軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1005 聖女の経過

はーい、俺です。

なんだか随分久々な気がする。

それもそうというか、プラティたちの妊娠が発覚してから怒涛の毎日だったからな。

なんせ同時多発すぎる。

知り合いの夫婦ほとんどすべてに新しい命が宿り、お祝いやら出産への準備開始やら、各妊婦のつわりへの対応でてんやわんや。

そんなときに頼りになったのが若い……まだ未婚の女性たち。

てんで頼りにならない男衆に代わり、身重の女性たちのサポートに奔走した。

エルロンとか、ベレナとか、パヌとか。

レタスレートは『豆さえ食べればつわりも吹き飛ぶわよ!』と言って妊婦たちを戦慄させたし、ホルコスフォンは『納豆でつわりを解決です』と言って妊婦たちを恐怖させた。

ガラ・ルファは医師ということで本来一番頼りになる人材ではあったが、何故か皆から恐れられた。

日頃の行いであった。

しかし一番以外にも頼りになった女性が一人いた。

その名は聖女マラドナ。

彼女が甲斐甲斐しく東奔西走し、妊婦たちのつわりの軽減に貢献してくれる。

さすがは聖女というべきか、民間療法程度の水準ながら心得があるらしく、プラティやゾス・サイラ、カープさんも彼女に介抱されてずいぶん楽そうだった。

「当り前よ!! 聖女は弱き人の助けとなるために行動するもの! そして病人は弱き人々の代表ともいうべき者たちよ!!」

相変わらず建前に全力で生きている女性だ。

もう死んでるけれど。

つわりについては先生すらも出る幕がなく、マラドナさんが大活躍するのをオロオロと見守るばかりだった。

元々マラドナさんは、百年くらい前に死んでしまった聖女で、死因はダンジョンでのリタイア。

ノーライフキングという世界最悪の怪物に挑んでの当然の帰結だった。

まあ、そのノーライフキングの先生が俺たちの友だちであるんだが。

その先生が大掃除のついでに見つけ出した遺骨を荼毘に付そうとしていたら、なんか復活した。

農場ではたびたびこうした理解不能の珍事が起こったりする。

原理を追求しても詮無い場合が多いので追求はしない。

そんなわけで復活した聖女マラドナではあるが、とりあえず先生の監督の下静かに暮らしていくこととなった。

せっかく復活したんだし、早めに幕を閉じた人生をエンジョイし直しても罰は当たらんぞということで。

基本は先生の下で勉強などしつつ、農場の仕事を手伝ったり、祈りを捧げたりとエンジョイライフしている様子。

一度、農場学校に『神学』の授業を取り入れようとして騒ぎになったことはあるけれど。

それ以外は概ね平和で平穏だ。

聖女だから『アナタたちのような下賤の輩と一緒にいられませんわ! 自室に帰らせていいただきます!』などと一悶着あるかと思ったが。

アクが強いのは信仰に関することだけで、マラドナさん意外と調和的な性格をしているおかげか、ただでさえ濃い農場メンバーと反発もなく馴染んでいるのであった。

さらには妊娠騒動にも率先して貢献してくれるから、復活してくれてありがとうと言いたくなるぐらい。

「しかしこんなにたくさんのオメデタなんて運命ね! 神が世界を祝福しているとしか思えないわ!!」

聖女さんいつもの神全肯定。

まあ実際に神の仕業なのは事実。

「このような尊き奇跡をお恵みくださるなんて、天神ゼウス様は慈悲深き神……! ああゼウス様、益々アナタ様への信仰を深くしますわ……!」

そこはNG。

本件にゼウスさんは一切関わっておらず、実行犯はゼウスのパパ上クロノス神。

あと共犯もう一名。

何ならゼウスと敵対してるまであるクロノス神なので、その成果をゼウスに寄与するのは完全なお門違い。

しかし俺は間違いを指摘しない。

純粋な彼女の夢を壊すのは何とも無粋という気もするし、それ以上に何より面倒くさい。

いいじゃないですか、夢は夢のままで。

「このようなめでたい事態! こうしてはいられないわ! 感謝と祝福は行動で示さないと!」

何を言いだすんです?

このどこまでも突き進む感、初期のレタスレートやホルコスフォンを彷彿させる。

今もか。

この直進暴走振りは、人族の特徴なのだろうか?

「祭りよ! 祭りを執り行うのよ!!」

「本当にいきなり何い出すの?」

この聖女?

それそれお祭りだってこと?

