作品タイトル不明
8 教育方針
ちょっとしたと言って良いのかは、わからない事情を知ってしまったけれど、いまは気にしても仕方ないと割り切り、魔導列車に乗って向かうのは学園だ。
「・・・・・どこまで驚けばいいのかしら」
「あれは、なんだ?」
「大きい建物ですね」
「なんなのよここ」
神殿前駅につながる路線からそのまま向かうことができるから、学園に向かう鉄道の利便性は抜群。
今の時間帯なら授業中のはず、だから高架を走る魔導列車の窓から学園の校舎を見れば教室の中に人がいるのがわかる。
とは言っても生徒数に対して学園の設備が大きすぎて、使っている教室よりも空き教室の方が目立っている。
職員室だって複数作ったのに、いまだ使っているのは一つだし。
「あれがフライハイトの人材育成機関である学園だ」
「あれが、学園?王都にある学園よりも大きいわよ?」
「気合を入れて作ったからな」
「気合で、どうこうなるものなのか?」
「どうにかした!」
そんな彼らの常識から外れた規模の学園を紹介して、ステラとアステルが驚きつつ呆れた目で俺を見てくる。
将来的にはあの学園が満員になるくらいに人を入れるから問題ない!
そんなことを思いつつ、学園直結の駅に着き降りる。
「本当に便利ね。都市同士を繋げられたらもっといいのに」
「モンスターがいるから難しいなぁ。あとは線路の盗難とか、列車強盗とか、そこら辺を解決しないと無理だ。あとは移民問題とか、貴族の権利とか、考えるだけで嫌になる」
魔導列車に乗ったステラの感想が、俺が期待していた反応だったので嬉しくてつい答えてしまう。
みんな最初は驚いてくれるんだけど、レベル上げした後だと走った方が速いって言って乗らなくなる。
なので、鉄道のことを便利と素直に評価してくれるのは嬉しい限りだ。
「確かにそうね」
俺の言い分に納得して、理解を示すあたり、ステラの地頭はいいのがわかる。
普通、この世界の住人だったら魔導列車の姿に驚いたりするけど、その利便性や経済性に着眼するのは珍しい。
この四人パーティーのリーダーでありブレイン担当、考えることが多いことで苦労して経験を積んだのがわかる。
「さてと、着いたぞ。ここだ」
ステラは学園の中にも興味津々で、移動する道すがら周囲を観察している。
アステルも周囲を見ているが、それは地理的に経路を覚えようとしている視線だ。
ジュリはステラのように知識的欲求で観察しているように見える。
ライナは好奇心だとわかるくらいにあっちこっちと満遍なく視線を向けている。
そんな彼らを連れてきたのは学園内にある、訓練室だ。
屋外にもグラウンドや訓練場はあるが、この訓練室は屋内に設置した少し特殊な空間だ。
床も天井も壁も扉もすべて弱者の証を混ぜ込み強度を確保した、ガチの戦闘を行うことを前提とした空間だ。
「ここは?」
「特殊訓練室と呼ばれている部屋だ」
空間の大きさはバスケットボールのコート一つ分くらいで、体を動かすには十分な広さがある。
前にクローディアとここで訓練したときは、天井と床、壁のすべてを駆使した立体機動で翻弄されたな。
前に負けたのを根に持っていたから、訓練したエリアルコンボを本気で俺に放ってきたときは肝が冷えた。
「この空間を作っている素材は、とある方法を使って壊れないようにした代物だ。魔法を撃っても燃えないし凍らない、スキル攻撃にも耐えうる素材ってわけだ。空調で空気も管理しているから、毒や霧の特殊な攻撃をしても問題ないぞ。ポーションも持ってきているから怪我の心配もない」
「戦うのか?」
「戦いも含めてって感じだな」
そんな場所に四人を連れて来たのは訳がある。
「これからやるのは適性試験と、理想の戦闘スタイルの模索だな。今までは環境上そうするしかなかったという縛られた条件で培ってきたスタイルだ。それが馴染んでこのままでいいと思うかもしれないが、採れる選択肢って言うのは一度でも幅を見ておけば後々役に立つ」
