軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 特性

「すっごい!!見て見てリベルタ君!!綺麗な麦畑!!」

残暑残るこの日、エーデルガルド公爵閣下から俺は一つの依頼を受けた。

正確には公爵閣下を間に挟んだ形での国王陛下からのクエスト発注ということだ。

依頼内容は、ホッピングソルジャーのスタンピードの阻止、あるいは被害を最小限に抑えるための対応。

いよいよ来たかと思うクエストだが、エーデルガルド公爵が色々と陛下と折衝してくれたおかげで王国の騎士団と一緒に事に当たるのではなく今回は顔見知りも多いエーデルガルド家が保有する騎士および兵士と一緒に攻略にあたることになった。

護衛の騎馬兵越しに見える窓の外の光景。

収穫時期になり、これが終われば秋となるこのころに、見渡す限り一面に実った黄金色の綺麗な麦の穂が波打っている。

確かにこの景色はすごい。

「これがこの国を支える穀倉地帯か」

辺り一面が麦畑、FBO時代のレイドイベント『残暑の暴食者』の戦場となった場所故にこの光景は見たことがあるが、肌を刺す日射しや麦穂を揺らして吹きわたる風の爽やかさなど、ゲームとリアルだとやっぱり雰囲気から差が出る。

そんな麦畑を見渡せる道をまっすぐと進むのだが。

「ねぇ、リベルタ君」

「なんだ?」

「もっと別の景色見えないの?」

「しばらくは見えないよ」

「え?」

国を支える穀倉地帯がすぐに終わるような光景なわけがない。

遠くに山並みが見え、そして自分たちの視界には一面の麦畑が広がる。

途中途中で、麦畑で働く農夫たちが住む小さな村落や倉庫が点在するが、それ以外はすべて黄金色の麦畑の景色が続く。

それを見ていたアミナは一時間以上同じ光景を見続けた結果飽きたという雰囲気を醸し出してきた。

「・・・・・今日中には今回のクエストのスタンピード迎撃ポイントには着けるとは思うけど、夕方くらいまではこの景色がずっと続くな」

「そんなぁ」

「何分急ぎで対応してくれという指示だからな、休憩も最小限ですませる予定なんだよ」

今はお昼には早いくらいの時間帯。

そして時期的にも日はある程度長い。

夕方までとなるとかなり時間がかかる。

ジッとしているのが苦手なアミナは馬車で長距離移動する際にずっと馬車の中で座っているのは好きではない。

クローディアみたいに目をつむり座禅に似た精神統一をして修業をしたり、ネルみたいに未舗装の農道でガタゴト揺れる馬車の中でも車酔いせずに読書したり、イングリットみたいにメイドの模範のように静かに待機することはできない。

その唯一の楽しみが風景を見ることだったけど、最初は良かったがずっと同じ麦畑が続くとなればさすがの彼女も飽きが来る。

「ねぇ、リベルタ君何か面白い話をしてよ」

「面白い話?」

空を飛んで気分転換でもできればいいかもしれないが、隊列を組んだ公爵軍の集団行動中に勝手なことをするのは公爵閣下に迷惑がかかるからそれもできない。

窮屈で退屈。

それを紛らわせるために何か話をしてほしいと強請られた。

「んー、じゃぁこれから戦うホッピングソルジャーについて話しておくか」

「えー、それって馬車に乗る前に打ち合わせをしたやつだよね?」

「それとは別の話だ。出る前に話したのは、兵士たちと協力して防衛線を構築し、スタンピードを受け止めてその波が収まったら一気にダンジョンを攻略するという流れ。作戦の話だけだ。これから話すのはホッピングソルジャーの性質だな」

「性質?」

一瞬、日本で人気のあった漫画やアニメのストーリーを、物語りを語るように披露しようかとも思ったが、それもなんか違うと思った。

どうせなら、この後にも関係する話にしようか。

「そうそう、群れをつくる蟲系モンスターはだいたい該当するんだけど、ホッピングソルジャーの場合は特に顕著な特徴があるんだ」

ホッピングソルジャーの戦い方、スキル、そして対応方法は語ったがこういったマメ知識を披露する機会はなかった。

「どういうの?」

「お、ネルも興味あるか?」

「ええ、これから戦う相手だからもっと知っておいて損はないと思うわ」

その話に興味を持ったのはネルだった。

本をぱたんと閉じて、視線をこっちに向けてきた。

勤勉な彼女らしい反応だ。

勉強っぽい内容を感じ取って、拒否感を醸し出しているアミナとは対照的だな。

「群れを形成し、侵攻するにあたって必要になるのは誘導するための先導役だ。群れを統率する役割じゃなくて、あくまで群れを誘導するためだけの存在だな」

強調する部分はボスとの違い。

「ホッピングソルジャーは悪食だから麦とかの人間の食料だけじゃなくて、辺り一面の木々や草花といった物もごっそりと食べてしまう。それこそそこが荒野になるくらいに根こそぎだ」

