軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 沼竜装備

ゲーム、特にRPG系統の作品において装備品というのは攻略の難易度を左右する重要なアイテムだ。

中には裸一貫で攻略するという縛りプレイをする猛者もいるが、それは例外中の例外。

大半のプレイヤーはしっかりとその時々のストーリー難易度に合わせて装備を用意し、攻略をする。

それがRPGの楽しみであり基本である。

ライブの翌日、いい加減用意する必要があるだろうとネルを引き連れてガンジさんの工房に注文していた防具の進捗を確認しに行った。

これから戦うのはFBOの中位プレイヤーでも準備無しでは苦戦必至と謂われるイナゴ将軍だ。

今の装備では心もとない。

イナゴ将軍含め、ホッピングソルジャーの属性は地。

武器の方も、昨日手に入れたばかりの風の精霊石で、公爵閣下に頼んで公爵家御用達の腕の良い鍛冶師に制作してもらっている。

防具については沼竜の装備を一式用意できれば、地属性に対して弱耐性を得られる。

属性攻撃に対して単純にダメージが十パーセント減るのは大きい。

加えて、イナゴ将軍よりも格上の沼竜の装備だ。

シンプルに高い防御力が安全マージンを確保してくれる。

「いやだ!!!俺の鍛冶師人生の最高傑作を手放してなる物かぁ!!!」

「いや、素材を用意しましたし、お金も払っているんですからしっかり納品してくださいよ」

その安全マージン確保を邪魔しているのが、大の大人で只今絶賛駄々をこねて俺が着るであろう沼竜の鎧に抱き着いて必死に首を振っているガンジさんという男だ。

なんだろう、いい大人が本気で嫌がり感情任せにわがままを言うのはこうも醜い物なのか。

「本当にすまないね、うちの旦那が」

「いや、はい、なんというか」

奥さんに謝られて、元日本人の価値観を持つ俺はつい大丈夫ですと言いかけたが、どう言葉を言いつくろおうとも無理な物は無理と思ってしまい中途半端な言葉になってしまった。

本当はだいぶ前に沼竜の装備は完成していたらしい。だけど、ガンジさんの奥さん曰く少しでも調整したいと言い訳に言い訳を重ねて納品を引き延ばしていたようだ。

「この艶、この青み、すべてが俺の最高傑作だ!!これからの人生で沼竜の素材を扱えることなんて一生あるかわからないんだぞ!!」

職人として万全の品を渡すことが礼儀だと理解していた奥さんは、そこに違和感は抱きつつもそういうこともあるのだと解釈していたが、俺が工房に来て防具は完成したかと聞いた途端にガンジさんはこうやって納品を感情任せに拒否し始めた。

