作品タイトル不明
1369 ジュニアの冒険:働き者の末路
現場からお届けしておりますジュニアです。
今日は、魔国宰相ルキフ・フォカレさんを連れて大陸の北の果てまで来ております。
魔都から離れること数千キロメートル。
途中いくつもの山脈や大河に遮られて、まっとうに人の足で進むなら数年かかってなおたどり着けるかどうか。
そんな辺鄙を超えた魔境が、本日の舞台となっております。
「ジュニアくん? 何故このようなところへ?」
まず誰より困惑しているのが、何も言わずにつれてこられたルキフ・フォカレさん。
僕の飛翔術で超速移動したために、その風圧振動だけでやつれ気味だった。
さすがに八十越えのご老体にはいささか無理があったか。
「せっかく後進問題が(未来展望的に)解決して、ますます政務に打ち込めるというのに。このようなところに連れてこられては困るぞ……! 今頃、職場ではどんな騒ぎになっていることか……!?」
大丈夫です。
魔王さんとゴティア魔王子には事前に許可を取ってルキフ・フォカレさんを連れ去りましたから。
ルキフ・フォカレさんにもたまには休みを取ってほしかったのでちょうどよかったと快諾もらえましたよ。
「休むにしても、こんな魔境で!?」
ここに、ルキフ・フォカレさんに見てもらいたいものがあるんです。
そのためにご足労してもらったんですよ。
徒歩ではなく飛翔でしたが。
「ぬううう……だとしても私一言あってくれた方が……!」
事前に言うと仕事を優先してとりあってくれないでしょう。
ならばとる手段は一つ。
拉致です。
「見た目の印象に反して過激なこうどうだな。やはり農場国の出の者か……!?」
何故そこで農場が出てくるんです?
しかし、ここにあるルキフ・フォカレさんに見てほしいものは、きっとアナタの生き方に一石を投じることとなるでしょう。
そう確信して、ここへ来てもらったんですから。
僕は思った。
そりゃ人間、働くことなくして生きることはできない。働くことは大切だ。働いたら負けなんてことはない。勝利は働いた先にしかないんだ。
しかし何事にも限度がある。働くのはあくまで手段で、働くのが目的化しているルキフ・フォカレさんのような例はけっして好ましくはないのだろう。
今回の引退騒動だって、そういう性格の問題から出てきたこと。
そんな生き方を見詰め直してほしいと、彼のお世話になってきた魔王さんやゴティア魔王子も思っている。
そんな思いも背負って僕は今日ここにいるのだった。
「目的のモノは、この先にあります」
「一体何があるというのだ? こんな世界の果てに……?」
世界の果てだからです。
ある程度行くと、行く手を壁に遮られた。
何もないように見えて、前進しようとしても押し返される、見えない壁。
結界か。
しかし大丈夫、対策はしっかりと持ち込んでいる。
ノーライフキングの先生から授かった宝玉をかざすと、結界は静かに消え去った。
「これはッ!?」
「ノーライフキングの張った結界を一時的に解除しました」
あとでちゃんと張り直します。
この提案をしてくれたのはノーライフキングの先生だ。
あまりにも仕事に没頭するルキフ・フォカレさんを見かねて。
『ならば彼の心境に変化をもたらす格好の教材があるぞ』とこの場所を教えてくださった。
農場卒業生を紹介してもらうまでの三日間、僕も手持無沙汰なのはどうかとだったので色んな人に相談していた。
その中でノーライフキングの先生がもっとも有効なアドバイスをくれたってことで……。
「この先には、最強のノーライフキングたちが封じたものがあります」
「さ、最強のノーライフキングとな……!?」
それだけでもかなり強い字面だ。
ノーライフキングというだけでも人にとっては別次元の脅威だというのに、そのノーライフキングの中でもとトップクラスが、揃って恐れる対象とは?
