軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

子爵令息 ジェラルド・マケライネンの決心(後)

高等部に進んだオルヴァは相変わらず騎士一辺倒だったが、騎士としての力量はあったらしく一年下の王太子の学内での護衛に指名された。と言っても、本人も授業があるので護衛見習いとして休み時間などを共にする程度だが。

それでも兄も父も栄誉な事だと舞い上がっていた。

これはまたサンドラの負担が増えるのではとジェラルドは密かに思っていたが、それどころではない事が起きた。

オルヴァが3年、サンドラが2年、ジェラルドは中等部2年になって少し経った頃、王立学園が、いや貴族界が震撼する事が起きた。

『聖女』が現れたのだ。

正確には、聖女“見習い”。

聖女とは、光魔法の力に目覚めた女性の事をいう。

この国における魔法と言うのは、奇跡に近いものであり、ごくわずかな者しか使えない。

中でも光魔法は、“浄化”や“鎮静”の力がある。この国で恐れられている“呪術”と呼ばれる“闇魔法”に唯一対抗出来る貴重な能力だった。そしてその力を持つ者は極稀であった。

滅多に現れない聖女の出現に、教会関係者は沸いた。

そんな中、宰相であるメリカント侯爵家が後見人に名乗りを上げ、田舎の男爵家の庶子だった聖女見習いの教育を引き受けたらしい。

親教会派ではあるものの、国の政治の中枢を担うメリカント家とあって、とりあえず聖女の存在は貴族界の揉め事になる事は防げた。聖女は教会の象徴でもあるので、正式に教会入りをするまでに貴族界で諍いの元になってはまずいのだ。

しかし、教育を終えたらしい聖女が学園に編入して、そうも言っていられなくなった。

オルヴァはジェラルドよりも4つも上の兄であるし、跡継ぎだ。

ジェラルドはオルヴァを支える立場であるし、今はまだ中等部の生徒で高等部の事に口を出す権利は無い。それでも我慢できなかったジェラルドは、帰宅した兄を玄関で待ち構えていた。

「兄様、またサンドラ様との約束を破ったそうですね」

帰って早々弟に咎められ、オルヴァの眉が思い切り不機嫌に顰められる。

「何だ急に。お前に関係無いだろう」

「あります。兄様にすっぽかされたサンドラ様に謝罪して埋め合わせをさせていただいたのは僕ですよ」

何度もあった事だが、最近特に多い。

「そんなの頼んでないだろ。ほっとけよ」

「そうもいきません! サンドラ様との婚約は、マケライネン家の事なのですよ!」

何度も繰り返した言葉だが、今回もオルヴァは面倒そうに使用人に荷物を押し付けて行ってしまう。中等部生となり、背も伸び発作も出なくなったジェラルドだが、4つ上の兄にとっては変わらずひ弱な弟で、そんな弟の言葉など聞こうともしない。

