作品タイトル不明
1167 原始竜の今
おれ様はプロトガイザードラゴンのテュポン。
原初にして最強のドラゴンだ
元々ドラゴンは、神々の誅罰者として作られた。
神々が傲慢となり、この世のすべてを思い通りに荒らし壊さんとした時に現れる最後の歯止め。
傲慢な神に対する抑止力として、すべての根源……万象母神ガイアが生み出した究極の暴力装置。
それがドラゴンだった。
おれ様は、その中でも飛び切り得意なる存在。
通常のドラゴンが世界に住み着き、代替わりを繰り返しながら神々を監視し、場合によってはけん制する。
そういった役割をもって、おれ様以外のドラゴンは悠久の時を死に生まれ存続してきたのだ。
対しておれ様は、プロトガイザードラゴンであるおれ様は最終最後の剣だ。
万が一にも、驕り高ぶる神々の力がドラゴンすら凌駕し、不甲斐なくも地上のドラゴンすべてが駆逐された時。
地の底に眠っていたおれ様は大復活を果たし、愚かな神々を一方的に虐殺するのだ。
恐れなどない。
最強究極のドラゴンたるおれ様は、地上の通常ドラゴンすべてを合わせたより数十倍の強さを持つのだから。
神々がどんなに屈強だろうと、何千匹に増えようとも後れを取ることはない。
このおれ様が復活した時、それは世界滅亡の時だ。
おれ様がこの世に現れたときは神々との最終戦争が始まる時なのだから。
おれ様はおれ様に課せられた役目に従って神々を一匹残らず皆殺しにすることだろう。
そして、神殺最強者たるこのおれ様の戦いに、ちっぽけな世界が耐えられるはずもない。
余波によって崩壊し、どの道この世界は戦いのあと塵も残らぬだろう。
そうしてすべてが無に還ったあと、おれ様は新たな世界を創造し、今度は自分が神となって頂点に君臨するのだ。
それがおれ様のありようだ。
そして数年前……おれ様はついに復活した。
神々の傲慢が頂点に達したのか?
どちらでもいい、おれ様はおれ様の役割を遂行するのみだ、原初の皇帝竜としての権能を全開にし、世界を地獄に変えたのちに完全無欠に消滅してくれるわー!!
……と思ったのだが……。
* * *
「……おい、テュポンよ」
「んー?」
「いい加減部屋を片付けんか」
「んー」
アレキサンダーめ煩いヤツだ。
毎日必ずやってきては、おれ様の座所へやってきてはネチネチ文句を言ってくる。
「お前が我がダンジョンに住み着くようになって早数年……。何もせず食っちゃ寝ばかりではないか。少しは何か能動的なことをしてみたらどうだ?」
「うるせー! おれ様は最強ドラゴンだからなー! いつでも好きなように振る舞うんだよー!!」
おれ様は、口の中に含んでいたフルーツの種を飛ばしながら叫んだ。
このドラゴン野郎!
おれ様の子孫にあたるクセに何を保護者面してんだ!?
大人ぶってて腹立つ!!
『アナタの振る舞いを見ていれば、どちらが大人かなど判ずるまでもありますまい』
「げげッ!? 家令!?』
アレキサンダーに忠実なアンデッド!?
ドラゴンのくせに不死者の部下まで引き連れてくるなんてドラゴンらしくないんだよ!!
「さもあろう、自分がドラゴンらしくないドラゴンというのは百も承知。父上ともその件で何度も言い争った」
『しかしそれこそアレキサンダー様の最大の魅力ではありませんか。ドラゴンらしからぬ慈悲と慈愛で溢れているからこそ、私はアナタ様にすべてをとしてお仕えしようという気になるのでございます』
うるせえ!
イチャイチャするなこの主従!?
たしかにアレキサンダーは、あまりにもイレギュラーすぎるドラゴンだ。
残虐と暴虐。すべてのドラゴンが備えるべき二大美徳を、コイツは欠片も持ち合わせていないどころか正反対の慈悲と慈愛で満ち溢れてるんだから。
それだけならただの軟弱ドラゴンと笑っていいのに、それ以上の異常性があるんだからアレキサンダーは異常だ。
そう、コイツは強いんだ。
世界に存在するどんな存在よりも、桁違いをも遥かに超えて次元違いに。
このおれ様ですら、かつて戦いを挑んで一方的にボコボコにされた。
存在消滅される寸前まで押し込められて、もう二度と逆らわないというべき恐怖を植え付けられ、ベキベキベキに心を折られまくった。
それ以来、おれ様はコイツの住処で暮らしているんだけども……。
『アナタ様は、我が主に敗れて以来のんべんだらりとしすぎです。まったく身なりを整えもせずに、女の子なんですから外見には気を配ってください』
うるせーな!
