軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5  西のモンスター

西の大陸への遠征とはすなわち砂漠への遠征ということ。

色々と経験不足なフライハイトの面々は、トルマンディに砂漠の知識をもらいつつ遠征準備を行うことになった。

大会議が終わった翌日、俺はジュデスを呼び出して指示書を渡している。

「ジュデス、悪いけど王都にエンターテイナーを派遣して、この地図の場所にいる精霊と交渉して来てくれ。やり方はこの紙に書いてある通りにやればいいから」

大会議の話し合いの結果、フライハイトの方針として西の大陸で孤立して兵糧攻めされているクラリスの救援を決めたのなら、迅速に行動に移さねばなければならない。

動ける人員は早々に動かす。

「わかったが、王都にも精霊がいるんだな」

「変わり者は人間だけじゃないってことだ」

まずは砂漠の遠征に必要な水を確保するための手段の一つ、クリエイトウォーターのスキルスクロールを確保するために、王都に隠れ棲む井戸の精霊ことドンタの元に人を送る。

ドンタのイベントでは代価として他のスクロールとの交換が必要になるが、使ってないスクロールは唸るほどある。

それを使ってイベントを繰り返してコツコツとやれば、クリエイトウォーターの数は揃うはずだ。

クリエイトウォーターのスキルスクロール入手は、地味に面倒なことが多い。

ゲームの時は必要なスキルじゃなかったけど、こういう時は必要になるのが現実の苦労という物か。

「でも、わざわざスクロールを確保する必要があるのか?水の件もモチダンジョンで解決だろ?」

「西の大陸じゃなければそれでいいんだけどな」

「何かあるのか?」

それも砂漠で生きるために必要な苦労だと苦笑しつつ、頭を掻き、ジュデスの質問にどう答えるべきかと考える。

確かにジュデスの言う通り、モチダンジョンを使えば簡単に水は確保できる。

砂漠であれば、それを思いつく輩はいるだろう。

それがFBOの時代であればプレイヤーかそれともNPCかの差になるが、プレイヤーの気づきは少し特殊なパターンになる。

「ジュデスは砂漠って、どういうイメージがある?」

「砂漠?そりゃ、見たことはないけど辺り一面が砂だらけで何もない場所って感じだろ?よくわからないけど」

「そう、大体そんなイメージだ。砂しかない、しかし、そんな砂しかない場所にもモンスターは存在するんだ」

その特殊なパターンとは、プレイヤーが西の大陸のとあるボスを倒す前に砂漠でダンジョンの鍵を使った時の話だ。

これ自体はプレイヤーとしていたって普通の行動だ。

素材が足りなくなり、それを補充するためにダンジョンを作り、それの攻略に乗り出す。辺りは砂漠で、誰もいないし、そのエリアは砂漠の中でも無害と言えるようなモンスターしかいない場所だ。

「そりゃ、当たり前だろ。この世界でモンスターがいない場所を探す方が難しいだろ」

「そう、当たり前だ。だけど、環境が異なるとモンスターの特性も変わるんだよ」

「特性?」

FBOでは初期スタート位置をチュートリアルで設定することができる。

それはアバターのキャラメイクの人種設定によって変わったりもするが、基本的にはプレイヤーが自由に選べる。

各大陸ごとにゲーム上の難易度が設定されていて、南の大陸は一番簡単であるが、その分経験値やレアアイテムの恩恵が少ない大陸に設定されている。

最難関は北の大陸であり、恩恵も最大だ。

では残った東と西どっちの方が難しいかと言われれば。

「西の大陸のモンスターは悉く乾き飢えている。特に魔力への飢えという部分においては全大陸の中で一番敏感なんだよ」

西の大陸の方が難易度が高く設定されている。

運営は東西は同程度の難易度と言っているが、プレイヤーは東西の大陸でどちらが難しいかと問いを投げかけられたら間違いなく西と答えるだろう。

「それが、どういう関係が?」

「ダンジョンって言う高い魔力を放つ空間なんて生み出してみろ、あっという間にモンスターが集まってくるぞ」

「ええ、そんなことあるのかよ?」

「ある」

強さという点で言うなら間違いなく北の大陸のモンスターの方が強い。

だが、執念とか無鉄砲さで厄介だと思うのは西の大陸だ。

「特に水に関しての執念はヤバいぞ。そこを何が何でも確保しようとモンスターたちが群がってくる」

「まるで見たことがあるみたいな口ぶりだな。リベルタって、西の大陸の出身なのか?」

「さてな、そこを語るにはまだまだ好感度が足りないな。今は、貴重な情報を持っている男ということで納得しておけ」

加えて、砂漠という空間ゆえかモンスター同士のテリトリーの境界線もあやふやだ。

徘徊型モンスター、俗にいう流浪と呼ばれるモンスターが一番発生しやすいのも西の大陸の特徴だ。

「そうかい、ならそんな知識を持っているリベルタに聞きたいんだけど。ボスを倒したダンジョンなら問題ないんじゃないのか?ボスのいないダンジョンにモンスターは基本的に入りたがらないんだろ?」

「それも、通用しないんだよ」

おまけに、飢えに晒されたモンスターたちの行動は他の大陸の常識を悉く覆す。

とある条件を満たせばそれが解消されるとはいえ、それまでの状況が無法すぎる。

「ダンジョンを展開したら、基本的にそのダンジョンめがけてモンスターたちが殺到してくる。そうなれば防衛をしないといけないから休むこともままならないってわけ。負けないってわかっていても消耗しないわけじゃないからな」

