軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 EX 猫かぶり姫 2

避難を告げにエスメラルダがやってきた際に、カティアはチャンスだと思った。

それは遠くから聞こえる爆発音に関係しているというのは明白で、危険な状況であることも同時に理解していた。

「理由は後で説明しますわ。イリスを護衛に着けます。カティア様はすぐに避難を」

「・・・・・わかりました」

あそこでなにが起きているのかこの目で見ることができれば、何かを得られるチャンスになることはわかっている。

しかし、この学園の留学生となり、生徒として学んでいる身としては指示に従わないという選択肢は取れない。

この場では見たいという欲求を抑えて、わずかでも信頼を勝ち取ることこそ王道。

「メーベル、マリア。移動します」

「「はっ!」」

不満も見せず、即座に立ち上がり側にいた護衛を引き連れて部屋の外に出れば、エスメラルダとよく似た顔の少女が武装して待っていた。

その隣にはこの街でよく見る、赤備えの鎧を身にまとった侍がいる。

「カティア様、私も戦場に向かわねばなりませんので、後はこの者の誘導にイリスとともに従ってください。イリス、カティア様を頼みますわ」

「わかりました。お姉様もご武運を」

「ええ、すぐに勝って帰ってきますわ」

この街の治安部隊である御庭番衆と、見たこともないほど綺麗な武装を身に纏ったイリスを護衛に置いているということの意味をカティアはすぐに理解した。

万全を期し、私の安全に配慮してくれている。

でもそれ以上に、私に余計なことをさせないようにする用心だろう。

「では、ご案内します」

「はい」

御庭番衆とともに移動を始めれば、爆発音から離れていく方向に誘導されているのはわかる。

下の階に降り、地下に向かっているのもわかる。

「ひとつ聞きたい。避難するということは、よほど状況が悪いということか?」

「いいえ、御屋形様の出る戦に敗北はありません。御屋形様は人を失うことを何より忌まわれておられますゆえに、万が一を考慮しての判断かと。事実、拙者への指示には『物はいくらでも壊れてもいい、回復薬も使い惜しむな』と言われております」

