軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1004 新たなS級冒険者誕生

冒険者ギルド、応接室。

そこに招かれたボク、ムルシェラは突如として対面に座るシルバーウルフさんからの襲撃を受けた。

「シルバーウルフ格闘術・ 狼牙崩崩拳(ろうがほうほうけん) !!」

「うッ!?」

完璧な不意打ちに、何とか反射神経だけで対処を間に合わせる。

しかしそれも際どいところで、高速で繰り出される連続パンチを五発ぐらいまでは凌ぎ切れたがそれ以上はキャパを超え、後ろに飛びのくことで難を逃れた。

座った体勢からだったので無様に転げ回りながらだが。

「さすがの対応速度の速さだ。まさか凌ぎ切られるとはな。一線から退いたとはいえ、まだそこまで技も錆び付いていないつもりだったが……」

何を仰る。

今の連続パンチ、すべてを捌き切ってこそ『凌いだ』と言えるのに、ボクは耐えきれずに転げ落ちちゃいました。

そうして体勢も崩れきったところに追撃が来たら間違いなくやられていました。

さすが元S級冒険者、しかもゴールデンバット様と肩を並べた強豪シルバーウルフ様と言わざるを得ない。

そして……。

「いきなり不意打ちなんて失礼極まる行動は、ボクの実力を図るためですか?」

「さすが現役冒険者は察しがいい。これで暴漢呼ばわりでもされたら今度は私の方が大ピンチだからね」

「妻立会いの下でも庇いきれないにゃーん」

唐突なる実力計測なんて冒険者業界ではよくあること。

特に、まったく予測できない状態からの突発事態の対処で、冒険者の実力は九割が知れるという。

だから冒険者にとってはいきなり殴りかかられるなんて本当に日常茶飯事なのだ。

「それで……、いきなりボクの実力を図ってギルドマスターは何がしたかったんです?」

シルバーウルフ様答えて言うには……。

「さすがはゴールデンバット掌中の珠というべき実力だな。大抵の冒険者なら私に不意打ちされて対応できるものではない。精々二、三撃ぐらいまでなら耐えられようが、それ以上は顔面パンチを食らって終わりだ」

「ムルシェラちゃんは五撃まで支え切れた上に、それ以上は無理と判断して飛びのく判断をして、しかも実行できたにゃん。冒険者として上々の対応速度と判断力にゃーん」

「現役のA級冒険者でも、ここまで適切な対応ができるヤツはそうそうおらん。A級という括りの中においても、キミが抜きんでた存在であるという証明だ」

ギルドマスター夫妻が口々に賞賛してくるけれど、どう応えていいものかボクにはわからない。

しかも結局、この人たちがどうしたいのかがまだわかっていない。

「で、肝心の結論だがムルシェラさん、キミを新たなS級冒険者に昇格させたい」

「んッ?」

……んッッ!?

何ですってボクの聞き間違いでしょうか!?

S級とか昇格とかなんか言った!?

「昨年、大規模なS級昇格試験を実施したものの、結局合格者はたったの一名。私とブラックキャットの抜けた穴を補うにもまったく足りない」

「せめてもう一人、新人を抜擢して頭数だけでも揃えたかったにゃーん。なので試験で取りこぼした有望株を兼ねてから探していたにゃーん」

それでボクがお眼鏡に適ったと?

まさかッ!?

「無理無理無理無理無理無理ッ! 無理ですよッ! ボクなんかに最高位S級は務まりません!」

さっきの不意打ちも結局防ぎきれなかったし。

元S級であるシルバーウルフ様の攻撃、最後まで対抗しきれてこそS級相当の実力ってことじゃないの!?

「自惚れるにゃーん」

ブラックキャット様が、鋭く言った。

「同等級の冒険者でもピンキリ分かれるにゃん。おみゃーさんはA級の中でもなかなか抜きんでて『見込みアリ』と言われてるにゃん。S級の中に入れたらまあ期待値込みで合格点をやれる水準ってとこだにゃーん」

容赦ない採点……!

でもこれぐらい厳しくてこそのS級冒険者……!

「S級冒険者だって実力ピンキリにゃん。かく言う私も現役時代、シルバーウルフにもゴールデンバットにも勝てる気がしなかったにゃーん」

「S級として最低限の水準さえ満たせていればいいのだ。現段階ではな。ムルシェラさん、キミに関して言えば実力は備えている上にまだ若く伸びしろもある。これからS級ならではの経験を積んでいけば見る見るうちに成長して押しも押されぬ最強冒険者の一角となれると思う」

「こないだ採用したコーリーくんと同程度の段階にゃんねー」

と口々に誉めそやしてくれるギルドマスター夫妻。

そんなにも評価してもらえるなんて……。

……いやいやいやいや!