高等部に入ってサンドラはますます美しさに磨きがかかり、見るたびに新しい装飾品を身に着けその姿を輝かせていた。

ジェラルドはこの胸にあるのは、兄の婚約者に抱くには相応しくないものだという事はもう自覚していた。

家のためにも、サンドラは次期子爵となるオルヴァと結ばれた方が良い。それも分かっていた。

それでも、そう簡単に割り切れるものでもない事も、身をもって分かっていた。

⁂⁂⁂⁂⁂

そんな日々が続いたある日、マケライネン家に事件が起こった。

父が愛人を外に囲っていた事が判明したのだ。

平和だったマケライネン家の屋敷内にけたたましい音が鳴り響き、父の大事にしていた模型は母により粉々に砕かれた。

「今まで直情すぎる気質と無神経な所はございますが、誠実な御方だと思ってお支えしておりましたが……見込み違いでした。………………汚らわしい」

今までずっと父の後ろで、穏やかに微笑んでいた母の鬼の形相を、ジェラルドは忘れる事は無いだろう。

あわや離婚の危機であったが、父は愛人と手を切り、誠心誠意母に謝り倒した事で、何とか夫婦は持ち直したらしい。

穏やかで控えめだと思っていた母の新たな面を見たが、ジェラルドはこれを好機と見た。

兄が自分の言葉を聞かないのならば聞かざるを得ない状況で言うまでだ、とジェラルドは家族が揃った夕食時に再びその話を持ち出した。

「兄様は最近、聖女見習いの生徒とばかりご一緒にいらっしゃるそうですね」

「! バッ……おま……っ!!」

オルヴァが慌てて止めようとして、口に入った物を飲み込もうとするが間に合わない。大口を開けて入れた瞬間を狙ったのだから当然ではあるが。

「まあ……そうなの?」

母が眉をひそめて尋ねるが、オルヴァはまだ胸につっかえた肉と格闘しているのでジェラルドが代わりに答えた。

「はい、昼食もお茶も、毎日ご一緒しているとか。中等部にまで噂が回ってくるのですから、すでにかなりの人が目撃している事実なのでしょう」

ようやく肉を飲み込み終わったオルヴァが余計な事を言うなと睨んでくるが、気付かないふりをした。

「本当なのか、オルヴァ」

「昼食もお茶も殿下も一緒です! 俺はあくまで付き添いです!」

父の質問に、オルヴァが慌てて答えるので、ジェラルドはそっぽを向いたまま追撃した。

「殿下がいらっしゃらない時でも一緒の姿をよく見ると聞きましたが」

再び睨まれる気配がしたが、噓は言っていない。

「オルヴァ、相手は聖女見習いの上に貴方は婚約者のいる身ですよ。他の女生徒と親しくしすぎるのは不誠実ですよ」

チラリと視線を送られた父がワインを咽せている。

「彼女とはそんなんじゃありません」

そうは言っても、ジェラルドは聖女見習いを注意するサンドラをオルヴァが罵ったという話も聞いている。

「まぁ確かにうちは王室派であるから、あまり教会関係者と親しくなるのは問題だが、殿下も一緒ならまぁ、ほどほどにしておきなさい」

父のその軽い嗜めでオルヴァが考えるはずもなく、むしろ殿下を止めるべき立場なのに「殿下も一緒なのだから良いだろう」と増長した。

高等部の様子はなかなか分からないが、ジェラルドの耳にはその後もオルヴァがサンドラを邪険にし、聖女見習いに傾倒している噂が入ってきた。

その度、サンドラがどれだけ心を痛めているかと思っていたジェラルドだったが、同時にもしかしたら、サンドラはその内オルヴァに愛想を尽かして婚約を破棄するかもしれないと思った。そうすれば自分にもチャンスがあるのかもしれない。

自分は次男で体も弱かったから、跡目争いの芽すらも無かったが、必ず長子が継がないといけないという決まりはない。

そんな淡い期待を抱いたジェラルドを打ち砕いたのも、またサンドラであった。

「あら、ジェラルド様。お久しぶりですわね」

中高の校舎の境目にある中庭で、偶然サンドラに会った。と言うか、もしかして会えるかも。姿が見えるかもとジェラルドがこの道を通る事を日課にしていたので、必然かもしれない。

「サンドラ様、お久しぶりです。素敵な髪飾りですね、その飾りはペリドットですか?」

今日のサンドラは巻き髪を二つに分けて束ねており、その両方に小さめの髪飾りが輝いていた。

「そうですわ。ガリレイの新作ですの、素敵でしょう?」

「あのガリレイの! 販路が限られていると聞きましたが、もしかしてアルディーニ家で?」

「ええ、交渉は困難でしたが、何とかこぎつけましたわ!」

自信満々に胸を張るサンドラに、ジェラルドが目を見張る。

「え、まさかサンドラ様が交渉を……?」

ガリレイと言えば今王都で大人気の宝石装飾職人だ。新鋭ではあるが気難しくて、一部の業者としかやり取りをしない事で有名なのだが。

「お兄様に付いてですが、わたくしもお話しさせていただきましたの。最初は取り合ってもらえませんでしたが、わたくしがガリレイさんの装飾がいかなるドレスに合うかなどをご説明させていただきましたら、耳を傾けていただける様になりましたの」