「わかっていないわね! 祭りとは本来、神への感謝を表す儀式のことよ! このような福々しい恵みをもらたしてくださったゼウス様のために、盛大な祭りを行って感謝を表すのよ!」

覚えのない功績に対して感謝されてゼウスさんも困惑するんじゃないの?

……そんなことないか。

たとえ身に覚えがなくても自分にいいものは全部自分のもの。たとえ身に覚えがあっても自分にとって悪いものは全部他人のもの。

それが天神ゼウス。

「よぉーし! となれば早速準備ね! ゼウス様天よりお見守りください! アナタのために立派な式典を執り行ってみせますわ!!」

「あんまり大袈裟なのはやめてねー」

農場のセオリーとして、こういうのは放置しておくと往々にして大事になる。

しかし農場に住み着き始めて日も浅いマラドナさんなら、そこまでドッタンバッタン大騒ぎにはならないだろうとタカを括って見守ることにした。

見守ってるのはゼウスじゃねえ、俺だよ!

……ってことだ。

* * *

そして農場の一角空きスペースを利用して祭壇を築き上げるマラドナさん。

「よっしゃ祭壇完成よ! 我ながら手先に迷いなく改心の出来! これならゼウス様もお喜びくださるに違いないわ!!」

「ほーん……!」

聖女マラドナさんが築いた祭壇なるものは……。

百花繚乱の花、花、花……!

しかも一種類じゃなく、少なくとも二十種類は飾っているので必然的に彩りも鮮やかだった……!

あまりの花の多さに『告別式?』という不謹慎な感想が浮かんだ。

「こりゃまた豪勢ですねえ……!」

「そうでもありませんよ」

俺の隣で説明してくださるのは、農場の住人で元神官のヤーテレンスさん。

いつもは農場学校で先生の手伝いなどしてくれている。

「聖女様の作った祭壇は、きわめて初期の作法に則った実に素朴なシロモノですね。あくまで自然物のみを材質に、神への感謝の気持ちだけを込めた純然にて清廉なる祭壇です」

「はあ……」

修飾の多い説明をしてくるのは、元神官ゆえの癖だろうか?

「あれに比べたら、壊滅する直前の教会が行っていた儀式など絢爛豪華破廉恥極まると言いますか。基本として祭壇は純金製、さらにそれを宝石や象牙で飾り立て、その前には世界中から取り寄せた珍味を並べ、さらには儀式に仕える巫女として高級貴族の御令嬢を半強制的に召集する……。虚飾と傲慢に塗れていたのです!!」

ヤーテレンスさん、興奮気味に語るなあ。

神官時代は希少な良識だったそうなので、大多数の腐敗に塗れた教会の在り方に憤懣やるかたないといったところだったんだろう。

「それに比べて聖女マラドナ様の祭壇! 素朴でシンプル! それゆえに純粋! 本来教会はあのように慎ましやかな道を進むべきだったのですね! マラドナ様はそれを伝えてくれるために再臨なさった!!」

いいえ、ただの偶然です。

ヤーテレンスさんは情熱の人だからか、聖女マラドナにかける信奉とかそういうのが有り余っているな。

この深くのめり込む気質が何より信奉者というか。

そしてそれはマラドナさん本人も同じ。

完成した祭壇を前に、早速祈りをささげ始める。

「……天神ゼウス様に感謝と祈りを捧げます」

おお、やはり祈りの言葉は厳かに響くな、さすが聖女。

「今日アナタ様のご慈悲により多くの命が地上に降り立ちました。御身は語れり、『生まれるなら女がいい。美人に育てば浮気相手になるから。男は死ね』と」

クソ度、百パーセントのことしか言わない。

「今日、世界が平穏なのもアナタ様のおかげです。天神ゼウス様の庇護のもと、幾久しくさきわえますよう。エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……!」

そうして聖女さんが祈りを捧げていると、俄かに変化が生じた。

天が鳴動している?

暗雲が渦巻くように立ち込め、その雲から一筋の熱閃が駆け下りる。

そしてその熱閃が地表に到達した途端に大炎上が巻き起こり……。

『誰だぁーーッ!? 今頃になってクソ兄? いやクソ弟に祈りを捧げているヤツはぁーーッッ!!』

そしてそんな炎の中から現れる、……女性?

炎から出てきたんで常人ではないことはたしかだが、それこそ紅蓮のごとき赤髪、この世のものとは思えない目鼻の整い具合から人ならざる存在であることがわかる。

これは……神?

女神ウェスタ、降臨!