護衛のメーベルが少しでも状況を把握しようと先導する御庭番衆の男に問いを投げかける。

わざわざ大使館の部屋から出して、安全の確保。

その行動の真意を問えば、笑顔で大丈夫だと御庭番衆は答える。

「万が一、今回の襲撃で別動隊がいると?」

「その可能性も考慮してこちらは動いていると考えてください」

妥当であり、無難な答えだ。

そして納得もできる。

「出来れば、詳細な情報が欲しい。可能な範囲でいい。今何が起きているか教えてもらえないか?」

「拙者も詳細は聞いておりませぬ。ただ、襲撃があったということと、この爆発音が示す通り戦闘はまだ継続しているとだけ」

しかし、詳細はわからない。

護衛を任された御庭番衆も、指示されて即座にこの場に来たから何も情報を持っていない。

これでは何もわからないと、カティアは後で聞くしかないと思った。

そのまま地下へと案内され、そして着いた先はこの街の住人たちが集められている巨大な地下空間だった。

非戦闘員が集結し、保護された空間。

護衛の御庭番衆も何人か配置され、出入り口も警護されている。

「ガトウ校長」

「おお、カティア君も無事に来れたか」

「はい」

そこにはこの学園の校長であるガトウと、生徒となった元孤児たちもいる。

まだまだひな鳥の彼らは、戦場から離されここに避難するのも当然であり、保護者であり教師である人間もここに集まっている。

学園で顔を合わせているカティアとガトウは、生徒と教師という関係で接している。

「何があったのでしょうか、ガトウ先生はなにかご存じでしょうか?」

「生憎とワシもネル君に避難するように指示を受けただけでね。何も知らないのだよ」

ゆえに、王女であっても自然と雑談に持ち込むことはできる。

この街の幹部層であるガトウであれば何か知っているかと思ったが、彼もまた急いで避難してきたから何も知ってはいなかった。

「そうですか」

「うむ、私たち全員に緊急避難を指示するということは、リベルタ君が危険だと判断する何かがあったということ」

そして何があったか知りたいのはガトウも一緒だという事実を確認しただけで終わる会話かと思いきや。

『知りたいの?』

「え?あ、はい」

孤児の中に紛れ込んでいた一人の精霊がカティアの前に出て首を傾げる。

『じゃあ、一緒に見よう!!』

「見るとは何のことでしょうか?」

『会長たちが何やってるかをさ!すごいんだよ!!』

その精霊は他の精霊よりも少し器用なことができる。

それは精霊回廊を覗き穴のように使えること。

ついさっきまで、こっそりと孤児たちに紛れて見ていた光景を、自慢するかのように手を広げてカティアたちに無邪気に見せる精霊。

「これは」

そしてカティアはその光景を見て目を見開く。

護衛のメーベルとマリアも息を呑む音が聞こえるが、それ以上に精霊が見せてくれた光景に気を取られてしまって何も言えない。

ガトウもそれを見て驚きのあまり、覗きという行為を注意できていない。

そしてそれは、護衛に着いた御庭番衆も同じ。

その覗き穴は、フライハイトの上空から見下ろすように戦場からは離れた場所に繋がっていたが、目の前の光景を俯瞰して見るのなら絶好のアングルだと言って良い。

その覗き穴の先で真っ先に見えるのは、異形の巨人と暗黒竜の戦い。

これだけでも神話の世界のような光景だ。

多面多腕の巨人と竜の戦いなのだから。

しかし、それ以外にもその場に様々な存在がいる。

人だ。

竜と巨人と比べると小さく、儚い存在に見えるが、それでも果敢に巨人に挑む人の姿が見える。

「こんなことが、起きているのですか?」

『うん!』

カティアはこの光景を見て、血の気が引くのがわかった。

明らかに人間の力では及ばぬような恐ろしい巨人がこの街を襲っている。

それと戦っているという光景を、カティアは初めて見た。

戦いに出る兵士を見送ることは何度も経験している彼女であるが、ここまでの戦いを間近に見る経験はなかった。

巨人が腕を振るえば大地がえぐられ、四面もある顔の口から炎を吐き出し、そして巨大な魔法を放つ。

黒き竜が口を開けばブレスが吐き出され、鋭利な爪は巨人の体をえぐり、闇の魔法が巨人を穿つ。

そんな人知の及ばないような戦場を、人は駆け、剣を振るい、魔法を放つ。

自分では決して踏み入ることができない光景。

踏み入った瞬間に自分の命など、数瞬と持たずに散ってしまうとわかる光景。

『あ!会長!頑張れ!!』

そんな光景を恐ろしいと感じるカティアとは正反対の明るい声援を、この光景を見せる精霊は無邪気に送る。

戦場を走る、稲妻。

いや、よく見れば馬だ。

毛色が黄金色であったり、稲妻を纏って空を駆けていたり、頭から角を生やしていたりと、カティアの知る馬とはかけ離れた存在であるが、馬に似ているから馬と認識した。

「あ」

