作品タイトル不明
1357 ジュニアの冒険:究極以上
レタスレートおねえさん。
……とは? 何ぞや?
我が故郷である農場に居候している人手、僕が物心ついたころには既にいた。
なんで農場にいるのかはよく知らないが、あそこの住人は大体そんなものだ。
しかしこのレタスレートおねえさんに関しては、ことあるごとにウチの母にシバかれていた、そんな思い出がやけに印象に残っている。
回数を重ねての刷り込みが多かったからかな。
そんなレタスレートおねえさんだが、農場の土地柄に漏れず彼女も相当な常識外れ。
豆を愛するレタスレートおねえさんは、豆に関することならば条理を超えたミラクルパワーを発揮する。
豆のためなら時空を超えて、豆のために愛を貫く。
それがレタスレートおねえさんだ。
特定の農作物に偏執するのは農場の住人ならばよくあることだが、レタスレートおねえさんの豆に対する執着は、中でも群を抜いている。
豆への愛で宇宙すら粉砕する。
それがレタスレートおねえさんだ。
最近では立ち上げた事業が成功して忙しく、農場を留守にすることも多くなってすっかり顔を見る機会も乏しかった。
それが……こんな思っても見ない場所で再会することになろうとは!
「しかし意外なところで会うわねジュニア、こんなところで何してるの?」
相手も同じことを思った模様。
いや、何と言いますか……。
本当に……一体なんでこのような場所に?
「私はコイツらに呼ばれたからだけど」
レタスレートおねえさんが親指をクイクイ示す先には、例の農場六聖拳の五人。
「お待ちしておりましたレタスレート様!!」
「この御方こそ農場六聖拳、最後の砦! しかも何人も陥落できない不滅不落の要塞よ!」
「さあジュニアよ! レタスレート様の前にひれ伏すがいい!!」
と優位を得たぞとばかりに騒ぎ立てる。
あの……レタスレートおねえさん?
あの方たちとは……!?
「ん?……ああ、事業の傍らで知り合いになってね。なんか色々話しているうちに『オレらのアタマになってください!!』的なことを言われて……」
で、アタマになったの?
いわゆるトップというヤツに?
「そうなのよー、コイツら自体はどうでもよくても、その上の方とは関係気まずくしたくないもんでね。プラス熱意に押し切られてのやむなき結果よ」
あの豆以外に何の興味も持たないレタスレートおねえさんに、そんな面倒くさそうな案件を承諾させるとは……!?
あの六聖拳の彼らがそれほど熱意高かったということか?
それとも……!?
いやまず……!?
「……と、いうことは次の僕の対戦相手はレタスレートおねえさんということに?」
「あれ、そうなの? というか戦ってたのアンタら?」
とレタスレートおねえさん、僕と六聖拳どもを交互に見まわす。
さらに蚊帳の外のゴティア魔王子。
「そ、そうですレタスレート様!」
「このジュニアこそ、積年にわたるエヌ様の怨敵!」
「エヌ様からの大恩あるしもべの我らが立ち向かうのは当然のこと!」
だからそのエヌ様っていうのは何者やねん?
僕とてまだまだ人生二十年足らず。そんな短い期間にヒトから積年の恨みを買う覚えはないんですが!?
「はーん、なるほどね。すもすも」
そこまで両者に聞き取りしたレタスレートおねえさん、得心顔になって……。
「そういうことなら仕方なかんべ。お相手つかまつろうじゃないの」
えええええええええッッ!?
なんで!?
まさかのレタスレートおねえさんが敵に回った!?
ここまでの経緯を聞いていただけたら、きっと『道理はこちらにある』と思って味方してくれると思ったのに!?
いやそもそも道理とか関係ない存在だった!
「それにセージャやプラティからも『どこぞで会ったら容赦なく障害になってくれ』って言われてるのよね。修行の旅なんでしょ? だったら簡単にクリアできるようじゃ全然修行にならないもんねえ」
ファーッ!?
レタスレートおねえさんからオーラが立ち上るッ!?
その凄まじいオーラの噴出が、芽吹いて鈴なりに生る大豆を形作る。
これがレタスレートおねえさんだけがまとうことのできる、闘気ならぬ豆気ッ!?
