軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 内職

クラリスたちを育て始めて3日。

強くなるためにはただレベルを上げればいいというわけではない。

即席の強さだけを求めるのなら、レベリングをすればあっという間に肉体は強くできる。

だけど一朝一夕では身につかない物が存在する。

それがプレイヤースキルだ。

体の動かし方、戦闘の運び方、味方の動きの把握能力。挙げればキリがないが、この手の能力はスキルでサポートすることはできるものの、根本的なところは当人の努力にかかってくると俺は思っている。

しかもこの分野に限って言えば、スキルやレベルと違って公平性がない。

得意不得意という差が出て、こうすれば確実に強くなるという物がない。

ある程度の道筋を示して、それをいかに吸収できるかという問題になる。

そんな難易度の高い指導であるが、個人的に彼らを指導した感想を言うと、育てやすさにティア1を与えたいくらいに、全員が順調に育っている。

延々と同じ作業を続けるというのはどうしても飽きるもので、そのうち多少は怠けたいと思う気持ちが出て、そこから作業工程が遅れるというケースがある。

クラリスたちにはそれがない。

加えて。

「ご指導ありがとうございました!!!」

「はい。それじゃ次!!」

この面々、スキル頼りの戦闘方法に染まっていない。

ゲームとかでもあるあるかもしれないが、おおよその敵は強力なスキルを使えば倒せてしまうゆえにスキル攻撃に傾倒しがちになる。

スキルを使うための魔力管理さえできていれば簡単に勝てるという流れに身を染めてしまうと、自然と武術で言う基本の立ち回りが弱くなる。

「はい!お願いします!!」

だが、この世界特有なのかそれともこの人たちが真面目なのか。

実力を確認するために俺は弱者の証を合成した木の棒を使いプレイヤースキルオンリーで模擬戦をしているが、PVPで鍛えた俺と互角に打ち合え、そして勝ちを拾いに行こうと考え続けた動きを見せてくれている。

今もドワーフの戦士と戦ったが、強力な一撃を入れるために小技を駆使し俺の隙を作ろうとしたし、追い詰められても自棄にならず、一撃で起死回生を狙うのではなく、自分の勝ち筋を意識しつつ俺の指導を聞いてその技を吸収しようと真面目に動いている。

なにより。

「受けてばかりじゃだめだ!!フェイントでもいい!!攻撃する意識を消すな!!」

「はい!!」

後衛ですら護身用に短剣を持ち歩き、近接戦に備えているというのはかなり意識が高い。

今指導しているエルフは後衛の魔法職だが、短剣を駆使して俺の攻撃を捌こうとしている。

それは勝とうとする戦い方ではなく、時間稼ぎの剣術。

時間を稼げば仲間が助けてくれるかもしれないし、いざという時は自分で足止めすることを考えている動きだ。

後衛がこの意識を持っているのは正直すごい。

エスメラルダ嬢に近接戦の訓練をしようとしたときは、なぜ必要なのかと質問されたくらいだ。

説明した後は必要性を理解し、彼女も短剣の使い方を学び、護身用で持つようにしている。

スキルはなくともプレイヤースキルとステータスがあればある程度は立ち回ることができる。

「ぐっ!」

「もう少し足の動きを自然にできればもう少し長く打ち合えるようになるよ。そこら辺を意識していると動きがわかりやすくなってくる」

「はい!ご指導ありがとうございます!!」

その意識が育っている基礎があり、さらにやる気もあるからか、隣で訓練している公爵閣下の私兵たちにもやる気が伝播しているのもいい。

公爵閣下の私兵たちも強くなっている自覚があって、少し慢心しそうになっていたが技術はまだまだ発展途上だ。

そのタイミングで後輩みたいに指導されるエルフ&ドワーフ軍が入ってきて、自分たちよりもめきめきと実力をつけてくるのを見て慢心は消え去り、今も汗を流して剣を振るっている。