「うへぇ」

モンスターの生態系というか、ルールを根本から狂わせている原因は知っている。

その原因を取り除けば、西の大陸の難易度は格段に下がる。

それをやるまでが大変なんだけどな。

絶え間なくモンスターに襲われる光景でも想像したのか、ジュデスは顔をしかめた。

「モンスターに襲われる頻度は、南の大陸の比じゃない。魔道具の魔力や人間の魔力にも反応して襲ってくるが、ダンジョンを展開するよりもマシだ。そういうわけで、今回の遠征ではダンジョンは使えないんだよ」

「いや、そんな事情があるならあの時に説明しろよ。かなり重要な話だろ?」

「すまん、ぶっちゃけて言われるまで忘れてた」

「おいおい、大丈夫か?お前、最近働きすぎじゃないのか?ちゃんと寝てるのか?」

その内容はFBOでは常識過ぎて、俺も説明するまでもないと思っていた。

だけど、ジュデスに言われて常識ではなかったことに気づかされた。

忘れてたと言ったら、一番忙しい部署に所属するジュデスに働き過ぎだと言われ、過労を心配された。

「俺が夜更かししようとすると、イングリットが就寝を促してくるからその心配はない」

「ケッ、俺も専属のメイドさんが欲しいぜ」

「金はあるだろ?契約さえしっかりとすれば雇ってもいいんだぞ?」

「そう言うのじゃないんだよ!!わかるだろ!?こう、心の底からこみ上げるうれしさ的な!な!?」

「いや、まぁ、わからんでもないが」

生憎と健康管理に関しては、イングリットがいるから心配はない。

仕事に関してもサポートしてもらっているから、正直、今、イングリットに離れられたらかなり不便を感じることは間違いない。

その関係性は、金銭による労働関係では成り立たないものだ。

好意を向けられているということもあり、イングリットの献身は他とは比べ物にならない。

ジュデスはそこら辺のことを言っているのだろう。

「当人がいる前で、そんなことを言うなよ」

「・・・・・私はこの気持ちを隠す気も恥じる気持ちもございません。まっすぐにぶつけるだけです」

そんな嫉妬心を出しているから、女性が寄り付かないのではと思いつつそれは口にしない。

イングリットになら言っても問題ないと思っているあたり、だいぶ開きなおっているな。

「クソぉ!!幸せにな!!」

「ジュデスも、もう少し落ち着きを持てばモテると思うんだけどな。ヴェロッキオたちが入ってくれたおかげで休みも取れているだろ?」

「出会いが少ないんだよ!?この前の神殿関係が失敗してから女性との縁が少ないんだよ!?頼むよ!もっと女性とのつながりを!!」

「まぁ、検討しておくよ」

「マジで、頼むぞ!!あ、貴族令嬢はマジで勘弁な!」

気楽な関係と言えば聞こえはいいが、もう少し上下関係を叩き込むべきかと考えなくはない。

一応情報関連の仕事についているからか、貴族令嬢とのつながりを避けているのは評価しよう。

「はいはい、わかったわかった」

「わかったのか!?ほんとうに!?」

「リベルタさんは、しっかりと覚えましたよ。そろそろ、持ち場に戻れ。俺も次の予定が控えているんだから」

「次の予定?ああ、冒険者のあいつらか?」

「ああ、ギルドマスターにするって約束したからな。今日は一緒に神殿に行って訓練の契約をするんだよ」

ちらほらと、エンターテイナーたちの中には恋人を作るメンバーもいることは聞いている。

それに対して、ジュデスは独り身街道まっしぐらというわけで、焦っているのだろう。

まだ若いのだから大丈夫だとは思うんだけど、当人はそう思っていないのだろう。

「・・・・・なぁ、リベルタ」

「とりあえず、あの三人の誰かに手を出すなら止めておけ。ステラにしろジュリにしろ、ライナにしろ相手にされないぞ」

「まだ何も言ってないだろ!?」

焦っている男はモテないぞとくぎを刺して、次の言葉を封じておく。

言わないでもわかるわと呆れた目を向けつつ、俺は椅子から立ち上がる。

「とりあえず、仕事の時間だ。まじめに仕事をしてればきっと良い縁に巡り会えるさ」

「言ったな!絶対だぞ!」

そして後ろ手に手を振り、そのまま執務室を出るとそれを追いかけてきて、背後からジュデスが叫ぶ。

それを最後に、駆け足でどこかに立ち去ったということは仕事に戻ったということだ。

「悪い奴じゃないんだけどなぁ」

「はい、悪いお方ではないのですが」

ちらりと背後を振り返れば、ちょうど角を走って曲がるジュデスの姿が見えた。

必死の形相で、仕事に戻る彼の表情を見てモテない理由を察することはできるが、改善するには当人の行動が必要になるためこればかりはどうしようもない。

「今度は合コンじゃなくて、お見合いでも組むか」

「お相手はいかがいたしましょう?」

「そこが難しんだよなぁ」

頭を掻き、どうするかと悩みつつ歩を進める。

地味に俺のコネだと権力者が多すぎて、うかつに紹介できないんだよ。

「テレサさんにでも頼むか」

「確かに、妥当かもしれませんね」

「代わりに尻に敷かれそうな未来が待っているけどな」

「それもよろしいかと、手綱を握ってくれる女性の方が落ち着いて仕事ができるかもしれません」

限られたコネの中で比較的安心できる人に紹介を頼むかと思いつつ、主人公たちとの待ち合わせ場所に向かうのであった。