軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1374 閑話:同じ釜の飯を食った者たち1

そして同窓会当日。

思ったよりたくさん集まった。

農場学校卒業生。

かつて農場で学び、青春を過ごした者たちだ。

「先生!」

「お久しぶりです先生ー!!」

年齢は二十代から三十代に差し掛かろうという精悍な年頃の者たちが、先生を取り囲んでいる。

『おお皆……! 立派になって……立派になって……!!』

先生は、成長した教え子たちの立派な姿に感涙を抑えきれなかった。

泣けるんだノーライフキングって。

数十年の付き合いになっても発見は尽きない。

それに農場卒業生もまた立派な大人になっていた。

農場にいた頃はいかにもイキりちらかしたガキだったというのに。

今ではすっかり落ち着いて、威厳すら感じられる大人ではないか。

特に魔族の卒業生たちの一団は、選び抜かれたエリート集団と言うべき洗練さが感じられた。

『シリンギ、ヤドゥルザーク、ラーティル、ロクホンギ、サザ、スターク、テクトン、ゼックスト、他! 懐かしいのう!!』

生徒全員の名前をしっかり記憶しているのも先生の凄いところだ。

俺などは歳のせいか記号的なものを覚えるのがすっかり苦手に……。いやその話はいい。

でも彼ら、魔族の農場学生はしっかり覚えているぞ。

何しろ事の発端だからな。

……ある日、魔王さんが持ち掛けてきた相談が、農場学校設立のすべての始まりだった。

――『魔王軍の若手士官たちが傲慢になっている』と。

あの当時は、魔族が戦争に勝った直後で浮かれていてもしょうがない時期だった。

とはいえ、自分たちが最強と思って他種族を見下すようになっては、いいことなどない。

よって、その伸びた鼻っ柱を叩き折るためにも農場で学ぶことになったんだ。

「思い出すなあ……『魔王軍最強!』とか宣いながらそのあとすぐオークボとかに薙ぎ倒されてた幼き日のキミたち……」

「聖者様! その話はいいじゃないですか!?」

驚き慌てながら止めに来る、かつてのイキり若者たち。

アレがしっかり黒歴史になっているようでよかった。

もちろん彼らも成長して、卒業することにはしっかりと謙遜とか控えめにすることを身に着けていた。

お陰で今はこうやって落ち着いている。

そんな彼らは今……!?

「当然、今も魔王軍にいますよ」

そうだなあ。

魔族の農場学生は概ね魔王軍の中から選出されていたから。

「それぞれの事情で退役していったのも何人かいますけど。まあ基本安定した職場ですからねー」

「国家が母体だから倒産することなんてないし、そりゃ一生よりかかるよねー」

そうか……。

何と言うか、年が経って考え方も安定志向というか……。

「今は、大体のヤツらが地方勤務ですね。中央から離れて様々な経験を積もうっていう時期です」

「中央で書類捌きだけしていても仕事ができるようにはなりませんからねー。あと四~五年もしたら中央に戻って、上の役職に……って感じでしょうか」

そうなんだ……。

何というか、思った以上に堅実な出世コース。

「何言ってるんですか。ちゃんと段階を踏むことが何より大事ですよ!」

「そうですそうです! 実力があるからって形式をすっ飛ばして行ったら、それこそトラブルの元です!」

そ、そうだな……!

『実力さえあればルールを破っていい』と思うことが問題で、改善のためにこの農場に学びに来たんだから、今その成果が実を結んでいるってことだよな……!!

しかしそのお陰で、卒業即無双と思われていた農場学生たちが地味に活躍しているのも事実。

教え子たちの派手な活躍を期待している俺としてはなんだかもどかしいなあ……!

『性急はいけませんぞ聖者様』

先生に諭された。

『物事はゆっくりと進んでいくもの。過程をすっ飛ばして成果だけを求めれば悪いことが起こるのは必定。彼らは正しい段階を踏んでいるのですぞ!』

「それに地方勤務も意義があるというか……!」

元農場学生の魔族たちがしみじみと言う。

「地方ってやっぱり不正の温床なんですよねえ。中央からの目が届きにくい分やりたい放題というか……」

「中央でやらかしたヤツが飛ばされる先というのも問題でねえ。やらかすヤツは結局またやるんだよねえ」

そういう地方ではびこる不正を草の根的に摘発するのに今、魔族の農場学生が大活躍しているそうだ。

複数人が地方へ出向し、ローラー的に監査の目を向けていれば嫌でも不正は根絶やしにできる。

そうして面倒で丹念な捜査を入れてやっと、クリーンな環境を実現することができるというのか……。

「時間はかかりますけれどやりがいのある仕事ですよー」

「こんな仕事ができるのも、農場で培った技術と経験のお陰です!!」

こちらを上げることも怠りない。

本当によくできた大人へ成長したものだ……。

「そっちも大変だなぁー! こっちも大変だけどなぁー!!」

といきなり乱入してきたのは誰だ?