おれ様の人化した姿を言ってるのかもしれねーが、ドラゴンにとって人化など仮の姿なんだよ!
子どもだろうが大人だろうが、女だろうが男だろうが関係ねー!
「そうか? 少なくとも竜の人化の術には少なからず、術者当人の精神状態が反映されているものだがなあ」
『だからアレキサンダー様は、威厳ある壮年の姿で人化されるわけですな?』
「父上などは童子の姿だしな。現存するドラゴンの中では最年長であるはずなのにどうして大人の落ち着きが伴わぬのか……?」
うるせえなあコイツら。
アレキサンダーが白髪ジジイの姿で人化するのは精神年齢が厳かすぎるってことだろうが!
それに対しておれ様は……幼いってこと?
「そのように思春期真っ盛りの乙女の姿ではなあ」
『こちらの保護本能が刺激されますよ。だからこうして口酸っぱく注意したくなるのですが』
煩い大人!
お前らどっちも口煩くてお母さんみたいなんだよ!
なんでおれ様が子どもみたいな扱いなんだ? すべてのドラゴンより最初に現れた原始皇帝竜だぞこちとら!!
「古いとか年長とかにまったく意味が伴わないのがいかにもドラゴンらしい。強くて万能な分、精神に成長が伴わぬのだ」
わかった風な口ききやがってぇ……!!
「まあよい。テュポンよ、そこに座りなさい」
ん? 何だ改まって?
「お前が住み着くようになって数年の月日が経った。お前という存在を初めて知った時は衝撃であったが、同時に腑に落ちるところも大きかったよ。ドラゴンという存在がいかなるものか。……ドラゴンに何の意味があるのか、ともいうな」
意味か。
ドラゴンはいちいち意味など考えない。矮小でくだらないことだからな。
そんなことを気にするアレキサンダー自体が、やはりドラゴンにあるまじきドラゴンなのだろう。
ドラゴンの失敗作とも言えるが、その失敗作こそが従来を遥かに超えた異常能力を得るに至ったんだから不思議なことだ。
「竜とは、傲慢なる神々の監視者であり、最終的には処刑執行人でもある。そのために竜は不毛な殺し合い……共食いを何度となく繰り返してきた。しかしその時代も終わった。我らの祖たる万象母神ガイアが、我らにその任を解いたのだ」
ああ、知っている。
その話を聞いたときはおれ様も驚きすぎて、何も考えられなかった。
竜は、もう役割を持たないのだ。
意味はないのだ。
では、どうすればいい?
「今や竜はただの一つの生命となっている。人と同じように。ただ生きるために生きるのだ。それで飽き足らなければ、さらに別の目的や意味を付け加えることもできる、人と同じように」
『アレキサンダー様は、アナタにもそのように自分だけの目的を見つけることを推奨しています。仮にそうでなくても、何もせずただ食っちゃ寝しているだけの今の状況は怠惰であり改善すべきです』
だからうるせえぞ不死者が!
この原始皇帝竜たるおれ様に意見とはいい度胸じゃねえか! だったら力づくで従わせてみろや!
ぐわー! やられたーッ!!
「ほんの一部ではあるが私の力を貸し与えている家令に、お前では勝てない。自分を叱ってくれる年長者がいることを幸福に思うがいい」
くそッ、純粋にはおれ様の方が年上なのに……。
『もっと安直な言い方をすれば「働かざるもの食うべからず」です。テュポンよ。アナタもこの世界に生きる一員として、生きるために労働をしなさい。それが万物生きとし生けるものの役目ですよ』
「それでだな、私たちはお前にちょうどできそうな仕事を用意してみた。試しにこれを勤めてみないか? 今までとは違うものが見えてくるかもしれんぞ?」
アレキサンダーは優しく、家令は厳しく。
役割をちゃんと分けているところがムカつく。
それ相手に言うことを利かせる常套手段だろ!
飴と鞭ってヤツだ!
それで、ヤツらの持ってきた仕事というのが……。
――『体験版ダンジョンの運営管理』
なんだこれ?