作品タイトル不明
1003 S級冒険者からクビを言い渡された僕は、ギルドマスターに拾われて真の実力を評価される
ボクはムルシェラ。
これまではゴールデンバット様のサポートを務めてきたÅ級冒険者であったが、本日解雇を言い渡された。
解雇理由は『追放テンプレを体験してみよう』とのこと。
わけがわからん。
長年ゴールデンバット様のサポートを務めたボクをクビにして、そのあとに起こる様々なことを検証していくそうな。
――『充分な検証が終わったら報告しに戻れよ!』
と言われて送り出された。わけがわからない。
ともかく、形ばかりといえどもクビにされ、ゴールデンバット様のサポートとしてクエストに随行する予定も全部ご破算になってしまった。
どうしようか?
ここ最近クエスト準備で忙しかったから休養を取るのもいいな。
蓄えもあるから、ここでバーッと一ヶ月くらいバカンスでも取ろうか?
こちとらA級冒険者、蓄えもそれなりにあるからな。
……よくあるイメージだと追放される際『今まで稼いだ分は置いていけ!』って色々難癖付けられて無一文になるパターンだと思うんだけど。
結局穴が多い計画なんだよな。
しかし、ボクはゴールデンバット様に言いつけられて、追放されて逆転大勝利する輩を実体験しなければならない。
ゴールデンバット様のお役に立つことこそ我が使命!
率先して追放後からの立身出世を目指さなければ!!
なので早速冒険者ギルドの受付に行ってみる。
立身出世するためには実績を挙げなきゃいけないし、そのためにはクエストを受注しないといけない。
受付嬢から、新たなクエストを紹介してもらおう。
「ようこそ冒険者ギルドへ!……って、あら? ムルシェラさん?」
顔を覚えられていた。
ある程度は仕方ないな、何しろ一番有名な冒険者ゴールデンバッド様の取り巻きなんだから。
「今日はどうしました? クエストの打ち合わせについては昨日しっかりしましたよね?……もしかして、ゴールデンバット様がまた変なこと言いだしました」
対応に出た受付嬢は、ボクがサポートするゴールデンバット様用クエストの打ち合わせをしていたので、その関連だと思われているようだ。
そしてゴールデンバット様がやらかしたとも。
まあ、やらかしについては彼女の推察通りなんだが……。
やらかしの内容は、彼女の想像を超えてるだろうけれども……。
「実は、ゴールデンバット様のサポートをクビになりまして……!」
「は?」
「それでボク個人が受ける用のクエストを見繕ってほしいんですが……!」
そう告げると、すぐさま受付嬢は同情的な表情をする。
きっとすべてを察してくださったのだろう、我らが冒険者ギルドの受付嬢は優秀だ。
こういう場合だと、追放された人は受付嬢から『最下級が、ケッ』と見下されるのか、それとも親身に寄り添ってくれるのか、どっちのパターンがありがちなんだろう?
でもボクA級冒険者だからな。
最下級でもないし。
見下されるのは無理か。
「……少々お待ちください。ギルドマスターに確認をとります」
「えッ? なんで?」
ここでギルドマスター出てくる必要性ある?
「ムルシェラさんの有能さは、ギルド側も認めるところですので。ゴールデンバット様から離れた以上は遊ばせておくわけにはいきません。ギルドマスターの指示を仰ぐことが最善かと思います」
そうっすか……。
そうしてあれやこれやという間にボクは受付からギルド執務室へと通された。
* * *
そして、なんか偉い人を応対するためっぽい部屋で、ボクと面と向かって座っているのはシルバーウルフ様。
元S級冒険者。
現ギルドマスター。
そしてゴールデンバット様の永遠のライバルと言うべき男……。
「……えぇ、ムルシェラさん、だったな? 長年ゴールデンバットの助手というポジション活躍していた?」
「ボクの活躍は、ゴールデンバット様の指示のもとに行われたものなので、即ちゴールデンバット様の活躍と言えます」
「キミが、大いにヤツに心酔していることはわかった……!」
シルバーウルフ様が額を抑えながら言った。
犬獣人の頭部は、どの辺りまでが額かよくわからないけれど。
「ぶっ飛んだ性格ではあるが、ゴールデンバットは実力だけは有り余っているからな。信奉者が生まれるのも無理からぬことというか……」
「ご自分の方が多くの冒険者に慕われていると、遠回しに自慢してます?」
「まさかまさか!?」
シルバーウルフ様の顔色が『コイツもめんどくさいヤツだな』という感じになっていた。
実際に人望があるからこそギルドマスターに選ばれたんだろうし、その一点だけはゴールデンバット様でも敵わないと認めざるを得ない。
実際に、ゴールデンバット様が対抗して『一から別組織を作る!』と言いだした時も結局誰もついてこなくって頓挫した。
「キミ自身がどう思っているかは置いておいて。ゴールデンバットが大きなクエストを連続で成功させているのにはキミというサポートがついているのも大きな要因。……それがギルド側の揺るがぬ評価だ」
「クエストの成否はほぼ準備段階で決まるにゃーん。用心深く入念に準備するヤツほど生き残るにゃん」
いつの間にかシルバーウルフ様の隣にもう一人女性が座っている。
猫頭の。
ギルドマスター夫人にして、かつてS級冒険者だったもう一人の御方ブラックキャット様。
何故この人まで?
