軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10 環境

この場を一言で説明するのなら死屍累々というべきか。

「「「「ハァハァハァ」」」」

迫り来る邪神教会との戦いに備えて、ステラたちを俺が自ら鍛え上げると決めて早一週間。

ある程度のレベリング環境が整っていれば、レベルリセットからクラス5まで上げるなんて三日もあれば十分だ。

強い奴が牽引して、安全に経験値とスキル熟練値を獲得すればいいだけのこと。

しかしそれだけではレベルは上がっても技術が身につかない。

なので、彼女たちを強くするという点において一番重要なのは、レベリングよりも実戦経験ということになる。

対人戦はもちろん対モンスター戦、さらに一つの個体を連携して攻める技術や知識、逆に個人で多数の敵を対処する方法など覚えることは多々ある。

それをたった数日で詰め込むことは土台無理な話だが、クラリスへの救援準備を同時並行で進めないといけないのでそこまで余裕があるとも言えない。

なので、徹底して効率的に訓練を施した結果が目の前の、各々の姿勢でどうにか呼吸を整えようとしている、満身創痍で疲労困憊のステラたちの姿ということだ。

「よぉし、五分休憩。その間に水分と塩分補給な。あと、ポーション飲んで傷の手当も済ませておいてくれ」

パワーレベリングは基本的にコストがかかる。色々と希少なアイテムを使うし、レベル上げに従事している間は他の効率的な金策活動が封じられる。

なので、生活基盤が安定しない限りはパワーレベリングはできない。

「「「「・・・・・」」」」

ゲーム上ではサクサクと進むパワーレベリングであるが、現実でやると効率的過ぎて精神を蝕む効果が付与される。

ネルやアミナ、そしてエスメラルダも通ってきた道で、彼女たちと同じ表情を四人全員が浮かべている。

あの時もクローディアとイングリットの表情は変わらなかったから、この四人の内誰かしらは元気そうにするかなと期待していたけど、全員もれなく死んだような眼でいそいそとイングリットが用意してくれている給水スペースに歩いていく。

大の字で倒れていたステラは、すでに俺に何度も転がされているから土で汚れることなんて厭わず、あおむけの状態からなんとかうつぶせの姿勢に転がって起き上がった。

膝をついて座り込み、木製の大剣を杖のようにして寄りかかっていたアステルは、何度も大きな深呼吸をしてゆっくりと体を起こした。

一番見栄えを気にしていると言わんばかりに意地で倒れなかったジュリは、口元を引きつらせながらも平気そうな表情を維持してできるだけ自然に立ち上がろうとしたけど足腰が限界を迎えていて、生まれたての小鹿のように足を震わせた。

もはや、なりふり構っていられないライナは、うつぶせに倒れたまま匍匐前進で進もうとしたが、そっちの方が体力を使うことに遅ればせながら気づき、しぶしぶ体に鞭を打って立ちあがった。

