作品タイトル不明
7 さすが主人公
顔を真っ赤にしたライナ、そしてどこか仕方ないと達観したような顔のステラ。
五分で良いと言いつつ、戻ってくるのに三分もかかっていない。
「何があった?」
ライナの混乱が収まり、落ち着いたという風には見えない。
「少し、お話しを」
「いや、少しお話しって感じのリアクションじゃないけど・・・・・大丈夫か?ライナは顔真っ赤で、契約ができるようには見えないけど」
むしろ感情的には不安定になっているのでは?と思うくらいに顔が赤い。
「大丈夫です、ね?ライナ?」
「はい、大丈夫です・・・・・」
本当に何があった?
俺の頭に疑問符が生え、首を傾げてしまうのも無理はない。
ライナという少女のイメージは勝ち気で、猪突猛進とでも呼ぶべき突き進むようなイメージだ。
まだ出会って日が浅く、親しくなったとは言い難い関係だけど、少なくともこんなしおらしく、顔を真っ赤にして俯くような少女のイメージはない。
「・・・・・マーレン司教、大丈夫ですか?」
「はい、儀式そのものは問題なくできます。しかし、よろしいのですか?無理矢理儀式をさせたとなると、ステラ殿に神罰が下りますが」
「そこら辺はさすがに弁えていると俺は思うけど、大丈夫なんだね?」
「ええ、大丈夫です。脅したり、無理やりにと言った行為はありません」
そんな状態で果たして神の契約の儀式を進めて良い物かと、マーレン司教の問いにステラは胸を張って大丈夫だと言う。
さっきまであれほどダメだったのが、たった数分の会話でどうにかなるとは思えないのだが。
三度目の正直、アステルは呆れたと言わんばかりに溜息を吐き、ジュリの頬も何やら赤く染まっている。
緊張して見守るのは俺だけで、なにやらおかしな空気になりつつ契約の儀式が始まる。
マーレン司教により儀式が進み、その儀式にライナが顔を赤く染めたまま挑むと。
「・・・・・契約は無事に結ばれました」
さっきまでの苦労は一体何だったんだと言わんばかりにあっさりと終わった。
「えええ?」
何が起きたのか本当にわからなくてまたも首を傾げた。
何か事情を知っていそうなアステルとジュリ、そしてライナに何かを施したことが確実なステラに視線を向けると、アステルとジュリはそっと視線を逸らし。
ステラは苦笑気味に、笑うだけ。
「終わったわよ」
頬の熱が多少引いて、少しは元に戻りつつあるが、それでもまだしおらしい態度のライナが顔を逸らして儀式を終えたことを知らせて来た。
これにより彼女たちを鍛えることができる準備はできたわけだが、過程に疑問が挟まりすぎてイマイチ納得しきれていない自分がいる。
その俺の気持ちがわかるのは、きっと儀式を行ったマーレン司教もだろう。
ちらりと彼に視線を向けて見れば、彼もわからないと首を横に振って応えた。
理由というか、どういう会話をしたかおおよそ察しがついているのは身内だけか。
もしかして契約の儀式をすり抜ける手段を持っている?
そんなことを考えてしまうほど、さっきのやり取りに疑念を抱いてしまう。
しかし、神の目を欺く行為がそう簡単にできるものか。
もしかして俺の知らないスキルでもあるのかと、内心では考えてしまう。
「とりあえず、契約はできたしひとまず移動するか」
それを聞くべきか、聞かざるべきか。
契約ができている段階で鍛えること自体は問題なくできる環境になった。
契約が無事に締結されているのはマーレン司教が確認している。
最低限の担保は得られたということになる。
「マーレン司教、今日はありがとうございました」
「いえ、私は職務を果たしただけにすぎません。また、いつでもお越しください」
「何度でもお世話になりますよ」
マーレン司教に感謝して、神殿を後にする。
少し時間がかかったが、予定内だから次の行動に支障はない。
神殿を出て駅まで戻る道中。
考えるのはやはり、さっきのやり取り。
数分の会話、いや、一方的にステラがライナに耳元でささやいて解決したやり取りが妙に気になる。
ステラとアステルが俺の知る主人公の容姿とうり二つなうえに、名前も合致しているからか、何か特別な力でも持っているのではと勘ぐってしまう。
ちらりと、ステラの方を見てみる。
それで何かがわかるとは思わないが、観察してわかる情報もある。
そう思っての行動だったが、ちょっとした違和感に気づく。
先頭を御庭番衆の護衛が、最後尾も御庭番衆が挟む形になっているのはもともとで、それは問題ない。
違和感だと思ったのは、俺の背後を歩くステラたち四人の内、ステラとライナの距離だ。
普通に歩くなら妙に距離感が近いと思うような距離に、ライナが意図的に位置取っているように見えた。
そしてチラチラとライナがステラを見る目。
俺でもわかるって、相当わかりやすいと思う。
「イングリット」
「どうかなさいましたか?」
しかし、見当違いの推理をしていたら痛い奴認定なので、すぐそばにいるイングリットを小声で呼ぶ。
彼女も声量を抑え、顔を寄せて秘密の話をする姿勢を取る。
ステラたちの目の前でやるような姿勢じゃない。
後ろにいる面々の視線を感じ取っているが、それは気にしない。
「ステラとライナの関係なんだけど・・・・・」
「はい、あれはデキていますね」
「え、そんなにわかりやすい?」
「はい」
濁した言葉で確認しようとしたが、イングリットが無表情で即答した所為でちょっと驚いてしまった。
確かにそれを確認しようとしたが、まさか即答されるとは思っていなかった。
「なにせ、私が立っていた場所からそのような行為をする約束をする会話が聞こえましたので」
