軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1370 閑話:魔王女の今

魔王ゼダンである。

我が長子ゴティアからの報告を受けて、ルキフ・フォカレが引退に前向きになったと聞いた。

ひとまず安堵した。

これまで魔国のために尽くしてくれた彼も、晩年は静かに過ごしてほしいものだ。

とはいえ実際に引退するにはまだまだ時間が必要なのだが。

彼に代わる才覚を持った次期宰相候補がいないのだから致し方ないのだが。

目の前の問題へ対処することに追われ、次世代の人材育成が疎かになっていたとは。

『歴代最高の魔王』などと持ち上げられていても、なんと足りぬことの多い我が身よ。

なお一層気を引き締めていかねばな。

現在ルキフ・フォカレは聖者殿のご子息ジュニアに連れられて不在だそうだな。

彼もたまには旅行ぐらいしてもバチは当たるまい。

ゴティアも所用で魔都を離れているが、概ね平和なものだな。

この平和がいつまでも続いてほしいものだ。

……と思った矢先。

この平穏をストライクで散らす轟音が鳴り響く。

ドゴゴゴゴォーーーンッ!!

「な、なんだッ!?」

「敵襲、敵襲ぅうううううううッ!!」

「違うぞ迂闊に叫び散らすな!」

「突如、天空から飛来物! 中庭に墜落した模様!」

「衛兵、現場に迎え! 軍にも救援要請を! 急げぇええええッ!!」

一体何ごとか?

この城の……そしてこの国の主として知らぬふりはできぬ。

我はため息をつきながら、腰を上げた。

たまには運動をして痩せぬとな。

* * *

我が現場に赴くと、現場は騒然としていた。

ここは魔王城の中庭。

我だけでなく既に多くの者どもが、何事かと詰めかけている。

それを衛兵が、無用の混乱を避けようと現場の外へ閉め出そうとしている。

「ここより先は立入禁止だ! 安全が保障できぬ! 兵士以外は速やかに持ち場へ戻られたし!」

「職務ご苦労」

「だから持ち場へ戻れ……はッ、魔王様!? 申し訳ありません!」

かまわぬ。

それよりも状況を説明してくれぬか。

「ははッ、何らかの物体が天空より飛来。それが中庭に着弾したようです。凄まじい衝撃で、現在城内には厳戒態勢が敷かれています!」

「結界は機能しなかったのか?」

ここは魔国の中枢。

あらゆる事態に対策が講じられている。

上空からの侵入もしくは攻撃に対しても、お抱えの魔導士数十名が魔力を注ぎ込んで張った結界により、大抵のものは弾かれるはずだ。

「それがどういうことか無反応だったようで……」

「ふむ、わかった」

兵士をすり抜け、現場へと向かう我。

「あッ、お待ちください! まだ安全の確認が……!」

「かまわぬ、大体の予想はついた」

現場……というか爆心地にはクレーターができており、中庭を埋め尽くしていたであろう芝生も無残に飛び散っていた。

庭師に申し訳ない。

「あッ魔王様!?」

「魔王様、どうかお下がりください」

その場にいた別の兵士たちも我を遠ざけようとするが彼らの職務上仕方のないことだ。

飛来した物体は、大きな球体だった。

人一人が入りそうな大きさで、クレーターの中心に鎮座しているのは飛来物の正体がアレだという動かぬ証拠だろう。

その球体が、真っ二つにパカーンと割れた。

そして中から飛び出してくる妙齢の美女。

「魔王女マリネ、ただいま帰還ですわ!!」

「やはりお前か」

魔王女マリネ。

我が魔国の第一魔王女にして我が娘。

第二魔王妃であるグラシャラとの間にできた娘だ。

とはいえこの子も十七歳を迎え立派なお年頃。

そろそろ婚約の話も出てきているのだが、こやつときたらどうにも……!

「お父上様、わざわざのお出迎えありがとうございますわ。魔王女マリネ、ただいまギャラクシーより戻ってまいりましたわ」

「また口調が変わっている……!」

今度は何の影響を受けた?

……しかも、なんだその服装は!?

全身を覆っているのはいいが、何やら薄い布が、肌にピッチリと張り付いてほとんど裸のようではないか!?

年頃の娘がはしたない!!

「あら、これはギャラクシーでの正装ですのよ? 女性用パイロットスーツはプロポーションがモロ出しでないと視聴者は納得しませんの」

「ううむ……そうか……!?」

いかん、マリネの言っていることが何一つわからない。

娘の言動を理解できぬ父、これが世代ギャップというものなのか!?

……。

……いや。

それどころじゃない。

「そもそもマリネ、お前なんで空から飛来してきた? お前の入っていた丸い球体はなんだ? 中庭を吹っ飛ばしてどういうつもりだ? というか今までどこに行っていた?」

ツッコミどころが多すぎてどうにもならない。

マリネ……お前はいつからこんな難解な子になってしまったのか?

ゴティアなどは、優秀だからと言って後継者の座を奪われないかと恐れているようだが、いらぬ心配だ。

どんなに優れていようともこんな突拍子もない性格の王を戴いたら天下万民は不安のどん底だ!

「ご報告がまだでしたわね。この魔王女マリネ、修行の旅を今終えたばかりですわ」

「修行!?」

ここ最近は修行が流行っているのか?

聖者殿のところのジュニアくんも修行で旅しているし?

「私にはまだまだ力が必要ですわ! そのために宇宙へ出て、様々な星を巡り、強者と手合わせしてきましたの!」

「そ、そうか……!?」

でもお前、もう既に実兄がビビる程度には強いじゃないか。

その上でまだ力を求めるのか?

「当然ですわ! 私の目標は高みにあるのですから! そのために必要な力はいくらあっても足りませんの!」

マリネ……お前は何になろうとしているんだ?

「宇宙の彼方にブリザーなる強者がいましたので、一勝負挑みましてボコボコにしてきましたわ。それで修行は一旦区切りがついたと思って帰ってきましたの」

そうか……。

尾を引くかもしれないから争いはほどほどにな。

まったくこの娘……。

この細い体のどこにそのような剛力を……?

歴代魔王の中でもなかなか巨漢な我を父に持ち、母親であるグラシャラもかつては肉弾戦最強と謳われた四天王。

その間に生まれた娘もさぞかし大女になるだろうと口さがない者は噂していたが、実際に育ってみれば、折れそうなほど可憐な体つきとなって……。

腰など我の太ももより細いのではないか。それは我が太ったせいもあるが。

そのくせ出るべきところはしっかりと出て……。

……いや、実の娘に何を言っているのか我は?

「自分で壊したところはしっかり修繕しておきますわ!」

とか気が遠くなっているうちにマリネが何やらして、中庭にえぐれたクレーターをしっかり埋め直して、芝生までも元通りになっていた。

どうやった?

「私も宇宙を旅して多少の自信をつけましたわ。なのでここで思い切って、かねてからの目標を果たさんと挑戦したく思いますの!」

挑戦?

しかも目標って、一体何を目標にするのだ?

まさかゴティアを押しのけて次の魔王になる気か?

いかんぞ。

お前に能力があるのは百も承知だが、それを踏まえてもゴティアこそが次の魔王に相応しいと……!

「四天王ですわ!」

えッ?

「四天王となって、いずれ魔王とするお兄上様をお支えするのが私の目標! よって現職の四天王をボコボコにして引きずり下ろしたあと、私がその座につかせていただきますわ!!」