「ずいぶんとスパルタですね」

「そうじゃないと意味ないですからね、俺たちのあの時の訓練と比べればまだマシと思えるくらいがちょうどいいんですよ」

今、ステラたちに施している訓練は課目が複数あり、大きく分ければレベリング、ダンジョンに入っての対モンスター戦訓練、そして模擬戦という形をとった対人戦だ。

そのなかで難易度で順番を付けるのなら、レベリングが一番簡単で次にダンジョン訓練が簡単になる。

彼女たちの心の中で、たぶん一番きついと思っているのが対人戦闘訓練だ。

「そういうクローディアもアステルに対して容赦なかったでしょ?」

「ええ、中々骨のあるかたでしたので少し本気を出してしまいました」

「わかる。見どころのある奴を見つけると鍛えたくなって、熱くなっちゃうよな」

マンツーマンでの徹底指導。

日替わりで戦う相手が変わるから、変な癖もつきにくく、様々な武器との対戦経験を積める。

今回は、俺のパーティーメンバーが勢ぞろいしている。

なので、今日はステラを俺が鍛え、アステルをクローディアが鍛える。

「お二人ともほどほどにした方がよろしいですわよ?ステラさんもアステルさんも最後の方は気力だけで立ち向かっていたような物でしたし」

「でも、エスメラルダさんもジュリさんのことボロボロにしてたよね?」

「・・・・・愛の鞭ですわ」

ジュリをエスメラルダが鍛える。

「まぁ、一番きつかったのは間違いなくネルのところだよな。よく食らいついてたよ」

「そうね、ちょっと本気を出しそうになったくらいね」

そして最後のライナは後衛型の自衛のできるヒーラーのスキルビルドとして、対前衛ユニットの対戦訓練としてネルが相手になった。

結果として、彼女たちにはいい経験になったと言えるだろう。

ステラは俺の槍を懸命に捌きながら隙を伺い、意図的に作った隙を正確に反撃の機会につなげてきた。

いままでのスタイルは崩さず魔法剣士を選ぶが、サブウェポンで投擲術を身に着けている。

もとから器用さはあったから多種多様のスキルを使い分けることは慣れている。懸念すべきは少しスキル幅が広がりすぎる傾向のある魔法剣士をうまく使いこなせるか否かが、器用貧乏になるか万能となるかの分岐点になるだろう。

手札が多いということは考えることも多いということ。その点の経験を積ませるためにいろいろな手段で追い詰めてみたわけだ。

「それはいい傾向だな。身の危険を感じられるくらいが俺たちの訓練としてもちょうどいい。それに訓練を施す側も自分のスキルの使い方や戦い方を見直すいい機会になるしな」

才能は確かにある。

後は磨き手次第といったところか。

「たしかに、教えるということは自分の知識を引っ張り出すということですわ。日ごろから使う知識もあればあまり使っていない知識もある。その経験は重要ですわね」

「はい、時に振り返ることも重要ですね」

アステルは前衛兼タンクとしての役割を発揮するために挑発系スキルも身に着け、さらに防御力を上げるだけではなくいくつかの魔法スキルも身に着けた。

元来の体格の良さも相成り、レベルが上がるにつれて迫力が増してより一層前衛としての注目度が上がった。

恵まれた体格、そして大剣という組み合わせは王道の前衛とも言える。

完成度という点で言えば、迷わず自分の進むべき道を進んできたからこそアステルが一番高いと言える。

しかし、それでもまだ発展途上。

そして愚直な性格が功を成すこともあれば愚を犯すこともある。

クローディアの技を前にして、馬鹿正直に対応しすぎる。

経験不足と言えばそれまでなのだが、性格的難点も抱えているように見える。

そこを改善できれば数段進歩する素質がある。しかし、その一歩が遠いのもまたアステルだと思った。

「俺たちもまだ発展途上ってわけだ」

「私なんて、一番力は強いけど前衛の中じゃ一番弱いんだから。もっと頑張らないといけないわね」

「それは、相手が悪いのではありませんの?比べる相手がリベルタとクローディア様では」

「イングリットさんにも負け越しているの!」

ジュリは土魔法の魔法スキルアタッカーとして方針を固めた。

属性を一つに絞るのはいささかリスクがあるが、その属性を極めればスキルの使い方次第で十分に立ち回れる。

それを考慮してのスキル構成だ。

特化する分育成方針に迷わないし、学ぶ幅も絞れる。

成長速度という点においてはジュリが一番育っているとも言える

しかし、未だ癖として固定砲台になりそうな時がある。

その場にどっしりと構え攻撃することはいいのだが、そこから動かないことが度々ある。

エスメラルダにボロボロにされるのは回避よりも魔法の防御を選び、魔力消耗が激しくなり削り切られることが多いからだ。

「イングリットはなぁ、俺もたまに負けるし」

「ええ、彼女の戦い方は本当に参考になります。感情を鎮め、動きを悟らせない気配制御。あれほど攻撃の『意思』を読めない動きはありません。お見事と称賛の言葉を何度口にしたか」