「何がいるのだ……!?」
となるだろう。
僕らはさらに進んで、ついに終点まで来た。
そこは海岸だった。
白い砂浜に、迫る潮騒。
規則的なリズムで寄せては返す波は、無機質さを感じた。
これ以上は進めない、正真正銘の世界の果て。
「寂しげな場所だな。北の果てのせいか生き物の気配がまったくない。虫一匹ぐらいいてもいいものを」
ルキフ・フォカレさんの言う通り、自然の真っただ中だというのに生命感のまったくないこの場所は逆に不自然さを感じた。
肌寒さを感じ、長居したくないという気持ちが自然に湧いてくる。
「この寂しいばかりの海を私に見せたかったのか? たしかに心にくる風景だが、ここまでくる意味もあったのかと……!?」
いいえ。
本当に見せたかったのは、この海岸に住むモノです。
えーっと……。
……。
あッ、いたいたいたいた!
あそこに、海岸に這いつくばっている背広姿のスケルトンが!
「なんだアレは!? アンデッドか!?」
ルキフ・フォカレさんも、その異形に気づいたようだ。
その注目のアンデッドは……。
『113469521……113469522……113469523……113469524……』
一心不乱に何かを数えているようだ。
何の数なのか?
あらかじめ予備知識を得た僕は知っている。知っているからこそ恐ろしい光景でもあった。
「あのアンデッドは……何を数えている……!?」
「あれはノーライフキングの社長です」
「シャッチョウ!?」
ノーライフキングは世界中の誰もが恐れる不死の怪物。
そのノーライフキングの中でも群を抜いた実力の持ち主……先生、老師、博士がこぞって恐れる存在がさらにいる。
それがあのノーライフキングの社長。
それはかつて、異世界から召喚された勇者なのだという。
不幸にも道半ばで倒れ、臨終の地がダンジョンであったことから、その瘴気を一身に吸い取りアンデッドとして再生した。
そう、ノーライフキングに。
死を超越し、不死者になった彼が行ったことは。
働くことだった。
何故?
それは僕にはよくわからない。
父さんが言うには『彼の時代はそういうのだったんだよ』とのことだった。
益々わからん。
とにかく彼はノーライフキングとなり死の制限から抜け出した。生きることに必要だったすべてのものから、彼は自由となった。
食べることも必要ない。
眠ることも必要ない。
そのすべてを無視して、働くことだけに没頭できる!
そうしてノーライフキングの社長は、この地で働き続けているのだった。
「働く……とは……!?」
「この砂浜にある砂粒を数える作業だそうです。他のノーライフキングから依頼されたのだとか」
この砂浜、見渡すだけでもかなりの広さだということはわかる。
それを満たす砂粒は一体どれだけあるのか? 数百万? 数千万? 数億?
しかも砂浜には絶えず風が吹き、波が寄せる。
それによって飛ばされていく砂粒もあれば、新たに運ばれてくる砂粒もある。
絶えず砂粒の数が変動し、つまり、彼の作業は永遠に終わらないということだ。
「そうすることで社長は、この土地に封じられているということらしいですね」
他のノーライフキングによって。
封じられるだけの危険さがあるからだ。
「報酬も、休憩もなく働き続ける存在……なるほどそんなものが放置されたら社会体制どころか人の営みまで破壊されかねないからの」
さすが魔国宰相だけあってルキフ・フォカレさんも社長の危険さを一目で見抜いた。
そして同時に腑に落ちた。
「そしてあれは、私の未来でもあるというわけか。仕事ばかりの人生であった私とは、たしかによく似ている」
お気づきになりましたか。
そうです、ルキフ・フォカレさんも仕事ばかり追い求めては、あの社長のような存在になってしまいますよ。
既に魔国の内政においては、同じような状況になっているからな。
ルキフ・フォカレさんがこれで自分の弊害を自覚し、軌道修正してくれたらいいんだが……。
それと……おっと、ここに来たらついでにやっておいてくれと先生から頼まれた用事があった。
僕はノーライフキングの社長に話しかける。
『113469784……113469785……』
「すみません、今何時ですか?」
『はい? 今は午後二時三十三分ですね!……34……35……』
よし。
これで砂粒の数がリセットされたぞ。
定期的にこれをすることで、社長がこの砂浜に留まることを延長しているらしい。
着実に真面目に……必要ない仕事を延々と繰り返す社長。
「……私もああなったら終わりだな……!!」
ルキフ・フォカレさんを戦慄させただけ、社長の存在にも意味があったのかもしれない。