軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1372 ジュニアの冒険:新宰相決定

僕ジュニア僕。

魔都に戻ってきたらなんか事態が急変していた。

マリネおねえちゃんがいたことは意外だったが……ていうか今までどこに行ってたの?

「ギャラクシーですわ!」

???

とにかくマリネおねえちゃんがやってきたからには事件が起こる。

それはHBの鉛筆がベキッと折れるくらい、炭酸飲料を飲んだらゲップが出るということぐらい確実なことなんだ。

で、何が起きたかとよくよく聞いてみたら、マリネおねえちゃんが四天王に就任したらしい。

「はッ!?」

心から『はッ!?』だった。

なんでおねえちゃんが四天王になる段取りに!?

マリネおねえちゃんはお姫様だよね? お姫様が職務に就く必要が!?

「何を言ってるんですのジュニアくん? お姫様だって食べるためには働かなきゃいけないんですの。働かずに生きていける者などいないし、いてはいけないんですのよ」

方々に燃え移りそうな火力の高い指摘だった。

そして僕が戻ってきた時には諸々完了して、新四天王『怨』のマリネが爆誕していた。

公にも承認されている。

「皆さまー、このマリネ、これからは公僕としてお国に尽くす所存ですわー! お見知りおきあそばせー!」

これでいいのか? と魔王さんの方を見たら、その魔王さんがまたその福々しい体格とは対照的な、しおれた表情をしておられた。

「政略的に悪くない選択というのがまた……な」

何が悪くないんですか?

「一度四天王になったら、その者が魔王となるのはまず不可能だ。慣例的に許されぬことになっている。これでマリネを担ぎ上げて、甘い汁を吸おうという輩は完全に思惑を崩されたな」

なんで四天王は魔王になったらダメなんですか?

「それは魔国の成り立ちから話さなくてはな……」

かつて魔国が成立する前、魔族は五つの大きな勢力が覇権をめぐって争っていた。

その勢力の中の一つが勝利して魔族を支配することになり、残りの四勢力は家臣として服従することになった。

勝利した勢力の子孫が魔王家。

敗北して従属した四勢力それぞれの子孫が現在の四天王になる。

魔王家と、四天王の継承家系は始まりを辿れば敵同士。

そんな四天王が魔王の座に就くとしたらそれは反逆あるいは謀反になってしまう。

あるいは魔国が発足した直後は本当にそういうことが警戒されていたのだろう。

だから心底本気から『四天王は魔王になるな』もしくは『四天王は魔王になりません』という取り決めがかわされていたのかもしれない。

それが今なお形式として続いていると……。

「説明しないままよく理解したな!?」

一人で理解できちゃいました。

しかしマリネおねえちゃんは、そこまで考えて自身の四天王就任を決めたんだろうか。

「どうやらそうでもなさそうなのがまたなあ……」

魔王さんにしおれた視線の先で、マリネおねえちゃんはひたすら元気だった。

「正式に四天王になって、武力の面からお兄上様をお助けしますわー! 武断派ですわー!」

たしかに。

何も考えてなさそう。

特に必要性や計画性もなく、あの大戦力がシステムに組み込まれるなんてかえって扱いづらいのでは?

主君の器量が問われるだろう。

ゴティア魔王子益々大変そう。

「ゴティアが即位するまではまだ時間があるだろうから、その間にマリネの方に節度を覚えてもらわねばな。マモルに指導をお願いするしか……」

またマモルさんに皺寄せが行ってる。

奇想天外な者たちが好き放題するほど常識人に負担がいく構図。

「しかもマリネのことだけでなくレヴィアーサまで考えるとなあ……ここからどうなっていくやら……」

レヴィアーサ?

ここで藪から棒に知らない名がでてきた。

どなた様?

「マリネが就任することで四天王の座を降りる現職だ。かつてはグラシャラの副官を務めていて、よく彼女を支えてくれていた」

そうか。

定員が決まっているから新しく加わる者あれば去る者もいるということか。

マリネさんの行動で職を追われる人が出てくるなんて……!

それは冗談では済まないような……!