「逆にネルは、ステータス任せの感情がゴリゴリに乗った攻撃が多いからな。迫力という点で言えばネルはすごいんだけど、技術に関してはもう少しだな」

「リベルタ、彼女の年齢を考えると十分に熟達していると言えます。むしろ、商人の中ではすでに最強になっているのでは?」

それを指摘し改善されればジュリにはいい術師になると思わせる片鱗は感じている。

「最強の商人とは経済の方で活躍するモノだと私は思うのですが・・・・・アミナさんどう思います?」

「うーん、でも最近ジンクさんもお肉屋さんも八百屋さんもすごく速く動くよ?」

「それはこの街の商人の方々の水準がおかしいのですわ。もし仮に強盗があの商店街に入り込んだらどうなることやら」

最後はライナだが、俺は彼女が一番の掘り出し物ではないかと思ってしまった。

スキル構成こそ、純正ヒーラーにさらにバフと格闘術を組み込んだ自衛のできるヒーラーに落ち着いた。

それ自体は問題ない。

回復役がいることで、パーティー全体の継戦能力が上がる。

ヒーラーとしてのデバフ解除や、バッファーとしての強化魔法は、確実にパーティーの戦闘能力を底上げする。

勝気な性格のライナが、戦いにおいて縁の下の力持ちとも言える役割に落ち着けるのかと思ったが、彼女は理性と知性を持って、スキルを回して見せたのだ。

リキャストタイムを秒単位で管理、魔力の回復速度を体感から計測して数値化して頭の中にスケジューリング、それを格闘戦を繰り広げながらやってのけた時は思わず二度見してしまった。

クローディアとは異なり、ステータスは魔力寄り。

格闘スキルも護身程度、パーティー戦のウィークポイントとして落とされないことを前提としたスキル構成は火力という面では他の面々には劣る。

しかし、パーティーを支える柱としてはこれ以上にないくらいに太くたくましい。

「少なくとも、物を盗んだ直後に確保されるだろうなぁ」

「簡単に笑顔で強盗を制圧している方々が想像できますわ」

「うちのお母さんも、たまにサンドバッグ殴ってるよ」

「僕のお母さんもやってる、蹴りだけど」

ライナはキャラ的に残念系かと思ったら、天才系だったという意外な事実。

「っと、そろそろ休憩が終わるな」

そこに驚きつつ、そろそろ五分の休憩が終わることを確認し、しぶしぶとコップをイングリットに預けているステラたちの光景を見守る。

できるだけゆっくりと給水エリアから出てくる面々の表情は全員に緊張が走っている。

それもそのはず、ここまでの訓練は文字通り、一対一の対人戦で済んでいた。

「じゃぁ!次は僕だね!!」

そんな面々が相手にする、最後の対人戦。

いや、対人戦と言って良いのかはわからないが、ある意味で一番理不尽な人物がステラたちの前に躍り出た。

個人にして軍隊。

うちのパーティー最強のバッファー。

アミナが元気よく自分の武器であるマイクを構える。

「みんな来て!!」

たった一言、それだけで召喚陣が展開されて、契約した時よりも大きくなった三人の精霊が出現する。

「からのゴーレム召喚!!」

そして、久しぶりに出現するアングラーが三体。

流石に訓練で本気の戦力であるゴーレムは出さない。

そのゴーレムに三人の精霊がそれぞれ憑依することで、ゴーレムに意思が宿る。

「さぁ、全力で歌うよ!!」

そんなやる気に満ちたアミナたちと裏腹に、絶望の表情を見せるステラ一行。

アミナのバフの恐ろしさを身を持って体験している彼女たちは、どうやって勝つかと必死に脳を働かせている。

ステラパーティー対アミナ。

その戦いのゴングは、アミナが歌い始めることで鳴らされるのであった。