軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 垣間見た可能性

巨人が倒れる。

その光景を雷馬となった次女さんの背に乗ったまま上空から見下ろす。

死んだふりをされたりしたら面倒だから、最後まで警戒を続けていたが。

「終わったか」

『ええ、終わったわね』

精霊の消滅が始まったのを見て、この戦いに終止符が打たれたことを実感した。

精霊は死ぬとどうなるか、それは最期には、魔力となってこの世界に溶けて消える。

今回のように、邪霊として倒されて死んだとしてもその最期は変わらない。

巨人の肉体が、モンスターのような黒い塵ではなく、この世界に満ちる魔力に還元されるように、光の粒子になって消え始めている。

『い、やだ』

その命が消えようとする際に、ドーラスが拒むように手を伸ばす。

『消えたく、ない』

その手が何を求めているかは明白で、未練がましく助けを請う姿はさっきまで自信満々だった姿とはかけ離れている。

死を目前にして、潔く散れる存在は少ない。

そういった潔い姿を示すのは諦めというよりは、やりきったという達成感の方が近いのかもしれない。

俺も死を目の前にしたらどうなるんだろう。

みっともなく泣き叫ぶか、あるいはここまでやれたら満足だと落ち着いているか。

『たすけて、くれ』

そんなことを思いながら見下ろしていると、ドーラスが一番近くにいる御庭番衆、ゲンジロウの方に巨大な手を伸ばすが、その手も指先から光の粒子になって消え去っていく。

その姿を見ても何もせず、手を下さず、いきなり現れた邪霊という災害は終わりを迎える。

俺たちは降りかかった火の粉を払いのけたに過ぎない。

傲慢にふるまい、最期は泣きながら消えていくかつて大精霊だった存在。

その最後の言葉を聞いて、この戦いは終わる。

「勝ったぞ!!勝鬨を上げろ!!」

『『『『『オオオオオオ!!!!』』』』』

何も感じないわけじゃないが、それでも感情的になるものでもない。

なのでここは一旦、勝利したことを示すために槍を天に突き上げ、次女さんの背中で勝利宣言をする。

それに呼応する御庭番衆やエンターテイナーたち。

戦い終えたことで表情も和らぎ、隣にいる仲間と肩を組んだり、ハイタッチする光景が見える。

そこはゲームと変わらないんだなと笑いつつ、上空から見える光景を見てため息を吐く。

「ずいぶんと荒らしてくれたな。これ、直すの俺たちなんだぞ」

そこには巨人が暴れた痕跡がしっかりと残っている。

均等に整地したはずの土地は、ドーラスが暴れまわってくれたおかげで地面は凸凹なんて言葉では済まないくらいに、そこら中が抉れていた。

『あと、この土地、魔力過剰地帯になるわね。畑にも住居にも使えないわよ』

おまけに土壌汚染ならぬ、魔力汚染も発生してしまった。

本来精霊の死はゆったりとしたもので、ゆっくりとその体を自然に溶け込ませて自然に魔力をなじませるのが常だ。

小さな精霊とかならまだいいけど、長い年月を生きてきた大精霊の突然の死は、その土地に過剰な魔力を与えることになる。

「そこは何とかする手段があるからいいけど、少なくともここら一帯はしばらくは立ち入り禁止だな。高レベルの俺たちはいいけど、冒険者とかが近寄ったら大変なことになる」

『そうね、若い精霊も近づかせない方が良いわよ』

「わかった。周知しておく」

過ぎた魔力は身を亡ぼす。多いに越したことはないけど、多すぎるのもまた問題なのだ。

終わってもまた迷惑をかける存在に溜息を吐きたくなるが、それは全部終わった後でいいと、ひとまず地上に降りる。

「御屋形様!!」

「ゲンジロウ、被害は?」

「はっ!軽い傷を負った者はおりますがそれ以外は問題ありませぬ」

「軽い傷でもしっかりと医者に診てもらってな。万が一、毒とか呪いとかもらってたら大変だし」

「承知しました!」

