作品タイトル不明
1198 おふくろの味は口に苦し
俺です。
以下“開拓地、冒険者襲来騒動”の後日談。
押し掛け冒険者たちは、開拓地とそこに住む開拓者たちを完全舐め切っていたので、完膚なきまでに叩きのめされてプライドをバキバキにへし折られた。
聞いたところによると、開拓地に襲来してきた冒険者たちは総じて高慢で、自分寄り下の等級に絡んでくることの多い問題児ばかりだという。
むしろ、そういう系統を選りすぐった集団と言っていいぐらいであった。
彼らはただでさえ現場でメンタルブレイクされたのに加えて、ギルドから厳重注意を食らうこととなった。
中には前々から積もり積もった余罪と合わせて等級をはく奪……降格処分になったものまでいたとか。
そうなったのも俺が神速で動いて、ギルドマスターであるシルバーウルフさんを連れてきたからなのだが。
シルバーウルフさんは全面的に五体投地で謝罪してくださった。またあの人の苦労が増えてしまった。
押し掛け冒険者の中で一番等級が高く、かつ首謀者と目されたS級冒険者ムルシェラさんにも。とりわけ厳しい処分が下されると思ったが。
「ボクもここに残ります!」
などと、まさかの言い出し。
「コーリーが大パワーアップしたのはたしかにこの土地に原因がある! ならばボクもこの土地で自分を高めるために模索していきたい! ボクに罰が必要だというなら名目にもなるでしょう!」
自分のやらかしを逆手にとって開拓地に居座りだしたのだ。
それを目の当たりにしてシルバーウルフさんも……。
「いや、さすがにS級冒険者を二人というのは戦力の偏りが……!」
と、困った風だった。
苦労人の面目躍如になっていた。
そんなわけで今日も開拓地では先生が教えた『ノーライフキング体操』が元気に踊られている。
それで一方、農場本拠でもある悩み事を抱えた主婦がいた。
* * *
ある日、我が妻プラティが相談しに来た。
「料理ができるようになりたい」
ん?
どうした急に?
料理なら俺がしているから、我が家という単位では何ら問題ないでしょう?
そもそも我が農場では、異世界から召喚されたこの俺が、異世界モノのセオリーであちらの料理を輸入しまくり皆の胃袋をガッチリ掴んでいる。
幸い俺も料理が趣味だから、ここまで何の問題もなく俺が料理担当ということでまかり通ってきた。
それが今日になっていきなりの路線変更。
一体どうした?
まさかついに俺の料理に飽き始めた!?
「いいえ、旦那様の料理はいつだって美味しいわ! 毎日旦那様のご飯が食べられるだけでも人生の幸福を味わっているわ!!」
そ、そう……!?
そこまで素直に言ってもらえると、俺も照れちゃうんだけれど?
「しかし、現状に慣れて甘んじてしまったら人間はお仕舞なの! 精神的に向上心のないヤツはバカだっていうでしょう!?」
それは一部過激な思想だと思うが?
しかし向上心、研究心の塊であるプラティらしいセリフとも……。
「特に、子どもたちも成長して毎日美味しいご飯を食べるようになってからアタシは思ったの! このご飯は旦那様が作ったもの! アタシは作ってないって!」
まあ、そうだけど?
だからなんなの?
「母親とは普通、子どもたちに毎日ご飯を作って感謝されるもの! その幸せの記憶が後々“おふくろの味”としてノスタルジーになるのよ! でもウチの場合は、旦那様がご飯作っているから“オヤジの味”になっちゃうじゃない!」
オヤジの味……!?
なんだろう? 意味としてはおふくろの味とそう変わらないはずなのに字面の嫌々しさは……!?
「ここに来てアタシは、自分の不勉強不努力を悟ったのよ! アタシが料理を旦那様に任せっぱなしにしているお陰で、ジュニアたちにおふくろの味がない子ども時代を過ごさせるところだったって!」
さすがに大げさなのでは?
