軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16 EX 蛇に睨まれた計算巧者 2

この状況はまずいと、グルンドは即座に思った。

遺跡に集まった盗賊の数は、今では2000を超え一個の軍団と化している。

公爵家の肝入りということで物資は潤沢、軍資金も潤沢、食う物に困らず女に困らず、取り締まるべき兵士はここに来ずと、悪党にとってはこの遺跡は楽園になりつつあった。

こんな荒くれ者たちが集まれば治安も悪化するだろうが、グルンドの差配とボルドリンデ公爵の暗部による粛清で形だけは軍団化している。

しかし中身は所詮無法者。

乱痴気騒ぎは当たり前、好き勝手にふるまう彼らの姿はいつも通り。

酒を飲みながら、目の前の光景を焚火越しに見るグルンドは、ついさっき仕入れた情報と現状を鑑みると悪い風の流れになりつつあると感じた。

「・・・・・」

危機感が錆びついている彼らの姿を見て、嫌な予感を感じる。

こういう悪い流れになるときの己の嗅覚をグルンドは信じていた。

そしてそれが外れたことはない。

グルンドの中で悪人が長生きして美味しい思いをするために一番必要な要素が何かといえば、悪い流れに対する嗅覚だと断言する。

傍若無人の小僧が捕まり処刑が確定、スポンサーであるボルドリンデ公爵が王都にて拘束。

公爵家の連絡役からは何も知らされていないから、ここにいるやつらは今日も暢気に浮かれ騒いでいるが、独自の情報網を持っているグルンドは流れが変わったことを感じた。

ホクシではエンターテイナーと名乗る怪しげな集団が次々に公爵の裏の資金源である貴族や商人の悪事を領民に暴露し、国王が北の領地に査察団を派遣することを決めたとの情報が入っている。