今回は、完全にオーダーメイドでの育成という流れになる。
ネルたちはこうなりたいという希望に沿って育成し、俺が最強になるようにスキルも構成する。
イングリットは完全に俺がこういうスタイルの人物が必要だという理由で構成したが、ステラたちはどういう風に育成するかまだ決まっていない。
俺は説明しながら、特殊訓練室の壁際にある入り口とは異なるスライド式の扉に近づき扉を開く。
「そのための武具はここに用意してある」
訓練用の武具であるが、全てパーシー工房謹製の品だ。
刃を潰し、怪我をしないように配慮されている品々だけど、品質はどれも一級品。
「色々な形の武器があるわね」
「こっちは防具もあるな」
「杖に、弓矢、鞭に、鎌、長刀、メイス、斧、本当に色々ですね」
「こっちは魔道具ね。簡易的だけど、魔法スキルが使える品も用意しているのね」
ダンジョンからとれる素材がふんだんに使えるからこそ、この数を揃えることができる。
「現在の持ちスキル云々は関係なしに、好みの戦闘スタイルを確立して最強を目指す。それができる環境ってわけだ」
武器も戦い方も本人の好み次第で選り取り見取りと言える環境は、育成するという面では最強と言って良い。
最速で育成を始めるのなら、神殿で契約して即座に商売の神の神像の元に向かって、レベルリセットとスキルリセットを敢行すればいい。
しかし、ステータスを残した状態で体を動かし、自分の今の馴染んだ技術から発展させて方針を決めた方が、育成方針は決めやすい。
ステラやアステルは、見たことのない形状の武器を手に取ったりして感触を確かめている。
ライナは魔道具に興味があり、ジュリは保管庫のすべての備品を均等に観察しているように見える。
「一から育成し直すっていうのは、新しい道を選び直す絶好の機会でもあるから、ここで色々と試すってわけだ」
そんな彼らに向けて、俺は近くにあった三節混を手に取って、少し離れ使って見せる。
少し特殊な形状の武器ではあるが、使った時の感覚を呼び起こして演舞のような動きを見せることくらいはできる。
「それが、リベルタさんの本来の武器か?」
アステルがその動きを見て、真剣な眼差しを向ける。
「いや、俺の得意な武器は槍だな。あとは、鎌を使ったり格闘戦もするけど本命は鎌槍だ」
前に戦った時は木剣でボコボコに負けてしまったから、俺の本気の戦闘スタイルを見ていない。
「・・・・・戦ってみたい?」
「是非に」
相手に本気を出させることができなかったというのは、戦闘者にとってはプライドを傷つけられたと言っても過言ではない。
アステルは、近くにあった訓練用の大剣を手に取って前に出て来た。
「まぁ、いいか。試すだけならいくらでもできるし」
本気は出さないが、真面目にはやる。
そんな気持ちで、俺は訓練用の鎌槍を手にしてアステルと模擬戦をやることになるが。
「くっ!」
「ほい、終わり」
「アステルが、手も足も出なかった」
「一方的でしたね」
「あんな強さがあるなんて、反則じゃない」
結果は一方的に終わる。
そもそもステータス差がある上に、本命武器を持ち出したのだから負ける方がおかしい。
本気は出さなかったけど、真面目にやったことでアステルは碌な攻撃もできずに負けてしまった。
「一対一で負けるわけにはいかんのよ。それでアステルは参考になったか?」
「ああ」
「他の武器も試してみろ、俺に挑んで手応えを感じる武器と出会うかもしれないぞ」
「・・・・・試してみる」
それで心が折れないか心配になったが、逆に目の奥に火が灯り、やる気を出したみたいだ。
迷わず保管庫の方に歩き出し、いろいろな武器を手に取り振ってみて試し始めた。
「リベルタさん、ちなみに私におすすめの武器はあるかしら?」
自分で探すことも良いが、俺にアドバイスを求めることもまた方法の一つと考えたステラが俺に質問する。
