作品タイトル不明
9 EX エンターテイナー 6
リベルタがフライハイトで活動している間、天使から与えられたクエストの対象である封印された邪霊の周囲に群がる邪神教会への対策はどうしているか。
完全放置、なんてことはありえない。
監視はまずやっているが、それ以外にもやっていることはある。
「よし、あの行商人の男は二人送る。あっちの、冒険者風のパーティーは四班が対応してくれ」
情報収集だ。
せっかく邪神教会の信徒が大勢集まる場所を見つけたのだ。
そして仮の拠点とはいえ、集落を作ろうとしているのだから他所からの出入りも見込める。
討伐するための情報収集はもちろん、横のつながりを突き止めて、これを機に邪神教会をこの南の大陸から根こそぎ消し去る計画の下準備も進めている。
邪神教会の連中というのは見つけるのが大変だが、一度見つけると追跡自体はそこまで難しくはない。
ジュデスが今いる場所は、小さな洞穴を木々で偽装し、中にモチダンジョンを生成し作った監視拠点。
痕跡を残さないように細心の注意を払い、そして携帯できる魔道具で生活環境を整えた。
エンターテイナーはハーゲッツという組織を吸収したから、人員に余裕ができて監視専用の人員を配置することができるようになった。
「しかし、この組織はすごいな。情報収集にここまで価値を認めて金を出す奴なんてめったにいないぞ」
「うちのトップは知恵の女神様の使徒だからな。情報の価値は誰よりも理解しているんだよ」
しかしいきなり、ハーゲッツの面々だけで任務にあたることはなく、先輩であるエンターテイナーの面々がリーダーとして主導で動き、元ハーゲッツの面々がサポートメンバーということで活動している。
ヴェロッキオがジュデスの側で、指揮下に入っているのはそのためだ。
この邪霊に群がる邪神教会の組織を追跡調査して、横に繋がっている人間がどれほどいたか。
「貴族に、商人・・・・・はいて当然だと思ってたが、都市部の住人に、酒場、宿屋、さらには関所の兵士」
「娼婦に、牧場主、鍛冶屋に金貸し・・・・・村丸々1つが邪神教会に協力体制だというのは驚いたな」
裏に潜むにはある程度表にコネクションが無ければやっていけない。
ニコニコと善人面で笑顔を浮かべながら、腹の奥底では相手を蔑むという芸当ができる輩がこの世界にはこれほど多かったという現実に、ジュデスとヴェロッキオは苦笑する。
「この情報はどうするんだ?俺たちだけじゃ、これほどの人数を到底捕まえることはできないぞ」
「神殿の方に逐一情報を流しているけど、それだけじゃ手が足りないから、公爵様の方にも情報を流して貴族たちの取り締まりをお願いしてる。リベルタ的には邪神教会を潰す手柄には興味がないみたいでな。むしろ、積極的に情報を渡して早急に後顧の憂いを断つ方が重要だってよ」
「うちのボスは変わってるね」
「そんな変わり者の部下で後悔していない、俺たちも変わり者ってことだ」
「違いねぇ」
この二人は性格的に波長が合いやすく、こうやって気軽に会話ができる。
酒を飲み交わすことも多く、プライベートで会う機会も多い。
ケタケタと笑い声を上げつつ、視線を机の上に向ける。
「主だった盗賊と山賊の連中もだいたいがつながりがある。中には邪神教会って理解していない阿呆共もいるな」
「小さい組織だとそういうケースが多いな。逆に長い時間盗賊稼業をしている奴らは相手がどういう組織かわかっている」
「俺たちハーゲッツは、近寄るべき相手と距離を取るべき相手を選んでたからどうにかなってたけどよ。それでもあいつらは隙あらば近寄って来てたからなぁ」
「そのおかげで相手の手口が手に取るようにわかる」
机の上にあるそれは、現在進行形で森を開拓し住居を作り上げ一つの集落にしようとしている邪神教会の隠れ里の地図。
村に潜入して詳細を得ないとわからないくらいに、事細かく描かれた地図だ。
自給自足でこの辺境の地で生き抜くには多すぎる人員。
「幹部クラスがいないって言うのも影響がでかいかもな」
「ああ、司祭が2人いるだけ、それ以上の階級の人員がいないし、横つながりが薄い。おかげで俺たちも隙を見て入り込むことができる」
なので、外部から人や物資を運び入れないと集落を維持していけない。
人の出入りの際には警備を使い色々と合言葉や合い札などを使ってセキュリティを確保しているようだが、中に入ってしまうとザルと言いたくなるほど確認作業がない。
「柵も中途半端、見張り台の死角もある。巡回はしているようだが全員が全員熱心にやっているわけじゃない」
「こんな状況だったらいくらでも入り込めるよな」
その隙を突いて、隠れ里の中に潜入して詳細な情報を得ているというわけだ。
実際今もエンターテイナーが隠れ里に入り込み情報収集している。
「できれば幹部クラスの情報を得たいんだけどね」
「知っているのは近衛のような精鋭の護衛集団だけっていうのは、用心が徹底しているよな」
「だからこそ、これまで神殿に滅ぼされていないってわけだ」
ここで得た情報は、一旦フライハイトのリベルタの元に送られ、そこから神殿ならクローディア、貴族ならエスメラルダと送り先を選び情報を流している。
連日連夜新鮮な情報が入ってくるから、神殿もエーデルガルド公爵も忙しくなっている。
粛清に次ぐ粛清というほどにはなってはいないが、いくつかの貴族の家が取り潰しとなったり、大きくはないが中堅規模の商家の屋号が別の商家の屋号に変わっていたりと、この二人が得た情報で南の大陸の社会に変化は確実に起きている。
他にも、新進気鋭の若手新貴族が爆誕したり、力のある商家が貴族の仲間入りしたりと、王国の歴史上類を見ないほどに貴族家が入れ替わっている。