その背に跨がる人物を一瞬だが捉えられたのは、この光景を見せる精霊が絶妙なアングルの光景を見せ続けていたからだろう。

もし仮にカメラがあるのなら、彼に渡せばきっと絶妙なカメラワークを見せてくれるはずだ。

そんな技術を見せつけるように、黄金の馬に跨がるリベルタを見せられたカティアは、そこに神話の英雄を見た。

槍を構え異形の巨人に挑む勇姿。

稲妻とともに空を駆け抜け、巨人の体に傷を刻みつけ、大勢の仲間と竜を味方につけ勝利をつかみ取ろうとしている。

「これが、英雄」

初めて見た神話の戦い。

この戦いにどれほどの価値があるかは、カティアには正確に測ることはできない。

しかし、少なくとも異形の巨人を圧倒し、倒すことができると思わせるほどの戦いを披露するリベルタを敵に回してはいけないと、より一層の決意を固めるきっかけになった。

自分の父親の思惑を正確に把握していたがゆえに、あまり乗り気ではなかったが、そうとも言ってはいられなくなった。

リベルタが強いことは知っていた。

否、知った気になっていたと自覚し、いま初めて現実を知った。

一瞬たりとも目を離してはいけないと、まっすぐに戦場を見つめるカティア。

戦いはいよいよ終盤になる。

戦況は常に変動し、形勢はリベルタたちが優勢になりつつある。

徐々に動きが悪くなる巨人。抗うように攻撃をするが、その全てを封殺するかのように迎撃するリベルタたち。

悪あがきをしようにも、その機先を制するかのように稲妻が走り、巨人の動きを封じ、そしてその動きを封じられることにより他の仲間たちが攻撃に専念できる。

竜がブレスを吐き出し、人が刃を振るい、ついさっきまで会っていたエスメラルダらしき人物が魔法を放つ。

足が切り裂かれ、巨人が膝をついた。

腕をもがれ、武器が魔力となり消え去った。

巨人が一方的に攻撃にさらされ、防御に徹するもその守りすら突破される。

戦いは一方的な展開になった。

油断も慢心もない、着実に相手を倒すために確実に攻撃を重ねていく。

それは、人によっては無慈悲にも映る光景だ。

大勢で一人を囲い、徹底して追い詰める。

それを悪と断じるような輩ももしかしたらいるかもしれない。

だが、カティアはその光景を見て、決死の戦いでも誰一人として欠けないように最善を尽くしているように見えた。

一人一人の役割分担を徹底し、常に最善手を選び、被害を最小限に、そして成果は最大に。

それは理想の采配ではないか。

「・・・・・」

その戦いにカティアは美学を感じた。

その戦いにカティアは研鑽を感じた。

その戦いにカティアは尊敬の念を抱いた。

いまはただただリベルタたちの戦いを見ることしかできず、父である王の命令でリベルタとの関係を作るためだけの、政治の道具としてこの場にいることとなった、自分を見つめ直す機会。

それが来たとカティアは直感的に思った。

この人を支えたいと思ったのは初めてだ。

それと同時に、内に秘めた欲望もまた溢れてくる。

まだ見ぬ光景を自分の足で、自分の目で、そして自分の手でつかみ取れるのではと思った。

わがままは言ってはいけない。

なぜか、それは面倒事の始まりだから。

王女として、無難に過ごし、無難な人生を送り、ほどほどの幸せを感じて生涯を閉じる。

そんな妥協で抱いていた夢が、瓦解していくのがわかる。

面倒でもいい、関わりたいと心の底から望みを抱いたのは生まれて初めてだ。

カティアは自然と自分が手を握りしめていたのに気づく。

熱い気持ちなど自分は持っていないと思っていただけに、その握りしめた手を見て別の意味で驚き、同時に嬉しくなった。

『イッケェエエエ!』

戦いはついに終盤となり、わずかな抵抗しかできなくなった巨人にめがけて稲妻が走る。

それに向ける小さな精霊の声援。

その言葉はこの光景を見る者たちの代弁だろう。

熱くなる気持ちのままに、カティアもまた手に力が入る。

稲妻から目を離せない。

そこにいる彼の偉業を、今この瞬間見届けたい。

稲妻が、巨人の厚い胸板を貫き、大きな風穴を開ける。

それが決定打になったのは戦いの素人であるカティアにもわかった。

ゆっくりと崩れ落ちる異形の巨人。

まるで敗者が、許しを請うかのように首を垂れる。

だが、そこで止まらず、巨人は地響きを立てて地面に倒れ込み動かなくなる。

決着。

それすなわち街の安全が確保された瞬間。

『『『『『『ワアアアアアアアア!!!!!』』』』』』

そして気づけばカティアの背後にいた大勢の観衆が勝利に沸いた。

我らが英雄が勝ったという大歓声。

脅威を振り払った、子供たちも大人たちも無心にその勝利を喜び合う光景を見て、カティアは自分の体が少しだけ熱を持っていることに気づき。

「困りましたね」

そのほてりを少し冷ますように声を漏らし。

「久しぶりに本気になりたいと思ってしまいました」

その程度では決して冷めない気持ちを自覚してしまうのであった。