ステラの戦闘スタイルは魔法剣士。ある意味で主人公らしいスキル構成でまとまっているが、それゆえに俺は対処しやすいと考えた。
奇をてらう必要はないが、相手に自分のスキル構成を読みにくくさせると言うのは有りと言えばありだ。
「王道ゆえに、堅実なスキルも悪くはないと思うぞ?」
「そういうことを聞きたいわけじゃないのは、わかっているわよね?これでも強くなることを貪欲に追求してきたつもり。だけど、私に見えている視点とリベルタさんが考える視点は違うって、前の戦いで学んだ」
「それで俺の意見を取り込もうと?」
「ええ、他者から学ばない人に先はないわ」
「よろしい、俺もそう思うよ」
実際、ステラと戦ってこういうスタイルにしたら強そうだなとは思った構成はいくつかある。
今回はその一つを紹介してみるか。
「それじゃ、そんな学ぶ意欲のあるステラの質問の答えの一つを見せよう」
「それって鞭よね?」
俺が保管庫に入り、手に取ってきたのは鞭だ。
何ら変哲のない、オーソドックスな武器としての鞭。
鞭と言えばミドルレンジで戦うことを想定した武器。
間合いを破られて接近されれば弱いと思われる癖のある武器だが、得意な距離なら相手を一方的に攻撃できるメリットも持つ。
「扱う腕の動きひとつで変幻自在な攻撃のできる武器だ。相対してみれば、その厄介さはわかるぞ」
「・・・・・いいわ。体験させてもらうわ」
「よろしい」
明確にメリットとデメリットが分かれている武器を前にして、ステラは自分の戦闘スタイルであるショートソードと小盾を保管庫から引っ張り出して構えた。
あの時と変わらぬ、隙を最小限に減らし機動能力を高めた戦闘スタイルに対して鞭が有効か否か。
答えはすぐにわかり。
「まったく、近づけなかったわ。じつは本命武器だったりなんてことはないわよね?」
「ハハハハ!年季の違いだな。鞭系のスキルは一切ないが、逆を返せば努力次第ではこれだけのことができるって証明だな」
結果は再び俺の勝利ということになる。
さっきの鎌槍とは違い、今回は俺の主力武器というわけではない。
随分と錆びついているなとは思ったが、それでもステラ相手なら完封勝利はできる。
「ずいぶんと多芸ね。他に何ができるのかしら?」
「この保管庫にある武器は一通り扱えるぞ?なんならそっちが指定した武器で相手してやろうか?」
「・・・・・いうじゃない。じゃぁ」
その完封劇が悔しいのか、俺の底を計ろうとしてくる。
趣旨が変わり始めているが、ちょっとした余興としてなら十分かと思いもう少しばかり付き合うことにしよう。
この武器が最強という偏った思考をここで砕き、どんな武器でも最強になれるという意識を植え付けるには絶好の機会だ。
「これはどう?保管庫にあったのだからこれも歴とした武器よね?」
そしてリベンジに燃えてステラが持ってきた武器を見て、俺は目を見開き、ライナとジュリは。
「さすがにそれは」
「それって、掃除用具よね?それを武器と言い張るのは」
ステラの持ってきた竹箒を見て、呆れていた。
「なるほどなるほど、うん、いいよ。かかって来て」
「本気?」
「ああ、箒の潜在能力をとくと御覧じろ!!」
是が非にでも勝ちたいという彼女の気持ちを汲んで、俺は満面の笑みで箒を受け取る。
まさか、俺の背後に控えるイングリットが箒の使い手だとは思わないだろうし、その戦闘スタイルを教え込んだのが俺だとも知らないステラは、さすがに箒には負けないと踏んで、さっきよりも力を抜いて勝負に挑んできた。
そんな精神で挑んできた戦いが良い結果を呼び込むわけもなく。
「馬鹿な」
「はい、俺の勝ち」
再びの完封劇にステラは愕然とするのであった。
武器の差が戦力の決定的な差にならないことを骨の髄から教え込まれて、これまで培ってきた常識が一変してしまったのかもしれない。
その後にどの武器を選べばいいか迷走し始めるのはまた別の話である。