「すごい……」

心からの感嘆だったが、サンドラはそれを当然の様に受け止めて言った。

「うふふ、自ら動いて手に入れた物はまた格別ですわ」

「!!」

サンドラはこの後のお茶会で、この髪飾りを宣伝しまくるのだと言って颯爽と去って行った。その後姿は婚約者に邪険にされて嘆いている令嬢などではなかった。

「お? ジェラルドじゃないか!」

「え? あ、もしかしてオルヴァさんの弟さんですか?」

サンドラが去った方向を眺めていると、今度はオルヴァがピンクブロンドの令嬢と共に現れた。同じ高等部なのだから、こちらにも会う可能性がある事を忘れていた。

「ああ、弟のジェラルドだ。ジェラルド、こちらが聖女見習いのアイニ・ミッコラ男爵令嬢だ」

「初めまして! 仲良くしてくれると嬉しいです! オルヴァさんとはあんまり似てないんだね」

ニコニコと親し気に……不躾に手を差し出してくる聖女見習い、アイニを間近で見たのは初めてなジェラルドだったが、ニコリと笑って距離を取ったまま礼をした。

(なんだ、兄様が可愛い可愛いと言うからどれほどの物かと思ったら……サンドラ様の方が100倍可愛いじゃないか)

「まったく、クソ真面目な弟なんだよ」

差し出した手を取られなかったのにキョトンとするアイニにオルヴァがフォローしている。そんな心づかいが出来るならもっとサンドラにも気を遣えと、無意識にサンドラの去った方を見たら、それに気付いたらしいアイニとオルヴァもそちらを向く。

「あ、あれってサンドラ様?」

「あー、まぁた装飾品の話ばかりのお茶会でもやるんだろ」

つまらなそうに言う兄は、まだ家の事業に一切関わっていない若輩者だ。

大きな契約を取るサポートをし、その宣伝に周るサンドラを否定できる要素があるのだろうか。

こんな男に、あのサンドラが嫁がなければいけないのか、と思ったジェラルドの脳裏にさきほどのサンドラの笑い声が響いた。

『自ら動いて手に入れた物はまた格別ですわ』

「…………私は用がありますので、失礼します」

それだけ言うと、兄も聖女見習いも振り返らず、ジェラルドは走り出した。

(そうだ、何を勘違いしていたんだ。見くびっていたんだ)

サンドラ・アルディーニは、待っているだけで手に入る様な女性ではない。

(自分で、動かなければ……!)

それからのジェラルドの行動は早かった。

サンドラの好むであろう装飾品を探し集め、予定を調べた。

オルヴァが相変わらず聖女見習いにくっついているのを母に告げ、自分がサンドラを慕っていて領主の勉強もしている事も訴えた。

父に話すよりも母を抱き込んだ方が早いし、先日の愛人騒動で父は母に頭が上がらなくなった。そして、母は不誠実な男への嫌悪が強い。

案の定母は、跡継ぎについては難色を示したが、オルヴァがまだ聖女見習いに熱を上げてサンドラをないがしろにしている事には怒りをあらわにした。母がサンドラ自身を好ましく思っている事も効いた。

「判断はサンドラ様に委ねます。サンドラ様が僕を拒否されるのなら、諦めます。だから母様、僕にチャンスをください」

⁂⁂⁂⁂⁂

そしてジェラルドにとっては都合が良く、オルヴァがまたサンドラとの約束を違え、その代理をジェラルドに押し付けてきた。

「ティルゲル伯爵夫人のガーデンパーティ……ですか?」

「ああ、つまらない、女ばっかりのパーティだよ。サンドラが誘われたんだから一人で行けばいいのに、俺に同伴しろって言ってたんだよ。お前代わりに頼むよ」

(ティルゲル伯爵夫人と言えば、アクセサリーブランドで影響力のある方じゃないか……。あ、この間のガリレイとの取引に成功したから……?)

ティルゲル伯爵夫人のパーティなんて、服飾装飾関係に携わる者なら誰もが参加がしたいほどの貴重な会だ。鉱山を持つマケライネン家としても参加しておいて損はない。

(だからこそ、サンドラ様は兄様に声を掛けてくださったんだろう……)

それを他の女との買い物に行くからとすっぽかすつもりなのだ、この男は。

「あ、うるさいから当日までサンドラには言うなよ。殿下の付き添いでもあるんだから、仕方ないのに、うるさいんだよアイツ」

(学園の外ならばちゃんとした護衛がいるだろうに。要は殿下と聖女見習いを二人きりにしたくないだけだろ)

