと本人たちの下へ届きましょう! あとは使い魔たちに招待状を持たせれば完璧ですぞ!』
魂のマイナンバー!?
先生、時折サラッと倫理の壁を乗り越えてくる。
それだけかつての生徒たちと再会するのが楽しみなのだと解釈しておこう。
そういうことで、先生のお陰で農場卒業生たちにつつがなく同窓会の招待状が送られていった。
あとは、出席の返答がどれだけ来るかだな。