軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1002 S級冒険者の助手

ボクの名はムルシェラ。

冒険者ギルドに所属するA級冒険者だ。

とは言ってもボク自身はそう大した功績や実績を持っているわけではない。

高位冒険者の中にもたまにいる何かの拍子でスルッと昇格してしまったラッキーボーイ。

その中にボクも入るというわけだな。

ボクの場合、一番の幸運というべきはあのS級冒険者ゴールデンバット様の専属サポーターを務めていること。

そのお陰でゴールデンバット様のおこぼれを貰う形でA級昇格できたというわけだ。

ゴールデンバット様は、大きな功績をいくつも立てているから、それに多少関わっただけでも相当な評価になる。

しかしボク個人がたてた功績でもないし、それで評価されるのは心苦しいかな?

お陰でA級にまで上がれたけれど『ボク自身の功績じゃない』『いい気になってはならない』と常に自分を戒めている。

これからもゴールデンバット様の陰となり日向となり、あの人の冒険者道を支えて行こうと意気込む今日この頃。

しかしそんな日常にも変化が巻き起こった。

最初の大事はS級冒険者シルバーウルフ様の引退。

そこは直接僕には関係ないんだけれど。S級冒険者って基本雲の上の人だし、直接的な関わりさえなければ別世界の存在だ。

しかしボクが敬愛するゴールデンバット様にとってはちょっと違って……。

何せあちらもS級、ゴールデンバット様もS級ともなれば何らかの関係というか軋轢はあるようで。

シルバーウルフ様引退の報を受けた時、ゴールデンバット様は荒れまくった。

あの人の引退自体が気に入らなかったらしい。

ボク自身お傍に仕えていてまったく気づかなかったが、ゴールデンバット様は随分以前からシルバーウルフ様にライバル心を燃やしていたようで、だからこそ自分より先んじた引退を『勝ち逃げ』と捉えたよう。

しかしボクには意外だった。

冒険者として、どう見てもシルバーウルフ様よりゴールデンバット様の方が優れている。

実績、能力、どれをとってもゴールデンバット様の方が偉大で、他の冒険者など誰も追随できないのだから。

ゴールデンバット様にとっては自分以外の冒険者など取るに足らない存在で、眼中にも入っていないと思っていた。

だからこそシルバーウルフ様のことをライバル視しているなんて夢にも思わなかったし、気づきもしなかった。

しかしあの方引退をきっかけに噴出した対抗心は、もはや押し隠すこともなく、それどころか暴走する始末。

シルバーウルフ様が冒険者を引退したのは、一線から退きギルドマスターの職に専念するという意図もあったので、ゴールデンバットもそれに対抗し、冒険者ギルドを脱退して一から『冒険者をまとめる別組織を作る!』などと言いだした時はどうしようかと思った。

結局のところボクがゴールデンバット様を見放すことなどできない。

一緒に冒険者ギルドを脱退し、別組織の立ち上げに協力しようと腹を括ったこともあったが、シルバーウルフ様の説得で何とか冒険者ギルドへの復帰が叶い胸を撫で下ろした。

シルバーウルフ様は、冒険者としての実績能力すべてにおいてゴールデンバット様に劣っている。

ずっとそう思っていた。

いや、シルバーウルフ様がダメと言いたいわけじゃなく、S級に登り詰めるだけでも想像を絶する努力と困難があったのは想像に難くない。

A級冒険者に過ぎないボクが評価するなど不遜の極み。

しかしながら同じS級の中でも優劣があり、もっとも優れたS級の中のS級こそゴールデンバット様だと思っていたから、そんなゴールデンバット様が誰かからの影響を受けるなんてありえないとだとも思っていた。

しかし実際には、ゴールデンバット様は同期で入ったシルバーウルフ様のことを意識しまくっていた。

むしろシルバーウルフ様に敗けまいと死力を振り絞ることで、全S級冒険者の中でも最高の功績を打ち立て続けてきたんだ。

わかってみると意外過ぎるようでもあり、腑に落ちるようでもあった。

逆にシルバーウルフ様こそ、周囲に囚われることなく独自路線を貫いた結果ギルドマスターにまで登り詰めたってことか?

