作品タイトル不明
1358 ジュニアの冒険:すべてがNになる
「しかし……、それならばどういうことだ!?」
ゴティア魔王子がまだ混乱している。
「目の前にいる女傑が、かの豆カンパニーの総帥であるのなら……つまり、こういうことか?」
とみずからの内に浮かび上がった結論を表明する。
「世界を代表する重要人物が、不穏分子と繋がっている、と!?」
仰々しく言ってくれるが、たしかに事実はそういうことだ。
現在、魔国を始め多くの体制が警戒している秘密組織ウェーゴ。
その正体は謎が多く、目的も不明。
もしかしたら国家転覆など狙っているかも……と安穏にかまえてはいられない。
そんな後背定まらぬ集団と、世界を左右できる財力権力を有した大会社が秘かに繋がっている。
国家側からしたら由々しき事態だろう。
魔王子たるゴティアが冷や汗を流すのも致し方のないことだ。
「……いやー、別に繋がっているというか……」
指摘されてレタスレートおねえさん、難しそうに頬をポリポリと掻く。
「別に秘密にしてなんかいないわよ? 誰にも聞かれなかったから答えなかっただけで」
「それ! ウソつきがよく言うヤツ!!」
「受け答えしくじったか……」
みずからドツボにハマっていくレタスレートおねえさん。
昔から弁論は巧みな方ではなかった。
「私は別に、こんな少年少女グループとは関わり合いもないわよ?」
“少女”っていう歳でもないですしね
「……」
うひゃおうッ!?
よけなかったら腹に風穴空いた!?
「私がやったのは……なんて言うの? 名義貸し? コイツらがどうしてもって言うから籍だけでいることにしてやってるのよ」
と言っておねえさんが視線を向ける先には例の五人。
農場六聖拳を名乗る少年少女たちだ。
「だって! レタスレート様はオレたちの憧れなんすもん!」
「皆、レタスレート様を目指して日々鍛錬してるんす!」
「オレらの目標なんす!」
キャラが違ってきているぞコイツら?
「えぇ~? そうなの、照れちゃうなあ~」
そしておだてに弱いレタスレートおねえさんは相変わらずだ。
きっと名義貸しを承諾したその時もこうやって祭り上げられたんだろうな。
「そ、そうは言っても、ここにいる者たちは一般人……。世界を牛耳るCEOとは天地の差がある。接点などないだろうに、どうやって名義貸しできるほどの親交ができるんだ?」
なおも追及するゴティア魔王子だが、別にそこまであり得ない話ではないんじゃ?
一般社会にぬるりと入り込む聖者もいますからね。
「ん~、まあそこはね、コイツらのトップと顔見知りというか……」
「トップ!? それはまさか……!?」
ゴティア魔王子の顔色がまた変わる。
そうだ、ここでトップと言えば……。
ここまでずっと正体不明のままだった、秘密組織ウェーゴの指導者。
……エヌ。
構成員からそう呼ばれていること以外何もわからない。
種族、性別、年齢、血液型、趣味、好きな食べ物、何もかも……!
「アナタは知っているというのか!? レタスレートCEO!?」
「はい、CEOです」
「そこはいいから!」
レタスレートおねえさんに迫るゴティア魔王子。
「だったらなおさら看過できん! 世界を牛耳るCEOと直接繋がりがあるなんて、秘密組織の指導者として益々恐ろしいではないか! エヌとやら、一体何者……!?」
「エヌ様は!」
ゴティア魔王子の独言に、六聖拳の五人が食らいつく。
「我らを導いてくださる光だ! 」
「エヌ様がいなければ我々は全員、闇の中を彷徨い続けることになっただろう!」
「我々に生き甲斐を、目指すべき道を示してくださったエヌ様に、なんとしても恩義に報いなければならん!」
何という熱量だろう。
彼らがエヌ様とやらを語る時、夢見るように瞳がキラキラ輝く。
それがなんとも怖い。
「だからこそ我々は貴様を倒さなければならないのだ、ジュニア!」
「そうだ、貴様の打倒こそエヌ様の喜び!」
「我らの恩返しのためにジュニア、御命頂戴!!」
嫌ですッ。
なんで恩返しのために犠牲にならねばならんのか。
そして僕がやられることでどうして、そのエヌ様とやらが喜ぶというのか?
まことに理解しがたい。
ヒトがブチのめされることが好きだというならエヌ様……やっぱり悪の組織のトップらしく悪い人なんじゃ?
「……」
そこでレタスレートおねえさんは一人考え込んでいて……。
おもむろに何かを取り出し、耳元に当てた。
またあの小さな板だ?
「……私よ私、……詐欺じゃないわよ? いい、出資を止められたくなかったら今すぐここに来なさい。……アンタの舎弟どもが騒ぎ立てているあそこよ。いいわね五分以内よ。さーん、にーぃ、いーち……」
そして通信魔道具が切られた。
「ふぅ、私が大人の対応を取らないといけないなんて……。ガキどもの相手なんてするもんじゃないわね」
と愚痴めいて言う。
レタスレートおねえさん……まさか……!?
しかし僕が追求しようとするより前に、今度は空からつんざく音が。
この空気を切り裂くような音。しかもそれがだんだん近づいてくる。
「わしゃだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
流星が地面に墜ちてくるかのようだった。
轟音と共に土が弾け散る。
天空よりの飛翔体が地表に激突した証拠だった。
物凄い速度だったぞ、目で追えなかった。
一体何が墜落したんだ!?
「CEO! CEOどうかご慈悲を! 今、資金引き上げられたらプロジェクトが頓挫するんですけど! というかこんな唐突かつ一方的な契約破棄は無効だ! 下請け法違反だ! 違約金払え! オヤジにチクって税金上げるぞ!」
「慈悲を乞いながら段々と強気になっていくな」
飛翔体から転げ出て、土まみれになりながらレタスレートおねえさんに縋りつくのは……。
若い男性だった。
年齢は僕とほぼ同じ……いや、少し下か?
いやそれ以前に、あの見覚えのある彼は……。
「エヌ様!」
「エヌ様のご招来!」
「皆のもの讃えよ!」
そして周囲の人々は一層沸き上がり、突入してきた少年を囲み礼賛する。
この時点でもうテンションが異様。
部外者である僕とゴティア魔王子だけがノリについていけずに呆然としていた。
「何だこの一団の空気?……こわッ」
ゴティア魔王子のこの反応が極めて真っ当なものだろう。
僕もできればドン引きしたいところだが、それ以上の衝撃に襲われてそれどころではなかった。
何しろ現れた少年に見覚えがあったのだから。
「エヌ様!」「エヌ様ッ!?」
「お前らかッ!? お前らがこの豆キチCEOに失礼かまして不興を買ったんじゃないだろうなあ!? いつも言ってるだろうお前らはパッションが先走りしすぎるって! 駆け出す前に立ち止まって十秒考えろッ!」
わめき散らすエヌ様に、レタスレートおねえさんがなんか秘孔突いて止める。
「ぬほぅッ!?」
「アンタの言うことは概ね同意だけれど、今日の用件はそこじゃないわ。ホラあっちに客が来てるでしょう?」
「客ぅ~」
振り返るエヌ様。
そこで初めて、僕とヤツの目が合った。
「なぬッ!?」
ヤツの表情が驚愕にこわばる。
「ジュニア兄!? 何故ここに!?」
お前こそ何故ここに!?
散々勿体つけてきた謎の存在……危険組織の指導者で教祖的な一面すら見せる人物、エヌ様の正体とは……。
……ノリト。
我が弟のノリトではないか!?