軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1197 コウモリの暗躍

ボクはS級冒険者ムルシェラ。

とはいっても最近昇格したばかりで、大手を振ってS級ともいえないニューフェイスだ。

あと一応念のために言っておくと女だ。

ボクが昇格したのは何とも言えない突発的な出来事だった。

ある日、急にギルドマスターから目をつけられたかと思えばトントン拍子で手続きがなされて気づけばS級になっていた。

史上ここまでアッサリS級になれた冒険者もそうそういまい。

そんな経緯だったためボク自身は当然、降って湧いたように冒険者の頂点を極めたことについて困惑するばかりだった。

正直なところ自分は実力不足なんで等級を返上したいとまで思っているが、ボクがここまで上り詰めることができたのは、ゴールデンバット様がビシバシ鍛えてくださったお陰。

その成果を無下にしたらゴールデンバット様への恩を蔑ろにすることになると言われ、最終的に受け入れることになった。

S級冒険者になって数ヶ月。

それなりに実績を積んで、何とかやっていけそうに思えてきた時。

ボクは、あることでギルドマスターへ直談判しに向かった。

* * *

「コーリーのこと?」

現ギルドマスターは、現役時代シルバーウルフと呼ばれていた超腕利きの冒険者だった。

引退からそこまで月日も経っていないために気迫も衰えておらず、ボクなどの新米S級など一睨みされただけで震え上がってしまう。

が、今日はどうしてもおざなりにしておけない用件があったので気力を振り絞って尋ねる。

「そうです、国外の辺境へやったS級冒険者コーリーをいつ呼び戻すんですか?」

コーリーは、ボクとほぼ同時期にS級に昇格した若手冒険者。

そのコーリーが、ここ最近人間国からずっと離れた辺境にこもって戻ってくる気配すら見せない。

「アイツは重要なクエストの最中だ。まだまだ実を結ぶには時間がかかりそうで、戻ってくるのも先になりそうだな」

「ヤツはS級冒険者ですよ! 冒険者ギルドの顔になるべき者です! そんな人材を野良仕事のために辺境に釘付けにしていいんですか!?」

コーリーの出向の理由はその時点で把握済みだった。

農場国なる新設国家を立ち上げるために開拓団を率いているらしい。

そんな地味作業なんて冒険者のやるべきことじゃないだろうに。

よしんばやるとしてもせいぜいA級冒険者に任せておくべきで、花形に就くべきS級を用いるなんて人材の無駄遣いもいいところ。

即刻呼び戻すべきだ! とギルドマスターに具申したいのだが……。

「農場国の存在はこれから、世界のカギを握ることになる」

ギルドマスターの餓狼のように鋭い視線が突き刺さった。

まあそもそも頭部丸ごとオオカミなんだが。

「数十年……下手をしたら数年後の未来。世界の中心はあの農場国になっているかもしれない。そんな重要なエリアに我々も食いこんでおきたい。だから最上位のS級冒険者の一人くらい派遣しておかなくては格好がつかんのさ」

くッ、これが当代のギルドマスターの困ったところだ。

冒険者ギルドの代表なのに政治的に物事を考えすぎる。

そもそも法や社会に囚われず生きていくアウトローなのが冒険者なのに。

シルバーウルフはオオカミの獣人。

オオカミは社会性を持つ獣だからその因子を持つギルドマスターも、そっち方面を重んじるのかもしれないが、冒険者の長としてはどうかと思うがな!

「し、しかし貴重なS級冒険者を長時間拘束するのは、全体的に利益が……!」

何とか精一杯、その程度の反論を絞り出すと……。

「だからキミに期待している。いや、キミのような優秀な人材を見いだせて本当によかった……!」

と心底安堵したように返してくる。

「当初は引退した私と妻の穴を埋められればそれでいいやと思っていたが、ピンクトントンも妊娠出産して休養を余儀なくされるし。それに伴ってカトウくんまで何故か休むし。『今どき男にも育休は認められるんですよ!!』ってなんだそれ……!?」

と泣くように呟くギルマス。

こういう時はさすがにボクも同情が湧く。

「そんな中、情勢を加味してコーリーを長期出向させたら、あとは自由に動けるS級がゴールデンバットとキミだけだ。ホント頼りにさせてもらうからね、いやホントに」

いや、だからコーリーを呼び戻せばいいんじゃという話では……。

「欲を言えばあと一人ぐらいS級がいてほしいんだけど、無闇に昇格させたらかえって大変なことになりかねないからなあ。量は欲しいが質を下げたくない、本当に悩ましい……」

などと独り言ちながらマスター室から出て行ってしまった。

しまった! 上手いこと逃げられた!?