あえて表現するなら小ボスと言えばいいだろうか。

「だけど、その脅威も群れあってのこと、そして群れに食事のありかを示す役割が先導役というわけだ」

こいつが地味に厄介な存在だ。

見た目がモブと大差ないから見分けがつかないし、特徴のある能力があるわけではない。

「そんな先導役が群れの先頭付近でホッピングソルジャーにしかわからない匂いを発散して先導するわけだが、ここでネルに問題だ」

あるのは餌のありかを感知する嗅覚と、その場所を示すための匂いを発する能力だけ。

そのどちらも人間族には感知できない。

それこそ匂いに敏感のはずの獣人族でさえ、気づくことができない。

「もし仮に、こちらの最初の攻撃でその先導役が倒された場合、群れはどうなると思う?」

「……新しい先導役ができる?」

「残念、そこまで奴らは優秀じゃない。予備役がいたらそれだけ方向がまばらになってしまう。あっちに匂いがする、こっちに匂いがすると群れが四散してしまうから先導役の数は極めて少ない」

そんな見分けがつかない個体をうっかりと倒してしまった際に起きるのは。

「正解は、群れの離散。ボスが到達するまであっちこっちに散らばって自由気ままにむさぼりつくす災害となる」

「「「「・・・・・」」」」

気づけば全員が俺の話を聞いている。

「個体としては大して強くないホッピングソルジャーだから、散らばれば散らばるほど集団戦闘能力は下がる、だけどそれに反比例するかのように被害の拡大速度があがる」

レイド戦において敵を倒す効率というのはかなり重要になる。

範囲攻撃で一気に殲滅できればいいが、そういう時に限ってこの誘導役を仕留めてしまってあっという間に敵が広域に拡散。

範囲攻撃の効率が悪くなって、敵を倒す速度も下がってしまうという悪循環に陥る。

「そ、それってかなりまずいことじゃ?」

頭の中であっちこっちに散らばるホッピングソルジャーを想像したアミナが顔を真っ青にしている。

「まずいけど、その蟲系モンスターの集団行動の天敵のアミナが言ってもなぁ」

「天敵?僕が?」

「正確に言えば、歌い手系の職業がこういうレイド戦の最適性ジョブなんだよ」

だけど、その心配は杞憂だ。

「歌という広範囲で敵を惹きつけることができるスキル構成の前じゃ誘導役の匂いなんてあっという間に上書きされるからな。全身全霊でアミナの方にホッピングソルジャーが殺到する」

「うわぁ、それはそれで聞きたくなかった」

「一応作戦で説明しただろ?」

「そうだけど、商店街で戦った時みたいに盾で壁を作って防いでくれるって思ってて」

「防ぐし近づく敵は殲滅するけど、あの時の戦いとは比べ物にならないほどの数が来るぞ?そのためのこの兵力だからな」

完全に上位互換のアミナのスキルの前じゃ、誘導役の消滅など些末なこと。

むしろ強力すぎて、すべてのホッピングソルジャーを誘引してしまうほどだ。

一緒に帯同しているエーデルガルド公爵が派遣してくれた兵力の数は五百人。

指揮官はなんとロータスさん。

あの人、兵の指揮もできたんだな。

「う、そう聞くとなんか怖くなってきた」

「大丈夫だ。全部倒せば問題ない」

NPCとして配置される防衛戦力は毎回ランダムで設置されるけど、五百人は当たりの方だ。

援護射撃の弓や魔法の火力が高くなるから戦闘が楽になる。

「でもリベルタ、アミナのスキルが敵のスキルを上書きしてくれるのならなんでこの話をしたの?別に話さなくても問題ない話じゃない」

「ところがどっこい。これを知らずにアミナの歌が何らかのトラブルで途切れたらどうなると思う?」

そして何より、アミナの配置位置の安全性が重要になる。

その重要性を把握して戦うかどうかの差は動きに出てくる。

「敵は地を駆けてくるだけじゃない。背中に生えた翅で短距離だけど飛ぶこともできる。下手をすると、アミナのステージにたどり着くことも考えられる」

「一瞬の隙が被害の拡大の鍵になるということですか」

アミナは今回のレイド戦の要だ。

彼女を守りつつ敵を迎撃しないとい勝ち目はない。

「クローディアさんの言う通りだ。最初からまとまって集団行動しているからそういう習性の生き物だという認識が第一印象に残ってしまう。だけど、ふとした拍子でバラバラになって違う行動をとり始めてしまうと人間って言うのは一瞬でも思考停止してしまう。その一瞬の隙に致命傷を負ってしまう。だけどそうなる理由があるってことを把握していると対応ができる」