かといって流されるわけにはいかない!

ボクにはゴールデンバット様を補佐するという、生涯を懸けた使命が!

自分がS級冒険者になるなんて恐れ多い!

ゴールデンバット様と同格なんて!

「あのあの……過大な評価をいただき大変恐縮ながら、ボクはゴールデンバット様のサポートをすると心に決めておりますので、過ぎた身分は荷が重いと言いますか……!」

「ゴールデンバット様のサポート役はクビになったのだろう?」

うッ!?

それを言われると……!?

「でもそれは……あくまでお芝居というか……追放逆転ざまぁを決めるための練習というか……!」

「では当のゴールデンバットに聞いてみようではないか。本人不在で話を進めても仕方ないしな」

「ええッ!?」

「キミが、ヤツの意思を確かめない限りは決められないというなら、確かめるまでだ」

そう言って席を立つシルバーウルフ様。

部屋から出て向かう先は……やっぱりゴールデンバット様の下!?

* * *

「……お、やっぱりここにいた、おーい」

ゴールデンバット様のは有名人なので目立つ。

目立つから探せばすぐ見つかる。見つからない場合は、どこかに冒険に出ている時だ。

「おりゃああああッ! この腑抜けどもが! そんな腕前でこのゴールデンバット様の手足が務まると思っているのかぁああああッッ!!」

「「「ひぃいいいいいいいッッ!?」」」

ゴールデンバット様、何やってるの?

何やら冒険者らしき若者数名を、木剣持って追いかけまわしている?

「おいゴールデンバット、何やってんだお前?」

シルバーウルフ様も同じ疑問を持ってくれたようで、代わりに尋ねてくれるのは助かった。

「あぁんシルバーウルフか? 貴様こそ何しに来た? オレはこのヒヨッコどもを鍛え直すのに忙しいんだ!」

鍛え直す?

……ああ、助手であったボクの抜けた穴を埋めるために。

「追放再現計画の一環で、ああいうのをやってみたくてな! 追放したヤツの代わりに雇ったのがまったく役立たずで、『実はアイツ有能だったんでは?』というヤツ!!」

「ほえー、で、目論見通りにいきそうか?」

ゴールデンバット様の方でも追放の流れを追う努力をしていたんですね!

あんなペーペーな若僧、これまでボクが行ってきた完璧なサポートには遠く及ばないでしょう!

「どいつもこいつも微妙で困る! あっちのロギーは偵察能力だけならムルシェラに迫らんこともない! こっちのインサスは戦闘面だけでムルシェラの代わりは務まるだろう! コギンボーは後方支援で見込みありだな! つまり三人合わせて何とかムルシェラ一人分といったところだ!」

はー……。

はあ? 普通だったら全然敵わないとなるところを、数人束ねれば何とか及ぶ当たりボクの有能さが中途半端ってことか……!

「それでコイツら一から鍛え直しってところだ! 一点特化型など実戦では何の役にも立たんからな! 自分一人である程度何でもこなせてこそ真の冒険者だ!」

「それもそうだな。協力団結は最低限一人前の力を備えてからだ。ゴールデンバットお前もS級冒険者なんだから後進の育成にも力を注いでもらわないと……って言おうと思ってたところに前向きになってくれたのは幸いだな」

「んあ?」

「意外とその方の才覚もあるらしいからなお前は、こうしてS級に通用する人材を育て上げるんだから」

シルバーウルフ様とゴールデンバット様の視線が同時に向いた。

ボクに。

「ほうほう、S級昇格とはムルシェラよ、追放後のサクセスストリーを順調に駆け上っているようだな! さすが我がサポート役! オレも負けてられん! 模範的な追放側として没落し、その経験をバネにして今度はみずからが追放逆転をなしとげるのだぁーッ!!」

「お前は何を目指してるんだ?」

シルバーウルフ様のもっともなツッコミ。

しかしボクには別の要因でそれどころじゃなかった。

これ、S級への昇格を断れない流れ?

たしかにゴールデンバット様から追放された私がすぐさまS級に昇格できれば、この上ないサクセスストーリーだが。

ボク、図らずもゴールデンバット様の期待通りに動いている?

「……しかしこういう分野でも、図らずに最上の結果を叩き出すんだなヤツは。それで助かるという事実もあるだけに怒っていいやら喜んでいいやら……」

隣でシルバーウルフ様がブツブツ言ってた。