「そんな奴らの幹部をここで捕まえられたら、この大陸での邪神教会の活動は確実にできなくなる」
「それが出来れば、裏の方はひとまず安泰ってか?」
情報の価値を知る二人であるがゆえに、ここで得た情報の取り扱いに注意が必要なことは理解している。
ペチンと剃った頭を叩くヴェロッキオは、苦笑気味に本命情報が入ってこないことに溜息を吐くが、焦りは禁物だとジュデスは頷く。
「そうできれば理想だけど、リベルタは無理をするなって言ってる。幸いうちは功を焦るほど結果を出していないわけではないし、リベルタもしっかりと俺たちを評価してくれている」
「代わりに情報管理がかなりシビアだけどな。神の契約を筆頭に情報管理についての学習、それを全部隊員に徹底しているんだ」
「その勤勉さがあってこそ、功を焦って無茶なことをしないで済んでいるんだ。エンターテイナーに居ればまじめにやればやるだけ仕事を評価される。そして俺たちは楽しみを得られる。俺も前は貴族だったけど、正直今の方が良い生活を送れている」
「それは俺もだ。場末の裏組織なんて金を持っているように見えるが、そこまでいいもんじゃねぇよ」
このまま情報を集め続ければ、いずれ本丸に届くこともある。
なにより邪神教会の幹部の情報については、リベルタ自身が手に入れられれば理想という程度の要求でとどめているのが、二人に余計なプレッシャーをかけず安定した情報収集ができるという環境を整えさせている。
そうやってせっせと情報の整理をしている二人がいるモチダンジョンに誰かが入ってくる。
見張りのエンターテイナーがいるのに何の警報も無しに入ってこれる。
それすなわち同僚ということになる。
「定期報告の時間じゃないな」
その気配を感じ取り、怪訝な顔を浮かべるジュデス。
「となると何か重要な情報を得たということか?」
それは向かいに立つヴェロッキオも一緒だ。
邪神教会の隠れ里への諜報活動自体は、相手に気づかれないように不定期になっているが、それでもエンターテイナー内の定期報告は存在する。
その定期報告とはだいぶ時間のズレた時間帯での報告は、二人の警戒心を上げさせる。
「ジュデスさん、いいですか?」
そうして二人がいるエリアまでやってきたエンターテイナーの格好は冒険者風。
イメージはどこにでもいそうな、一流になれないベテラン冒険者という風体。
この人物はエンターテイナーの伝統である脱ぎ癖がある上に、そのノリを元ハーゲッツの面々にも感染させつつある。
「チークか。お前は冒険者ギルドの方を担当してたはずだが、何かわかったのか?」
名をチーク、去る者は追わず来る者は拒まずの冒険者ギルドに潜入させて邪神教会のルートを探っていた班に所属するエンターテイナー。
「ええ、特ダネですよ。もしかしたら司教の居場所がわかるかもしれません」
「マジか?」
「ええ、マジです」
「確実度は?」
冒険者というのは邪神教会の信者でも他人の過去を詮索されないという面で紛れ込みやすく、さらに関所を通りやすく、さらに表側の情報を集めても目立たないという便利な職業だ。
それ故に、多くの邪神教会の人員が冒険者ギルドに所属している。
過去に脛に傷を持った輩がいるのは冒険者ギルドも承知していることで、さらに言えばリベルタも理解している。
だからこそ、ステラとアステルを冒険者ギルドのフライハイト支部長、ギルドマスターにして防諜対策をしようと企てているわけだが。
「現在調査中ですが自分の意見としてはかなり高いかと。冒険者の中に混じっていた邪神教会の連中の裏取りをしていたら、その中に定期的にとある地方に遠征しているパーティーがいたんです」
その仕事が減りそうな情報が入ってきた。
「それのどこがおかしいんだ?獲物がそこにいるだけかもしれんぞ?」
「それだけならおかしくはないんですけど、その地方に遠征して持ち帰ってくる素材がおかしいんです。その地方の物もたくさんあるんですけど、それ以外も持ち帰ってくるもので。南部でしか手に入らない物や西部でしか手に入らないものとかが混じっているんです」
確証はない、されど、経験を積み情報収集能力が高まったエンターテイナーたちの調査能力が黒だと言っている。
また、その感覚を否定する要素もない。
「それを起点に調べたんですけど、西部の方や南部の方の冒険者パーティーの中で定期的に、それも王都の冒険者ギルドにいたそのパーティーと同じ地方に遠征しているパーティーがいました」
そしてチークも、それ相応の情報を追跡調査している。
何かあると思わせる不可思議な動きをする冒険者パーティー。
「加えて、その三パーティーがすべて邪神教会の第三次団体の商家に出入りしているのも確認できました」
「・・・・・黒っぽいな。ヴェロッキオはどう思う?」
「これで裏取りをしないって言うのは無いな。調べた方が良いだろう」
「東部の方にも何かいるかもしれないしな、そっちと合わせて調査してくれ。増援はいるか?」
「可能なら3名ほど」
「わかった」
それを調査する価値があると判断したジュデスは、手隙のエンターテイナーを3人調査に回すことを決めた。
この隠れ里から得られる情報も、調査を始めたころと比べれば新情報が少なくなってきた。
ここで新しい情報ソースを得てもいいかもしれない。
「リベルタの方には俺から伝えておく、いつも通り、無理だけはするな。深追いして失敗するよりも安全に情報を集めることを徹底しろ」
「わかりました」
その判断で動き出したことにより、この後予想外のことが起きるとは、まだ誰も予想できていないのであった。