作品タイトル不明
1168 井の中のドラゴン
今日も元気だ、息子たちが可愛い俺です。
こないだの物産展で、やった甲斐があったと思えるものは多数あるが、その中で目玉と思えるものがある。
アレキサンダーさんによる体験版ダンジョン建設。
正確にはアレキサンダーさんの根城であるダンジョン『聖なる白乙女の山』の体験版だが。
アレキサンダーさんのところもたくさんの冒険者さんたちに侵入してもらえるように営業努力をかかさないんだなあ。
しかしこのダンジョン設営、俺たちにとっても大メリット爆発というか美味しい話なんですよ。
なんでかって言うと、ダンジョンってモンスターがあふれ出す危険の源泉である一方、使いようによっては無限の富を生み出す打ち出の小槌でもあるんだから。
ダンジョンという無から生み出されるモンスターや素材。
それらは高値で取引されるし、もっと直接的に人々の生活に役立つ。
これまで農場国内にはダンジョンがまったくなく、それはそれで危険がないということで安心できるが、同時にダンジョン由来の素材がまったく採れないというのはシックリこなかった。
ノーリスクノーリターンもちょっとな……という感想。
しかしながらアレキサンダーさんのところでダンジョンを作ってくれるって、これほどいい話はない。
体験版ではあるけれども、その大元となっているのがアレキサンダーさんの『聖なる白乙女の山』。
数あるダンジョンの中でも最優良と言われる『聖なる白乙女の山』だよ。
主側でしっかりと管理されているからモンスターがあふれ出す危険もなく、そして湧出する素材は量も質も完璧。
体験版であろうとも、元のポテンシャルが一千万なら、その千分の一は一万だ。
他の一般的なダンジョンよりよっぽど性能が高い。
そんな有料施設が設置されるなんて我が街にジャ○コが参入してくれるようなものじゃないか!
いや、今の時代はイ○ンか?
どっちにしろ街おこしの材料にもなるし、縮小版とはいえアレキサンダーさんのダンジョンがあるとわかれば世界中の冒険者がそれ目当てに集まってくること請け合い。
外貨獲得のチャンスだ!!
というわけで本日、詳しい話を詰めにやって来られるアレキサンダーさんたちを俺は全力歓迎のかまえで待ち受けていた。
「さあ! いつでも来い!」
そしてアレキサンダーさんがやって来た。
ドラゴン姿で飛来。
いつもながら純白に輝く荘厳なお姿だ。
その後ろについてくる、やや小さめなドラゴンもいた。
誰だ?
着陸したドラゴンたちは、すぐさまコンパクトに姿を変えて人間形態に。
「聖者よ参ったぞ。わざわざの出迎え痛み入る」
いえいえ、それはホストとして当然の振る舞いですんで。
アレキサンダーさんのことは首を長くして待っていましたよ!
しかし、アナタの後ろにおられるもう一体のドラゴンは?
なんだか可愛げのない少女の外見ではあるが……なんて言うんだろうこういうの? クソガキ?
あと、今日は家令さんは同伴していないんですね。
「今回は、そなたの領域に体験版ダンジョンを作ることを許可してくれて感謝する。人の出入りの多いこの場にダンジョンを設置すればきっと多くの者が利用し、大元となっている我がダンジョンの知名度も上がることだろう!!」
そうですね!
進出する企業、受け入れる地元、互いに利益があってのwin-winな試みですよね。
「して……早速だが紹介したいものがいる。以下に体験版と言ってもそれを管理する者が必要かと思ってな」
管理する……ですか?
もしや、そこに連れてきた女の子が?
「さすが聖者、察しがいいな。そなたも面識があるとは思うが、ウチで扶養しているテュポンだ」
テュポン!?
あの不死山の山頂から出てきた!?
あぁ、久しぶりー。
随分しばらくぶりだから忘れてたよ。そういやお前アレキサンダーさんの世話になってたんだったな。
ここ数年まったく音信が伝わってこなかったからまた眠ってしまったかと思ったよ。
「うるせえ! ガイア神がドラゴンの在り方を変えてしまったってのに、おれ様がわざわざ眠りにつく必要ねーだろ!!」
言われてみればそうか……?
コイツが不死山でずっと眠り続けていたのは、神が傲慢になって世界をめちゃくちゃにしようとした時に目覚めるための最後の安全装置だったわけだけど、現状神々は大人しいし、もういいだろっていう神々の大元締めガイア様の御判断だからな。
「しかし問題なのは、コイツ自分の役割がなくなれば新しい使命を探そうとすればいいのに、そんなこともせずダラダラゴロゴロしているということだ。さすがにこのままではいかんと思ってな、これを機に役目を与えることにしたのだ」
とアレキサンダーさん。
表情に気疲れが溜まっている表情をされた。
「何しろ数千万年もの間、中途半端に最強でいたことで世のことわり仕組みをまったく学ばず今日まで来てしまったドラゴンだ。同課聖者のところで社会経験を積ませてくれぬか? 頼む!」
と頭を下げるアレキサンダーさん。
その様子は、ニートを何とか社会復帰させようと知り合いに頼み込む親のごとし。
……最強竜なのに、なんで進んで気苦労をしょい込むんだろうか?