「治療費は街に請求するように。遠慮はしないでくれよ」

「はっ!それでは念のため再度怪我の有無を確認してまいります」

「頼むよ」

地上に降りて、真っ先に駆け寄ってきたゲンジロウに被害状況を確認すれば、御庭番衆にもエンターテイナーたちにも被害らしい被害はないとのこと。

流石に無傷とはいかないが、重傷や致命傷を負った仲間はいないようだ。

それでも念には念をと、現場責任者のゲンジロウが駆け出し仲間を集結させ、再度、体の状態を確認してくれる。

「よっと」

辺りを見回しても、怪我人らしい人物は確認できなかったので次女さんから降りると、彼女も再び光りながら、元の人の姿に戻った。

『はぁ、久しぶりにあの姿になったわ』

「そう言えば、会う時はずっと人間の姿だったからね。どれくらいぶりなの?」

『そうね、最後にあの姿になったのはいつだったかしら。ここ百年はなってなかったと思うけど』

疲れたと肩を回す様子を見て、あの姿は本当に全力を出すときの姿なのだなということを教えられる。

『そもそも、このような姿になる機会の方が某たちは少ない。いや、少ないに越したことはないと言った方が正確だな』

その隣に着地するように巨大な竜が少し上空まで舞い降り、そして闇が溢れそこから闇さんが現れる。

『あの姿、強いんだけど魔力消費が多いのよね。アジダハーカの時は時間稼ぎの方が優先だったから出力は低いけど持続力のあるこの姿で戦ってたけど』

『今回のように強さを求めるのなら、あちらの姿の方がいいな』

精霊にとって人型の姿はさしずめエコモードだ。

ゲームで精霊使いビルドを使っていた時も、それはあった。

決戦仕様の獣モード、継戦用の人型モードという感じで分かれていた。

『その魔力の心配も、契約者がいればある程度は解消できるのだがな』

ただ、精霊使いという魔力タンクの役割をしてくれる存在がいればその問題は一気に解決する.

精霊使いビルドは魔力寄りのステータスで、精霊をサポートすることに特化したビルドになるケースが多い。

中にはプレイヤーが自力で戦うことを主眼とした精霊使いビルドも存在する。

しかし、最も精霊使いにとって重要なのは、精霊に魔力を供給し続けることであることは変わらない。

『で?どうであった?雷の背中で共に戦った感想は』

「貴重な経験だったな。少なくとも、今後の育成方針を悩む程度にな」

そんな話を振ってきた闇さんの思惑はなんとなく察しが付く。

ニヤッと口元に笑みを浮かべて、わざとらしい口調で話を振ってきたのだ。

それでわからないほど鈍感でもないし、誤魔化すほどおかしな話でもない。

『ほう、では精霊術を取る可能性もできたか?良かったな雷の、そなたの背中は乗り心地が良かったと会長は言っているぞ』

『何言ってるのよ!』

『ハハハハ!某は馬に蹴られたくないのでな、少しばかりここら一帯の魔力を宥めてくるとしよう』

その流れで、次女さんに流れ弾のように話を振って立ち去るあたり、どういう意図でこの話を振ったかを察してしまった。

後ろ手に手を振り、ついさっきまでドーラスが倒れ伏していた場所に向かって歩き出す闇さんを見送る。

『別に、無理して精霊術を取る必要はないわよ。あなたがやりたいようにやればいいわよ』

その場に残されたのは、金色の髪を指先でいじりながら顔をそむける次女さんと俺。

ゲンジロウたちがある程度近くにいるとはいえ、この会話を聞かれるほどの近くにいるわけではない。

「そのやりたいって思える可能性を感じたんだよなぁ。暗殺者と精霊使い、どうやって融合させるか、今もちょっと考えちゃってる」

『・・・・・そう!それなら、まぁ、乗せた甲斐はあったわね』

話す内容は大したことはない。

いや、この世界の住人からしたらかなり貴重で、ヤバいことを言っているのかもしれないが、頭の中で久しぶりにスキルビルド構成で思考を巡らせているのは、過去の俺からしたら仕事しながらできる趣味の一環にすぎない。