今は大丈夫だが、いずれここへの支援物資が滞る未来が見えている。

となると美味しい思いができると言うだけで保たれていた悪人同士の脆い規律が崩壊するのもそう遠くない。

そうなればろくに眠ることもできない夜が来る。

潮時かとその流れに逆らわず姿をくらますために立ち上がる。

「グルンドさん、どちらに?」

「ん?ちょっと今日は悪酔いしそうだから先に部屋に戻るよ」

ギリギリまで居座るなんてナンセンス。

ここに長居は無用だ。

持てるだけの資金を確保し、馬を奪って逃げる。

その算段を頭の中でしつつ、部下に声をかけられても自然に振る舞い自室に戻ろうとした。

「・・・・・どこに行く?」

「あれ?聞こえなかったかな?自分の部屋に戻るんだよ。今日はちょっとお酒の方が回ってしまってね」

だが、その道中で暗闇から声をかけられた。

珍しいと言いながら振り返ると、この盗賊団を監視するボルドリンデ公爵の暗部の人間がいた。

道は間違いなくグルンドの部屋に向かっている。

「これを持って脱出路を使うつもりだろ?」

だが暗部によって放り投げられた皮袋がグルンドの足元に転がる。

ジャラリと金属の音が響き、袋からはネコババしていた金貨がこぼれる。

そしてグルンドが日夜コツコツと部屋から掘り抜いて作ってあった秘密の通路のこともすでにバレている。

「なんのこと?あの道はこの遺跡が襲われたとき用の通路だよ」

お金を拾わず、肩をすくめるグルンドに暗部の男は冷めた目で、殺意をあらわにする。

「隠しておいてよく言う」

「隠し通路を堂々と言うのってどうかと思うよ」

誰にも言わず、こっそりと作っていたのにも関わらずバレている。

背中にわずかに流れる冷や汗を勘づかれないように笑顔を維持するグルンド。

ゆっくりと歩み寄ってくる男に、ここで戦うかどうか瞬時に計算するが、真正面からでは勝てないのは百も承知。

「裏切りは許さないと言ったはずだ」

「やだなぁ、そんなつもりは微塵もないよ?」

だが切り抜ける方法はいくつかある。

その方法を考えながらグルンドは、そっとマントの下で右手の先を動かして一つのアイテムを指でつまむ。

一触即発、もう一歩暗部の男が踏み込めばここで戦いが始まるというタイミング。

「グルンドさん!!客人と名乗るやつが来やしたぜ!!」

「お客さん?」

その絶妙な時に空気を読まずに伝令が走ってきた。

互いに戦いを見られるのは良くはなかった。

暗部からしたらグルンドを殺すところを見られ盗賊が離散するのを避けたい。

グルンドからしたら暗部から襲われるようなことをしでかしたと部下に見られるのは避けたかった。

互いの微妙な思惑に、一時の休戦が起きた。

暗部からしてもグルンドからしても、この部下が立ち去った後に戦いが再開されるような予感がしているが。

「うっす!なんでもお偉いさんの知り合いみたいで、こんな書状を持ってきてグルンドさんに見せればわかるって言ってました」

休戦時間を延長できるようなものを持ってこられたら、さすがのグルンドも確認せざるを得ない。

暗部の男を警戒しつつ部下が持ってきた書状を受け取り、それを見ると目を見開く。

「これ、おたくの差し金?」

書状の中身を確認したグルンドはジト目で暗部の男を見る。

その内容があからさまに厄介ごと過ぎて、しかも暗部が自分をこの場から逃がさないために暗躍したのではと思ったくらいにいいタイミングでくる。

ならず者が集まるこの遺跡は、当然だが過去にとんでもないことをやらかしている輩が多くいる。

物を盗んだ、人を殺したと威張るだけでは笑われるような悪人の掃きだめ、それがこの遺跡だ。

その中にはグルンド的にも厄介な存在も紛れ込んでいる。

「・・・・・」

「沈黙って、時と場合によっては肯定するっていうことを示すんだけどね。やっぱりおたくの差し金か。はぁ、これ以上邪神教会の影響力を増やしたくはなかったんだけどね」

裏社会で生きていれば自然と見聞きする存在、邪神教会。

もともとこの遺跡は邪神教会の拠点であったゆえに、それを返せと前から小さな衝突は何回かあった。

だが、とある日を境にそれが忽然と無くなったのだ。

それは何故か。ボルドリンデ公爵が裏から手を回したからだ。

もとからあの怪物について調べる必要があったのは認める。

だが、そのために邪神教会と手を結んだのは早計ではないかとグルンドは考えていた。

あいつらは狂信者だ。

利害が一致しているからこそ、今現在は大人しくあの怪物の研究を進め資料を提出してくれているが、一度でも袂を分かてばその牙をこっちに向けてくる。

「はぁ、まぁいいよ。どっちにしろ僕がこれを対応しないとダメなんだよね?」

「その通りだ」

「はぁ、嫌だ嫌だ。こういう厄介ごとは別の誰かにやらせてよ」

そして今回、客人として招かれたのはその邪神教会の大司教だ。

世界各地で暗躍する邪神教会の幹部。その存在がこの遺跡に足を踏み入れるということは、近々あの怪物が暴れる日が来るという示唆なのかもしれない。

ひとまず殺される心配は無くなったが、逃げる機会を失ったことを考えるとグルンドの内心的にはマイナスだとため息を吐く。

足元に転がっている金貨の入った皮袋を拾い上げて、そのままマントの中に収納する。

暗部の男に見張られながら来客の場に向かえば、見るからに怪しい集団がこの遺跡の入り口に佇んでいた。

その集団に見えるようにグルンドはマントからペンダントを出し、首からかける。

キメラと呼ばれる神話の魔獣が描かれている、邪神教会のシンボルだ。

「お待たせして申し訳ありませんね」

「・・・・・お前がここの責任者か?」

「はい、グルンドと申します。遠路はるばるようこそおいでくださいました」

本音と建前を使い分けることはグルンドにとっては朝飯前。

人受けはするが場合によってはうさん臭いと思われそうな笑みを浮かべ、ちらりと胸元を見られたことを感じつつ、目元以外は布で覆いつくされた集団に笑顔を向ける。

同じ信者であればある程度は許容してくれることがわかっているグルンドは、邪神教会の挨拶である右手を握りこぶしにして左手を平手にし左右の胸に交差するように当て頭を下げた。これで待たせたことは許されそうだ。

