軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辺境へ

ライナ、バルム、それと護衛にアルフレッド様も連れて私はシュルベスト辺境伯へと向かった。

涙を浮かべたお母様、私がいなくなって清々すると表情に出ているロベルト様、面倒くさそうなリリーに見送られて。

私は一度はずっと守ると決めたこの地を去るのに涙は出なかった。

「オルデアお嬢様、旅路が順調で良かったですね」

「ええ、お天気にも恵まれて、道中問題なく進んで良かったわ」

私達は予定通りシュルベスト領へと入った。昨日シュルベスト領に入り、宿で1泊。今日は少し早めの昼食を宿でとってから辺境伯邸へと向かう。

コンコンコン、と部屋をノックする音に、ライナが扉越しにどちらさまですか?と問いかける。昼食には早すぎるし、バルムかアルフレッドだろうと思っていたら、思いがけない人の声がした。

「ルカルディ・シュルベスト辺境伯です」

声は従者であるモートンの声だったが、シュルベスト様の来訪が告げられた。

思わずライナと見合ってから、慌てて手振りで身嗜みが大丈夫かライナに訴えかける。出掛ける準備、しかも今日は辺境伯へと到着予定だったのでいつもより念入りに準備は終えていた。

ライナは深く頷くと、開けますよと言うように扉に手を掛けこちらを伺う。私は心の準備もできぬまま、けれどもシュルベスト様を待たせるわけにもいかないのでライナに頷き返した。

扉を開けて、ライナが横にズレる。

「久しぶりだね、オルデア嬢。突然来てしまってすまない。本当ならローゼンフィルまで迎えに行きたかったのだが、ままならなくてね。昨日こちらに到着したと聞いたのでせめてと迎えに来たのだが……」

その後を言い淀むシュルベスト様に、横にいたモートンが口を挟んだ。

「今朝先触れを出したのに、ローゼンフィル侯爵令嬢に早く会いたい我が主は、私がついていくのもやっとのスピードで馬を走らせ、先触れとほぼ同時にここに到着してしまったので、こうして失礼を承知でお訪ねしました」

「……すまない、ようやくあなたに会えると思ったらつい。支度はもう済んでいるだろうか?」

「迎えに来てくださって嬉しいですわ。ええ、もう支度は済みました」

「それならこの近くで昼食はどうだろうか?」

「まぁ嬉しいお誘いですが……こちらの宿の方に昼食までお願いしてしまっているのです」

それを聞いたモートンが失礼、と話に入ってきた。

「こちらの連れてきた騎士達がいます。数人こちらに残して昼食を取るよう申し付けますのでご安心を」

「そうですか。お気遣いありがとうございます。ではシュルベスト辺境伯様、ぜひご一緒させてくださいませ」

「良かった、ありがとう。では外で待っている」

パタリとライナが扉を閉めると、ニヤニヤとした笑いを向けてくる。

「ライナ、ニヤニヤしないで」

「ですがオルデアお嬢様、私だって表情を取り繕う努力はしているのですよ?でも、でもですよ?オルデアお嬢様が愛されていて私とても嬉しいのです」

「や、やめて、愛……大切にしてくださってるのはわかってるわ。改めて言わないで」

熱くなった顔をパタパタ仰いで冷ます。淑女らしからぬ行動だが今は許してほしい。

「それに、宿の部屋とはいえ無闇に女性の部屋に入らない紳士なところも私は感動致しました。ドナウティ公爵子息は無遠慮にオルデアお嬢様の部屋にもズカズカ入るようなお方でしたので」

そう、シュルベスト辺境伯様はライナが扉を開け、入れるように体をズラしたにも関わらず部屋には一歩も踏み入れなかった。

ロベルト様は婚約解消後も用事がある時はズカズカと部屋に入ってきたものだ。今にして思えば婚約者をリリーに変えてくれて本当に良かった。

「そうね、素敵な方と縁をいただけて良かったわ。辺境伯邸についたらフレッドに手紙を出しましょう。さぁ、シュルベスト辺境伯様をあんまりお待たせできないわ、ライナ準備して。それと宿には少し多めにお支払いしておいて」

シュルベスト辺境伯様が連れて来てくれたのは辺境でも数少ないレストランだった。品数は少ないが王都のレストランにも劣らない味だった。

「お料理どれもとっても美味しかったです」

「ローゼンフィル領は食材が豊富だろう?辺境では育たない食物も多く、味付けも濃い。口に合うか心配していたのだが、本当に気に入ってもらえただろうか?」

「寒さゆえに味が濃いと伺っていましたが、私濃い方が好きみたいです。本当にどれもとっても美味しかったですわ。それに、あちらにいるバルムですが、私の侍女のライナの夫で、ローゼンフィル侯爵邸で料理人をしていたのです」

「あぁ、手紙に書いてあった彼だね」

ライナとバルムは少し離れた席で同じ食事をとっていた。使用人なのでと固辞したが、シュルベスト辺境伯様が今日は客人だからと譲らなかった。

「ええ、ライナ達にも同じ食事を振る舞ってくださってありがとうございます」

「いや、彼らはお世辞にも過ごしやすいとは言えない辺境にまでついてきてくれたオルデア嬢の大切な人達だ。当たり前のことだよ」

「私の大切な人達を、大切にしてくださってありがとうございます。そのバルムの目が輝いております」

「目が輝いてる?」

「ええ、きっとお料理が本当に美味しかったのでしょうね。侯爵家で長年勤めていた彼もあんなに目を輝かせているのです。ここのお料理はとても魅力的で美味ですわ。私もすっかり気に入ってしまいました」

「そうか、良かった。食は生きていくうえで大切だから気に入ってもらえて安心した」

「バルムを辺境伯邸で雇っていただくこともお許しくださってありがとうございます」

「侯爵邸で働いていた料理人が来ると聞いて、うちの料理人達が張り切っていたよ。こちらの料理だって美味しいんだと教えるために、今日の夕食は腕によりをかけて用意すると。この地の人間は少々気が荒く、もしバルムに失礼なことをする者がいればすぐ私に言ってくれ。その……根はいい人ばかりなのだが、気が強いのが多いんだ」

「まぁ夕食が楽しみですわ。バルムは大丈夫だと思います。こちらのお料理が美味しいことは昼食で分かってしまいましたもの。きっとこちらの料理を教えてもらうのを今から楽しみにしておりますわ。ライナいわく料理バカなのだそうです」

シュルベスト辺境伯様はチラリとバルムを見た。バルムは給仕を捕まえて先程の料理のソースについて聞いていた。その様子をライナが呆れたような、でも慈しむような笑顔で見守っていた。

「仲のいい夫婦なんだな」

「ええ、とっても。憧れの夫婦ですわ」

「憧れの夫婦か、それじゃあ私達もそうなれるよう努力しなければ」

憧れの夫婦になりたいとふわりと思っていたが、目の前の人とそうなりたいと思うと実感が湧いて照れくさい。

「そうですわね、シュルベスト辺境伯様となら一緒に努力して支え合っていけると思っております」

「ではその一歩としてひとつお願いしても?」

「なんでしょう?」

「正式に婚約者となったわけだし、これからはルカルディと呼んでくれないか?」

「承知しました……ルカルディ様」

嬉しそうに笑うルカルディ様の顔がいつもより少し幼く見えて、また可愛いと思ってしまった。