おッ、老けてはいるが見覚えのある顔だぞ?

キミは……元農場学生にワラキナくん!!

人間国から農場へやって来た人族の学生だった人じゃないか!

キミもすっかり立派になって……、でも酔ってる?

「そりゃ酔いますよ! 酒飲んで酔うのは当たり前じゃないですか! 水飲んで酔ってたらそっちの方が異常事態ですよ!」

「すみません! すみませんコイツ酒癖悪くて!!」

他の人族卒業生が慌てて駆け寄ってきた。

そりゃ同窓会だから宴の用意もしてあるし、その中にお酒だって配置してある。

なんてったって大人になったかつての少年少女たちのイベントなのだから。

だが……俺の知る記憶の中では気楽な子どもであった彼らがこうして酔い潰れている現状を見るのは……時の流れをまざまざ見せつけられるというか……!

「ええと……キミらは今どうしているのかな?」

耐え切れなくなって強引に話題を変える。

ワルキナくん他、人族の農場卒業生たちも各々着飾って同窓会に参加していた。

酔っ払い以外の人族卒業生は、ちゃんとしっかりした受け答えで話す。

「オレたちは人それぞれですねー。なんせ募集の仕方が無作為でしたから……」

「何しろ当時は生贄にされると思っていましたからねえー」

あの当時人族は敗戦国で、魔族に比べれば圧倒的に立場が弱かった。

そんな中、魔族側の要請で集められたんだからそりゃ警戒もする。

「元々は人材育成のためにある程度高い地位の子女を募集されましたけれど、素直に従ったのなんてごく一握りでしたよ。多くは領主かその息子娘……の付き人が差し出されましたよね。……生贄として」

「懐かしいなあ、死を覚悟して募集に応じたあの頃……!」

そんな心境で農場に来ていたのか……!?

今でこそわかる、当時の別視点での様子……!?

「そんなだから、人族側の農場学生って身分とか多彩だったからなあ。その分卒業後の進路も多彩になった」

「バカ正直にちゃんと領主の跡取り息子を送ってきたところもあったからな。そういうところは今ちゃんと領主になってバリバリ自領運営で成果を上げていることだろうぜ」

「オレのことだな」

その他にも大方の対応通りに送り込まれてきた付き人出身の生徒らは卒業後……、元の所属で成果を上げて出世したという。

元々領主の付き人だった子が入り婿となってみずから領主となる。

中央からスカウトを受けて官僚になる。

あるいは自分だけの道を進んで新発明を生み出すなどなど。

バラエティに富んだ進路を辿っているようだ。

その中でも一番の出世頭はリテセウスくんだろうがな。

農場学生の中でも、一際才覚を放っていたリテセウスくんは農場で学んでいた当初から注目されていた。

その子が今や、人間国大統領に抜擢され一つの国を引っ張っている。

これこそ農場学校が打ち立てた最高の成果だなあ。

……ん? それはリテセウスくんの頑張りであって農場は関係ない?

そうか……。

そういや、そのリテセウスくんの姿が見えないが、どうしたんだ?

「リテセウスは遅れてくるという連絡が入っていますよ。抜け出せない会議があるそうで」

「本当にアイツは忙しいですよねー。……アイツもですけれど」

アイツ?

皆の視線は、あの酔っぱらい……ワルキナくんへと向けられていた。

「アイツ今やリテセウス大統領の右腕で副大統領ですからね……」

「学生時代から一番仲よかったからなあ、最初に頼る先もアイツだろう」

つまり、ワルキナくんはリテセウスくんの仲よしだから副大統領に引き上げてもらった……というわけではなく、むしろ逆。

仲よしだから副大統領の役職を押し付けられても嫌とは言えなかった!?

「再興したばかりの国家で責任ある役職……、旨味より大変さの方が勝るな……」

「元々ワルキナくんは、領主令嬢の身代わりで農場学校に入って、卒業後はそのお嬢様と結婚して領主になる予定だったんだ……」

なんと、そんなサクセスストーリーが?

しかしそんなバラ色の予定も、親友を助けるために中央政界に身を投じて変更を余儀なくされる。

副大統領でいたままでは、故郷の領主にはなれない。

履きがたい二足の草鞋を強いられたワルキナくんも、人間国の統治に追われる被害者ということだ。

「でも結婚自体はしたんでしょう? お嬢様との長年の身分違いの恋が実ってよかったじゃん」

「それでも……領主を引き継ぐのはまだなんだよ。義父がまだ元気なんで継承を待っててくれてるが、オレは一刻も早く故郷に帰って領主を継ぎたいんだよ!!」

ワルキナくん、酔っぱらいながら吠える。

今更ながら泥酔している理由もわかってきた。

「リテセウスの野郎! 次期こそ立候補辞退しろよ! 四期目なんて絶対付き合わねーからなッ!!」

人間国はやっぱり大変なようだ。