「研究施設はどこだ?」

「はい。ご案内します」

だが、完全には信じられていないのはわかる。

世間話などなく、淡々と目的を言われグルンドは迷わず案内を申し出る。

「「「「・・・・・」」」」

道中荒くれ者の集団の中を突っ切るが、その際の反応はまちまちだ。

何だあれと怪訝そうな顔をして見る者、邪神教会に所属している者はグルンドと同じ挨拶をする。

大半は、その存在を知っているため、集団から顔を背けたり距離を置こうとする行動が目立つ。

「この奥になります。ただ例の存在が目覚めておりますので境界線よりも中には入らないように。入れば命の保証はいたしません」

「わかっておる。おい、設備を確認しろ」

「はっ」

邪神教会の大司教が連れてきたのは研究員なのだろう。

素早く遺跡に散らばり、グルンドが指定した境界線よりも手前側にある設備の確認をし始める。

その姿を見て学はあるんだよなと、その場にとどまりジッと観察する。

グルンドたち荒くれ者ではなんの設備かわからない。

だが、ここに派遣されてきた奴らはその設備がある程度なんなのかわかっている。

もし仮に、ここにリベルタがいたらこういうだろう。

遺跡の知識だけはこの世界で一番持っているのは邪神教会だと。

遺跡は過去の文明の名残だ。

そしてその遺跡は過去に祀っていた神々の遺産でもある。

その知識を継承し使える組織は表にも存在しているが、それに固執しているのは邪神教会が一番だ。

各国に考古学者は存在するが、予算はそこまで割いていないのが実情。

この南の大陸では、皮肉にもボルドリンデ公爵がその手の知識を最も持っていて、遺跡から発掘された古代文明の兵器をいくつか持っている。

それを切り札にしようとしているが、リベルタは使ってきそうな古代兵器を全て把握しているのでその対応策も含めエーデルガルド公爵に報告しているのは知られていない。

そしてその兵器の入手方法として、邪神教会とのつながりを持っている。

王家への背信行為ととられかねない行為であるが、暗躍という隠れて活動する分野において、ボルドリンデ公爵に勝てる存在はこの大陸にはいない。

「いつまでそこにいるつもりだ?」

「いえ、何か御用があるかなと」

「用があれば呼ぶ。下がれ」

「わかりました」

見ていても何がわかるというわけではないが、それでも何かしら情報を得ようとしたグルンドであるがこれ以上いたら敵だと思われかねないのでそのまま部屋を脱出する。

その背後にはさっきの暗部がいる。

ドンドン悪い方向に流れが変わっていっている。

「・・・・・」

ちらりと背後を見れば、距離を取りグルンドの背後を歩く暗部の姿がある。

誰にも見られていないのならこの流れで逃走しようと頭の片隅で考えていたが、今はその時ではないかと諦めこのまま女でも抱きに行こうかと進路を変える。

「ん?」

遺跡というのは古いから劣化している。通路が無事であっても、壁や天井が脆くなっているときがある。

そんな場所は外の景色が見れたりする。

グルンドはこういう外が見えるところを通るときは、可能な限り外の景色を見るようにしている。

景色のわずかな変化、それを見逃さないようにしているとふと違和感を感じる。

外にいるのは荒くれ者だけのはず。なのにその荒くれ者以外に統率のとれている人間が何人も混じっている。

「・・・・・」

動きを見れば一目瞭然。

訓練を受けた者が1人2人じゃない。

集団で、この遺跡を守っている。

この光景に驚いて立ち止まるようなへまをしないし、後ろの暗部に違和感を感じさせるようなことはしない。

グルンドの脳裏にあの顔を隠した大司教が浮かび、その中身に疑念を抱いたことを誰にも悟らせないように素直に女を抱きに行くのであった。