そんなアレキサンダーさんの心労も知らず、当のニート本人が不満げに抗議する。
「やいテメエ、最強生物ドラゴンが簡単に頭を下げんじゃねえ! しかもニンゲンなんか下等生物によ! しかもテメエは、このおれ様を倒した最強の中の最強! その誇りはねえのか!?」
誰のために頭下げてんだというこの状況で吠えるものよ。
「だまらっしゃい」
「へきゃんッ!?」
アレキサンダーさんがテュポンの額をぺちんと叩くと、その向こう側をソニックブームが駆け抜けていった。
「ヒトに頼る時は、頭を下げて頼み込むのが礼儀というものだ。そこに強さは関係ない。
そうだそうだー。
大体アレキサンダーさんが誰のために頭を下げているのかちゃんとわかっているのか?
本来なら下げなくてもいい頭を下げてるんだぞ?
「ふ、ふん! 別におれ様が希望したわけじゃねえ! おれ様の方こそ頼まれて仕方なくやってるんだ! たった一度でもおれ様を負かせたことのあるアレキサンダーだからこそ言うことを聞いてやるんだから、その便乗で言うことを聞かせるなんて思わねえことだな最弱ニンゲンが!!」
うーぬ、この傲慢さ。
もはや慣れたもののドラゴンのテンプレリアクションだな。
よかろう。
こういう時ドラゴンに一番効くのは、こちらも強さを示すことだ。
というわけでヴィール、頼みます。
「よさこいなのだー」
現れた、我が家のドラゴン、ヴィール。
コイツも平時は対外だが、こうしたテュポンの暴虐ぶりを見てからだと途端に良識派に見えてしまうから不思議だ。
「話は聞いているのだ。今回はこの勘違い竜に世間の厳しさを教えてやれないいんだな?」
「テメエとも前に会ったな? ちょうどいい、おれ様の強さを示す犠牲になってもらおうじゃないか。アレキサンダーに負けても、テメエを倒して通算成績一勝一敗のイーブンに戻してやる!!』
言いながら姿をドラゴンに変えるテュポン。
『その挑戦、受けて立つのだー』
ヴィールもドラゴン形態となって迎撃態勢を整える。
『ぐわっはははははは! やすやすとおれ様との勝負に乗った迂闊さを恨め! このプロトガイザードラゴンのテュポン! すべての竜の祖にして最強という看板はいまだに下ろしてはいないぞ! あのアレキサンダーが最悪すぎる例外というだけで、それ以外のどゴンがおれ様に敵うものかー!!』
『ドラゴン族奥義! ハルモニアデストラクションなのだー!』
『ぐえぇええええええッッ!?』
テュポンさん、瞬殺。
まったくいいとこなしで、ヴィールの圧勝だった。
『例外が一つだけなんて誰が決めた? おれ様も、ご主人様に従うことで含蓄を積み、ジュニアへの愛で大パワーアップを果たしたドラゴンなのだ。愛はすべてを凌駕するのだー!』
「実際、今のヴィールの強さは私を除けばドラゴン族最強だろうからなあ」
アレキサンダーさんの解説が加わる。
『ぐおおおおおお……? このおれ様が、世界最強のプロトガイザードラゴンであるテュポンが、二度の敗北を?』
『せっかくだから、もっと敗北のおかわりをすればいいのだ』
『え?』
『死体モドキよ出番だ、コイツにさらなる敗北をプレゼントするんだー!』
ヴィールの呼びかけに答えて、黙々と瘴気を噴出しながら現れるノーライフキングの先生。
瞬間移動? もしやヴィールが召喚術使った?
『ふん、何をするかと思えばそんな死体なんぞを呼び出して! いくら何でもドラゴン族以外に、このプロトガイザードラゴンであるテュポンが敗れるものか!!』
『同時術式展開、暗黒呪縛固め&獄熱炎殺蒸し』
『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?』
また瞬殺された。
よく考えたら、コイツ初登場したての頃ノーライフキングの老師にもやられていたんだから、その老師と同格の先生にも敵うわきゃないよな。
『な、なんで……!? ドラゴンは最強種族ではないのか? 同族内ならまだしも、他の下等生物にまで遅れるなど……!?』
『我らノーライフキングの中にもそういうのがいるが、自分が最強などと驕り高ぶってもろくなことはないぞ。いかなる強者の上にも、さらに強大な誰かが聳え立っているものだからな』
『うごごご……認めん、認めんぞ。コイツもまた例外なだけで、それ以外は誰もおれ様の領域を侵せない。おれ様こそ最強の……』
『やれやれ、そういうことであれば、もっと例外を増やしてやるとするかの』
先生、杖を振り上げて何かしら呪文を唱える。
え? また誰かを召喚?
もはやテュポンお仕置きリレーになっているじゃないか?