ボクには想像もつかない世界だった。

とにかくも、一旦はゴールデンバット様が復帰し、騒動も収まったかのように見えたが、そう安易には収まらない。

ゴールデンバット様のことだもの、これから一波乱も二波乱もあるはずだ。

だってゴールデンバット様だもの。

あの御方が起こす超絶黄金騒動に、ギルドマスターとしてシルバーウルフ様はいつまでさばき切れることか。

じっくりと見物させてもらおう……。

……と余裕綽々でかまえていたボクはまだまだ甘かった。

超絶天才であるゴールデンバット様の突飛な発想は、巻き込まれる対象を選ばないのだということに。

* * *

「……おい、ムルシェラよ」

「はいッ!」

ゴールデンバット様から呼び止められて、ボクはすぐさま反応する。

何の用件だろうか?

次のクエストに関する準備の進捗確認かな?

それなら万端で、物資も揃っているし目標の地図状況も入手してある。現地での協力者も確保してあるし、あとは最高最強冒険者たるゴールデンバット様が鳴り物入りすればいいだけですが!

「お前をオレのサポート役から外す」

「えええええええええええええええええええええッッ!?」

待って待って、予想だにしない勧告でボクの脳内予定すべてが吹き飛んだ。

もう次のクエスト確認どころの話じゃない。

どういうことです!? サポート役から外すって、サポート役から外されるってことですか!?

そんな、ボクはこれまでずっとゴールデンバット様のお供をして、色々学ばせてもらったのに。

ゴールデンバット様から離れて、ボクはどうやって冒険者として身を立てていけばいいんですか!?

「まあ待て、そう慌てずに話を聞け。もちろんこんなことは気まぐれで言うことじゃない。海よりも深い考えあってのことだ」

そうですよねやっぱり!

ボクが無能で、もう面倒見てられないからクビになるとか言うのじゃなくてよかった!

……はッ!?

でもそれ以外だとするなら、もしやボクの成長を促すために、そろそろ独り立ちするべきだとか。

ゴールデンバット様は、そこまでボクのことを買ってくださっていたのか!?

「追放の、練習をしてみようと思ってな」

はあ?

どういうことですか、追放の練習って?

「こないだ、追放ベースでシルバーウルフのヤツに仕返ししようとしたろう? アレが上手くいかなくって」

冒険者ギルドを脱退して、別組織を立ち上げようってしたことですよね?

アレッて追放というよりはゴールデンバット様が勝手に飛び出して騒ぎになっただけなのでは。

そもそも組織側のシルバーウルフ様の方が人望で圧倒的に勝っているし、組織もしっかりまとめ上げているんだから付け入る隙がないでしょう?

……そう、ゴールデンバット贔屓のボクの目から見ても、人望だけは唯一どうやってもシルバーウルフ様の勝ちだよね。

「そんなことはわかっている!!」

うわぁ、そんなすぐ大声出さないでくださいよ。

感情が激しやすいのもゴールデンバット様の特徴の一つ。

「だからこそ練習をして、問題点を一つずつ浮き彫りにしていこうというんじゃないか! そしてムルシェラ! お前はテストケースとして実にちょうどいい存在だ!!」

テストケース、ですか?

「お前は長年、オレの冒険を支えてくれた名助手だからな! オレのこれまでの成功はお前のサポートあってこそ! お前の存在が、オレの宝と言ってもいい!!」

そんな風にボクのことを評価してくれてたなんて……!

光栄です! そう言ってくれたおかげでボクの冒険者人生すべてが報われました!

「そんなお前を不当に解雇すれば、まさに追放モノのテンプレだろう?」

次の一言ですべてが報われなくなった。

「きっとお前をクビにしたオレは、成功のサポートが受けられずに没落していくと思うんだよ。それに対してお前は有能だからきっと新しい環境にも適応して、出世していくこと間違いなし!」

どういう心境でこんな予想してくるんだろう?

「そうして、絵にかいたように実現した没落追放した側と、大逆転人生バラ色の追放された側とを精査し、今度こそオレ自身が冒険者ギルドを追放されて大逆転する参考とするのだ!!」

要するにこの方は、まだ諦めていなかったのか。

ご自分が追放モノの主人公になることを。

そのためにボクを実験台にしようなんて、この人らしい思いきりというか……。

……その誰にも思いつかない考えの斬新さが、この人を最高S級冒険者にしたんだよね!!

素晴らしい、尊敬します!!