作品タイトル不明
1196 二代目オオカミの実力
まず、最初の不可視モンスターはコーリーくんも難なく突破。
彼もオオカミ獣人として鋭い嗅覚を持っている。
モンスターたちの匂いを鋭敏に嗅ぎ分け、匂いによって攻撃のタイミングまで読み切ることができるというコーリーくんは、エネミーの合間を縫ってエリアを駆け抜けていった。
その様を特別スクリーンで干渉し、俺たちは拍手喝さい、粉砕玉砕!
「さすがコーリーくん! 敵が見えないのなんて何の問題もない!」
「さすがオレたちのリーダー!!」
「人柄よし! 態度よし! 礼節よしの理想のリーダー!」
仲間である開拓者たちも大熱狂だ。
「ううう……」
「開拓地に送り込まれたのは、ダメ冒険者じゃなかったのかよ……!?」
さらに押し掛け冒険者たちもコーリーくんの実力に呆然とするのだった。
テュポンが構成した魔力のスクリーンで、開拓地は一大イベントムードとなっていた。
しかし問題はここからだ。
不可視のモンスターゾーンを突破すると、その先に待っているのは床、壁、天井すべてに罠を仕掛けてあるオールレンジオールトラップゾーン。
床を歩いてもダメだし、壁や天井に張り付いてもダメ。だったら空中をホバリングでもしていくしかないが、空気もなんか吸ったらダメらしく、一片の隙間もなく殺意が高すぎる空間だ。
同じS級冒険者のムルシェラさんですら、このゾーンは突破することはできなかった。
コーリーくんは、果たしてどうする?
「フン、無理に決まっているわ!」
そうタカを括るムルシェラさん。
「これまでこんな辺境で冒険もしてこなかったコーリーに、あんなデタラメダンジョンを突破できるわけない! どうせ無様に叩き出されて終わりよ!」
「うーん、やっぱり難易度上げすぎたかな? アホどもを叩き伏せられればそれでいいやと思ってたから……」
テュポンもあまりにも容赦のない自分の行いに今更反省した様子。
しかし投げられたサイはどうにもならない。
吉と出るか凶と出るか、それを決めるのは只今挑戦中のコーリーくんだけなのだ。
「……」
コーリーくんは、エリアの境界で一旦足を止める。
そこから一歩でも踏み込めば鬼畜のオールトラップゾーン。
突入の前に呼吸を整えたいのはわかるが、しかし立ち止まっていても何も進まない。
コーリーくんは、大きく息を吸ってから……。
「かぁああああああああああああああッッ!!」
!?
なんだ? 何あれッ!?
コーリーくんが急にオーラのようなものに覆われた!?
「なんなのあれは……ッ!?」
この唐突なる変化にムルシェラさんも度肝を抜かれた模様。
しかし俺は、コーリーくんのみを包むあのオーラに見覚えがあった。
スーパーサイ……違う。
法術魔法だ。
人族特有の、体内のマナを操作して様々な効果を発揮する魔法。
前の世界で言うところの気功に似ていて、マナ=気を利用した身体強化が主な利用法だ。
コーリーくんも人族なれば、体内の保有マナは多いだろう。
そのマナを操作して噴出、自分の周囲に防護膜のように張り巡らせている!?
「はぁあああああああああッッ!」
そのままオールトラップゾーンへ突入。
その凄まじいスピードのせいか、ほんの少し宙に浮いているのか壁面床面に設置された罠は発動しない。
それどころか空気中に含まれた即死成分も沈黙していて、コーリーくんは元気いっぱいに進んでいた。
きっと体内マナを操作しているせいだろう。
体内マナの操作は、自分自身の生体機能の操作でもある。
肺呼吸どころか皮膚呼吸まで操作して、無呼吸状態でも生体活動を維持して数分間は活動できる。
噴出したマナの防護膜で空気が触れることも阻止して、すべての即死効果を無効にしているのだった。
「コーリーくんは、いつの間に法術魔法を……!?」
しかもあれだけ高度な技は、通常の法術魔法ではありえない。
ノーライフキングの先生が整備した最新型の法術魔法ではないか。
そんなとんでもないシロモノを、どこで修得したというんだコーリーくん!?
