作品タイトル不明
1169 初バイト
先生に召喚されてやって来たのはホルコスフォンとレタスレートのお馴染みコンビ。
「マナカノン限定解除、メギドアーク殲滅斉射、納豆菌付与アタックです」
『ぐおおおおおおおおおッッ!?』
「マメテオ!」
『あぐぁああああああああああああああああああッッ!?』
ホルコスフォンが展開した、何百というマナカノンの一斉斉射に……。
そしてレタスレートの究極殲滅魔法に押し潰されてテュポンはまた敗北した。
天使であるホルコスフォンはまだしも、なんでレタスレートまで圧倒してんの?
『どうじゃわかったか? 世界は広い。ありえぬ例外だと思っているものも、ありきたりな木石のようにそこら中に転がっている。それを知りえぬこと自体、ぬしの精神が未成熟な証拠じゃ』
「ううう……ッ、でもおれ様は、最古にして最強のプロトガイザードラゴンなのに……!?」
『新しいは古いより強い、それが進化というものじゃ。古きが新しきに勝るには、先にスタートした利点を活かし、より多くの研鑽を積んだ場合のみ』
本当になんでテュポンを倒せる方々がこんなにいるんでしょうね?
一応、神に対する最終兵器扱いなのに。
しかもその関係者が皆、農場関係者であることが怖い。
既に人間形態に戻っていたテュポンはすっかり打ちひしがれていた。
『だからこそ聖者様の下で働くことは、うぬにとってよい影響を与えるであろう。知識も力も、経験によって蓄積されるものだからな。今までに類のない経験を積むことこそ成長を促すものはない』
「それはッ!? ここで働けば世界最強になれるってことか!?」
『少なくとも昨日の自分よりは強くなれるであろう』
上手いこと言ってニートをその気にさせる先生。
さすが歴戦の教育者。問題児の扱いが上手いな。
「よぉし! そういうことならこのおれ様が! ダンジョン一つ完璧に管理してやらぁ! プロトガイザードラゴンの力を舐めんなよ!!」
「おお! テュポンが前向きに社会復帰を!? 農場の者たちに相談して本当によかった!!」
アレキサンダーさんが感涙に咽び泣いていた。
まさにニートを更生できた親御さんのよう。
「まあしかし、テュポンを更生させるためだけに体験版ダンジョンの管理をやらせたいわけではないぞ? 普通ダンジョンはマナ溜まりが起こる場所に発生する。地形的にマナが溜まりにくい場所には、我らドラゴンなどが大量のマナを注ぎ込んで人為的に発生させるしかないわけだ」
うん。
それ前にも聞きました。
「しかし条件に合わない地形は、大抵開けた平地で、そういうところは絶えずマナが霧散し、現状維持は極めて難しい。そりゃちょっと離れるぐらいならもつだろうが、基本私がいない離れた場所にダンジョンを作ったら、何回もこの場に来てマナを補給していかねばならん」
それは面倒臭い……。
アレキサンダーさんには本拠となるダンジョンもあるんだから、そっちもおろそかにできないし何度も往復しなきゃいけなくなるな。
「だから体験版のダンジョンといえども専門の主がいた方がよいのだ。その点テュポンほど適任はおらぬぞ。普通自分のマナだけでダンジョン維持を賄いきるなどドラゴンでも不可能だが、テュポンなら充分それが叶う」
アレキサンダーさんも考えて、あのニートを抜擢したってことだよな。
本当ならドラゴンの中でも自前の能力でダンジョンを作り出せるのは皇帝竜ガイザードラゴンだけだという。
ならば原始皇帝竜とか大層に言われているテュポンでも可能は可能だろう。
「つまり、体験版ダンジョンの管理者としてもっとも適切なテュポンに社会復帰を促すことも叶って一石二鳥の人選というわけだ!!」
「よっしゃ! そういうことならおれ様に任すのだ!!」
アレキサンダーさんだけでなく、ヴィールもまたハイテンション。
「マナを送り込んでダンジョンは完成……なんてわけねえ! 作り上げてから維持することも大事な要素なのだ! そこのニートにはそんなノウハウわかんねーだろうから、ダンジョン経営の先輩であるおれが手取り足取り教えてあげるのだ!!」
こういう時になるとバリバリに先輩風吹かせたくなるヴィール。
ちなみに先生とホルコスフォンとレタスレートは、用が済んだと判断してとっくにお帰りになった。
「おお! 頼りになるな妹よ! さすが聖者の下で人間をよく学んでいる勤勉なるドラゴン!!」
「はっはははははは! それほどでもあるのだ! 安心するがいい兄上、このニートはおれの丹念なる指導と教育と修正によって、世間様に恥じないドラゴンへと変えてみせるのだ!!」
あんまりテュポンのことをニート呼びしてたら定着するぞ。
『ニートってテュポンのことだっけ?』ってなるぞ。
「ふわははははは! たかがダンジョンの管理一つ、このプロトガイザードラゴンのテュポンにかかればどうということもない! 完ぺきにこなしてやるわ!」
「このおバカーッ!!」
「ぐえッ!!」
ヴィール魂の一撃がテュポンのみぞおちを貫く。
体罰はダメだヴィール! 体罰は!!