「ま、まあ……いくら荒くれ冒険者といっても、密室で男女二人切りでむかいあうというのは外聞が悪いのでな。妻に立ち会ってもらうのが無難かと……」
「不倫は、疑惑段階でアウトにゃーん」
ああ、そうか……。
そういやボク女の子だった……。
冒険者として日夜駆け回ってると自分の性別も忘れるんだよな。言葉遣いもそうだし。
「……ムルシェラ、十九歳。この年齢でA級まで登り詰めるとは大したものだな」
「だからそれはゴールデンバット様の采配の賜物だと」
「そこは置いておいて……、ほう、キミもコウモリ獣人の因子を持っているのか? あのゴールデンバットとウマが合う希少な人材というのもそこが要因か……?」
「コウモリなのにウマが合うにゃーん」
そうそう。
実は私もゴールデンバット様と同じコウモリ獣人。因子はずっと低いが。それがきっかけでゴールデンバット様に目をかけてもらわれ、ご指導ご鞭撻くださったこともまた事実。
「コウモリ獣人の聴覚は獣人種の中でもトップクラス、それは全人類の中でトップクラスということだ。冒険する上で、これは大きな強みとなる」
「因子の強いヤツは反響音で周囲の環境を把握するというからにゃーん。洞窟とかに入ったら明かりを灯す必要もないしほぼ無敵にゃん」
「それなのにあの阿呆は山に登りたがるがな」
ちょっと今ゴールデンバット様のことをアホって言いました?
いいじゃないですかコウモリが山に登ったって。
山を愛する者の宿命なんですよ。
「ここまでは余談だが……、本題に入りたい。ゴールデンバットにとっては何者にも代えがたい右腕であるはずのキミを手放した理由は何だ? 事実だけを捉えれば、現状ギルド最高の冒険者が機能不全を起こしかねない重大問題なのだが」
「ギルド側としては事情を伺わないわけにはいかないにゃーん」
そうなりますよね……。
ボク側としても充分に理解できることなので、ここまで来た経緯を包み隠さずお伝えした。
案の定シルバーウルフ様は頭を抱えた。
「追放騒動はこないだで終息したと思ったのに……。まだ諦めていなかったのか……!」
「テストケースで問題点を洗い出そうとしているところが、なんとも冒険者らしくて姑息にゃん」
お二人ともなかなか辛辣な評価だった。
まあ、ゴールデンバット信奉者の私であっても反論しがたい。
「ゴールデンバットは前々から行動が突拍子もないが、ある時を境から本当に理解不能予測不能になってきたな。なんでだ?」
「シルウルが冒険者引退してタガが外れたにゃーん。それまでは対抗するためにやるべきことがわかりやすかったけど、シルウルが現役退いてどう対抗していいかわからなくて迷走しているにゃん」
「だからその略し方は……ッ!!」
業腹ではあるがブラックキャット様の指摘はたしかだ。
ここ最近のあの御方は、たしかに迷走している。
冒険者としては明らかにゴールデンバット様の方が有能なのだから、かまわず臆せず我が道をまい進されればいいのにな……。
「……ところでムルシェラさん。キミは先年行われたS級昇格試験には参加していなかったね?」
「はい、参加しませんでしたが」
「それは何故?」
「ボクにとっては、S級になることよりも大事なことがあるので……」
それはゴールデンバット様を補佐し、彼を永遠の最高最強冒険者とすること。
そのためならばボクは名もなき陰でかまわないのだ。
自分自身の昇格のためにゴールデンバット様の補佐をおろそかにするわけにはいかないので。
「……」
そう答えるとシルバーウルフ様は黙り込んでしまった。
何を考えているのだろう?
そう疑問に思って窺おうとしたところ……。
いきなりシルバーウルフ様が飛びかかってきた。