「実際、すごかった。俺の動きにしっかりと合わせてくれたし。最後の一撃の爽快感って言えばいいのか?あれはヤバかったな。俺のスタイルは不意打ち上等のクリティカルヒット狙いが多いから、ああいう派手な攻撃は中々できないからな」

戦闘で疲れたと微妙に感じる体をほぐし、次女さんと会話しながら頭の中でスキル構成を考えるなんて、当たり前にできてしまう。

『そんなに、良かったの?』

「ああ」

精霊とのコンビネーションというのは、FBOでの精霊使いの中では課題としていつも付きまとっていた。

すべてはAIというロジックに基づいた架空の生命体の動きを使っていたから、どうあがいてもプレイヤーへの対応はテンポが遅れ、いざという時に不利になりやすかった。

すべての命令を即座に下しても万全に対応してくれるかと不安要素が絡むことから、精霊使いは最強の座には至れなかった。

しかし、この世界ではそういうレスポンスの悪さというのは、コミュニケーションでどうにかなるという事実がわかった。

そうなってくると、過去に潜在的性能は保証されていたが、実用性がないと言われていたスキルにスポットライトが当たるというわけだ。

『じゃあ、リベルタが精霊術を覚えたら、私が最初の契約精霊になってあげるわ!』

「その時はよろしく。ただ、やるとしたら徹底的にやり込むから相当な覚悟が必要だぞ?できるだけ楽しめるように努力はするけど」

『ええ!待ってるわ!!』

カチコチとパズルをはめるようにスキル構成を考えながらの会話だから、つい素直な言葉が出てしまったが、まぁ、大丈夫だろう。

ある程度成長した上位精霊と契約するのは、FBOのノウハウ的にはよろしくはない。

なにせ、成長過程に無駄が多く、性能面ではプレイヤーが育成した精霊と比べて劣るからだ。

しかし、この世界で出逢った精霊たちのことを考えると、性能面よりもお互いの相性の方を優先した方が強くなれるのでは、と可能性を感じた。

「色々と検証が必要だから、すぐには答えられないよ?」

『リベルタだったら、そこまで待たせないでしょ?それでも、まぁ、私は気が長くないわよ?せいぜい百年くらいしか待たないわよ?』

「気が短いとは?」

アミナの育成方針も継続し、並行して俺も検証に参加してみるのも悪くはないかもしれないな。

その検証をするための決断、というよりも思考による検討を行うための猶予をあっさりと百年も与えてくれるあたり、そこが精霊らしいなと首を傾げる。

「リベルタ、ここにいましたか」

そんな次女さんとの二人きりの会話はここで終了、エスメラルダが歩み寄って来た。

「エスメラルダ、怪我はないか?」

「ええ、御庭番衆の方々に守ってもらいましたので。最前線で戦っていたリベルタの方が大変だったのでは?」

ずっと魔法を使っていたから、魔力不足になっていないか心配だったが顔色は良い。

そこまで消耗する前に決着がついたということか。

「そこは次女さんに手伝ってもらったから、色々と楽だったよ」

「地上からもその雄姿は見ていましたわ。本当にすごかったですわ。正しく英雄の物語の一幕、吟遊詩人に語らせたいですわ」

被害らしい被害が無くて何よりだと安堵しつつ、ニッコリと笑うエスメラルダの表情に少し違和感がある。

「リベルタ、先ほどゲンジロウさんが呼んでおりましたわ。何か用事があるみたいで」

「ゲンジロウが?何かあったかな?わかった、ちょっと行ってくる」

「ええ、その間、次女さんのことはお任せください。〝女同士〟のお話がありましたので、いい機会ですわ」

妙に迫力があるというか、決意があるというか。

そんな雰囲気を纏うエスメラルダの言葉から「女同士」というワードが出てくれば、その纏う雰囲気の理由も察してしまった。

「あ、はい。それじゃ、俺行くけど……穏便にね?」

多分だけどゲンジロウが呼んでいるというのも方便なのだろうと察しつつ、笑顔なエスメラルダと少し不安気な顔をしている次女さんに見送られるのであった。