だが、ジェラルドにとっては好都合と言う他なかった。

準備は着々と整っている。

ここでサンドラが驚くプレゼントを用意して、自分を売り込むチャンスだ。

「うん、分かったよ兄様。僕にまかせて」

サンドラ様は、僕が幸せにするから。

それから、母の伝手を使いティルゲルブランドの初期の作品を手に入れる事が出来た。物はこだわり、サンドラの瞳と同じ色のエメラルドのブローチが2つ。サンドラとジェラルドの分だ。

これならば、サンドラも一緒に着けてくれるはずだ。

当日迎えに行くと、サンドラはとても驚いていたが、またかとため息を吐いた。

それほどまでに、オルヴァはサンドラに期待されていない。はやる気持ちを抑え、まずはプレゼントを渡し、ガーデンパーティで立派なパートナーを務める事に従事した。

「素晴らしかったわ、ジェラルド様!」

帰りの馬車で、サンドラは紅色した頬で満面の笑みだった。

「ティルゲル伯爵夫人もこのブローチにも感動してくださっていましたし、沢山有意義な話が出来ましたわ」

「いえ、こちらこそマケライネンの持つ鉱山の石にも興味を持っていただけたので、サンドラ様に父からもお礼を言わせていただかなくてはいけません」

パーティは終始上手くいった。

ティルゲル伯爵夫人はサンドラの事もジェラルドの事もとても気に入ってくれて、仮のパートナーである事は告げていたので、今度はジェラルドにも招待状を送ると言ってくださった。

マケライネン家の鉱山は小さいが、質の良い石が取れる事にも興味をもってくれたので、今後良い展開も期待できる。

「オルヴァ様ではこうはいきませんでしたわ」

上機嫌のサンドラからオルヴァの名前が出て、ジェラルドは背筋を正す。

「サンドラ様……!」

意を決した声に、サンドラが今までと様子が違うと気付きピタリとおしゃべりを止めてジェラルドを見た。

「パーティの後に、お時間をいただけるという話でしたが……」

「ええ。もちろんですわ。約束ですし、パーティではとても助かりましたですもの。いくらでも」

他意はないと思っていても、そんな言われ方をしては14歳のジェラルドの胸の鼓動は早くなる一方だ。顔に集まる熱を抑えつつ、どうにか目的地に着いたらしい馬車から降りて、サンドラへ手を差し出す。

「御者に回り道をする様に頼んでいたのです。どうぞ」

怪訝な顔をしながらも降りるサンドラをエスコートする。

「まあ……」

小高い丘のその場所からは、太陽の光を浴びエメラルドグリーンの海をキラキラと輝かせているのが見えた。

「このブローチと同じ、サンドラ様の……輝く瞳の色です」

「素敵……。お兄様に付いて港には行くけれど、こうして広く見渡すのは初めてですわ」

エメラルドグリーンの瞳を細めるサンドラの顔を見て、ジェラルドは再び深呼吸をして膝をついた。

「サンドラ様……貴女は宝石よりも海よりも太陽よりも輝く女性です。どうかその輝きに、求婚する許しをくださいませんでしょうか?」

サンドラは最初に目を見開き、一度唇をくっと結んだ後、静かな声で答えた。

「それは……オルヴァ様から家督を奪うという事ですか?」

冷静な、理知的な実業家の女性の目だ。

それでこそ、ジェラルドの太陽だ。

「いいえ……と言っては嘘になります。今の兄様にマケライネン家をまかせる訳にはいかないので、ゆくゆくは私が家督を継ぐ事もあります。ですが、そうなろうとならまいと、私はサンドラ様の隣にありたいと思います」

「まあ……」

そこで初めて、サンドラが少し頬を赤らめた。

「……わたくしの様にキツイ女は、親が決めた相手じゃないと結婚できないと言われましたわ」

「サンドラ様はいつだって公平で気高くあられるだけです。誰です、そんな事言ったのは」

「うちの兄と貴方の兄ですわ」

「あとで土下座させましょう」

「まあ、うふふ」

ジェラルドが成人済みのサンドラの兄にもオルヴァにも適うわけがない事は分かっているが、即答するジェラルドに思わず笑みがこぼれた。

ひとしきり笑った後、サンドラがポツリと言った。

「少し……時間をいただけるかしら」

「もちろんです」

今ここで断られても仕方ない中、猶予が貰えただけでも上出来だ。

まだサンドラは、オルヴァが聖女見習いと街に出掛けた事を知らない。サンドラの名誉が傷付くのは業腹だが、今ここでそれをサンドラに告げるのはジェラルドの得にはならないので黙った。