「ふぅ」

そんなやる気に満ちた面々の相手を朝から夕方までするのはいかにクラス8の肉体と言えど疲労は感じる。

最近は夜更かしも増えているからそれも重なって、疲れがより一層感じられているのかもしれない。

しかし、一生懸命やっている人たちに対する訓練で手を抜くわけにも行かない。

ゲームではどれほどの被害があろうが蘇生システムのおかげで人的被害はほぼゼロに抑えられていた。

しかし、この世界では蘇生手段が伝説上の物でしか存在しない。

本番で戦う前にはその蘇生手段を確保しに行くつもりだが、そのスキルがどのような効果で復活させるかも検証しないといけない時点で頼りきりにするわけにもいかない。

ここでの手抜きが後の戦いでの人命に懸かってくると考えると、万全の訓練をしなくてはならないという意識が先立つ。

「師匠」

「次はクラリスさんですか?」

「はい」

一口水を飲んで体に水分を送り、体を動かす分には問題ないと判断して次の相手を待っていると、現れたのはクラリスであった。

「それと、私は弟子です。同じ神託の英雄であっても、私の方が教えを乞う立場なのですから呼び捨てでお願いします。でなければ周りにも示がつきません」

「気を・・・・・つける」

「はい。お願いします」

相手は年上のエルフ、さらに言えば西の英雄と呼ばれる女性。

そんな人につい敬語を使ってしまいそうになるが、師弟関係なのだから敬語は不要だと言われてしまい、こうやって微妙な違和感を感じる会話になってしまっている。

今も敬語を発しそうになって、キラリと眼鏡が光った。

どういう理屈で光るのかはわからないが、咄嗟に敬語を抜いた言葉にしたら満足気に頷く彼女が構えた。

さて、気を取り直して彼女の使用武器がどういうものか説明すると、まずすごく珍しい変わった武器だと言っておこう。

湾曲刀よりもかなり曲がった形状の武器、ショーテルだ。

刺突という選択肢を排除した、偏りのある武器。

それを片手に一本ずつ、所謂二刀流で構えている。

ショーテルは相手が盾を持っていることを想定した回り込むことができる武器だが、その扱いは非常に難しい。

その癖の強さの割には、そこまでの利点を持っている武器ではない。

はずなのだが、スキルが加わるとその武器は脅威に変わる。

「参ります」

「いつでも」

ただ、今回はシンプルに技術勝負。

身体能力は圧倒的に俺の方が上なので負けることはないが、それでも気を抜いていい相手ではない。

女性であったりエルフという腕力面で劣るかもしれない種族であっても、レベルが上がれば金属の塊であるショーテルを二本振り回すことは容易だ。

こっちは槍の間合いを全力で使っての迎撃。

しかし、二刀流の真髄である、攻防が同時にできると言う利点を駆使し、距離を詰めてくる。

うん、二刀流の戦い方を指導しただけでここまで強くなるか。

俺はショーテルという武器を使ったことはない。

だけど、二刀流は使ったことはある。

なので、クラリスに足りない部分を補うように、色々と指導したら化けた。

なんでこの武器を選んだかというのは聞かなかったけどね。

何か拘りがある様子だったし、下手にこっちの方が強いと戦い方を強制するのは俺の美学に反する。

自分の好きなスタイルで最強を目指す。

FBOの『フリービルド』のコンセプトがそれなのだ。

ショーテルの特徴であるS曲線の刃は、振りきりの際に斬撃が接触する箇所がずれる。

通常の武器の感覚で受けようと思うと、タイミングが早かったり遅かったりと衝撃をずらされ不意を突かれる。

「上手い!」

「・・・・・!」

その衝撃のずれを上手く使って、俺の突きを捌き自分の間合いに持ち込もうとする。

一歩、一歩着実に進み、そのまま浸食しようとしてくるクラリスに素直に賞賛を送れば、わずかに目を見開くがそれ以上の感情を見せずさらに俺との間合いを詰めようとしてくる。