たしかに料理に関しては俺がほとんどやってプラティはノータッチではあるものの、プラティは子どもらに対して無責任放置とかしてないじゃないか。
むしろ率先して子育てに全力投球している。
自分の得意な分野で。
プラティは魔法薬学師として薬草をたくさん栽培し、薬をたくさん製造している。
そういう書き方をすると違法性を感じるが、悪いことなんて一切ないぞ。
むしろプラティの薬のおかげで子どもたちの健康管理が完璧にされているんだから、きっと大きくなった子どもたちはプラティ……母に感謝してくれることだろうぞ?
「ダメよ! 良薬は口に苦しなのよ! 実際アタシの作る薬だって大抵はそうだし。このままじゃジュニアたちにとっておふくろの味は、苦いお薬の味になってしまうわ!」
良薬はママの味。
それもいいと思うんだが、ダメなんだろうか。
……ダメか。
でもまあ……そうだ。
プラティは危機感を募らせているけれど、既に美味しいご飯を彼女からも提供されているじゃないか。
プラティの得意料理はカレーだ。
カレーは、いくつものスパイスを配合することで出来上がる料理であり、そしてスパイス=薬草でもある。
ハーブ=薬草でもあるが……。
だからこそプラティの得意分野でもあり、我が家では週一もしくは隔週でプラティの作るカレーが食卓に上る。
これにはジュニアもノリトも大喜びで、今はまだおっぱい飲みのショウタロウだっていずれは大喜びすることだろう。
カレーで喜ばない子どもはいない。
「たしかにそうね……子どもたちもカレーの日だけは全開でアタシに甘えてくるわ……!」
多くの子どもらもそうだろうけれど、ゲンキン!
「しかし……裏を返せばアタシにあるのはカレーのみ! 圧倒的に少ない手札! これでは子どもたちの記憶には到底残らないわ!」
そんなこともないだろう。
レパートリーを増やしていく点でカレーは強いぞ。
普通のカレーから、カツカレー、シーフードカレー、カレーうどんやカレーパンと回していけるんだから。
「そんなおためごかし、子どもたちが成長していけばすぐに見破られるわ! そこで今のうちに、まったく新しい戦力となる手札を増強していこうと思ったの! ストームアクセスよ!」
つまりメニューのレパートリーを増やそうと。
「こないだ旦那様が、新しいおやつのヒントを求めて、アタシの薬草園を見学したでしょう? あの時アタシも感動と共に奮起したのよ! 子どもたちのためにできることを増やさねばと!!」
あのミント戦争の際か。
オレも子どもらのために提供できる料理を増やせればと思っていたが、その情熱が飛び火することになろうとは……!?
「さあ旦那様! いつもどおり素敵なアイデアを出してちょうだい! 食については旦那様の知恵を借りるに限るわ!」
と言いつつ端から俺に丸投げやんけ。
まったくプラティは手のかかる奥さんなんだから!
しゃあないから少し考えてみるか……。
ここよりシンキングタイム。
……おふくろの味と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、肉じゃが。
何故、人はそれほどにまで肉じゃがに心惹かれるのだろうか?
おふくろの味というだけでなく、彼女に作ってほしい料理ナンバーワンに輝くのも肉じゃが。
世の男性は肉じゃがに飢えすぎている。
まあ“煮物”という古めかしさを持ちつつ、ジャガイモ&肉という若者が大好き二大強者で固めてくれば、そりゃ人気になるんだろうけれど。
なのでプラティに提供するメニューも肉じゃが一択と思いきや……。
ダメだ。
何故なら肉じゃがは、俺がもう散々作っているからだ!
だって煮物にしては作るのが簡単で、かつ子どもたちも喜んで食べてくれるし。
やっぱりポテト&肉は高火力。
子どもたちのハートにもキッチリ突き刺さる。
他の候補を上げるとしたら……。
……煮物にしても、サトイモとかナスとか子どもたちは敬遠しそうだなあ。
おふくろの味といえば本来そっち系なんだろうが。
そう考えると逆に、もっと子どもが喜びそうなメニューにすればいいんじゃなかろうか?
おふくろの味にルールなんてない。
子どもの頃に食べて思い出に残った味がおふくろの味なんだ。
だからその点さえ満たしていれば、フカヒレスープもシュールストレミングもサルミアッキも、おふくろの味たりえるのだ!!
だからこそ子どもの好みドストライクなメニューで、ジュニアやノリトの心を鷲掴みする戦法でいってもよい。
そうして思い浮かんだ案は……!