「労働を甘く見ていると痛い目に合うのだ! 労働とは、雇用者の要求に応えて、その対価として賃金をもらうこと! お金が動くという状況そのものに責任が発生するのだ!!」
……なんだろう。
至極真っ当なことを言っているんだが、ヴィールが口にするとこれほど違和感のあるセリフはないな。
「それでなくとも、ここにできるダンジョンはご主人様の役に立つかどうかで存在感が変わってくるのだ! お前も働くからには評価されたいだろう! だったら懸命に頑張るしかないのだ!」
「そ、そうだな! プロトガイザードラゴンであるおれ様の実力を全員に認めさせなくては! よし、ダンジョンを世界一大きくして、誰も彼もに認めさせてやるぜー!」
かくして経営シミュレーションが始まった……!
……違う。
あくまでアレキサンダーさんところの体験版だからね?
だから適度に加減はしてよ?
「それではまず、ダンジョンを運営するについて必要なことを教えていくのだ! まず何より大切なのは挨拶!『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』は最低限ラインだ!!」
「い、いらっしゃいませー!?」
早くもなんか脱線した感がある。
「そして次に大切なのが店内の雰囲気をよくすること。気持ちよく利用できない店にお客さんが入ってくるなどありえないのだ! 雰囲気をよくするために必要なのは清潔であること! 明るいこと! そしてできる限りスペースに余裕があることだ!!」
「たッ、たしかに汚くて暗くてギチギチ狭苦しいところじゃ落ち着けないからな!」
「ウッソーとしているのだ!」
ヴィールの言うことは真っ当で頷けるところはある。
ただダンジョンに関係しているかというと……?
「だからこそダンジョンの整理清掃は厳に行わなければならない!! 一番効率いいのはスカベンジャーモンスターを徘徊させることだな。アイツらは汚れを勝手に食べてくれて自動で動くのが助かるのだ!」
「な、なるほど……!?」
「かと言って主みずからが注意を払わなくていいわけじゃないぞ! 最低週一回は自分でダンジョン内を見回って異常がないかを確認するのだ! あとダンジョンの内装にも気をつけろ! 明かりを絶やさず、通路も二パーティが余裕ですれ違えるくらいに広さを保っておくのだ! ここ手を抜くと途端に利用者から嫌われるのだ!」
案外ダンジョンと関係あった。
ヴィールのヤツそんなこと気にしながら自分のダンジョン運営していたのか?
たしかに農場にあるアイツのダンジョン、入るごとに使いやすくなってるな……とか。
たまに外の別のダンジョンに潜ると、ビックリするほど進みにくいと感じることもあったが……!?
「ふぅむ、勉強になるな」
アレキサンダーさんまで傾聴している!?
「次に大切なのは品出しとフェイスアップだ!! ダンジョンに入る者どもは、ダンジョン内に湧き出る素材や、モンスターを目当てにやってくる! いわばヤツらが潜る意味! だからこそ絶対に途絶えさせてはいけない!!」
「おお!」
「採取や討伐されたら速やかに、次の素材を並べるのだ! 棚に置いてありませんなど言語道断! 誰でも『○○ありますか?』と聞いてくるわけじゃねえ! そこで諦めて退店してしまうお客さんだっているのだ! その分チャンスをロスしてしまうということ! 手痛いミスなのだ!!」
そこにないなら、ないですねぇー。
「そしてダンジョン内にある素材やモンスターは、常に見やすく陳列することが大事! 手が空いたら見て回って、後ろに下がっている素材を前に出して見やすくする! それをフェイスアップというのだ! 覚えておけ!」
「フェイスフラッシュ!?」
なんかだんだんコンビニバイトみたいなノリになって来たんだけれども。
しかしヴィールの言っていることはダンジョンを運営することに対して実に的確で性質な対応に思えた。
世のダンジョン主はこうやって冒険者たちを迎え撃っているんだなあ……。
……いや、そんなわけないだろ。
ダンジョン主から見れば冒険者なんて即ち侵入者であるからな。
絶対に逃さず仕留めてやろうという気にはなるだろうが間違っても歓迎しようという気は起らないはず。
それが当たり前のように利用しやすいダンジョンを目指そうとしているのは……。
目の前にいるこの連中がひたすらに特殊なだけだ。
……まあ、ノーライフキングの先生もこの中に加わるかもしれないが。
そんなことを物思っているうちに指導を受けているテュポンちゃんは段々と目をキラキラ輝かせて……!
「よし、学んでみればダンジョンの回し方なんて簡単だ! 大したことねー! 見ていろおれ様の手で、ここのダンジョンを世界一に押し上げてやらぁー!!」
いや、ここに立てたいのはアレキサンダーさんのダンジョン体験版なんだが。
ドラゴンって、途中で趣旨を忘れる人が多すぎじゃない?