「いえいえー大丈夫ですよー」

うわぁ本人出てきた!?

……ご本人で、いいんだよな?

初めましてジュニアと申します。

このたびは四天王解任……ええと……お疲れ様でした?

「いやですねえ初めましてなんて。私も農場に出入りしていたことがありますからアナタとも面識ありますよ」

そうなんですかッ!?

「小さかったから記憶にないですかね。アナタのおしめを替えてあげたこともあったのに」

「ないぞ」

「あったでしょう?」

「ないぞ」

この人……ナチュラルにウソをつく人だ!!

危ない、流されるままにポンポン聞いてたら気づかないうちに書類にサインさせられる!?

「まあ、それに四天王を退くこともそんなに残念ではないんですよね。元々グラシャラ様の心置きなく嫁いでもらえるよう、あとを担っただけにすぎませんから。そう考えるとむしろ長く居座りすぎましたねー」

そうですか。

「一緒に就任したエーシュマも、いきなり結婚して自分だけさっさと引退しちゃいましたし、むしろ私だけ身を引くタイミングを見失っていましたから。そう考えるとグラシャラ様の愛娘であるマリネ様にお譲りすることができたのは運命的というか……、今日までこの座を守ってきた甲斐があったというか……」

うっとりとした表情を浮かべるレヴィアーサさん。

この時初めて彼女の個人的な感情を垣間見た気がした。

でもそのお陰で今やアナタは無職。

人間働かないとお給料がもらえないのは世の真理。

これからの展望とかあるんですか?

「もちろんありますよ! 何の備えもなく辞めるほど私、無計画ではありません!」

ホントかなあ……?

出会ってからの短いやり取りの中でも、僕もうこの人のこと手放しに信用できないんだけれど。

「私ねえ、四天王辞めたらかねてからやってみたいことがあったんです!」

ああ、いいですねセカンドライフってヤツですか?

「私、魔国宰相になります!!」

セカンドライフが思ったより壮大だった。

むしろこっちが本編まである。

魔王さんの方を見ると、しおれたどころか若干くたびれた感があった。

「……考えてみたら悪くない案でもないのがな」

魔王さん苦笑する。

「軍部とはいえ四天王として十年以上務めた実績は政界でも十分通用するだろうし、そして何よりレヴィアーサの性格は政治向きだと思うのでな」

たしかに。

この何考えているかわからないところ、底知れないところ。

普通に話しているところに意味もなくウソを挟み込んでくるところとか。

軍部を引退して政界進出!

アリといえばアリなセカンドライフだ。

北の果て見学から帰ってきたルキフ・フォカレさんも随分引退に前向きになっているようだし。

世代を考えても農場卒業生たちが宰相になれるにはあと十年はかかりそう。

でもレヴィアーサさんなら職歴実績見ても充分な即戦力。

今すぐにでも宰相になれる。

「私が宰相になったらー、まずはこちらを念頭に掲げたいと思います」

ドン、とフリップを掲げる。

どこから出した?

そしてそのフリップに書かれているのは……。

――『美化強化月間』

「……美化?」

「まあ、いいんじゃないか。景観が整っているとやる気も上がるし効率もいいからな」

魔王さんも全力ではないながら同意を示すが……。

「そうですよね! 汚物は残さず消毒するに限りますよね!」

なんだか彼女の言っている『美化』の意味が、皆の思っているものとは違うように感じる。

「腐敗は古い世代から起こりうるものですから! ルキフ・フォカレ様が引退すれば、あの御方の辣腕に寄りかかって甘い蜜を吸ってきた方々にも退場していただかないと! ずっとあの御方におんぶにだっこだったんですから去る時も一緒でないとね!」

……やはり。

この人の言う“美化”とは、“粛清”と書いて“美化”と読む?

清浄なる世界のために。

「邪魔な上位世代がいなくなれば、農場で鍛えてきたこの出世も早まりますし一石二鳥ですね! 組織には速やかな新陳代謝が必要なんですよ!」

「う……うむ、そうかな?」

のちに『皆殺し宰相』とか呼ばれそうな辛口人事評価系の宰相誕生を予感した。