槍は間合いの内側に入られたら、対処が難しい。

だが、対処の方法がないわけではないので、あえて間合いの内側に誘い込み。

腰回しで槍の刃と石突の方向を反転させ、踏み込もうとした瞬間に合わせて突き出してやるとタイミングがずれた攻撃に対処できなかったクラリスは体勢を崩し。

「あ」

「はい、一本」

槍に意識が持っていかれたタイミングで足払いをかけて転んだところに先端を突きつける。

「不用意に間合いを詰めすぎたね。もう少し慌てずに対処出来たらもうちょっと食い込めたと思うよ」

「それを想定しての誉め言葉ですか?」

「いや、そんな意地悪はしないよ。さっきのは素直な賞賛。癖の強いショーテルであんなにきれいに捌けるのは素直にすごいよ」

決着がつき、俺が差し出した手を掴んでクラリスは立ち上がり、元の位置に戻って一礼。

悔し気に呟く彼女の言葉を否定しておく。

「ありがとうございます。ですが、まだまだです。頂いたお言葉を胸に刻み精進します」

「あまり俺の言葉を鵜呑みにしないでね。あくまで参考程度にすること」

「はい。自分で解釈を見つけ自分の糧にする。師匠のお言葉に従います」

「それでいいよ」

彼女もそうだが、他の面々に指導するにあたって最初に言った言葉がある。

『自分で決めて、自分で工夫する。これ以外の言葉はすべて参考程度にしてね』

そんな前置きの言葉を守ってくれれば意外と育つと俺は思っている。

何でもかんでも俺の言葉に従ってそのまま育っても俺を超えることはできない。

むしろ俺の技術を吸収してオリジナルに昇華できればそれは俺を超えたことになると思う。

「それじゃ次」

「はい!」

そうやって訓練を施して、心地よい疲れを感じつつ夕食を食べたあとの時間。

「それで手に入った?」

俺は皆にちょっと出かけてくると言って転移のペンデュラムを使いとある場所に来ている。

北の領都ホクシの街の中にある隠れ家。

ジュデスたちが使っているセーフハウスの1つである。

ここには色々な隠蔽用の魔道具を置いているので、魔力も漏れず音も漏れずと密会にはうってつけの場所だ。

「うん。と言っても全部が全部手に入ったわけじゃないけど」

「ヤバい物を隠すため咄嗟に家ごと燃やすとは思っていなかったぞ?」

「それだけヤバい物があったってことだろうけど」

「最近僕たちの噂が出回りすぎて、警備の兵が増えてとんでもないんだよねぇ」

そこにいるのはエンターテイナーのリーダーを任せているジュデスと、副リーダーのシャリア。

この2人から連絡を受けたんだけど、その内容が事前に送っておいた手紙の件だと言うのだからホクシまで飛んできた。

「はいこれ、邪神教会と関わり合いのある貴族とか商人から奪ってきた手紙の写し」

「ありがとう」

手に入れて欲しいというのは、この邪神教会関連の情報。

裏にはやつらが常にいる。

そしてボルドリンデ公爵と邪神教会にはつながりがある。

と言っても互いに利用しあうという、利益的つながりだが。

「僕たちも確認したけど、ボルドリンデ公爵とのつながりなんてわからなかったぞ?」

「だいたいが薬とか、奴隷のやり取りで公爵のこの字もないよ?」

「そりゃ、裏に精通している公爵殿がそんな初歩的なミスをするわけないじゃないか。欲しいのは流通の流れの情報だよ」

その利益的つながりを探れば、ボルドリンデ公爵の居場所を突き止められると思った。

実際、原作でもこういった資料から居場所を掴むきっかけという名のフラグを立ててボルドリンデ公爵を発見している。

とあるプレイヤーはガチの探偵みたいに情報からおおよその場所を推測して、フラグ発生させずに発見したこともあったけど。

これはそのプレイヤーの追跡方法を参考にした手法だ。

「こっちが、ここと繋がって、こっちの商会がほうほう」

単独の資料では一見つながりがないように見えるが、ちょっと難しいパズルを解くかのように組み合わせていくと。

「ふむ、この商会とつながりがあるか」

「ミネルバわかった?」

「いいえ、わからなかったよジャック」

三割直感だが、半分以上の確信を持ってボルドリンデ公爵と邪神教会の息のかかった商会とのつながりを見つけた俺に、二人は得体のしれない物を見るかのような視線を向けるのであった。