軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1199 今にも落ちてきそうな卵の下のライス

オムライス。

お前こそ、プラティのおふくろの味になってくれ!!

何ゆえのチョイスかといえば、オムライスが嫌いな子どもなどいないからだ!

かつて謳われた、子どもたちが大好きでジャンクな料理、その頭文字を繋げた言葉『おかあさんはやすめ』。

その中の一画を構成するのがオムライス。オムレツになることも。

プラティが求めてやまない“おふくろの味”が『おかあさんはやすめ』から選出されるのは皮肉だ。

しかし九品もある『おかあさんはやすめ』の中から狙い撃ちでオムライスが選ばれたのかといえば……。

今まで作ったことがないから。

だってめんどいし。

チキンライスと卵焼きを並行で作るという作業が面倒臭い。

別に無理して同時にやらんでもいいけど。

それでライスをご飯に包み込むのがまた面倒で失敗したら取り返しがつかないし。

何よりそれを一人ずつ繰り返していかなきゃいけないという作業量がどうにも……。

煮物なら一緒くたにぶち込んで煮詰めちまえばいいから楽なモノなんだが。

カレーが人気なのもそういうところ方だよな。食い手だけでなく作り手側にとっても優しい。

そういうことで、これまで避けに避けていたオムライスに挑戦する時がやってきたようだ。

俺ではなくプラティが。

「わかったわ! そのオムライスとやらを極めて、子どもたちの記憶に一生消えない爪痕を残してあげるわ!」

言い方。

思い出を爪痕と称するな。

では、まず俺がお手本でオムライスを作るとするか。

必要なものは、卵の生地とチキンライスの二大要素を作り出す食材。

卵焼きに関しては卵、以上。

そしてチキンライスにはライスと、その他具材と調味料。

まずは具材調味料をぶち込んだライスを炒めてチキンライスを創造。

それと同時にといた卵を別のフライパンに流し込む。

チキンライスを炒める、卵焼きも作る。

両方やらなきゃいけないのがオムライスの辛いところだ。

しかし双方、それほどしくじりもなく綺麗にできた。同時並行的に。

もしかして俺ってマルチタスクなのか?

最後に、チキンライスを卵で包むのだが、これがもっとも緊張する作業。

卵焼きの生地が破れたら台無しだもんな。見栄えもよろしくない。

しかし俺も料理歴が長いし『至高の担い手』もある。

チキンライスは一部のはみだしもなく、ピッタリと卵焼きに収まった!

美しい! あまりにも美しい!

卵焼きの生地の端のヒラヒラまで美しい!

これこそ理想のオムライスじゃああああ!!

しかし逸るな!

まだ、まだオムライスは完成していない!

仕上げとしてオムライスの表面にケチャップをかける!

文字を書くのが通例だぜ!

ではケチャップ文字でもって『Do what you feel in your heart to be right for you’ll be criticized anyway』。よし書けた。

そして最後の最後にオムライスには必ずかけるべき、美味しくなる魔法。

美味しくなーれぇ! 萌え萌えぇえええッッ!! キュンッッ!!

「何してるの旦那様? キモッ!」

ぐはぁあああああああッッ!?

なんでそんな、ありのままのことを言うの!?

これプラティもオムライス作ったら言わないといけないんだからね! それがオムライスのルールなんだ!

「では早速試食を……」

プラティはオムライスに一匙えぐり、卵とライスをまとめてよそい、口に入れた。

「うめぁああああああああああッッ!!」

そして上々のリアクションをくれた。

「何コレッ! めちゃくちゃ美味しい! フワフワした卵の食感に組み合わさってごはんの歯ごたえが際立つわ! ごはん自体にもしっかり味付けがしてあるし、さらに具材が混じって色んな種類の食感も楽しめる! まるで口の中が遊園地になったようだわぁああああ!!」