だけどただ勝つだけじゃダメなのだ。

麦畑を守りつつ勝たないといけないのだ。

「そうすれば、今回の戦力なら少なくとも負けることは無くなる」

ここで麦に大打撃を与えたら、飢饉が発生して食料品の価格が上がってしまう。

そうなってしまうと国の治安が悪化して、国民の生活にも支障が出て、俺たちの活動にも悪影響が出る。

「なるほどぉ」

腕を組んでうんうんとアミナがうなずいているがどこまで理解しているのかが未知数なのがアミナなんだよな。

「よし、アミナも理解しているようだし、もう少し深堀りを」

「ごめんなさい。少ししかわからなかったからこれ以上は止めて!?」

それを確認するためにあえてもう少し勉強の話を進めようとしたが、慌てて止めに来た。

案の定わかったふりをしていたわけだ。

「わかった、わかった。勉強会はここまでにするから落ち着け」

「本当?」

「ああ」

飛びつき、抱き着いてきているアミナの頭を撫でつつ、なだめてやると上目遣いで確認してくる。

男の子はこういう目に弱いんだよなぁ。

「じゃぁ!もっと楽しい話をしようよ!!」

「戦いの前に疲れさせても仕方ないか」

これ以上情報を詰め込むとアミナの頭が熱暴走を引き起こしかねない。

それは避けないといけないよな。

「楽しい話・・・・・楽しい話・・・・・」

なのでアミナの希望通り楽しい話を考えるが。

「何がいい?」

「リベルタ」

「仕方ないだろ!?ここ最近皆のレベリングのこととか今回の戦いについていろいろと走り回ってたからそういう娯楽関係の情報が入っていないんだよ」

そういえば最近はそんな感じの情報を手に入れていなかったなと気づくことになった。

ネルの優しい視線に、慌てて言い訳をするが、本気で日本のサブカルチャーを語らねばならないかと思っていると。

「それでしたら、先日の件をリベルタ様にご相談されたらどうでしょう?」

「先日の件?」

「あ、エスメラルダ様の?」

「はい、何やら婚約者の方が最近冷たくよそよそしいとか」

イングリットが話題を提供してくれた。

「それ、男の俺が聞いていい奴?」

最初の入りだしの話題だけで、だいぶ少女漫画みたいな雰囲気を感じ取ってしまった。

そしてこういう系の話って男が入っていい物かと悩ましい内容でもある。

「男性側の意見を伺っておけば参考になるかと」

男側の意見って、相手の男がよそよそしくそっけなくなる理由を考えろって話だろ?

「ええ?」

前世のラノベとか漫画の悪役令嬢物の知識のある俺がパッと思いついている理由は、全部アウトのような気がする。

一番に思い付くのは浮気、よくある真実の愛に目覚めたとかで頭がお花畑になって恋に恋して現実を見ていないパターン。

互いに運命の人だと勘違いして、親の言いなりで結んだ婚約に嫌悪感を感じるという異世界恋愛系の物語ではありきたりな展開。

「エスメラルダさん、何か言ってた?」

「詳しい情報は何も、先方の家からは何でもないただの思春期の気の迷いだと言われていて、エスメラルダ様にも良くわからないとおっしゃっておりました」

「思春期、思春期かぁ」

絶対に何か隠しているよねそれ。

イングリットの言葉の裏にお家事情という言葉が脳裏をよぎり、余計に浮気という線が濃厚になっている。

「ちなみにエスメラルダさんのお相手って結構生真面目なタイプだったりする?」

「はい、実直で誠実を絵に書いたようなお人柄だと」

「あー」

さらに出てきた情報を聞いて、俺は思わず天井を仰いでしまった。

真面目な人は最初こそ頑固であるが、ちょっとでも揺らいでしまうと魔が差しやすくなる。

外壁は硬いけど、内側は脆いような感じで、よく言えば硬派、悪く言えば女性慣れしていないのだ。

身近で新鮮な恋を見つけたら、そっちに真面目にのめり込んでしまう。

聞けば聞くほど、悪役令嬢物の婚約破棄展開が想像できてしまう。

「ひとまず公爵閣下に相談して、相手の男の交遊関係を調査した方が良いと俺は思うなぁ」

なんとなくであるが、外れていない予感を抱え、無難な返答しかできないのであった。