クッソ、ギルマスめ!

押しが強いと思いきや、引く時のあの鮮やかなることよ!

さすがギルマスまで上り詰める程というか、ボクじゃまともに当たってもいなされるだけ。

でもボクにはどうしてもコーリーに戻ってもらわないといけないんだ。

何故ならボクが敬愛するゴールデンバット様も、シルバーウルフとの熾烈なライバル関係によって最強のS級冒険者にまで上り詰めた。

ボクもこれからの向上のために、優良なライバルは必須。

そしてコーリーこそ、シルバーウルフに憧れてS級にまでなったアイツは、ゴールデンバット様の直弟子であるボクと好対照でライバルに相応しいんだ!!

こうなったらギルドマスター相手はやめて標的変更!

コーリーを直接落としに行くわ!

冒険者の中でもガラの悪いヤツらを引き連れて、辺境での仕事の無意味さをちょっと強めに諭してやればコーリーも自覚するでしょう。

自分を高めるためには、本国に帰ってこのムルシェラと切磋琢磨するのが一番いいってね!

そうと決まれば早速行動! フットワークの軽さが冒険者のモットーだ!

その辺にいる勘違い冒険者を二ダースほど揃えて……これだけいれば騒音担当としては充分か。

待っていろコーリー、お前を必ず辺境から連れ戻す!!

* * *

そう思って辺境に乗り込み、コーリーたちと対決してなんやかんやがあり、そしてすべて終わった。

打ち砕かれた。

あまりにも想像を超えたコーリーの成長ぶりに。

久々に会ったコーリーは別人じゃないかと思われるほどパワーアップ。

身体能力も精神力もベテランの域に達する大成ぶりだった。

どうしてこんな外れた土地で大化けすることができたのか?

さすがは我がライバル! と興奮する反面、大きな焦りもあった。

このままではコーリーを呼び戻せず、ずっと離れ離れのまま。

そんなの嫌だ!

何か他に方法は……!?

「ふッ、なんだかこじれた恋の気配がするねぇ……」

誰!?

声のした方向を振り返ると、そこには何の変哲もない女性が一人。

地元住民?

あまりの普通さに他の推測が立たなかったが、しかしそうとも言い切れない独特の雰囲気を醸している。

「おま……いや、アナタは一体?」

「この土地で暮らしている一介の主婦見習いさ……。シャツの汚れが気になって洗濯板に叩きつけてたらすっかり遅れて、アンタと遭遇したってわけさ……。まったく、早く帰ってダンナのために精のつく料理を作ってやらなきゃいけないのにねえ」

はあ。

主婦見習いって何?

「それよりもアンタ、惚れた男に近づくために随分遠回りなことしているみたいだね。恋に燃えるのは素敵なことだけど、順序を間違えたら台無しになりかねないよ」

なッ!? 恋!?

何を言っている? ボクは一人の冒険者として成長していきたいと思って!

そのためにはコーリーという競争相手がもっとも打ってつけで!

「あーあー、やっぱりわかりやすくこじれてるねえ。こりゃ何年か経って『あの時もっと素直になっておけば』って悔いるヤツだ」

何をッ!?

ボクは後悔などしない! あとになって悔いるなど冒険者にとってもっともみっともない行為だ。

「甘酸っぱい後悔も含めて青春なんだろうけどね。まあ娑婆じゃ恋に駆け引きあるようなことを言ってるけれど、大半は幻想さ。色恋を遊びになぞらえたい連中のね。そういう連中に夢を与えてやるのもかつての私の仕事だったんだけど……」

「でもアンタみたいに若くて瑞々しい子には、駆け引きなんて賢しらなものは似合わないよ。当たって砕けるのも若者の特権だ。若いうちに使わなきゃもったいないよ」

アナタは、一体……!?

「若い娘にしたり顔で助言したくなった年増女だよ。アンタの役に立てばアタシの人生にも意味があったと思えるからねえ。とにかく青春の思い出をほろ苦くさせるか甘酸っぱくさせるかは、青春真っただ中の今次第。健闘を祈るよ」

そう言って女性は去っていった。

その歩き方があまりに姿勢よく、威厳に満ち溢れていたのでボクは自然と口から漏れ出てしまった。

「マダム……!」

彼女の言ってることは何一つわからないしわかりたくない気もするけど。

とにかく前に向かって進まなければいけないということだけは確信できた。

誰が何と言おうとボクは諦めない!

コーリーを本国へ連れ戻して見せる!!