「言っちゃっていいよ。というか、これがうちの旦那だと思うと恥ずかしくて頭が痛くなるよ」

その姿を見て、言っていいのか悪いのか迷いつつ、どういう言葉を言えばいいかわからなかった俺は奥さんの許可をもらい、はっきりと言うことにした。

「依頼されて代金も受け取って作った品を納品しないのって、大人としても職人としても商人としてもダメですよね。というかクズですよね」

「グフ!?」

俺の活動を正当の理由なく邪魔する輩に容赦するつもりはないので鋭利な言葉でぶっ刺してやった。

作ってもらった防具は全部で四揃い。

俺用の軽鎧と女性陣用のアーマーだ。

俺は動きやすさ優先の軽鎧であり兜と小手、そしてブーツも作ってもらっている。

ネルのアーマーは俺の鎧よりも少し防御力を高めた重厚なつくりで、バイクとかで着るライダースーツをイメージし全身を沼竜の鱗で補強した物だ。

アミナのは、ゲームとかで出てくるドレスアーマーを歌姫らしくお洒落なイメージにして、沼竜の素材で部分強化を施した代物。

イングリットの装備に至っては沼竜の素材で強化したメイド服にしか見えん。

女性陣の装備に抱き着かなかったのは、男としてせめてもの理性か。

「だって」

「いい大人がだってなんて言うんじゃないよ!!気持ち悪いったらありゃしないよ!!」

「お前にわかるか!!生涯の自信作になるかもしれない品が自分の手から離れるという喪失感を!!」

「職人の誇りは良いけど、それが売れないと明日のご飯も食べれないんだよ!!誇りで腹が膨れるかってんだ!!」

それだけの理性があるのなら奥さんの言葉にしぶしぶでも従って引き渡してほしかった。

ため息を吐き、どうするかと悩んでいるとゴン!っと盛大な音が響いた。

「イッテェエエエエエエエ!?」

そして頭を抱えてのたうち回るガンジさんがいた。

奥さんの片手にはちょうどガンジさんの頭くらいのサイズにへこんだフライパンが握られていた。

あれで全力で殴られて痛いと叫べるガンジさんの頑丈さに感嘆していると奥さんと目が合う。

「今のうちだよ!料金はもらってるからさっさと持ってお行き!」

「あ、はい」

なんというか力技だなと思いつつ、それに従って俺も行動を起こす。

「へぶ!?」

これが物理的に尻に敷くというやつか。

のたうち回っているガンジさんの頭にポーションをぶっかけるために背中から座り込むように乗り、そしてじょぼじょぼとポーションを頭から浴びせている。

奥さんは巨人族。

平均的な女性よりも体格がいいので、ガンジさんの吹き出るような叫びがその重量を教えてくれる。

「なんか、変なことを考えたかい?」

「いえ、何も」

余計なことを考えて、ぎろりと鋭い眼光を背中に浴びつつシレっとした表情でせっせと注文していた沼竜装備を外に置いておいた荷車に乗せていく。

「何かあったの?すごく騒がしかったけど」

「ちょっとよそ様にはお見せできない夫婦の光景が見られただけだ。すまんが荷車に乗せるの手伝ってくれ」

「任せて!!」

プラプラと荷台に座り、暇を持て余していたネルに持ってきた鎧を渡してカバーの下に押し込んでもらう。

沼竜の装備はこの世界ではかなり貴重だ。

下手に見つかって余計なトラブルが起きるのを避けるために手早く荷車の中に入れる。

クローディアはアミナと一緒に出掛けているから、ここには俺とネルしかいない。

「ヌァアアアアアアアア!!俺の最高傑作ぅ!?」

「よし!積み込み完了!!行くぞ!!」

「良いの?」

「良いの!!」

まるで強盗したかのような雰囲気だが、こちらはきちんと材料を持ち込んでお金も支払って制作を依頼して、いつまでに引き渡すと約束もしてもらって商売を成立させたのだ。

こちらが悪い要素など欠片もない。

だからこそ、必死に地面に手をかけ奥さんを乗せたまま地面を這ってくる男の叫びなど無視して荷車を引っ張って帰路についた。

「あ、おかえり~」

「ただいま」

道中は何もなく、無事に帰宅した。

帰宅と言っても戻るのは公爵閣下の邸宅。

その裏門に回って、そこにいる兵士に門を開けてもらって俺たちが宿泊している敷地内にある別邸に戻ってきた。

こういう時って何かに絡まれるのがお約束だと思ってしまうのは脳味噌がゲーム脳になっているからだろうなと自己分析をしつつ、荷車から装備を下ろしてネルと二人で家の中に運び込むと先に帰っていたアミナがクローディアと一緒に出迎えてくれる。

「無事に引き取れたようですね」

「まぁ、なんとか?」

クローディアのいう無事というのは、おそらくジャカランとかアレスとかの人物に絡まれなかったことを指すと思うんだけど、ガンジさんとのやり取りを考えると間違いなくトラブルはあった。

