作品タイトル不明
辺境伯邸到着
「オルデアお嬢様、シュルベスト辺境伯様とのお食事で何か良いことでもありました?」
辺境伯邸へ向かう馬車の中、ライナが問いかけてきた。ここにはライナと2人だけで、バルムは荷物と一緒に後ろの馬車に、ルカルディ様は馬で先を走っている。
「どうして?」
「いつもより口角が2ミリ程上がっております」
「……嘘でしょ」
「はい、冗談です。ですが、機嫌が良いことは分かりますよ」
「お食事は美味しかったし、お話も楽しかったし……」
私の言葉を待つようにライナは首を傾げるだけで何も言わない。
「その……ルカルディ様、とお名前で呼ぶのをお許しいただいたわ」
「まぁまぁ、そうでしたか」
揶揄うようでもなく、母のように微笑むライナに、私はさらに胸の内を吐き出す。
「ねぇライナ。お名前で呼んだ時のルカルディ様の笑顔がね……その……可愛らしくて。前にもあったのだけど、つい可愛らしいと思ってしまうのよ。殿方に抱く感想ではないと思うのだけど、時たま見せる無邪気な顔とでも言うのかしら?それが可愛らしくてドキドキしてしまうの」
「オルデアお嬢様……それはおかしくありません」
「そ、そうかしら?」
「ええ、それは……愛です!」
「あ、愛?」
「ええ、殿方を格好良いと思うのは恋です。しかし、殿方を可愛いと思ったらそれはもう愛なのです」
「そういうものなの?」
「そういうものです。ちなみに私はバルムの料理バカなところ、可愛いと思っていますよ」
「そう、なのね?」
「そうなのです」
愛…ルカルディ様を愛してる……
「た、大変よライナ!どんな顔でルカルディ様と顔を合わせたらいいか分からないわ」
「そのお顔で大丈夫ですよ」
「絶対に大丈夫じゃないわ」
淑女らしからぬ真っ赤な顔になっている自覚はある。
恥ずかしくてライナから顔を背けると、丁度窓からルカルディ様の後ろ姿が見えた。隣を走るモートンが何か話かけたことにより、横顔が見えた。その横顔がキラキラして見えて、思わず顔を逸してしまう。その様子にライナがどうしました?と驚いている。
「どうしましょう、ライナ。ルカルディ様がキラキラして見えるわ」
「んふふふふ」
ライナはこらえきれないといった様子で口は閉じてても笑い声が漏れている。
「もうっ笑わないでちょうだい。私だっておかしなことを言ってる自覚はあるわ」
「いえいえオルデアお嬢様、それは恋ですね」
「え?今度は恋?」
「ええ、殿方がキラキラと格好良く見えるのは恋してるからです」
「恋とか愛とか……難しすぎるわ」
「そうですか?オルデアお嬢様はルカルディ様に恋をしていて、愛しておられるのですよ」
「……恋と愛は両立するの?」
「もちろん、恋と愛は両立しますよ。オルデアお嬢様、幸せになって……いえ、幸せになれますね、シュルベスト辺境伯様と。恋も愛も持っておられるのですから」
優しい顔で笑うライナは女神様のようだった。
「ありがとう、ライナ。恋も愛もまだ私には難しいけれど、ひとつだけ分かったことがあるわ」
「なんですか?」
「ロベルト様には恋も愛もまったく無かったってこと」
いたずらっぽく笑うと、ライナもまた笑った。馬車の中は小さな笑い声で満たされ、辺境伯邸へ着くまで2人でコイバナで盛り上がったのだった。
「おかえりなさいルカルディ、そしてようこそいらっしゃいましたローゼンフィル侯爵令嬢。ルカルディの叔父のフィリオ・シュルベストです。こちらは娘のアリア・シュルベストです」
辺境伯邸の玄関ホールにずらりと並んだ使用人達の一歩前に出ていた男性が丁寧に頭を下げる。
ふわりと柔らかい栗色の髪に、青い瞳。整ったその顔立ちはルカルディ様と似ている。フィリオ様の隣でカーテシーをしているのは、同じく柔らかな栗色の髪をツインテールにした女の子。
「はじめまして、アリア・シュルベストです。ローゼンフィル侯爵令嬢にようやくお会いできて光栄ですわ。ローゼンフィル領に立ち寄らせていただいた時には、貴重なシャルフラワーの香水をプレゼントいただきありがとうございました」
「はじめまして、オルデア・ローゼンフィルと申します。ルカルディ様のお手紙でお二人のお話は良く聞いておりましたので、お二人にお会いできてとても嬉しいです。どうぞこれからよろしくお願い致します」
私の挨拶に顔を上げてにこりと微笑んだアリア様は、フィリオ様より明るい水色の瞳をきらめかせた。
「あの、私ローゼンフィル侯爵令嬢にお聞きしたいことがございますの」
「なにかしら?」
「シャルフラワーの香水のことなのですが……」
「待て待てアリア、まずはお部屋に案内して旅の疲れを取ってもらってからにしなさい」
「あ!そ、そうですわね。すみません、お夕飯はご一緒に?」
「ええ、是非ご一緒させてください。先程ルカルディ様にこちらの美味しい昼食をご馳走いただいたので、夕食も楽しみにしておりますの」
あわあわしたり、ホッとしたり、表情豊かな女の子でほっこりしてしまう。
「アリアはローゼンフィル侯爵令嬢に会えるのを殊の外楽しみにしておりまして、はしゃいでしまって申し訳ない」
「まぁ、私もアリア様に会えるのを楽しみにしておりましたの。どうぞお夕飯の時にお相手くださいませ」
その後主な使用人を軽く紹介してもらい、部屋に案内してもらうこになり、また夕食の時にとフィリオ様とアリア様とは別れた。