作品タイトル不明
326.夜食
王都の屋敷に戻ると、まだ皆んなは集まってないようだった。私は、リアムに夜食を作る事を伝えて、厨房へ向かう。
厨房には、アニーちゃんと双子の料理人の妹ケリーがいた。
「「ジョアン様。」」
「夜食作るの手伝うわ。きっと、長丁場になりそうだから。」
「「ありがとうございます。」」
夜食として準備したのは、冷めても美味しいように、おにぎり各種、卵焼き、唐揚げ、オーク汁。時間もないので、ストレージにある下拵え済みの物を、全開放。
「さすがです、ジョアン様。今からご飯を炊くのかと心配してました。」
「でしょう?備えあれば憂いなしってね。」
「ホントですね。後は、握るだけ、焼くだけ、揚げるだけ、煮るだけですもんね。」
「じゃあ、さっさとやりましょう。」
「「はい!」」
「ところで、今回は緊急招集は何なんでしょう?」
「あー、それね。実は……。」
アニーちゃんとケリーに、事件の内容を話す。そしてその当事者の双子の猫獣人がいる事を。
「そうだったんですか……。だから、リゾット……。」
アニーちゃんは、彼らの夕食を作っていたので、どういう状態だったのか理解したようだ。
「私も男女の双子の妹だから、何となくわかるなー。もし、同じ状況で、周りが信用出来なくても兄だけは寄り添ってくれそうだから。」
ケリーにも、同じように双子の兄がいる。同じく王都の屋敷で料理人をしている為、同業者として仕事での言い合いはあるが、プライベートになると仲が良い。今のところ2人共恋人はいないが、お互いに自分が認めた人間じゃないとダメだ、と別々に話していたので、お互いに心配し合っていることがわかる。
「よし!完成。」
ようやく、全てのメニューが出来上がった時、ミーティングもちょうど終わったようで、マーサが厨房へやってきた。
「ジョアン様、ミーティング終わりました。夜食をお願いします。」
「はーい。あっ、アニーちゃんとケリーは、休憩していて大丈夫よ。私のストレージに入れて運ぶから。料理はセルフにするしね。」
「「ありがとうございます。」」
普段から料理を作り慣れているとは言え、緊急事態だった為、さすがに疲れが出たようだった。
「はい、これでも食べてて。疲れた時には、甘い物でしょ?」
ストレージから、ベイクドチーズケーキのプルーベリージャム添えを調理台の上に出す。
「「わあ、やったー。」」
騎士寮に入ってからは、中々屋敷で料理をする時間がなくなったので、使用人を含む家族皆んなが、ジョアンの料理やお菓子に飢えていた。
「……。」
「……マーサには、後でね。」
「ありがとうございます。」
調理台のケーキを凝視していたマーサに言うと、満面の笑みでお礼を言われた。
*****
ミーティングは、集まった人数も多い為にホールで行われていたらしい。マーサと共にホールに入ると、何人かずつ分かれて、今後の行動方針を決めているようだ。その人達を邪魔しないように、壁面に準備されていたテーブルの上に、料理を並べる。オーク汁は、保温が出来る魔道具の上にのせる。前世で、言うところのIHクッキングヒーターみたいな物だ。
皆んなは、マーサと共にジョアンが入室してきたのは気づいてはいたが、それよりも今決めなければならない事を優先していた。でも、テーブルから漂ってくる料理からのいい匂いには、どうしても勝てない。ただいまの時刻は、23刻をさっき過ぎたとこ。夕飯を食べている者も、ちょっとは小腹が空いてくる時刻。
ぐぅぅぅぅー。
誰のか分からないお腹の音が鳴ると、他の場所からも音が聞こえる。健康体の皆んなのお腹は、正直だった。お互いに顔を見合わせ、照れ隠しで笑っている。
「はーい、皆さーん、お疲れ様でーす。夜食の準備が出来ましたー。“腹が減っては戦はできぬ” 。手の空いた人から、食べに来て下さーい。」
私は、丸めた紙をメガホン代わりにして、皆んなに向かって叫んだ。呼びかけたことと料理の匂いの誘いもあって、1人2人と夜食を取りに来た。
「お嬢、おにぎりの具は何だ?」
「エイブさん、お疲れ様。具は、シャーモンの塩焼き、おかかチーズ、牛ゴンボ、オウメのハチミツ漬けだよ。」
「じゃあ、取り敢えず一通り食うかな。」
「食べ過ぎて肥るとアリちゃんに嫌われるよ。」
「お、おぉ……じゃあ、牛ゴンボとオウメにするわ。」
「おかかって言うのは何かな?」
「ケントさん、ユーミさん、お久しぶりです。おかかは、キャッツブシをセウユで味付けた物ですよ。それをチーズと一緒に握りました。」
庭師のトム爺の息子夫婦で、マイク達の両親のケントさんとユーミさん。普段は商人の傍らお父様の《影》として各地を回っている。
「じゃあ、私はそれにするわ。」
「じゃあ、俺はそれとシャーモンだな。」
「おかずやメソスープもありますから。」
「ジョアンちゃん、お久しゅう〜。えらい大人っぽくなったやん。」
「あっ、タイキさん。元気だった?なかなか会えないから。」
「なんや、心配してくれてたん?」
「そりゃ心配するよ〜。タイキさんに何かあったら、誰から仕入れたら良いの?」
「そこかい!……相変わらずいけずやな〜。」
「そんなことより、卵焼きは甘いのとだし巻きとあるからね。」
「そんなことよりって……まあ、ええけど。だし巻きは嬉しいわ。おおきに。……あっ、今、騎士科なんやろ?ソウヤになんかされてへんか?」
「なんかって?」
「ほら、寮とは言え同じ屋根の下やん?」
「あははは、何もないって。タイキさん、親戚のおっちゃんみたい。」
「おっちゃんって……まだ、ピチピチの25やで?」
「知らなかった……。10才上だったんだ。もっと上かと思ってた……。」
「酷っ!!そんなこと言う子に育てた覚えないで!」
「育てられた覚えもないわ!!」
「「ぶっ……あっははは。」」
バシッ「「痛っ!!」」
タイキさんと2人で笑っていたら、同時に手刀を食らった。
「2人共、さすがに緊張感なさすぎですよ!」
振り返ると、私達の後ろにいたのは、マーサだった。
「「すみません……。」」
周りでは、苦笑したり、笑いを堪えたり、呆れていたりする。どうやら、みんな見ていたようだった。