「アンタとやり合うなんてありそうでなかったわねえ。でもいい機会よ、我が渾身の北豆神拳を味わいなさい!」
「まいりましたあああああああああああッッ!!」
まいりましたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!
心の中でも絶叫してスライディング気味に土下座をかます。
そこから仰向けに翻って腹を晒して服従のポーズ。
それを見て驚愕するゴティア魔王子。
「何をしているのだジュニア殿! アナタともあろう者がそんな情けない振る舞いを……!」
情けあろうがなかろうが関係ない!
レタスレートおねえさんとの直接対決を避けるためなら、僕はなんだってやる!
キミは知らないんだろうな、レタスレートおねえさんの率直すぎる恐ろしさが!
おねえさんの豆愛は、既にドラゴンやノーライフキングとガチでやり合っても圧倒できるほど!
神だって倒せる!
かつてブラックホールを素手で握り潰したという逸話だっておありなんだぞ!
どういうことだ!?
圧縮すればするほど重力凶悪になるのがブラックホールじゃないのか!?
そんな理外の振る舞いを平気でするレタスレートおねえさんに正面切って勝てると思う!?
無理だ!
『究極の担い手』があれば勝てると思う?
無理だ!
そういう理屈の外にいる存在なんだよもはや。
というわけで一千億パーセント敗北が決まっている戦いに飛び込むほど僕も後先考えない人にはなれない。
なのでサレンダー(降参)します。
敗北を知りたい、知った。
「……ということは……?」
「我ら農場六聖拳の勝利!?」
「やったー!」
突如降ってわいた逆転勝利に、二位以下の六聖拳の皆様が騒ぎ立てる。
ほぼレタスレートおねえさんが一人で勝ち取ったようなものだが。
一方目の前でダイビング土下座&服従のポーズをとられた
「情けないわねえ、敗北確定の戦いにも向かっていかなきゃいけない状況はあるわよ。敗北の中で学べることもあるのに」
そういうのは先日のベルフェガミリアさんとの戦いで充分に体験しましたので……。
「じ、ジュニア殿がそこまで恐れるレタスレートとは一体……!?」
知らんのですかゴティア魔王子!?
将来魔王さんのあとを継ぐアナタが、この世界的重要人物をご存じないなんて問題ですよ!
あの天上天下唯我独豆なるレタスレートおねえさんのまたの名は、CEOレタスレート。
世界的大会社、『レタスレート&ホルコスフォン社』またの名を豆カンパニーに総帥にして豆を介して経済と流通を牛耳る、世界の裏番だ。
自社独自開発のオリジナル豆品種は、味はもちろん冷害病害虫害にも強く安定して生産ができてしかも土壌改良作用まである。
それらの強みを活かしてドンドン豆を生産し、ドンドン豆を売りさばく。
得られる利益は国家予算に楽々匹敵する。
もはや魔王と同等の権力財力を有しているのがCEOレタスレートなのだ!
しかもそれだけではない。
約十年前に湧き起こった人口爆発。
それに伴い食糧不足が懸念されたが、その問題をまるっと解決したのがレタスレートおねえさんなのだ。
おねえさんが会社を率いて生産した豆の量は、数千万トン。
それを利益度外視の低価格で世界中に配給し、世界は今日も飢えることがない。
かような善行によってレタスレートおねえさんは世界からの確固たる地位を確立した。
世界を支える豆カンパニーなのだ。
現在でも世界的シェア不動のトップ。
世のすべての台所は豆カンパニーの豆が支えているとまで言われている。
豆カンパニー『レタスレート&ホルコスフォン社』創立記念日には特別なイベントが開催され、豆乳豆腐そして納豆の体験アトラクションが開催され、毎年多くの来場者が訪れるほどだ。
豆カンパニーのCMソングは世界中すべての子どもが知っていて口ずさんでいる。
今となってはレタスレートおねえさんは魔王、人魚王、人間大統領、聖王に続く五人目の世界的権力者と言っても過言ではない。
「そ、そういえば聞いたことがある。我ら魔国とも密接な関りを持つ豆カンパニーの長が彼女なのか……!?」
よかったゴティア魔王子やっぱりご存じでしたか。
そんな大人物を出されたら諸手を挙げて降参するしかないわ。
農場六聖拳。
最後に残していた切り札が凶悪すぎる。