「・・・・・マジで?」
「はい」
声を潜め、イングリットはあの時ステラとライナが話している内容を聞いたと言った。
それはある意味で俺が一番知りたい内容であり、それと同時にイングリットとの会話の内容からステラがライナに囁いた言葉が夜の睦言だということが判明した瞬間でもある。
ギョッと自分の目が見開いたのがわかった。
それと同時にそういう方法で、神の契約の儀式を成立させることができるのかと瞬間的に疑った。
可能か、不可能か、それだけで言えばできると判断した。
極論すれば契約の儀式は、神罰のリスクを感じず受け入れていいと契約者が認識すれば契約ができる。
ここで脅迫や暴力などの威力でしぶしぶ受け入れさせようとすると、嫌悪感と危機感という部分で契約が成立せず弾かれる。
「優しく、そして導くように、今日はゆっくりと可愛がってあげるから早く終わらそうと口説いておられました」
「・・・・・」
しかし、その逆でメリットが上回り、契約者の危機感と嫌悪感が除外されれば契約を受け入れた状態と言えるところまでもっていける。
イングリットの説明を聞くと、夜の楽しみのために一時的でもライナは契約内容で感じていた忌避感を完全に拭い去ったということになる。
薬物とかで思考不全になったら契約はできないが、メリットを感じ受け入れるという流れなら確かに方法的にはできると判断できる。
そんな方法で?と思うかもしれないが、思考的ロジックで判断するならできるかもと思わせる方法である。
それをやったステラもダメ元でという考えかもしれないが、それで通過してしまったからすごいと言わざるを得ない。
思わず黙り込んでしまうくらいに、ゲームではできない手法だとため息を吐く。
いや、そういうこともできるから主人公と言えるのか?
「なんか、すっごいこと聞いた気がする」
「はい、私もそのような方法で契約が成功するとは思っておりませんでした」
「だよなぁ」
ゲームでの主人公は、考えてみれば普通よりも簡単に好感度が上下する。
失言をしたり失態を犯せば好感度が下がる。
これは現実の人間関係でも一緒だ。
そして逆に好感度を上げるには、相手が好意的になる会話をして行動もそれに準拠することになる。
しかし、この方法を試してもすぐに効果が出るわけでもなくコツコツと積み上げるしか方法がない。
されどゲームの主人公はポチポチとコントローラのボタンを押したり、NPCにプレゼントを渡すだけで周囲の好感度がどんどん上がっていく。
ゲームのシステム上仕方ないとはいえ、とんでもない能力だと今さら思う。
その素質をもし仮に、ステラとアステルが持っているのだとしたら。
「もしかして、とんでもない人垂らしを弟子にしてしまったのかも」
「リベルタ様も人垂らしですので、お仲間を呼び込んだのでしょう」
「そうかね?」
「ええ、このフライハイトにいる皆さまはリベルタ様を慕っておりますので」
「そうだといいねぇ」
コミュニケーションチートのキャラって、冷静に考えてバグキャラだよな。
同性同士だからとかそういう偏見は俺は持っていないので自由にそこら辺はやってくれて構わないが、それで情報を引っこ抜かれたら目も当てられない。
気を付けないといけないことが判明して、少し後悔した。
しかし、約束は約束だ。
守るべきことはしっかりと、それが俺のポリシーだ。
育てるのが面白そうだと思ったこともまた事実。
なので、ステラたちには立派なギルドマスターになってもらうべく育てることに手を抜くことはない。
「恋多きギルドマスターが爆誕したらどうしよう」
「・・・・・私にはわかりかねます」
仕事はしっかりとする。
だけど同時に、脳裏によぎるのは数多のゲームや漫画、アニメで起こりえる一人の人間を巡っての恋愛トラブル。
背後からライナがナイフを持ってステラをブスリと刺す光景を想像してしまった。
俺も他人のことは言えないな、明日は我が身だ。
しっかりと彼女たちと向き合わないといけない。
「なぁ、アステル」
「・・・・・なんでしょう?」
「ステラってモテる?」
その前に少し情報収集というわけで、ステラの兄のアステルに小声で話しかけてみる。
内緒話が終わった直後の質問のため一瞬の警戒をされ、小声で内緒話だという行為も相成って返事まで間があったが、俺の質問にびくりと肩を揺らした。
「好意を向ける男は多かったです」
「女の子は?」
「・・・・・交友関係は広かったです」
「なるほど」
その反応は予想外の質問だった故の油断だったのだろう。
双子の兄妹がお互い把握していないわけもなく、そしてステラの恋愛観がどういうものかも知っているアステルが、必死に言葉を選んでいるのがわかった。
男に関しては素直に答えた半面、女性との関係は言葉を濁したのがなんとなくお察しという感じか。
「そういうことをとやかく言うつもりはないけど、ほどほどにね?」
「自分が言ってもあまり効果はないので、リベルタ殿が言ってくだされば」
「ステラが積極的に?」
「いえ、無自覚に」
「・・・・・天然物かぁ」
アステルが困った顔をするくらいには、ステラはやり手なのだろう。
これは中々困ったものだと思いつつ、苦笑して見せるとアステルの口元にも笑みが浮かぶ。
「幸い、既婚者や恋人のいる人物には手を出していませんので」
「それを聞いても安心できないんだよねぇ」
「・・・・・同意します」
「そういう苦労の経験が?」
「・・・・・黙秘します」
「あ、うん、なんかゴメン」
これは中々、業が深そうな内容に再び苦笑するのであった。