明日以降、また事態は動くはずだ。

だから今日のすべては、サンドラと楽しい思い出を作る事だけにジェラルドは従事した。

⁂⁂⁂⁂⁂

果たしてジェラルドの思い通り、オルヴァと聖女見習い(と殿下)の外出を知ったサンドラは怒り、更にそこに聖女vs次期王妃であるセラフィーナという騒動まで起きて、数日は中等部の方まで大騒ぎだった。

そして数日後、オルヴァの留守を見計らい、サンドラとサンドラの父親であるアルディーニ子爵がマケライネン家にやって来た。

「ご無沙汰しております、マケライネン子爵、子爵夫人。急な訪問失礼いたす」

「いやいや、こちらこそ、わざわざご足労かけました」

挨拶を終え、席に付いた両子爵とマケライネン子爵夫人、そしてサンドラとジェラルドに早速本題に入る。

「こちらの書類に目を通してご了承いただけたらサインをいただきたいのですが」

アルディーニ子爵が差し出したのは、オルヴァとサンドラの婚約解消申請書類だ。

マケライネン子爵とジェラルドが同時に、そして真逆の表情で顔を上げる。

「これは……しかし……」

「いや私もね、婚約は家同士の話であるとは思うものの、この子らも子供と言えど成人前の高等部生でしょう? それなりに意見は聞きたいと思いましてね」

「ですが、それではマケライネンとの取引は……」

「ああ、それは問題ありません。なあ、ジェラルドくん」

サンドラとよく似たエメラルドグリーンに視線を向けられ、ジェラルドは浮足立つ自分を抑えながら「はい!」と返事をした。隠しきれていない喜びに、サンドラがクスクスと笑った。

「ジェラルド、お前まさか……」

「ジェラルド、成就したのですね!」

両親が同時に言うのに、ジェラルドは両方に笑顔で頷いた。

「ジェラルドくんがサンドラを好いてくれているので、マケライネン家との取引には変わりはないでしょう。家督に関してはうちは関与しませんので、そちらで話し合って下さい。ジェラルドくんに継がせるも良いし、オルヴァにサンドラ並みに賢く社交会に長けた嫁を探すのでも良いでしょう」

「それは……しかしオルヴァは長男で、今までも嫡子として育てておりましたから急には……。うちのオルヴァが何か粗相をしたならともかく……」

「あなた」

みなまで言う前に、子爵夫人が夫の腕を掴んで止めた。

「私は聞いております。不誠実な男に、サンドラ嬢はもったいないのですよ」

母を先に味方に付けておいて本当に良かったと、ジェラルドは改めて思った。

かくして、オルヴァとサンドラの婚約は解消され、ジェラルドとサンドラの婚約が結び直された。

オルヴァがグチグチ文句を言ってきていたが、ジェラルドは初恋の実りでそれどころではない。

「大好きな聖女見習いと、これからは人目を気にせずベタベタ出来るので良いではありませんか」

元々人目は気にしてなかった気もするが、感謝されても良いくらいだ。

サンドラは、冷静な目でジェラルドを政略結婚の相手として選んでくれたに過ぎない事も知っていた。

「わたくしはセラフィーナ様にお仕えするつもりですから、ジェラルド様の子爵家の家督争いには加勢出来ませんよ」

そう告げられても、お仕えする方を決めて更に輝きを増したサンドラが綺麗であると思った。

「問題ありません。マケライネン家のためにどうすべきかは、マケライネン家で相談します。私はサンドラ様の真っ直ぐな心根が好ましく思っていますから。貴女の夢の支えになりたいです」

「ふふ、ジェラルド様はお上手ね。とても中等部生とは思えませんわ」

サンドラはジェラルドの言葉を半分くらいしか信じてくれていないのも感じたが、そんな事は問題ではなかった。

サンドラの隣に一生添い遂げられる権利を得たのだ。

一生を掛けて、サンドラに想いを告げ続けられるのだから。