豊富な語彙力だなあ。

「旦那様、アタシにこれを作れっていうの? とてもじゃないけれど真似できる気が……!?」

大丈夫、プラティならやれるって。

プラティは別にメシマズというわけではない。

普段から魔法薬の複雑な調合もしているし、むしろ料理は得意だろう。

料理は化学ともいうからな。

ただ普段から俺が料理しているから、彼女の腕を振るう機会がないわけで。

やろうと思えばすぐものにできるさ。

プラティにはそれだけのポテンシャルがある。

「よぉーし! やってやるわー!」

かくしてプラティのオムライス修業編が始まった。

「ぎゃーッ! 卵の生地が破れたーッ!?」

「チキンライスを見てる間に卵焼きが黒焦げにーッ!?」

「チキンライスの一部が卵からはみ出したーッ!」

「ケチャップ文字に誤字脱字!?」

「チキンライスにもち米使っちゃったーッ!?」

「これは……チキンライスじゃなくてチャーハンができた!?」

しかし道は決して平たんじゃない。

プラティは何度もしくじり、オムライスの失敗作を作った。

「おいアホ人魚―、食材を無駄にするんじゃねーのだー」

そしてできてしまった失敗作は、ヴィールが美味しくいただきました。

「新作料理の匂いがして駆け付けたのに、プラティのヤツがフライパンを振るっているというのは珍しいパターンだな。お陰で失敗作処理係りに任命されてしまうとは、おれとしたことが間の善し悪しを計り損ねたのだ」

と言いつつヴィール、ケチャップ文字で『チャハーン』と書かれたオムライスをまたペロッと平らげる。

「でもまあ失敗作とはいえ味はいいんじゃねえか? ただ形が崩れている程度の失敗だろ? これで完成でいいんじゃねえか?」

「いいえダメよ! アタシは母親! ジュニアとノリトと……そしていつかはショウタロウに、完璧にパーフェクトなオムライスを食べさせてあげるために、妥協は許さないのよぉーーッ!!」

「完璧とパーフェクトは同じ意味だぞ」

プラティの母性本能に火が付いた。

今の彼女は母親、愛する子どもたちのために最高の料理を提供するのだ、命を懸けて。

その横で俺も、まだまだ余っている食材でオムライスづくりを敢行。

俺は、焼き上がった卵焼きを焼くことはせず、既に皿の上に盛ってあったチキンライスの上にポフッと乗せる。

そのあとナイフで卵焼きに、縦一本の切れ込みを入れると内側から半熟卵がダバァと流れ出た。

ふわとろオムライスの完成だ!

「うおあああああああッッ!? スゲェ今の! 見た目も驚いたし、半熟トロトロ卵がメシを絡んで美味そうなのだぁあああ!!」

続いては、フライパンの上で薄い膜程度に焼けた卵焼きを菜箸で両端から掴み、くるくる回していくと卵が渦巻き状に焼けていく。

それをライスに乗っけて普通よりおしゃれなオムライスが出来上がった。

これぞドレスオムライス!!

「ちょっとぉおおおおおッ! アタシがまだ成功を遂げていないのに応用編へと進まないでよ!!」

プラティが涙目で抗議。

その反動で手元が狂い、割った卵に殻が入ってしまった。

「ぎゃあああああああッッ!? また失敗したぁあああああ!?」

殻ぐらい菜箸で摘み出せばいいんでは?

「ちくしょう台無しだわ!! アタシったらいつもそう! このオムライスはアタシの人生そのものだわ、あたしはいつも失敗ばかり! アタシは色んなことに手を付けるが、一つだってやり遂げられない! 誰もアタシを愛さない……!!」

あーあー、挫折感のあまりプラティがテーブルの下で丸まってしまった。

これは彼女の自己肯定感を上げるためにも、何かしらの手を打つべきだな。

チキンライスを包み込むふわとろ半熟卵のように、彼女を包み込む優しい愛が必要だ。

「ままー美味しいー」

「びみー」

と称賛の嵐を贈るのは我が息、長男ジュニアに次男ノリトであった。

失敗作として脇に置いてあったオムライス一号と二号をバクバクと貪っている。

「ええええええええええええええッッ? ダメよ二人とも! アナタたちにはもっと完璧なオムライスを」

「心がこもってて、おいしいー」

そう、大事なのは完璧な出来栄えではない。

相手に美味しいものを食べさせたいと思う心……思いやりだ。

子どもたちは、母親の優しい心をしっかりと受け取っている。

だからこそオムライスをしっかりと食べれるんだ。

そもそも形がちょっと崩れているだけで、食す分には何の問題もないオムライスだからな。

普通に美味しく召し上がれたわけよ。

「ジュニア、ノリト……! うわぁあああああああッッ!!」

息子二人を抱きしめて、我が子の存在の大きさを噛みしめるプラティだった。

子どもらもいつかこの日を思い出して、おふくろの味といえばオムライスのケチャップ味と思い当たることだろう。

おふくろの味は人それぞれ。

その違いが、それぞれの道を歩んできた人の個性というものなんだろう。

「しかし失敗作のオムライスまだ全然余っている……!?」

「皆呼んでオムライスパーティーでもするしかないのだ」

しばらくは『オムライスいいよー』となりそうな俺たちだった。