「もしかしてアレじゃねえか?」
その質問に答えたのはテュポンだった。
「こないだノーライフキングのヤツがこっちに来て、開拓者たちに『ノーライフキング体操』とかいうのを教えてたけど、それと関係あるんじゃねえか?」
ノーライフキング体操ッ!?
間違いなく先生の仕業だ!
そんな得体の知れないものを気軽に人類に伝えるなんて先生以外に考えられない!!
きっと先生のことだから皆の健康を気遣って、作業中のケガを予防しようとラジオ体操みたいなノリで考えたに違いない!
しかしノーライフキングが考え出した体操だぞ!
きっと気功法や仙法にも通づるところがあって、当人の気を増幅し、自在に操れるようになるためのカリキュラムになりえるってことか!?
先生がまたお手軽に人類のステージを一段階引き上げようとしている!
しかしいくら先生特製の『ノーライフキング体操』といえども、誰も彼も仙人超人に変えることは難しいのだろう。
ある一定の才能に恵まれ、ある一定の基礎が固まった人物でなければああまでデタラメな強化具合にはなるまい。
今のコーリーくんは、まさにS級冒険者に相応しい。
……いや、もはやS級冒険者を超越した存在と言えよう。
「おおッ! コーリーくんトラップエリアを越えるぞ!」
「さすがオレたちのまとめ役! アンタだからこそついていきたい!!」
開拓者たちも大盛り上がり。
そしてさらなるダンジョンの深部へ……。
「……あーッ! マズいッ!!」
そこへ何か思い出したかのように声を上げるテュポン。
「その先はマズい! まさかそこまでたどり着けるニンゲンどももいないだろうと思ってセーフティかけてない! そっちで殺されると本当に死んでしまう!」
えーッ!?
何やってんだテュポン雑な仕事しやがって!
快勝ムードが一転して緊迫に包まれる。
もういいコーリーくん! 戻ってくるんだ!
しかしスクリーン越しに見えるコーリーくんの眼前に立ちはだかったのは、見るからに絶望だとわかる巨大なモンスター!
「あれはおれ様が試みに作ってみた『人間絶対皆殺しにする魔獣』!! そういやダンジョン内に配置していたっけ!」
コラこのアホ竜ぅううううううううううううッッ!
どうするんだ!? コーリーくんの若き命が散らされてしまうぅううううううううううッッ!!
しかしスクリーンの向こう側にいるコーリーくんは不敵な態度を崩さず。
逃げることも怯むこともせず……。
「シルバーウルフ格闘術、奥義……!」
むしろ向かって行った!?
「餓狼夫婦拳ッッ!!」
コーリーくんの鉄拳が、モンスターを粉々に打ち砕いたァーッ!?
爆発四散するモンスター。
いくら体内マナを込めたとしても、ここまでの破壊力を示すとは。
レタスレートに迫るんじゃないかッ!?
「テュポン! ここまで! コーリーくんのダンジョン攻略はここまで! 運営側の不備により強制終了です!」
「わ、わかった!」
ダンジョンから出てきたコーリーくんに皆が殺到し、さらには胴上げする。
今日の勝者が彼であることは、もはやだれにも疑いようのない事実だった。
「さあ、これでわかっただろう。オレはS級をはく奪された敗北者じゃない! ここにいる開拓者たちも負け犬じゃない! ここで自分たちのすべきことと向かい合っているだけだ!」
コーリーくんの怒号は、すべての冒険者に浸透して、その驕りと優越感を吹き飛ばしてしまった。
以後、ここに住む開拓者たちが侮れれることは二度とないだろう。
この開拓地……未来の農場国にS級冒険者コーリーありと、その噂が世界中を駆け巡ることだろう。
凄いぞコーリーくん!
この開拓地での日々は、たしかにキミの血肉となっていたんだな!!