軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リリー

不安が減って楽しみが増したからか、その日の夕飯は残すこともなく平らげた。

食事を終えて部屋に戻る途中、リリーに呼びかけられた。

「お姉さま、辺境に行く前にシャルフラワーの香水を2本用意していってくださらない?」

「2本?何に使うの?」

「結婚して交流する方達が変わったでしょう?」

今までは令嬢方との交流が主だったが、これからは夫人達との交流が主になってくる。お母様もいるし問題なはさそうだと判断していた。

「今度初めてお会いする方達にお近づきの印にお渡ししたいの。どちらも伯爵家のご夫人で、結婚したばかりだから話も合うだろうってお義母様が。人気のあるシャルフラワーの香水なら喜ぶだろうから用意しとくように言われたのよ」

ドナウティ公爵夫人から言われたらしい。夫人はシャルフラワーの香水がローゼンフィル侯爵家の事業だと思っているのだろう。でなければリリーを宣伝しなければならない場で私が宣伝されるものを用意しろとは言わないはずだ。

リリーに何度か伝えたが、私の話なんて半分以上聞いてないリリーのことだ、シャルフラワーの香水がローゼンフィル侯爵家のものではないことをまだ理解してないのだろう。

「リリー、前にも言ったけどシャルフラワーの香水はローゼンフィル侯爵家の事業ではなく、私個人の事業なのよ。だから今回の手土産として向かないと思うわ」

「お姉さま個人の事業?だから何?あぁまたお金を払えってこと?払うわよ」

今までだって何度かシャルフラワーの香水をリリーのために用意したことはある。自分で使うものから人にあげるものまで。その度にこれは私のポケットマネーから出していると伝えていた。

ローゼンフィル侯爵家の事業なら、その娘のリリーに商会が香水を用意してもおかしくはない。しかしこれは私の事業で、妹が好き勝手香水を用意しろと言うのはおかしい。私も妹のために無料で香水を用意してなんて言えるはずもなく、私のポケットマネーから出していた。

そして毎度リリーは払うわよと言いながら、一度も払ってもらったことはない。

リリーのために、香水ではなくローゼンフィル領の特産品にするべきだとどう説明すべきか悩んでいたら、リリーのつけていたネックレスが目に入る。

ブルーサファイアのネックレスだった。前にシュルベスト辺境伯様と会った時に奪われたネックレスととても似ていた。似ていたが、それではない。

私の視線に気付いたリリーが、少しネックレスを持ち上げるようにしてこちらに見せつけてきた。

「これ、素敵でしょう?ロベルト様に贈ってもらったの」

「ええ、とても綺麗な色ね。ところで私のブルーサファイアのネックレス返してくれない?それがあるならもういらないでしょう?」

正直もう返ってこないものと諦めていたので、返せと催促もしていなかった。

「あれね、どこかいっちゃったのよ。だから似たようなのをロベルト様に買ってもらったの」

悪びれもせずにリリーはそう言った。

「あれ、私もお気に入りって言ったわよね?借り物を返しもせずに、無くして謝りもしないの?」

「え?知らなーい。辺境に持っていきたかったのなら私の部屋探してもいいわよ。どこかにあるんじゃないかしら」

半笑いで言うリリーに、私の中のどこかが急激に冷めていくのを感じた。

「香水は用意してあげるわ。それとネックレスはもういいわ、いらないから」

自分がどんな顔をしているのかも分からない。笑ってもいなければ怒ってもいないだろう。いや、うっすら笑みを浮かべた淑女の顔をしている。それは淑女にとっての無表情と一緒だから。

「そう?なら香水よろしくね」

ひらひらと手を降って、ロベルト様が待っているのであろうサロンへと去っていった。

部屋に戻りながら、ライナに香水の手配を頼む。

「よろしいのですか?」

「ええ、私は忠告したわ。それを聞かなかったのはリリーだし、香水を用意するのもこれが最後よ。商会にはリリーから、いえローゼンフィル侯爵家の誰から連絡があっても正規ルートで購入するよう伝えるように言うわ。私に手紙を寄越しても時間がかかるもの、きっとこれからは商会に直接言うでしょうからね」

「なるほど、承知しました。」

部屋に戻ると、ライナは以前淹れてくれたハーブティーを用意してくれた。

私の中の静かな怒りを落ち着かせるように、私はハーブティーをゆっくりと飲み干した。