だけど被害は少しの時間遅延だけだからそこまで問題があったわけではない。

なのであいまいに返事をして、邸宅の中に鎧を運び込む。

「何かあったのですね?」

「……まぁ、ちょっと男の尊厳を投げうってまでの抗いを少々」

その反応を見て、またかとクローディアは両脇腹に手を当てて呆れた目で見てきたが、説明するのもどうかと思うような些細な出来事なので、俺はかいつまんで事情を説明。

「……職人というのはそう謂うこともあるのですね」

「そういう風に理解してくれて助かります」

いい年をした男が駄々をこねたという内容にクローディアはどういう言葉を返せばいいかわからず、何度も口を開き、そして言葉を迷い。

結論からしたらこだわりの強い職人はという無難な言葉を選ぶ結果となった。

俺も似たような感想を抱いているからそれに対してツッこむ気はない。

「皆さま、玄関付近でいかがいたしましたか?」

「あ、イングリット。いや、なにちょっと報告していただけだよ。ちょうどいい、皆の新しい装備を持って帰ってきたから試着してくれ」

「?かしこまりました」

「ネルとアミナも頼むぞ」

「はーい」

であれば、この話は終わりそのまま全員で沼竜の装備の試着に移る。

軽鎧の俺は今着ている服の上に装備し、そして足具と小手、さらに兜をかぶれば装備完了。

「似合ってますよリベルタ」

「どうも」

別邸とは言え、さすがは貴族のお屋敷。

姿見がしっかりとあり、装備した俺の姿を確認できた。

全体を通して蒼緑色で統一されたスケイルメイル。

その姿を見て、パッと見で自分をかっこいいと思ってしまい気恥ずかしさを隠すためにクローディアの言葉に対して頬を指で搔くのであった。

「動きやすさはどうですか?防具が動きを阻害していては意味がありませんよ」

「大丈夫そうですね。あとで庭で軽く手合わせしてもらっていいですか?」

「ええ、是非に。あなたのその装備の防御力がどれくらいか気になりますしね」

「いや、全力で打ち込まれたらさすがに壊れますよ」

「……冗談ですよ?」

「本気ですよね?ガチですよね?」

「さぁて、ネルたちはどうでしょうか」

そして話題を逸らし、動きに支障が出ないか確認することを考えていた時にトトトと階段を駆け下りる音が聞こえ。

「見て見て!!すごい!!すっごくかっこいいわ!!」

「おー、確かに」

そして荒々しく扉を開き中に入ってきたのは、ファンタジー色が強めのライダースーツを着込んだネルだった。

かわいーというよりは、カッコいい女性という感じの格好に大人びた雰囲気を感じた。

だが、その雰囲気も尻尾をしっかりと出して、ぴょんぴょんと部屋中を跳ね跳び、動きやすい格好だというのを証明するかのように新しい装備を楽しんでいる姿を見てすぐに消え去る。

兜もライダースーツに合わせてイメージして、バイクのヘルメットのような形にした。

バイザーはどうやって作ったかはわからないが、特徴的なのは耳を入れる空間を作っているところだろうか。

肩や肘、腰に胸元、脛にと様々な部分に沼竜の鱗が使われている。

それに合わせて作った、ライダーブーツに似た足具とグローブのような小手もいい塩梅だ。

「良い防具ですね、ネル。後で庭で手合わせをしましょう」

「是非!!」

その装備を着て、動きが鈍るどころか機敏な動きを披露するネルの動きを見て、キラリとクローディアの目が光ったのを俺は見逃さない。

「壊さないでくださいね」

「承知していますよ」

新しい装備というのは興奮する物だ。

ネルの気持ちはすごくわかるし、物を壊すような動きもしていない。

きちんと節度を持って動き回っている。

問題なのは、それを見てウズウズと体を動かしたいという願望を抱き始めているクローディアか。

本気で戦って壊されたらたまったものじゃないと心配しているとファサッと羽ばたく音がして、そして着陸する音も聞こえた。

「もう!ネル、先に行くなんてずるいよ!!僕も一緒にリベルタ君に見せたかったのに!!」

開けっ放しの入り口から現れたのはアミナだ。

「!」

ふわりと二階から舞い降りた姿に一瞬、見惚れた。

ゲームやアニメでもそうだが、なんでドレスが戦闘装備になるのだろうと思う。

シンプルに動きにくいし、整備性も悪いだろと思う。

だけどあえて、俺が思いつく存在理由を考えるのなら。

それが綺麗であり、可愛いからだろうな。

ホルターネックのドレスアーマー、手が翼になっているアミナにとって肩回りの可動領域は最大限確保しないといけない。

胸に沼竜の鱗で作ったスケイルメイルをつけ、腰回りにも防具として沼竜の骨と鱗で作り上げたものが備わっている。

さらに沼竜素材のヘッドドレスを装備したアミナはお転婆姫と言わんばかりに荒々しく入ってきた。

「仕方ありません、アミナ様の装備はネル様の物と比べて少々装着するのに苦労する品でございますので」

その後ろに蒼緑色の沼竜素材のメイド服を着たイングリットが追従するとさらにお姫様感が増す。

メイド服とスケイルメイル。

たったそれだけの組み合わせなのにガラリと印象が変わった。

今までは戦闘色よりも生活色の方が強めに出ていたのに、沼竜の装備を追加したら戦う者という雰囲気が増した。

ドラゴンメイドというところか。

兜はつけず、沼竜の骨を削り金の装飾を施した簪を髪に刺した彼女は静謐な印象を漂わせる無表情も相まって、人ならざる美しさを醸し出している。

「イングリット、似合ってるぞ」

「お褒めをいただき光栄です、リベルタ様も大変凛々しくお見えになります」

「ねぇ、僕は?」

「現れた時はお姫様みたいだった。ただ、そのあとは普段のアミナだからお転婆歌姫ってところだな」

「なにそれ!!」

全員、動きに関しては違和感がないようだ。

これで、あとは公爵閣下に頼んだ装備が届けば、準備は万端になる。

さぁて、前回のライブイベントではサポートに回ったが、今回は全力でレイド戦に挑むとしよう。